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移動するとクリスティーナとアンジュたちがパートナーを連れてやって来た。
「シンシア、すごかったわね。ハウエル様はウォルス様を引きつれてバルコニーに駆けこんでいったわよ。今頃また懲りずにシンシアを悪者にしていちゃついているんじゃないかしら」
「そうそう。あの男爵令嬢ずっと入口を見てて、シンシアとフリージア様が一緒に入ってきたらすごい勢いで寄っていったわ。あなたが1人だったらわざと騒ぎを起こして追い出すつもりだったじゃないかしら。こてんぱんに言い負かされて良い気味だわ」
「そうだったのね。でも、クリスティーナのおかげでレイモンド様がいてくれたからとても心強かった。ありがとうございます」
「役に立てて良かったよ」
友人たちとレイモンドに礼を言うとちょうど乾杯のワインが振るまわれ男性陣がとりに行った。
受け取ったワインは深い色をした赤ワインで濃厚な香りがする。見るからに上物なワインをじっと見つめているとレイモンドが悪戯っぽく笑って説明する。
「実は生徒会の手伝いをしていてね。その見返りに私の好みのワインを取り寄せてもらって学園祭に出してもらったんだ。楽しんで飲んでくれ」
ちょうど壇上の生徒会長から乾杯の合図が出る。
興味津々で口をつける友人たちと一緒にシンシアもワインを口に含む。飲み慣れていないからか、香りと同じぐらいコクのある液体が口中に染みこんでいく。一番先に飲み干したアンジュはほんのり頬を赤く染める。
「わあ、すごくおいしかったわ。それに何だか身体が軽くなった気がするし、今ならどんな難しい曲でも軽やかに踊れそう」
「それはちょうど良い。ダンスが始まるみたいだよ」
「私は後にするわ。4人とも楽しんできて」
ほわほわした笑みを浮かべるアンジュにレイモンドがダンスホールに目を向ける。見るとやはりワインの効果か浮かれた表情や自信がある表情をしたカップルたちが集まってきている。
上機嫌なアンジュとクリスティーナたちを見送ると一緒に残ったレイモンドがくすりと笑う。
「上手くいったようだね。彼らも楽しそうで何よりだ」
笑顔とは裏腹に冷ややかなものがこもった視線の先には、満面の笑みを浮かべたニーナとどこかふわふわとした足取りのディランがいた。シンシアはレイモンドと並んで2人をじっと見守った。
ダンスホールの中央でディランとニーナはお互いを見つめ合い、シャンデリアの光をまとったように輝く淡いブルーの衣装をひるがえして軽やかに踊る。それはまるで劇を見ているような美しさで。2人を知るシンシアも美男美女で絵になると素直に感心した。
やがて1曲目が終わり2曲目になるとディランは誰かを探すように視線をさまよわせたが、しがみついたニーナに何かをささやかれて再び踊りはじめる。そして、曲が終わると完全に酔いがまわったのかディランはニーナに支えられるように危なっかしい足取りで使用人に案内されて会場の外に出て行った。
2人の姿が見えなくなるとレイモンドはシンシアに手を差し伸べた。
「邪魔者はいなくなったな。さあ、今夜を記念して私たちも踊ろうか」
「はい。レイモンド様がパートナーになってくださって本当にうれしいです。今夜のことは一生の思い出にします」
シンシアの軽口にレイモンドは「私もだよ」とふんわりと笑う。その優しい笑顔に心が高鳴った。
そして、2人はダンスの輪に入りゆっくりと踊り始めた。
*****
その後、ディランとニーナは姿を現さず。ほっとしたシンシアはレイモンドや友人たちと学園祭を楽しんだ。
翌朝、寝坊したシンシアはノックの音にけげんに思いながらドアを開いた。訪ねてきたのは焦った顔をしたアンジュだった。彼女に急かされて部屋に招き入れる。
「シンシア、落ちついて聞いてね」
「ええ、どうしたの?」
「昨日、ウォルス様があの男爵令嬢と休憩室で、その、一線を越えたらしいわ。運悪く見つけた人が驚いて大騒ぎになったらしくて。もう結構な噂になっているわ」
アンジュの強ばった顔に寄り添って会場を出て行くディランとニーナの姿が目に浮かぶ。ディランはかなり酔っていた。その勢いで愛するニーナと予想以上に盛り上がったのだろうか。
「……そう。朝早くから知らせに来てくれてありがとう、アンジュ。たびたび2人で過ごしているようだったし、もっと前からそういう関係だったのかもしれないわね」
「シンシア……」
少し毒が強すぎたのかアンジュが困った顔をする。と、再びノックの音がしてクリスティーナが飛び込んできた。アンジュから話を聞いたと知ると心配そうな顔をする。
「2人を見つけたのは、前にロイドと一緒にあの男爵令嬢にまとわりついていた令息たちだったらしいわ。騒いで人を呼び寄せてしまったせいで大事になってしまって。お兄様曰く、学園長と生徒会がとんだことをして学園の風紀を乱したとおかんむりらしいわ。あの2人、厳しい処分がくだりそうよ」
クリスティーナの不吉な予言は当たった。その日のうちにディランとニーナは停学処分となり、それぞれの家に連れて行かれた。その際にも2人はそれぞれ「自分たちは何も悪いことはしていない」と騒いでいたらしい。
シンシアもまた騒ぎに巻き込まれることを心配した母から家に戻るように連絡が来たが「自分は何も恥ずべきことはしていないし友人がいるから大丈夫だ。それにもう彼の顔も見たくない。婚約を解消してほしい」と連絡を返した。
しばらくして、2人の婚約はディランの有責による婚約破棄になった。
ウォルス伯爵からは息子が婚約者のシンシアの名誉を傷つけたことへの謝罪と、シンシア含むライノーツ家に関わらせないことを魔術誓約で誓うと丁寧につづられた手紙がきた。
母からは、父を説得して婚約破棄の手続きを進めたこと、万が一父が連絡してきても無視していいと連絡がきた。その後、父やなぜかウォルス夫人から手紙がきたが読まずに捨てた。
それからシンシアは友人たちと一緒に学園生活を再開した。
幸い、常識ある生徒たちは「真実の愛とやらを言い訳にして関係を持ったのではないか」と見せつけるようにいちゃつく2人に悩まされていたシンシアに同情してくれている。
一方、ディランのファンや2人を応援していた令嬢たちは「婚約者がいつまでもすがりついて別れないから、そうするしかなかったんだ」とシンシアに恨み言を言っていたが。レイモンドに
「それは興味深い意見だね。彼らを良く知る友人の君たちも2人の問題しかない行動を熱心に応援し、婚約者のライノーツ嬢に身を引くように繰り返し脅していたと、君たちの家に伝えておくよ」
と、涼やかな笑顔で脅されて震え上がり、大人しくなった。
2人が引き起こした大騒動はしばらくの間噂されていたが。当事者たちが自主退学していなくなったことや学園祭の楽しい思い出を汚されると嫌がった人たちによって下火になり、しばらくすると収まった。
「シンシア、すごかったわね。ハウエル様はウォルス様を引きつれてバルコニーに駆けこんでいったわよ。今頃また懲りずにシンシアを悪者にしていちゃついているんじゃないかしら」
「そうそう。あの男爵令嬢ずっと入口を見てて、シンシアとフリージア様が一緒に入ってきたらすごい勢いで寄っていったわ。あなたが1人だったらわざと騒ぎを起こして追い出すつもりだったじゃないかしら。こてんぱんに言い負かされて良い気味だわ」
「そうだったのね。でも、クリスティーナのおかげでレイモンド様がいてくれたからとても心強かった。ありがとうございます」
「役に立てて良かったよ」
友人たちとレイモンドに礼を言うとちょうど乾杯のワインが振るまわれ男性陣がとりに行った。
受け取ったワインは深い色をした赤ワインで濃厚な香りがする。見るからに上物なワインをじっと見つめているとレイモンドが悪戯っぽく笑って説明する。
「実は生徒会の手伝いをしていてね。その見返りに私の好みのワインを取り寄せてもらって学園祭に出してもらったんだ。楽しんで飲んでくれ」
ちょうど壇上の生徒会長から乾杯の合図が出る。
興味津々で口をつける友人たちと一緒にシンシアもワインを口に含む。飲み慣れていないからか、香りと同じぐらいコクのある液体が口中に染みこんでいく。一番先に飲み干したアンジュはほんのり頬を赤く染める。
「わあ、すごくおいしかったわ。それに何だか身体が軽くなった気がするし、今ならどんな難しい曲でも軽やかに踊れそう」
「それはちょうど良い。ダンスが始まるみたいだよ」
「私は後にするわ。4人とも楽しんできて」
ほわほわした笑みを浮かべるアンジュにレイモンドがダンスホールに目を向ける。見るとやはりワインの効果か浮かれた表情や自信がある表情をしたカップルたちが集まってきている。
上機嫌なアンジュとクリスティーナたちを見送ると一緒に残ったレイモンドがくすりと笑う。
「上手くいったようだね。彼らも楽しそうで何よりだ」
笑顔とは裏腹に冷ややかなものがこもった視線の先には、満面の笑みを浮かべたニーナとどこかふわふわとした足取りのディランがいた。シンシアはレイモンドと並んで2人をじっと見守った。
ダンスホールの中央でディランとニーナはお互いを見つめ合い、シャンデリアの光をまとったように輝く淡いブルーの衣装をひるがえして軽やかに踊る。それはまるで劇を見ているような美しさで。2人を知るシンシアも美男美女で絵になると素直に感心した。
やがて1曲目が終わり2曲目になるとディランは誰かを探すように視線をさまよわせたが、しがみついたニーナに何かをささやかれて再び踊りはじめる。そして、曲が終わると完全に酔いがまわったのかディランはニーナに支えられるように危なっかしい足取りで使用人に案内されて会場の外に出て行った。
2人の姿が見えなくなるとレイモンドはシンシアに手を差し伸べた。
「邪魔者はいなくなったな。さあ、今夜を記念して私たちも踊ろうか」
「はい。レイモンド様がパートナーになってくださって本当にうれしいです。今夜のことは一生の思い出にします」
シンシアの軽口にレイモンドは「私もだよ」とふんわりと笑う。その優しい笑顔に心が高鳴った。
そして、2人はダンスの輪に入りゆっくりと踊り始めた。
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その後、ディランとニーナは姿を現さず。ほっとしたシンシアはレイモンドや友人たちと学園祭を楽しんだ。
翌朝、寝坊したシンシアはノックの音にけげんに思いながらドアを開いた。訪ねてきたのは焦った顔をしたアンジュだった。彼女に急かされて部屋に招き入れる。
「シンシア、落ちついて聞いてね」
「ええ、どうしたの?」
「昨日、ウォルス様があの男爵令嬢と休憩室で、その、一線を越えたらしいわ。運悪く見つけた人が驚いて大騒ぎになったらしくて。もう結構な噂になっているわ」
アンジュの強ばった顔に寄り添って会場を出て行くディランとニーナの姿が目に浮かぶ。ディランはかなり酔っていた。その勢いで愛するニーナと予想以上に盛り上がったのだろうか。
「……そう。朝早くから知らせに来てくれてありがとう、アンジュ。たびたび2人で過ごしているようだったし、もっと前からそういう関係だったのかもしれないわね」
「シンシア……」
少し毒が強すぎたのかアンジュが困った顔をする。と、再びノックの音がしてクリスティーナが飛び込んできた。アンジュから話を聞いたと知ると心配そうな顔をする。
「2人を見つけたのは、前にロイドと一緒にあの男爵令嬢にまとわりついていた令息たちだったらしいわ。騒いで人を呼び寄せてしまったせいで大事になってしまって。お兄様曰く、学園長と生徒会がとんだことをして学園の風紀を乱したとおかんむりらしいわ。あの2人、厳しい処分がくだりそうよ」
クリスティーナの不吉な予言は当たった。その日のうちにディランとニーナは停学処分となり、それぞれの家に連れて行かれた。その際にも2人はそれぞれ「自分たちは何も悪いことはしていない」と騒いでいたらしい。
シンシアもまた騒ぎに巻き込まれることを心配した母から家に戻るように連絡が来たが「自分は何も恥ずべきことはしていないし友人がいるから大丈夫だ。それにもう彼の顔も見たくない。婚約を解消してほしい」と連絡を返した。
しばらくして、2人の婚約はディランの有責による婚約破棄になった。
ウォルス伯爵からは息子が婚約者のシンシアの名誉を傷つけたことへの謝罪と、シンシア含むライノーツ家に関わらせないことを魔術誓約で誓うと丁寧につづられた手紙がきた。
母からは、父を説得して婚約破棄の手続きを進めたこと、万が一父が連絡してきても無視していいと連絡がきた。その後、父やなぜかウォルス夫人から手紙がきたが読まずに捨てた。
それからシンシアは友人たちと一緒に学園生活を再開した。
幸い、常識ある生徒たちは「真実の愛とやらを言い訳にして関係を持ったのではないか」と見せつけるようにいちゃつく2人に悩まされていたシンシアに同情してくれている。
一方、ディランのファンや2人を応援していた令嬢たちは「婚約者がいつまでもすがりついて別れないから、そうするしかなかったんだ」とシンシアに恨み言を言っていたが。レイモンドに
「それは興味深い意見だね。彼らを良く知る友人の君たちも2人の問題しかない行動を熱心に応援し、婚約者のライノーツ嬢に身を引くように繰り返し脅していたと、君たちの家に伝えておくよ」
と、涼やかな笑顔で脅されて震え上がり、大人しくなった。
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