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10.王都へ向かう

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「レオン、馬車に酔ったりはして無いかい?」
「いえ父上、私は馬車酔いはしていません。……ナット兄上と私以外は全員ダウンしていますけど」
「他のみんな全員酔いやすいからね」

公爵家所有の20人乗りの馬車の中、レオンとナット兄上と父上はトランプをしながら寛いでいた。
馬車の中には他にもクスア兄上、ディア姉上、ミラー姉上に何人かのメイドが乗っていたのだが、全員が馬車酔いのために現在は直接馬に乗って移動している。
今レオン達が馬車で向かっているのは王都であり、レオンは王家主催のお披露目会、他の兄弟は新学年として学園に戻る最中だ。
レオンの母親は既に王都にいるので、ついてから合流する手筈になっている。

「あ、上がりです父上」
「………これで5連敗なんだけど」

道中の警護には黒影と黒鎧、そして公爵軍と私兵団の精鋭がついているのでレオンが何かするような事はない。
公爵家の本邸があるアルベントから王都ゲーレまでの街道は、各貴族の本道と言うこともあり整備されており、魔物のランクも精々Dランク程度なので我が家は完全にピクニック気分でいる。

アルベントから王都までは駿馬を魔法で強化しても半月はかかるので、様々な暇潰しの道具を持ってきている。
その内の一つが今使っているトランプで、なんと一つ5000デリルもしたのだ。
これで最安値の代物だと言うのだから、貴族向けの嗜好品は恐ろしい。

「それにしてもよくトランプなんて知ってるね」
「ナット兄上、トランプって言ってもただのババ抜きですよ?」
「でもレオンくらいの年頃の子ってもっと華やかなチェスとか英雄譚の方が好きじゃ無いか?」

たしかに貴族向けの嗜好品を扱っている店の店主はやけに華やかな駒が使われているチェスや、英雄譚に出てくる騎士の剣を模したレプリカを推していた。
同年代の小さな子供達もそう言った見た目の華やかなものを選び、トランプと言ったものにはあまり興味を持っていなかった。

「ポーカーチップも用意しているのでポーカーも出来ますけど、どうします?」
「………ポーカーのルールは知らないんだけど」
「ポーカーなんて教えた記憶がないんだけど……」

馬車の脇に寄せてあったケースからポーカーチップを取り出す。
前世では18歳になれば海外でポーカーをプレイしたいと思うくらいにはポーカーが好きで、よく友人を巻き込んでポーカーをしていたものだ。
普段そこまで嗜好品に金を注ぎ込む事はないが、このポーカーをするための道具は大貴族の名に恥じないだけの金額を注ぎ込んだ物だ。

「このチップに嵌め込まれてるのってルビーじゃ無いか?それにこっちにはダイヤにサファイヤ。………レオンにしては珍しい買い物だな。てっきり守銭奴だと思ってた」
「ナット兄上、実の弟を守銭奴と言うのはやめてください。それに私だって自分の趣味にはお金を注ぎ込みますよ」
「レオンに何か趣味があったのか!?」
「そんなに驚く事ですか、父上?私だってギャンブルや戦闘用の魔導具や武器をコレクションしたり、人材を集めたりするのを楽しんでいます」
「レオンがギャンブル。………意外だな」

正直言って5歳児の趣味では無いが、中の人の精神年齢を考えればそう可笑しく無い趣味だと思うんだが。
とは言え人材集めは公爵家の発展に貢献しているし、武具のコレクションも公爵家の軍備拡大の要因になっているので、趣味と公務が混同しているだけなのだが。

「そう言えばレオンが特に力を注いでる公務は人材収集と軍備拡張だったな。………レイズ」
「よく徹夜してるのを見てたけど、あれって趣味と被ってたからなんだ」
「昔は魔法の勉強なども好きだったんですが、最近は特に学ぶ事も無くなりましたからね。趣味が年々減っている事は否定しません。………コール」

ナット兄上と父上と談笑をしながらポーカーを楽しむ。
ルールを知らないナット兄上は説明書だけ渡して放置している。

「それにしても、王女殿下主催のお披露目会に参加するのに全く緊張してないね」
「お披露目会と言っても私は公爵家のものですし、緊張する程粗相を気にする立場ではないので」
「分かってても緊張するのが子供だと思うんだけど」

実際三男とはいえ、公爵家の中でも親王家筆頭のレオンを罰すると言うのは王家としても難しく、それこそ廃嫡になる様な事をしなければ多少の事には誰もが眼を瞑るだろう。
廃嫡に関しても父上は黒鎧を筆頭とした私兵団を指揮し、レオンが自棄になって反逆を起こす事を危惧しておいそれとは廃嫡に出来ないはず。

「自分に害をなせるような人間はそれこそ勇者一行くらいですし」
「………物理的な話に変わってる」

ただ、レオンとしても粗相をする気も無く、5歳児程度が出来る程度の気遣い位は流石に精神年齢20代としてやっておかねば気が済まない。

「レオン、ちょっと聞きたい事があるんだけどいいかな?」
「別に構いませんよ?」

特に聞かれてまずい事は無いので、軽く返答する。

「レオンの私兵団の護衛の中に護衛されながら馬車に乗っていた女がいるはずだけど、あの人は誰かな?」
「恐らくレミリアの事だと思いますけど、私の護衛ですが?」
「随分厳重に警護されてたけど?」
「やんごとなき身分の護衛ですけど?」

レミリアとはあの邪教集団の中でも纏め役の女であり、邪教の信者達は命を賭してでも彼女を守ろうとする。
レミリア自体もSランク級の能力があり、黒鎧のサポート役をして今回選ばれたのだ。

「そのやんごとなき身分の者達が集まる王都に行くのに………。面倒だけは起こさないでよ?」
「会場にレミリアは連れて行かないつもりですので、心配はいりません。レミリアも分別はつくので問題ないでしょう」

私兵団の半分以上は魔物で、後の残りも亜人が多い私兵団では人族の常識に疎い者が殆どなのだが、その点レミリアは心配いらないし妙な問題を引っ掛けて来る事も無いだろう。

「そうだお父様、僕達は王都に着いたらすぐに学園の寮に戻るつもりですけど、お父様とレオンはどうするつもりなんですか?」
「んー、王都についたら1ヶ月はそのまま別邸で暮らす予定だよ」
「私も別邸で好きな様にさせて貰うつもりです」

せっかく王都に来たからには王都にある迷宮に潜ったり、王都にしかない魔導具を購入したり、有能な人材を私兵団に勧誘したりしたいものだ。
王都を観光するのも良いのかも知れないが、別に一人で観光しても大して面白い訳でも無いしな。

「そう言えばナット兄上、学園に使えそうなものはいませんか?出来れば若い世代も私兵団に勧誘したいと思っているんですが」
「うーん、レオンの私兵団に入れれるような子か」

レベルと言う概念が存在する世界では、学園に所属する精々10代前半程度の少年少女達でも十分な戦力として数える事が出来る事もある。
それに学園に通う者で、公爵家の次男のナット兄上に近づくような者や注目するようなものは殆どが貴族である為、私兵団に所属させて行動の制限を取っ払いたいとも思っている。
いくら公爵家預かりの私兵団と言えど、高位貴族相手では少し部が悪い。
押し切れないこともないが、何もなければその後の行動に大きな足枷を残す事だろう。

「実力だけで言えばアルスター公爵家とメイデント公爵家の娘位かな?二人とも僕と同じ学年だけど、近衞騎士団に勧誘されたそうだからね。でも二人とも公爵家の長女だからねぇ。他の子も弱い訳じゃないけど、あくまでも学園生としての話だし」
「そうですか、流石に長女なら勧誘は出来ませんね」

アルスター公爵家とメイデント公爵家はアルフォード公爵家以上に歴史ある名家で、その歴史は王国史が始まる以前から続いている。
王国ないでの序列で言うと、レオンのいるアルフォード公爵家に先のアルスター公爵家とメイデント公爵家、そして代々王国の重鎮を輩出し続けるドメレオン公爵家が四大公爵家として王族のすぐ下に位置づけられる。
特にアルスター公爵家とメイデント公爵家と諍いがある訳ではないが、両家ともに王派閥ではなく自派閥を立ち上げている為、一応は政敵と言う風に位置付けられる。
そんな中公爵家の三男が別の公爵家の長女にちょっかいを出したとなれば、反王家のドメレオン公爵家もセットで敵に回す事となる。
そうなればいくらアルフォード家と言えど滅亡しかねない。

「仕方がありません、王都での当てが少し外れました」
「?他にも当てがあるのかい?」
「一応は。とは言え未だに色良い返事は貰えていませんけど」

この前黒鎧に言った手紙でやり取りしていた人物の事だ。
手紙の人物にも今回の王都行きは既に話しており、直接話し合う場を設けても構わないと言う話は聞いている。

「レオンの勧誘を渋るなんて珍しいね」
「そうでもありませんよ。それに、相手も即決断出来る様な立場の人間ではないので」
「レオン、別に貴族が相手ではないのならあまり問題は無いと思うけど、それでもやり方には気をつけるんだよ」
「分かっています、父上」

ナット兄上は交渉が上手く行っていない事を珍しがり、父上は私が強引な手を使わないか心配していた。
父上は貴族にしては珍しく平民を思いやる人で、元はと言えば冒険者として母上に各地を引き摺り回された事が原因なんだとか。
その精神はしっかりと子に受け継がれており、元々高校生の魂を持つレオン以外も平民に対して、一定の理解を持つ者が殆どだ。
お陰で貴族家としてはかなり特殊な一家になったのだが………。
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