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今そこにある危機?
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響き渡る絶叫。
それが獲物の位置を教え、その場にまた新たな捕食者が現れる。
「くそっ、キリがない」
「レッド、後ろだ!」
警告に反応し、即座に転がるようにその場を離れる。その背中を何かが掠めるのを感じた。
「すまん、闇騎士」
「来るぞ」
全身を炎のような赤い衣と鎧で覆った男と、対称に夜のような黒い鎧を纏う仮面の男。
本来ならば敵同士の彼等は、深い森の中、背中合わせに立ってなんとか体制を整える。その姿に余裕の色は既に無い。
彼らの前では、成人した大人の数倍はあるだろう巨体の獣がゆっくりと振り返るところだった。その向こうでは薙ぎ倒された木々が重なっていた。
「あの爪にやられるとやばいな」
「あのマッドサイエンティスト、絶対に絞める」
赤い男はその威力に顔を引き攣らせ、黒い男は盛大に舌打ちする。
どちらにしろ、この森を抜ける方が先だろう。
「おにーさん達、伏せて!」
直後、二人は同時に身体を沈めた。
彼らが見たのは、咆哮すら許さずその巨躯を氷に包まれた獣の姿だった。
『ダークマテリア帝国』。その地に住まう人々が知らぬ”外宇宙”からやって来た彼等は、皇帝ダークロスの指揮の下に滅びを齎さんと蹂躙を始めた。
それを良しとしない人々は協力し、対抗組織を作り上げた。鋼鉄の獣を駆り、”騎兵合体”にて敵を打ち倒す『騎士戦隊キャヴァリアー』である。
赤い男は『レッドナイト』といい、騎士戦隊の一人。
黒い男は『闇騎士』といい、帝国軍の将。
二人は対極の位置にあった。
今回は、ある地方で発見された謎の鉱石を巡るものだった。
帝国軍のマッドサイエンティストが碌でもないものを造るのはいつものこと。そしてそれが失敗するのも。
今回もまたいつものように失敗し、爆発した。
其処までは良かった。
爆発に触発されたのか、その謎の鉱石が突然発光し、周囲を吸い込み始めたのだ。物も空間すらも。
本能で拙いと判断し、大半は慌ててその場を離れ、レッドナイトと闇騎士は逆に、鉱石の破壊を試みた。
彼らが最後に見たのは、割れて色を失った鉱石だった。
「つまり、迷子?」
『ぐっ』
未だに森の中とはいえ、安全が確保された野営にて。
あらましを語る二人の言葉は、情けなさ溢れる単語で返された。
「まあ、グリードベア相手によく戦ったとは思うよ」
彼等を助けたのは、十代だろうと思われる少女だった。
急所部分を軽鎧で覆ってはいるが、動きやすそうな恰好。彼女は”冒険者”だと名乗った。
此処は彼等にとって『異世界』であるとも。
「少し前まで、神に召喚された”勇者達”がいたの」
勇者召喚理由は『魔王を倒すため』。この世界の宗教国家を後ろ盾にし魔王へ挑んだらしい。
「『神と神殿にとって』都合の良い事ばかり聞かされた子供に、魔王様を害することなんて無理に決まってるじゃん」
人族至上主義の神殿は、エルフやドワーフ、獣人を嫌う。もしくは奴隷としか見做さない。
みかねた魔王が被害者達を国に保護したのだが、神殿の上層部が「魔王は人間を亡ぼす為に戦力を集めている」と言い出し、勇者召喚を行ったのだとか。
この世界でも、過去に大戦があった。
その時にも勇者は召喚されたが、ちゃんと還れる手段を用意してのものであり、此方側の上位神と彼方側の上位神の協力の下、召喚される本人の意思も確認の上でのものだった。
だが神殿の召喚は違う。
「同意のない、一方的な、還すことも出来ない召喚は誘拐と同じだ。なんて、うちの国や隣国はものすごく怒ってね?」
情報を手に入れたら即座に連名で魔王の側につくと声明を出した。
また、此方の上位神は大戦後、眠りについていた。
では誰が神殿に力を貸したのか。
堕ちた神、堕神である。
この世界を箱庭と見做し、魔物を暴れさせ。上位神が眠っているのをいいことに好き勝手していた。
「神が、そんな」
「それは本当に神なのか?」
「だから『堕神』なのよ」
その堕神もブチ切れた魔王様が一刀両断しちゃったけど。
『は?』
「ということで、明日は魔王城へ向かいます」
「え?」
「魔王城に? 何故だ」
「勇者達を強制送還した魔王様なら、おにーさん達のことも還してくれると思うの」
帰れる。確定ではないが、希望は出た。
知らず、男達は息を吐きだした。
「でも、そう簡単に魔王に会えるとは思えないんだが」
「知り合いだから、問題無いよ」
どうやらこの少女に出会えたのは余程の幸運だったらしい。
「竜の姫。浮気はいただけんな」
少女が竜の国の姫君で魔王の婚約者だったり。
「この世界でお前と暮らすのも悪くない」
何故かレッドナイトを口説いてこの世界に永住しようとする闇騎士がいたり。
「お願いします俺を助けると思って向こうの世界へ帰してください」
何度か貞操の危機に瀕し渾身の一撃で闇騎士を殴り倒し泣きながら土下座で頼み込むレッドナイトがいたり。
無事に帰還するその時まで、ちょっと騒がしかったのは余談である。
それが獲物の位置を教え、その場にまた新たな捕食者が現れる。
「くそっ、キリがない」
「レッド、後ろだ!」
警告に反応し、即座に転がるようにその場を離れる。その背中を何かが掠めるのを感じた。
「すまん、闇騎士」
「来るぞ」
全身を炎のような赤い衣と鎧で覆った男と、対称に夜のような黒い鎧を纏う仮面の男。
本来ならば敵同士の彼等は、深い森の中、背中合わせに立ってなんとか体制を整える。その姿に余裕の色は既に無い。
彼らの前では、成人した大人の数倍はあるだろう巨体の獣がゆっくりと振り返るところだった。その向こうでは薙ぎ倒された木々が重なっていた。
「あの爪にやられるとやばいな」
「あのマッドサイエンティスト、絶対に絞める」
赤い男はその威力に顔を引き攣らせ、黒い男は盛大に舌打ちする。
どちらにしろ、この森を抜ける方が先だろう。
「おにーさん達、伏せて!」
直後、二人は同時に身体を沈めた。
彼らが見たのは、咆哮すら許さずその巨躯を氷に包まれた獣の姿だった。
『ダークマテリア帝国』。その地に住まう人々が知らぬ”外宇宙”からやって来た彼等は、皇帝ダークロスの指揮の下に滅びを齎さんと蹂躙を始めた。
それを良しとしない人々は協力し、対抗組織を作り上げた。鋼鉄の獣を駆り、”騎兵合体”にて敵を打ち倒す『騎士戦隊キャヴァリアー』である。
赤い男は『レッドナイト』といい、騎士戦隊の一人。
黒い男は『闇騎士』といい、帝国軍の将。
二人は対極の位置にあった。
今回は、ある地方で発見された謎の鉱石を巡るものだった。
帝国軍のマッドサイエンティストが碌でもないものを造るのはいつものこと。そしてそれが失敗するのも。
今回もまたいつものように失敗し、爆発した。
其処までは良かった。
爆発に触発されたのか、その謎の鉱石が突然発光し、周囲を吸い込み始めたのだ。物も空間すらも。
本能で拙いと判断し、大半は慌ててその場を離れ、レッドナイトと闇騎士は逆に、鉱石の破壊を試みた。
彼らが最後に見たのは、割れて色を失った鉱石だった。
「つまり、迷子?」
『ぐっ』
未だに森の中とはいえ、安全が確保された野営にて。
あらましを語る二人の言葉は、情けなさ溢れる単語で返された。
「まあ、グリードベア相手によく戦ったとは思うよ」
彼等を助けたのは、十代だろうと思われる少女だった。
急所部分を軽鎧で覆ってはいるが、動きやすそうな恰好。彼女は”冒険者”だと名乗った。
此処は彼等にとって『異世界』であるとも。
「少し前まで、神に召喚された”勇者達”がいたの」
勇者召喚理由は『魔王を倒すため』。この世界の宗教国家を後ろ盾にし魔王へ挑んだらしい。
「『神と神殿にとって』都合の良い事ばかり聞かされた子供に、魔王様を害することなんて無理に決まってるじゃん」
人族至上主義の神殿は、エルフやドワーフ、獣人を嫌う。もしくは奴隷としか見做さない。
みかねた魔王が被害者達を国に保護したのだが、神殿の上層部が「魔王は人間を亡ぼす為に戦力を集めている」と言い出し、勇者召喚を行ったのだとか。
この世界でも、過去に大戦があった。
その時にも勇者は召喚されたが、ちゃんと還れる手段を用意してのものであり、此方側の上位神と彼方側の上位神の協力の下、召喚される本人の意思も確認の上でのものだった。
だが神殿の召喚は違う。
「同意のない、一方的な、還すことも出来ない召喚は誘拐と同じだ。なんて、うちの国や隣国はものすごく怒ってね?」
情報を手に入れたら即座に連名で魔王の側につくと声明を出した。
また、此方の上位神は大戦後、眠りについていた。
では誰が神殿に力を貸したのか。
堕ちた神、堕神である。
この世界を箱庭と見做し、魔物を暴れさせ。上位神が眠っているのをいいことに好き勝手していた。
「神が、そんな」
「それは本当に神なのか?」
「だから『堕神』なのよ」
その堕神もブチ切れた魔王様が一刀両断しちゃったけど。
『は?』
「ということで、明日は魔王城へ向かいます」
「え?」
「魔王城に? 何故だ」
「勇者達を強制送還した魔王様なら、おにーさん達のことも還してくれると思うの」
帰れる。確定ではないが、希望は出た。
知らず、男達は息を吐きだした。
「でも、そう簡単に魔王に会えるとは思えないんだが」
「知り合いだから、問題無いよ」
どうやらこの少女に出会えたのは余程の幸運だったらしい。
「竜の姫。浮気はいただけんな」
少女が竜の国の姫君で魔王の婚約者だったり。
「この世界でお前と暮らすのも悪くない」
何故かレッドナイトを口説いてこの世界に永住しようとする闇騎士がいたり。
「お願いします俺を助けると思って向こうの世界へ帰してください」
何度か貞操の危機に瀕し渾身の一撃で闇騎士を殴り倒し泣きながら土下座で頼み込むレッドナイトがいたり。
無事に帰還するその時まで、ちょっと騒がしかったのは余談である。
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