the She

ハヤミ

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その26~30

その29

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 去年、受験に伴う入学希望者の面接に、私は参加した。
 面接は滞りなく進み、次の受験者を部屋に招く。
 入学願書、及び内申書から窺い知れる情報は、優等生そのもの。
 ただし1つ、気になる点があった。

 …癖、病?

「失礼します」
 件の受験生が入室する。
 黒色の長い髪、黒い瞳、黒縁の眼鏡。
 しっかり背筋を伸ばしつつも肩の力は抜き、腹部に手を揃えて正面を向いた少女の姿勢は完璧と言える。
 だが、少女の口元を見て私たち面接官一同は唖然とした。

 鋏!?

 と、私は心の中で叫ぶ。
 少女は鋏を咥えていた。
 ごく当たり前のように。
 故に、少女は何を改めることもなく用意されていた椅子の傍に寄り、面接の開始を待つ。
 しばらくの沈黙の後、着席するよう促した別の面接官が質疑応答を始める。
 何故、鋏を咥えているのかと。
 ごもっともな質問だ。
「私の持つ癖です。病と置き換えても差し支えないと思います」
 こちらの質問に、少女は物怖じすることなく答えていく。

 小学生の頃からの癖。
 避けられたことも、悪口を言われたことも、虐められたこともあった。
 医者に罹っていたこともあったが治ることはなく、奇異の目で見られることなど日常だった。

 言いたいことではないだろう。
 本当なら、思い出したくない過去だってあるはずだ。
 しかし少女は、やはり恐れることもなく聞かれたことに答え続ける。
「君は…本当にそのままで、本校への進学を希望するのか?」
 ようやく、私は言葉を発する。
 不躾ながら、こう尋ねる他なかった。
「…はい。私は人を信じています。両親を見て、そう教わりました」

 鋏を咥えたまま、少女は微笑んだ。
 屈託無く。

 全ての面接が終了した。
 当然、彼女の評価は芳しいものではない。
 誰もが彼女の入学に難色を示す中、
「問題はないと思います」
 私はこう発言した。
「私のクラスに編入して下さい。もし万が一にも問題が生じたのであれば、私が責任を負います」
 私が彼女の味方をしたからと言って、入学が許可される訳でもない。
 私はただの一教員。
 出来ることなど高が知れている。

 けれども、人を信じる少女の気持ちを、裏切ることだけは出来なかった。
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