the She

ハヤミ

文字の大きさ
上 下
27 / 30
その26~30

その27

しおりを挟む

 私は、鋏を咥える生徒の担任教師を務めている。
 鋏を咥えたままでは将来、苦労することになるだろう。
 いや、既に相応の苦労は経験していたのだが、今すぐにでもやめることが出来るのであればそれがベストでもある。
 その為、私は当人を説得するよりも前に、周囲の反応を確かめることから始めた。
「少し良いか」
「おー、センセー。おはようございます」
 この子は彼女とよく一緒にいる、友人、または親友のような間柄であると推察している。
「彼女のことについて、少し聞かせて貰えないだろうか」
「あん? どうしたんですか、センセー。鋏咥えてること以外になんかあります?」
「…無いのか? 友だち同士だからこそ知る姿とか…」
「いんや、別にそこまで気にもしてないっつぅか、しなくなったっつぅか…。そりゃあ、鋏を咥えてなけりゃあもっと良い感じになると思うんですけど、アイツがアイツらしく生きている結果だし、それでちゃんとしてるし…」
 彼女の友人は目を閉じ、はにかみながら頬を搔く。
「そういう…真っ直ぐなところなんですかね、アタシがアイツと一緒にいて楽しいのって」
「…好きなのか?」
「ぶふっ!? センセー、なに言ってんですか!?」
「ああ、済まない。嫌いではなさそうだな」
「そ、そりゃあ嫌いじゃあないですよ…。どっちかってーと…まあ、好きですし…」
「………」
「………」
 何だろう、この妙に甘酸っぱい雰囲気は。
 気のせいか。
「ありがとう、参考になった」
「参考!? なんの!?」
「んっ、ああ、心理学にも興味があって、生徒の生の声というものを聞いておきたかったのだ」
「は、はぁ…勤勉なんすね」
「…他に、彼女と親しい生徒はいるか?」
「あー…最近なら隣のクラスの、赤いリボン着けたヤツと」
「そうか、ありがとう」

 私は隣の教室へ向かう。
しおりを挟む

処理中です...