あなたの思い通りにはならない

木蓮

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 放課後のカフェテリアは生徒たちでにぎわっている。婚約者ディランと両親に報告するための情報交換を終えて紅茶を楽しんでいたシンシアは、いつものように不機嫌な顔で黙り込んだ彼が何かを見つめているのに気づいた。
 視線の先には見目麗しい令息たちに囲まれてご機嫌なニーナ・ハウエル男爵令嬢がいた。ニーナはピンクブロンドの髪にスカイブルーの大きな瞳をした愛らしい少女だ。元は平民らしく貴族にはない人懐っこさが令息たちに気に入られているらしいが、シンシアには氷壁のように冷たいディランもその1人になったらしい。
 友人たちが何か言うたびに笑い声を上げる彼女を見ているとふいにディランが険しい声を出した。

「何をにらんでいる。まさかニーナに言いがかりをつけようとしているんじゃないだろうな」
「まさか。楽しそうな声が聞こえるから何か気になっただけです」
「俺たちはいろんなことを学ぼうと一生懸命なニーナを友人として応援しているんだ。それなのに異性だからと距離が近すぎるだとくだらない言いがかりをつけてくる者が多くて困る」

 おまえもそうなんだろう。と言いたげな敵意のこもったまなざしを向けられてシンシアはむっとした。
 貴族のマナーに疎いと自称するニーナは令息たちを”頼れる友人”と呼んで甘えている。親切な令嬢たちはマナー違反だと注意しているのだが、ニーナをかわいがる令息たちが庇うこともあってちっとも改めようとしない。
 最近は同学年で一番身分が高いロイド・フェーブル侯爵令息が率先してニーナをかまい、たしなめる婚約者クリスティーナ・フリージア侯爵令嬢をうっとおしそうに追い払っているせいで、特に婚約者のいる令嬢たちはニーナを警戒している。
 シンシアもまっとうなことを言っているのに詰られるクリスティーナに同情し、自分たちの正義に酔いしれる令息たちとそれを無邪気に喜ぶ無神経なニーナを心底軽蔑している。だからといって、冷え切った仲の婚約者が悪い意味で有名な令嬢と仲良く過ごそうがわざわざ関わろうとは思わない。

「そうですか。お互いに充実した学園生活を過ごせていて何よりですわ」

 ディランとは去年学園に入学した時に「婚約者の義務を果たす時以外はお互いに好きに過ごす」と取り決めている。恋に浮かれるのは勝手だが自分を巻きこまないで欲しい。
 言葉にこめたトゲに気づいたらしいディランはにらみつけてくる。だが、不愉快な思いをさせられたのはこちらも同じ。素知らぬ顔で先ほどよりも渋く感じる紅茶を飲み干すと、不機嫌オーラを巻き散らしながらほとんど減っていない紅茶をゆっくりと飲んでいるディランに別れの挨拶をした。

「この後友人に呼ばれていますの。用事も済みましたし、失礼いたしますわね」
「あっ、おい……」

 呼びとめられたがどうせいつものように態度が悪いという小言だろうと無視する。
 カフェテリアの入口でさりげなく後ろを見るとディランはニーナたちに混ざっていた。周りの生徒たちの様々な感情が入り混じる視線を気にせず笑顔を浮かべる彼を冷ややかに見やるとシンシアは外に出た。
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