59 / 123
第五章 二年前の事件を振り返る勇気
エドワードとイリスのすれ違い
しおりを挟む
アイラがブランデーを出してきた。
ブランデーならチョコレートが欲しいですねと言って侍女を呼び、今度はブランデーのつまみを持って来てくれと頼んだ。
しばらくしてつまみと共に伯母がやって来た。
なんて目敏いのだろう。おいしいものが通るのを見張っているのかしら。いや侍女に連絡をするよう言い含めているのだろうな。
「伯母様、何しにいらしたの?」
「もちろん、おいしいものを食べに。そしてアイラのとっておきのブランデーが出たのよね。見逃すはずがないでしょ」
やはり、侍女をスパイに使っている。
全く、このお姉様達には、敵わない。
アイラがブランデーグラスに琥珀色の液体を注ぎながら、笑っている。
「さすが、王妃様です。今から一番きついところです。お付き合いくださるなんて、ありがたい」
ああ、そうね。ここからはきつい。イリスは、思い出してすっと寒くなった。
侍女に、温かいものが欲しいわ、となんとなく言ってしまった。すぐに数枚の暖かいひざ掛けと、温かいこってりしたスープが運ばれて来た。
イリスも笑いながら、魔法みたいね、と言った。
◇・◇・◇
年末のパーティー以降、エドワードとの関係がぎくしゃくしている。
彼が勧めてくれたことなのに、なぜこんなことになったのだろう。
そう思って、エドワードに聞いてみた。何が問題なの。その態度はいったい何?だけど、はっきりした答えは返って来なかった。ただ嫌な雰囲気はしっかり伝わって来る。
年始の皇宮のパーティには、婚約者として一緒に出席したが、お互いに目を逸らしていた。
両親から何かあったのか、と聞かれたが、何もないわとしか答えられなかった。言葉にするようなことは何もなかったから。
その状態は学園でも同様だった。相変わらずイリスはエドワードの姿を目で追っていたが、直接話をすることは無くなっていた。
エドワードは、年末のパーティーで実行委員をしたメンバー数人と仲良くなっていった。男子学生二名に女子学生一名の三人で、彼らと一緒に過ごす姿が、良く見られるようになった。
イリスは、マイルズと一緒に昼食を取るのもやめ、また一人で過ごすようになった。
マイルズは、エドワードの態度は一時的なものだから、気にせず普通にしていたら、そのうちにもとに戻るよ、と言ってくれたが、そんな気はしない。
何かが、まずい方向に進んでいる気がして仕方がなかったが、だからと言って、できることも無かった。
ある日、昼休みに庭で昼食を取るイリスの元に、マイルズがやって来た。
「イリス、沈んだ顔をしていますね。エドワードのせいで悩ませてしまいすみません。私からも、態度を改めるよう言い聞かせます」
「いいえ、何もしないでください。彼が話をしてくれるのを待ってみます」
マイルズは向かい側の椅子に座り、目の前にチョコレートの小さいケーキを置いてくれた。
「甘いものを食べると、気持ちが柔らかくなりますよ。一緒に食べませんか」
久しぶりに優しい気持ちを向けられて、テーブルを見詰めていた目をふと上げた。マイルズが心配そうに見つめていた。
その日から、また一緒に昼食を取るようになった。彼の思いやりがとてもありがたかった。
◇・◇・◇
アイラがブランデーを舐めながら聞いている。彼女も知ってるのだろう。何かを思い出すような顔をしていた。
伯母様は見ていないのに、なぜか苦笑いだ。
「ねえ、なぜ笑うの?あの時は辛かったのよ」
「それは、見なくてもわかるからよ。王子さまが嫉妬しただけでしょ」
今ならイリスもわかるが、あの頃は悩んだのだ。軽くそう言われると、へこむ。
アイラが自分から見た当時の事を話しますね、と言った。
「あの時は、そのうち元の状態に戻ると思って、ただ見守っていたのです。まさか、こんな風に利用されるとも思わずにね。私達が迂闊でした」
◇・◇・◇
入学して半年が経つ頃、エドワード殿下が悩んでいた。アイラは理由を聞いてみた。
学園でイリス様と一緒にお昼をする時間が取れなくなるそうだ。なんでも、昼からの授業の教室が遠く、準備も必要なので、早目に移動しなくてはいけなくなったということだ。
学園のスケジュールに文句を言いたいところだが、王子が文句を言ってはまずい。モンスター何とやらに直結だ。なにせ、学園側は逆らえない。
アイラは、そんなエドワード殿下を微笑ましく見ていた。
その内、マイルズ殿下に相談し、自分の代わりにイリスとお昼休みを過ごして欲しいと頼んだようだ。
イリス様が自分をいつも見つめている事も、それ以外は一人で居る事も知っているので、申し訳なくてたまらないそうだ。
心変わりされてもいいのか? と驚いたが、そういった心配はみじんもしていない様子だ。よほど自信があるのか、イリス様を信じているのか。
不安に思ったが、イリス様も納得して楽しくマイルズ殿下と過ごし、毎日エドワード殿下の日常生活の話を聞いていると聞き、安心したのだった。
そして、年末の学園のパーティーの実行委員になった。普段あまり交流が持てない分を、この機会に挽回しようと思うのが普通では? と思ったが、委員に決まった後で覆すわけにもいかないので、そういう苦言は言わずにおいた。
しかし、マイルズ殿下にエスコートまで頼むとは、なんて事をするのだろう。これは非常にまずい。そう思ったアイラは、エドワード殿下に忠告した。
「イリス様はなんておっしゃっているのですか」
「一人で出席するからエスコートは気にしなくていいと言ってくれたよ。
それに、運営側の手伝いをしたいとも言っていた。でも、楽しんで欲しいし、他の男がエスコートするのは嫌だから、兄に頼もうと言ったんだ」
アイラには嫌な予感しかしないが、王子はピンと来ていないようだった。
「兄ならいいのじゃないか? 兄も受けてくれたよ」
そして、やはりアイラの予感は当たっていた。
イリス様とマイルズ殿下のカップルは目立ちすぎたのだ。ハイクオリティな大人のカップルとして、学生たちの注目の的になった。そして二人を見た殿下自身が、いかに二人が似合いのカップルかに気付いた。そして自分と並んだ時との差にも気付いた。
馬鹿なことをしたものだ、としか思えなかった。
その後しばらく、エドワード殿下は不機嫌だった。だがほおっておくしかない。今まで見えていなかっただけで、大人びた十七歳と、年相応の十五歳の差は致し方ない。
だが後二年もして大人の仲間入りをする頃には、ほぼ解消される問題なのだ。それを大人達は知っているので、しばらくすれば元に戻ると、そのまま触れずにおいた。
その隙を、バイエル国に利用された。
そのころに、バイエルがマイルズ殿下に接触し始めたらしい。エドワード殿下とイリスの不仲と、マイルズ殿下との噂を好機と見て、工作活動を始めたのだった。
ブランデーならチョコレートが欲しいですねと言って侍女を呼び、今度はブランデーのつまみを持って来てくれと頼んだ。
しばらくしてつまみと共に伯母がやって来た。
なんて目敏いのだろう。おいしいものが通るのを見張っているのかしら。いや侍女に連絡をするよう言い含めているのだろうな。
「伯母様、何しにいらしたの?」
「もちろん、おいしいものを食べに。そしてアイラのとっておきのブランデーが出たのよね。見逃すはずがないでしょ」
やはり、侍女をスパイに使っている。
全く、このお姉様達には、敵わない。
アイラがブランデーグラスに琥珀色の液体を注ぎながら、笑っている。
「さすが、王妃様です。今から一番きついところです。お付き合いくださるなんて、ありがたい」
ああ、そうね。ここからはきつい。イリスは、思い出してすっと寒くなった。
侍女に、温かいものが欲しいわ、となんとなく言ってしまった。すぐに数枚の暖かいひざ掛けと、温かいこってりしたスープが運ばれて来た。
イリスも笑いながら、魔法みたいね、と言った。
◇・◇・◇
年末のパーティー以降、エドワードとの関係がぎくしゃくしている。
彼が勧めてくれたことなのに、なぜこんなことになったのだろう。
そう思って、エドワードに聞いてみた。何が問題なの。その態度はいったい何?だけど、はっきりした答えは返って来なかった。ただ嫌な雰囲気はしっかり伝わって来る。
年始の皇宮のパーティには、婚約者として一緒に出席したが、お互いに目を逸らしていた。
両親から何かあったのか、と聞かれたが、何もないわとしか答えられなかった。言葉にするようなことは何もなかったから。
その状態は学園でも同様だった。相変わらずイリスはエドワードの姿を目で追っていたが、直接話をすることは無くなっていた。
エドワードは、年末のパーティーで実行委員をしたメンバー数人と仲良くなっていった。男子学生二名に女子学生一名の三人で、彼らと一緒に過ごす姿が、良く見られるようになった。
イリスは、マイルズと一緒に昼食を取るのもやめ、また一人で過ごすようになった。
マイルズは、エドワードの態度は一時的なものだから、気にせず普通にしていたら、そのうちにもとに戻るよ、と言ってくれたが、そんな気はしない。
何かが、まずい方向に進んでいる気がして仕方がなかったが、だからと言って、できることも無かった。
ある日、昼休みに庭で昼食を取るイリスの元に、マイルズがやって来た。
「イリス、沈んだ顔をしていますね。エドワードのせいで悩ませてしまいすみません。私からも、態度を改めるよう言い聞かせます」
「いいえ、何もしないでください。彼が話をしてくれるのを待ってみます」
マイルズは向かい側の椅子に座り、目の前にチョコレートの小さいケーキを置いてくれた。
「甘いものを食べると、気持ちが柔らかくなりますよ。一緒に食べませんか」
久しぶりに優しい気持ちを向けられて、テーブルを見詰めていた目をふと上げた。マイルズが心配そうに見つめていた。
その日から、また一緒に昼食を取るようになった。彼の思いやりがとてもありがたかった。
◇・◇・◇
アイラがブランデーを舐めながら聞いている。彼女も知ってるのだろう。何かを思い出すような顔をしていた。
伯母様は見ていないのに、なぜか苦笑いだ。
「ねえ、なぜ笑うの?あの時は辛かったのよ」
「それは、見なくてもわかるからよ。王子さまが嫉妬しただけでしょ」
今ならイリスもわかるが、あの頃は悩んだのだ。軽くそう言われると、へこむ。
アイラが自分から見た当時の事を話しますね、と言った。
「あの時は、そのうち元の状態に戻ると思って、ただ見守っていたのです。まさか、こんな風に利用されるとも思わずにね。私達が迂闊でした」
◇・◇・◇
入学して半年が経つ頃、エドワード殿下が悩んでいた。アイラは理由を聞いてみた。
学園でイリス様と一緒にお昼をする時間が取れなくなるそうだ。なんでも、昼からの授業の教室が遠く、準備も必要なので、早目に移動しなくてはいけなくなったということだ。
学園のスケジュールに文句を言いたいところだが、王子が文句を言ってはまずい。モンスター何とやらに直結だ。なにせ、学園側は逆らえない。
アイラは、そんなエドワード殿下を微笑ましく見ていた。
その内、マイルズ殿下に相談し、自分の代わりにイリスとお昼休みを過ごして欲しいと頼んだようだ。
イリス様が自分をいつも見つめている事も、それ以外は一人で居る事も知っているので、申し訳なくてたまらないそうだ。
心変わりされてもいいのか? と驚いたが、そういった心配はみじんもしていない様子だ。よほど自信があるのか、イリス様を信じているのか。
不安に思ったが、イリス様も納得して楽しくマイルズ殿下と過ごし、毎日エドワード殿下の日常生活の話を聞いていると聞き、安心したのだった。
そして、年末の学園のパーティーの実行委員になった。普段あまり交流が持てない分を、この機会に挽回しようと思うのが普通では? と思ったが、委員に決まった後で覆すわけにもいかないので、そういう苦言は言わずにおいた。
しかし、マイルズ殿下にエスコートまで頼むとは、なんて事をするのだろう。これは非常にまずい。そう思ったアイラは、エドワード殿下に忠告した。
「イリス様はなんておっしゃっているのですか」
「一人で出席するからエスコートは気にしなくていいと言ってくれたよ。
それに、運営側の手伝いをしたいとも言っていた。でも、楽しんで欲しいし、他の男がエスコートするのは嫌だから、兄に頼もうと言ったんだ」
アイラには嫌な予感しかしないが、王子はピンと来ていないようだった。
「兄ならいいのじゃないか? 兄も受けてくれたよ」
そして、やはりアイラの予感は当たっていた。
イリス様とマイルズ殿下のカップルは目立ちすぎたのだ。ハイクオリティな大人のカップルとして、学生たちの注目の的になった。そして二人を見た殿下自身が、いかに二人が似合いのカップルかに気付いた。そして自分と並んだ時との差にも気付いた。
馬鹿なことをしたものだ、としか思えなかった。
その後しばらく、エドワード殿下は不機嫌だった。だがほおっておくしかない。今まで見えていなかっただけで、大人びた十七歳と、年相応の十五歳の差は致し方ない。
だが後二年もして大人の仲間入りをする頃には、ほぼ解消される問題なのだ。それを大人達は知っているので、しばらくすれば元に戻ると、そのまま触れずにおいた。
その隙を、バイエル国に利用された。
そのころに、バイエルがマイルズ殿下に接触し始めたらしい。エドワード殿下とイリスの不仲と、マイルズ殿下との噂を好機と見て、工作活動を始めたのだった。
56
あなたにおすすめの小説
砕けた愛
篠月珪霞
恋愛
新婚初夜に男に襲われた公爵令嬢エヴリーヌは、不義密通の罪を被せられた。反逆罪に問われた彼女の一族は処刑されるが、気付くと時間が巻き戻っていた。
あなたへの愛? そんなものとうに、砕け散ってしまいました。
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
子持ちの私は、夫に駆け落ちされました
月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。
旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます
おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。
if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります)
※こちらの作品カクヨムにも掲載します
帰国した王子の受難
ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。
取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
迎えに行ったら、すでに君は行方知れずになっていた
月山 歩
恋愛
孤児院で育った二人は彼が貴族の息子であることから、引き取られ離れ離れになる。好きだから、一緒に住むために準備を整え、迎えに行くと、少女はもういなくなっていた。事故に合い、行方知れずに。そして、時をかけて二人は再び巡り会う。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる