男装伯爵は元男娼に愛される

秋乃 よなが

文字の大きさ
23 / 48
第五章 伯爵と元男娼、心通う

第二十三話「伯爵夫妻からの提案」

しおりを挟む

 それから使用人に連れられて湯浴みをさせられ、驚くほどに着心地のよい服を着せられる。

 その際に、身体中にできた痣を見たタイラー夫人がとても悲しそうに眉尻を下げながら手当てをしてくれた。その子供は『大丈夫だ』と伝えたかったのに、それを口にすることはできなかった。

 どうして彼女がそんな顔をするのか。

 どうして自分は大丈夫だと伝えたいのか。

 その理由が分からなくて考えている内に、その言葉を告げる機会を失ってしまったのだった。

 そして、次にタイラー夫人に連れられて来たのは、上等そうな調度品や家具で飾られた部屋だった。

「お腹が空いているだろう?思う存分に食べるといい」

 その部屋で待っていたタイラー伯爵の隣の席に、温かそうに湯気を上げた食事が並んでいて。部屋中を包むおいしそうな匂いに、その子供は思わず喉を鳴らした。

「遠慮しなくていい。これは全て、君のための食事だ」

「………」

 その子供はぺこりとタイラー伯爵に頭を下げて、タイラー夫人に手を引かれるままに料理の前の椅子に座る。

「そのまま飲むと熱いから。スプーンで掬って飲むといいわ」

「………?」

 目の前に置かれたスープ皿に手を添えて、そのまま持ち上げて啜ろうとすればタイラー夫人の手が優しくそれを制し、スプーンの使い方を教えてくれる。

 そしてぎこちない仕草でスープを口に入れれば、今まで口にしていたものとは比べ物にならないほどのおいしさに、その子供は目を輝かせた。

「ふふふ、おいしい?」

 タイラー夫人の問いに何度も頷きながら、その子供は目の前の食事をとにかく口の中へと入れてゆく。

 手に取ったパンは温かく柔らかくて、噛めばじんわりと広がる甘みがおいしい。温かな料理がこんなにおいしいものなのだと、その子供は初めて知った。

 マナーも何もなく、次々と料理を平らげてゆくその子供の姿をタイラー夫妻は嫌な顔どころか、嬉しそうに微笑みながら見つめていた。

「―――」

 その子供が食事を終えれば、使用人たちが手際よく食器を引いて部屋から出ていく。

 そして使用人たちがいなくなったところで、それを観察するように見つめていたその子供と向かい合った椅子にタイラー夫人は腰を下ろした。

「――これから、大切な話をしてもいいかな?」

 タイラー伯爵の言葉に、自分はこれからどうなるのかと、その子供はふと思った。

「実はね、君に、私たちの子供になってほしいのだ」

 そして告げられた言葉がうまく理解できなくて、何の反応も示すことができずにただ呆然とタイラー伯爵の顔を見つめていた。

「無理にとは言わないよ。君さえ良ければの話だ」

「………」

「私たちはずっと子供を授かることができなくてね。君が私たちの子供になってくれると言うなら、もちろん君の生活は保障する。もう無抵抗に蔑まれる必要も、その日の生活に困ることもない」

「………」

「けれど反対に、今までとは違った困難が君を待っている。君は伯爵家の人間として相応しい立ち振る舞いを身に付けなければならない。毎日が勉強漬けの日々になることは明言しておこう」

「………」

「どうかね?君の意見を聞かせてくれないか?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

過労薬師です。冷酷無慈悲と噂の騎士様に心配されるようになりました。

黒猫とと
恋愛
王都西区で薬師として働くソフィアは毎日大忙し。かかりつけ薬師として常備薬の準備や急患の対応をたった1人でこなしている。 明るく振舞っているが、完全なるブラック企業と化している。 そんな過労薬師の元には冷徹無慈悲と噂の騎士様が差し入れを持って訪ねてくる。 ………何でこんな事になったっけ?

「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」

透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。 そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。 最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。 仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕! ---

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

王宮医務室にお休みはありません。~休日出勤に疲れていたら、結婚前提のお付き合いを希望していたらしい騎士さまとデートをすることになりました。~

石河 翠
恋愛
王宮の医務室に勤める主人公。彼女は、連続する遅番と休日出勤に疲れはてていた。そんなある日、彼女はひそかに片思いをしていた騎士ウィリアムから夕食に誘われる。 食事に向かう途中、彼女は憧れていたお菓子「マリトッツォ」をウィリアムと美味しく食べるのだった。 そして休日出勤の当日。なぜか、彼女は怒り心頭の男になぐりこまれる。なんと、彼女に仕事を押しつけている先輩は、父親には自分が仕事を押しつけられていると話していたらしい。 しかし、そんな先輩にも実は誰にも相談できない事情があったのだ。ピンチに陥る彼女を救ったのは、やはりウィリアム。ふたりの距離は急速に近づいて……。 何事にも真面目で一生懸命な主人公と、誠実な騎士との恋物語。 扉絵は管澤捻さまに描いていただきました。 小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。

『階段対策会議(※恋愛)――年上騎士団長の健康管理が過剰です』

星乃和花
恋愛
【完結済:全9話】 経理兼給仕のクラリスは、騎士団で働くただの事務員――のはずだった。 なのに、年上で情緒に欠ける騎士団長グラントにある日突然こう言われる。 「君は転倒する可能性がある。――健康管理対象にする」 階段対策会議、動線の変更、手をつなぐのは転倒防止、ストール支給は防寒対策。 全部合理的、全部正しい。……正しいはずなのに! 「頬が赤い。必要だ」 「君を、大事にしたい」 真顔で“強い言葉”を投下してくる団長に、乙女心を隠すクラリスの心拍数は業務超過。 さらに副団長ローレンは胃薬片手に「恋は会議にするな!!」と絶叫中!? これは健康管理?それとも恋愛? ――答え合わせの前に、まず“階段(概念)“をご確認ください。

次期騎士団長の秘密を知ってしまったら、迫られ捕まってしまいました

Karamimi
恋愛
侯爵令嬢で貴族学院2年のルミナスは、元騎士団長だった父親を8歳の時に魔物討伐で亡くした。一家の大黒柱だった父を亡くしたことで、次期騎士団長と期待されていた兄は騎士団を辞め、12歳という若さで侯爵を継いだ。 そんな兄を支えていたルミナスは、ある日貴族学院3年、公爵令息カルロスの意外な姿を見てしまった。学院卒院後は騎士団長になる事も決まっているうえ、容姿端麗で勉学、武術も優れているまさに完璧公爵令息の彼とはあまりにも違う姿に、笑いが止まらない。 お兄様の夢だった騎士団長の座を奪ったと、一方的にカルロスを嫌っていたルミナスだが、さすがにこの秘密は墓場まで持って行こう。そう決めていたのだが、翌日カルロスに捕まり、鼻息荒く迫って来る姿にドン引きのルミナス。 挙句の果てに“ルミタン”だなんて呼ぶ始末。もうあの男に関わるのはやめよう、そう思っていたのに… 意地っ張りで素直になれない令嬢、ルミナスと、ちょっと気持ち悪いがルミナスを誰よりも愛している次期騎士団長、カルロスが幸せになるまでのお話しです。 よろしくお願いしますm(__)m

処理中です...