私の素敵な魔術師様

木蓮

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 私こと伯爵令嬢マリーと元婚約者で侯爵令息のルインは、一家そろって強欲な侯爵家が我が家の財産狙いで強引に婚約を結んだ仲です。
 美貌が自慢のルインは茶色の髪に緑色の目をした平凡な私のことを毛嫌いし、学園で出会った愛らしさが自慢の男爵令嬢のファニーと真実の恋とやらに落ちました。
 魅力的なファニーはルインのように恋に夢を見る頭が花畑な男性たち2人を次々ととりこにしたあげく、全員を愛しているのだとおほざき遊ばして、学園内ではいつも彼らとべったりとくっついて過ごしていました。
 しかし、ファニーの愉快なとりまきたちには全員私を含めた婚約者がいます。
 その上、彼女は私たちや親切な女子生徒たちがやんわり注意しても「モテない女のひがみ」とせせら笑うので、すべての女子生徒たちから嫌われて、一部の方からは意地悪をされていました。
 
 虐めに傷ついたらしいファニーの涙ながらの訴えに激怒したとりまきたちは、婚約者の私たちが「自分たちに愛されない寂しさからファニーに嫉妬して虐めている」と決めつけ、ファニーが泣くたびにわざわざ私たちを探し出して罵倒してきました。
 最初の内は、自分の潔白の証明のためにも虐めどころか一切関わっていないと証拠と証言付きの正論で丁寧に叩き潰していたのですが。
 助けられたファニーが喜ぶときれいさっぱり記憶と脳みそを溶かしてまた同じことを繰り返す姿に我慢の限界に達し、とりまきたちを見かけると騎士の令嬢に教わった殺気をこめてにらみつけて追い払うようにしました。
 そして、浮気の証拠を集めて速やかに婚約を破棄することを決めました。
 ちなみに、周りの常識ある生徒たちもとりまきたちの急激な記憶力の衰えを気味悪がり「あいつらに関わると馬鹿になる」と彼らを避けるようになりました。おかげでファニーが訴える虐めは純度100%の彼女の妄想だけになったようで。私たちと目を合わせないようにこそこそ陰口を言って盛り上がるとりまきたちとファニーを無視すれば、まあまあ平和に過ごせるようになりました。

 そうして私たち3人は協力して婚約破棄するための手続きを進めていたのですが。
 ある日、友人が「ファニーが魅了持ちじゃないかと噂になっているらしいの」と困った顔で言い出しました。
 私ともう1人が魅了とは何かと尋ねると学園に伝わるとある”噂”を教えてくれました。

 ――かつて学園にもファニーのように愛らしい容姿をした女子生徒がいた。
 彼女は他人の心をとりこにして自由自在に操る”魅了持ち”で、見目麗しい上に婚約者がいる高位貴族の男性たちを魅了していつも自分の周りに侍らせ、ところかまわずはしたない行為にふけっていた。
 そして男性たちにわざと女性たちを侮辱させて楽しんでいたらしい。
 魅了持ちが捕まって処刑されると男性たちはやっと正気に返った。彼らは魅了の被害者として同情され、愛する婚約者とよりを戻したり、新たな人生を歩んだそうだ。

「あのプライドと爵位だけは無駄に高くて自分に甘い3人のことだから、いくら浮気の証拠があってもこちらから婚約破棄するとなったらしつこくごねると思うの。それにこの有名な噂話って少し似ている部分もあるでしょう? もし、あの思い込みの激しい3人がこの噂を知ったら、自分たちに都合の良いように解釈して”ファニーに魅了された被害者”だと言い張るんじゃないかと思って、無事に婚約破棄できるか不安になってしまって……」

 彼女の言葉生々しい未来予想を聞いた私たちの間には何ともいえない空気が漂いました。
 ルインはまさに彼女が言う通りの性格です。傲慢で冷酷な奴はファニーに飽きたら、今や学園中に知られつつある愚行を含めた悪い評判はすべて身分の低いファニーのせいにして、自分は悪くないと逃げるでしょう。
 ましてや、魅了などという思い込みが激しくて目立ちたがり屋の奴好みの噂話なんて知ったら。間違いなく周りを巻きこんで悲劇の被害者ぶり、かわいそうな自分に酔いしれたあげく身分を振りかざして都合の良い女に復縁を迫ってくるでしょう。
 そんな下世話な醜聞に巻き込まれて令嬢としての評判を傷つけられた上に、あの人間としても最低な男の評判上げのために良いように使われるなんてまっぴらごめんです。
 どんよりとした友人たちのためにもどうにかできないかと考えた私は良い案を思いつきました。

「わかった。ファニーが魅了持ちじゃないってことを証明できるように、お父様に相談してみるわ」

 顔の広いお父様ならば魅了というものに詳しい人も知っているかもしれません。
 私は少しほっとした2人に任せてと請け負うと、授業が終わると急いで家に帰ってお父様に相談しました。
 お父様は魅了という言葉を聞くと険しい顔をして、専門家を紹介してくれると約束してくれました。

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