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第四章 伯爵と元男娼、共有する
第二十話「秘密の共有者」
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「急に呼び立ててすまない。私が倒れたときに、君の手を煩わせてしまったとエマから聞いてね。直接お礼を言いたかったんだ。ありがとう、ノア」
「―――」
午前十時を少し過ぎた頃。ベッドの上で背を起こしたロイドが薄い微笑みを浮かべ、ノアを出迎えた。
「――当然のことをしたまでです。それよりも、お身体の調子はいかがですか?」
ロイドが倒れて以来、初めて会うその姿は随分と顔色が良くなっているように見える。熱もすっかり下がっているようで、今日は大事を取って休んでいることを窺い知ることができた。
「私としてはもう十分に回復しているつもりなんだが、エマがあと一日休むように勧めてくるんだ。だから仕方なく、こうしてベッドで大人しくしているだけだよ」
「ロイド様がすぐに無理をなさるからです。日頃からきちんとお休みいただければ、私も口煩くはなりません」
ベッドの奥側で控えているエマの、少しツンとした声にロイドは苦笑する。そんなエマの隣で、二人のやりとりを見守るようにクリスが佇んでいた。
「あれほどの高熱にも関わらず、大事に至らなかったのはお前のお陰だ。私からも礼を言う。ありがとう、ノア」
「…いえ。ロイド様がご無事で、本当によかったです」
クリスにまで褒められたノアは気恥ずかしくなって、思わず少し俯いてしまった。その姿を見てロイドとエマが笑ったのを、ノアは気配で感じていた。
「――ねえ、ノア。君がここへ来てどのくらいになる?」
「半年ほどになります」
「君と出会って、もうそんなに経つのか。時の流れは早いな」
「………」
ロイドの問いの意図が掴めず、ノアはその表情を窺うように視線を上げる。
そうすれば何か決意を秘めたような真摯な空色の瞳と、視線が交じり合った。
「時が経てば経つほど、私の君への信頼は厚くなる一方だよ」
「それは…光栄でございます」
「クリスやエマだってそうだ。まるでずっと一緒に働いてきた仲間のように、君のことを信頼している」
「………」
返す言葉を見つけられず、ノアは困った。
誰かから信頼されているということは、こんなにも嬉しいものなのか。言葉にできない喜びを、ノアにはどう表現すればいいのか分からなかった。
「――そのお言葉が嬉しくて…どうこの想いを口にすればいいのか分かりません」
結局、上手い言葉が見つからなくてそう答えたノアに、ロイドはその笑みを一層深くした。
「だからね、ノア。私たちは君に隠しごとをしていたくはないんだ。――何か聞きたいことがあるんだろう?必ずそれに答えるから、遠慮なく聞いてごらん?」
「っ、」
思いもよらぬロイドの言葉に、ノアは思わず驚き固まってしまった。
『隠しごとをしていたくはない』と言ったロイドの言葉は、一体何を指すのか。
『遠慮なく聞いてごらん』と言ったその言葉は、自分が今、ほぼ確信していることを確かめるように促しているのか。
もし、ロイドの考えと自分の考えが同じことを指していたとしたら、それをクリスとエマの前で口にしていいものなのか。
もし、二人の考えが違うことを指していたとしたら、自分が自らロイドの秘密を口外してしまうことになるのではないか。
「………、」
そう考えだすと何も口にすることができなくなって、ノアがそんな自分の不甲斐なさに唇を噛んだときだった。
「大丈夫だよ、ノア。言っただろう?私たちは君を信頼している、と。隠しごとをしていたくはない、と」
まるでノアの考えを見通しているように、優しく諭すようなロイドの声と言葉にノアははっとした。
――『私たち』と言ったロイドが指しているものは、秘密の共有者のことなのかもしれない。
そう考えたノアに、秘密の確信に迫ることへの躊躇いを持たせるものなど全てなくなって。
「……ロイド様はなぜ、『そのような格好』をなさっているのですか?…それは『本来の貴女様』がなさる格好ではございません、よね…?」
「――そうだな。少し、昔話をしようか」
ゆらりと空色の瞳が揺れて。
まるで過去を思い出すようにその視線は遠くなった。
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