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「ちょっと待って!! お父様の依頼ってどういうことなの!? もう会えないって何で!?」
慌てふためく私にリエルは驚いたように固まりましたが、申し訳なさそうな表情に戻りました。
「ああ、すみません。マリーさんは知らなかったのですね。僕も伯爵様のお考えのすべてはわからないので、知っている範囲でお話しますが。伯爵様はあの彼が誓約を守らないことを確信しておられ、焦れた彼が誓約を確実に破る時まで僕にマリーさんの護衛を依頼していたのです。ですから、僕は今日まであなたを見守りながら彼が誓約を破った証拠を集めていました。
……本来は違反者に罰を与えるのにここまで手の込んだ仕掛けをしなくても良いのですが。マリーさんを逆恨みしているようなので、彼にとって一番厳しい罰を与えました」
リエルは最後は安心させるように言いましたが。私がそんなことを聞きたいんじゃないと顔をしかめると、困った様に私を見つめてやわらかな声で続けます。
「依頼はこれで終わりましたので。僕としても残念ですが、これからは魔術師の僕が伯爵家のご令嬢のマリーさんと個人的に会えるのは伯爵様のお許しを得られてからになります。……依頼者のマリーさんに最高の褒め言葉をいただけて僕は今すごく誇らしいです。それに魔術師の僕を友だちと呼んでくれたマリーさんにいろんなことを教えてもらえてとても楽しかったです。ありがとうございます、マリーさん。あなたは僕が今まで会った中で一番優しくて誠実でとっても素敵なご令嬢です」
その言葉に私ははっと気づきました。
リエルは王族に仕える王宮魔術師という立派な人物ですが、私が所属する貴族社会にとっては違う世界の存在です。
諦めの悪いルインが周りを巻きこんだせいでただでさえ好奇の目で見られている私が、婚約破棄をする時に誓約魔術の依頼をした異性の若い魔術師と親しく交流していたら。リエルも私も醜聞好きの貴族たちの格好のスキャンダルになるでしょう。
現実を知る大人として貴族の当主として、お父様は魔術師のリエルに忠告したのかもしれません。
……私も本当は気づいていました。お互いに住む世界も性別も違う私たち2人は、例え親しい友人としてでもいつまでも一緒には過ごせないのだと。
でも、リエルはいつも私の話を楽しいと言ってくれましたが、私もリエルが話してくれる日常に加わることを夢見ていました。そして、いつからか願っていたのです。
――この先もずっとリエルと一緒にいられますように、と。
だって、私にとっていつも私を優しく笑って出迎えてくれるリエルと会える時間が一番の幸せなのです。
リエルが好きなのです、愛しているのです。今さらそれに気づいて目頭がじんわり熱くなってきました。
「……リエル、いつもそうやって私のことを気遣ってくれてありがとう。私、あなたのそういう優しいところが大好き。こんな事言ったらあなたの優しさに甘えて困らせてるってわかってる。わかってるけど、でも、お願い。あなたへの言葉を言わせて」
「……はい。僕はマリーさんの言葉なら何でも聞きたいです」
こんな時でもリエルはいつものように穏やかに笑って私をまっすぐに見つめています。その優しくも残酷な表情に目から熱いものが溢れました。
「私、リエルが大好き。私を助けに来てくれたあなたと初めて、ううん、また会った時から愛しているの。一緒にお喋りして、お菓子を食べて。真剣な顔で魔術の鍛錬をして、魔術師様たちと難しい話を語り合って。リエルのいろんなことを知って一緒に過ごすのはとっても楽しいの。
でも、一番好きなのは。いつも会いに行くと私を出迎えてくれる、あなたのとっておきの笑顔を見るのが一番幸せなの。それなのに、もうあなたに会えないなんて、嫌。私、リエルと一緒にいたい。もう離れたくない……っ」
慌てふためく私にリエルは驚いたように固まりましたが、申し訳なさそうな表情に戻りました。
「ああ、すみません。マリーさんは知らなかったのですね。僕も伯爵様のお考えのすべてはわからないので、知っている範囲でお話しますが。伯爵様はあの彼が誓約を守らないことを確信しておられ、焦れた彼が誓約を確実に破る時まで僕にマリーさんの護衛を依頼していたのです。ですから、僕は今日まであなたを見守りながら彼が誓約を破った証拠を集めていました。
……本来は違反者に罰を与えるのにここまで手の込んだ仕掛けをしなくても良いのですが。マリーさんを逆恨みしているようなので、彼にとって一番厳しい罰を与えました」
リエルは最後は安心させるように言いましたが。私がそんなことを聞きたいんじゃないと顔をしかめると、困った様に私を見つめてやわらかな声で続けます。
「依頼はこれで終わりましたので。僕としても残念ですが、これからは魔術師の僕が伯爵家のご令嬢のマリーさんと個人的に会えるのは伯爵様のお許しを得られてからになります。……依頼者のマリーさんに最高の褒め言葉をいただけて僕は今すごく誇らしいです。それに魔術師の僕を友だちと呼んでくれたマリーさんにいろんなことを教えてもらえてとても楽しかったです。ありがとうございます、マリーさん。あなたは僕が今まで会った中で一番優しくて誠実でとっても素敵なご令嬢です」
その言葉に私ははっと気づきました。
リエルは王族に仕える王宮魔術師という立派な人物ですが、私が所属する貴族社会にとっては違う世界の存在です。
諦めの悪いルインが周りを巻きこんだせいでただでさえ好奇の目で見られている私が、婚約破棄をする時に誓約魔術の依頼をした異性の若い魔術師と親しく交流していたら。リエルも私も醜聞好きの貴族たちの格好のスキャンダルになるでしょう。
現実を知る大人として貴族の当主として、お父様は魔術師のリエルに忠告したのかもしれません。
……私も本当は気づいていました。お互いに住む世界も性別も違う私たち2人は、例え親しい友人としてでもいつまでも一緒には過ごせないのだと。
でも、リエルはいつも私の話を楽しいと言ってくれましたが、私もリエルが話してくれる日常に加わることを夢見ていました。そして、いつからか願っていたのです。
――この先もずっとリエルと一緒にいられますように、と。
だって、私にとっていつも私を優しく笑って出迎えてくれるリエルと会える時間が一番の幸せなのです。
リエルが好きなのです、愛しているのです。今さらそれに気づいて目頭がじんわり熱くなってきました。
「……リエル、いつもそうやって私のことを気遣ってくれてありがとう。私、あなたのそういう優しいところが大好き。こんな事言ったらあなたの優しさに甘えて困らせてるってわかってる。わかってるけど、でも、お願い。あなたへの言葉を言わせて」
「……はい。僕はマリーさんの言葉なら何でも聞きたいです」
こんな時でもリエルはいつものように穏やかに笑って私をまっすぐに見つめています。その優しくも残酷な表情に目から熱いものが溢れました。
「私、リエルが大好き。私を助けに来てくれたあなたと初めて、ううん、また会った時から愛しているの。一緒にお喋りして、お菓子を食べて。真剣な顔で魔術の鍛錬をして、魔術師様たちと難しい話を語り合って。リエルのいろんなことを知って一緒に過ごすのはとっても楽しいの。
でも、一番好きなのは。いつも会いに行くと私を出迎えてくれる、あなたのとっておきの笑顔を見るのが一番幸せなの。それなのに、もうあなたに会えないなんて、嫌。私、リエルと一緒にいたい。もう離れたくない……っ」
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