ファンタジーは突然に

皆木 亮

文字の大きさ
13 / 16
第3章

第13話

しおりを挟む
 と、進路の途中の橋の中腹ちゅうふくでミクルちゃんが手を強く引っ張ってきた。


「どうした、ミクル?」

「お兄ちゃん! あそこ! ワンちゃんがおぼれているよ!」


 ゆびされた地点を見てみると、橋の下の海の暗がりの中で、確かに一匹のワンコが浮(う)いているのがかすかに見えた。




ほうっておけよ、犬ってのは犬掻いぬかきって言うくらい泳ぎは得意なもんなんだぜ?」

「ダメだよ、お兄ちゃん! あの子、きっと足か何処どこ怪我けがしているんだよ! 泳いでいるんじゃなくて、もがいている感じだもん! あそこまで飛び込んで泳いで行って助けて上げないとッ‼」




「いや、アイツ首輪しているから、飼い主が何とかするだろうし、オレたちが何かしなくても他の人が何とかしてくれるかもしれないだろ? それに、こんな高いとこから飛び込むなんて無茶だし、その上、この寒空さむぞらの中で寒中かんちゅう水泳すいえいとかやったら確実に風邪引かぜひくって。オレたちに出来できるとしたら、警察なり消防署なりに連絡して、あのワンコを助けてもらえるようにお願いするくらいさ。」

「ここ、今は私達しか通ってないし、そんな連絡とかしている余裕よゆうさそうだよ! ホラ、今もしずみそうになってる!」

「だからってオレたちが助けようとしても逆にオレ達がおぼれるって事になりかねないだろ?」




「いいよ! 私、行って来る!」

「ちょッ⁉ ミクルッ⁉」




「あの子をまもらないと! もう目の前で誰かが死ぬのは見たくないの! だから私は世界を救うと決めたの!」


 ミクルちゃんが決意を秘めた眼差まなざしで川のワンコを見つめる。突貫とっかん体制たいせいだ。

 オレの左手から手を離し、荷物を降ろして上着を脱ぎ始める。




「待て、ミクル!」

「止めてもダメだよ!」




「違う、そうじゃない! オレが行って来る! オレが必ずアイツを助けて来てやる!」

「お兄ちゃん……。」




 ミクルちゃんのさっきの言葉……。

 彼女は昔に、目の前で誰かを亡くしたんだ……。




 会った当初の”電波でんぱ会話トーク”も、きっとそれが屈折くっせつしちゃっただけなんだ……。
 親しい人を目の前で亡くしてしまった……。

 だから、もう世界中の人が悲しまない様に世界を変えたい……。




 でも、そんなスケールのデカい願いは、この小さな身体からだでは背負せおいきれない……。

 だから自分のルール、自分の世界を作って、世界を救える幻影まぼろしを見ようとしたんだ……。




 そして今、生身の彼女は、あの犬を自分の力だけで救おうと挑みかかろうとした……。

 この小さな身体からだでだッ‼

 それをオレが指をくわえて見ている事なんか出来できるかッ‼




 正直、こんな高い所から飛び込むなんてした事もないし、寒中かんちゅう水泳すいえいなんかもオレはった事が無い。出来できたとしても、きっと凄まじい寒さだろうと思うし、さらに自分が言った様にオレがおぼれる事だって有り得る……。


 だけど! このの願いを! 無垢むくな願いを踏みにじるなんて出来できないッ‼

 それ以上に、このの、この小さな身体からだに、そんな苦難を与えてたまるかッ‼




「まあ、見ていろ。この高さから飛び込む事や、寒中かんちゅう水泳すいえいなんてのも始めてだけど、泳ぎは苦手じゃない! ミクルの救いたい世界、オレが支えてやるッ‼」


「うん……うんッ‼」

 大きな瞳を見開いて、コクリと頷く。




 よし、バトンタッチは完了した。


 ここからはオレのターンだッ‼
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

処理中です...