仮想現実の歩き方

白雪富夕

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第1章第3話 かそキャン△どうでしょう

*6*

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背びれを掴み、必死に怪物ヴォルールから振り落とされないようにするクロード。
暗い水中をものすごい勢いで駆け泳ぐ。
掴まっているだけでは倒せない。
クロードは片手に握りしめた剣を、思い切りヴォルールの堅く黒い背中へと刺した。

ヴォルール
「グゲェェェェェ!!!!」

苦しみの声を上げ、水面へと顔を出す。
荒波が立ち、舟が大きく揺れる。

ルイス
「クロードさんっ!!」

ルイスの声はクロードには届かなかった。
聞ける程余裕が無かった。
クロードは1度剣を抜き、顔の方へとよじ登る。
スピードが落ちた今が移動するチャンスだった。
血塗られた剣を右目に突き刺す。

ヴォルール
「グギャァァァアアア!!!」

白い目玉を赤く血塗られて、先程より苦しそうに叫ぶヴォルール。
今まで感じた事の無い痛みに巨体を激しく揺らす。

クロード
「なっ!」

あまりの衝撃に体が浮き、片手で目に刺した剣の柄にぶら下がる状態になった。

ルイス
「ヤダ、そんなっ!」

ルイスは両手で口を押さえた。

クロード
「フッ!」

何とか両手で柄を握り、そのまま腕力で背中によじ登るクロード。
次は左目を狙おうと剣を抜こうとした時、ヴォルールは再び水中へと潜った。
柄をしっかり握りまたも振り落とされないようにする。
水中では太刀打ち出来ない。
このままでは息も持たない。
空気を求め手を離すか、水中にただ沈んでいくだけか。
クロードは迷っていた。
どうする?どうしたら……?
キラキラとした不思議な音と共に、真っ暗な水の底からまばゆい光が差し込んできた。
クロードは咄嗟に目を閉じる。
一気に激しくなった水流が体をヴォルールから引き剥がそうとしてくる。
両手に力を込めるも、水圧に負け体が流されてしまった。
水中でもみくちゃにされる。
息が……!!
その時、急に呼吸がしやすくなり水流も無くなった。
代わりに風を感じる。
陸に出たのか?
腹這い状態で目を開ける。
洞窟内の水が無くなっており、水を求めるヴォルールが体を跳ねさせていた。
辺りには釣竿や斧など、ヴォルールが持ち去ったとされる道具が散らばっていた。
そしてぐったりと仰向けに倒れる春一と、舟のへりに掴まるルイス。
それから指輪を握り締めた詩乃が居た。

詩乃
「指輪が水を消した……」

詩乃はぼーっとしたまま呟いた。

クロード
「理由は分からんが、陸では私の方が有利だっ!」

クロードは濡れた洞窟の床を駆け、ヴォルールの右目に突き刺さる剣を引き抜いた。
苦しそうに体をよじらせる。
走りつつ柄を握り締め、ヴォルールから離れるクロード。
充分距離を取り、グルっと振り向きヴォルールと正面に向き合った。

クロード
「……これで終わりだ、ヴォルール!!」

刃が赤い炎に包まれ、それは大きくなっていく。
クロードは助走を付け、大きくジャンプする。
頭の後ろから大きく振りかぶった巨大な炎の刃は、ヴォルールを頭から尾ひれの先までを真っ二つにした。
断末魔を洞窟内に響かせながら、ヴォルールは息絶えた。
静かになる洞窟。
刃を包み込んでいた炎が無くなり、クロードは鞘に収めた。

ルイス
「何なの今の!?
いきなり水底が光ったと思ったらまるでお風呂のお湯を抜いたみたいにスーって水が無くなったんだけど!?」

ルイスは舟の中で興奮したように言った。

詩乃
「私が、私の指輪がやった事なの。
春一を助けなきゃって思って指輪を握り締めたら急に光りだして、それで水が……」

クロード
「なるほど、これが春一が言っていた詩乃の力なのか」

詩乃
「私の力って言うか、指輪の……!」

その時、ゴポゴポと音を立てながら床から水が湧き出てきた。

クロード
「まずい!水が元に戻るぞ!詩乃、春一の釣竿を探せ!
ルイス殿は春一を舟に運んでくれ!」

2人はクロードの指示で動く。
詩乃は目を凝らして、見覚えのある釣竿を探す。
クロードも腰をかがめて探し出す。

詩乃
「うーんと、どれだぁ……?」

数ある道具の中から見覚えのある釣竿を見つけた。

詩乃
「あぁ!あった!これだ!」

詩乃は釣竿を手に取りクロードに見せる。

詩乃
「これと同じのを探して!」

クロード
「了解したっ!」

水位は既に膝まで上がっており、更に腰をかがめて目線を水底に集中する。
釣竿を見つけ、手にするも別物だった。

クロード
「クソッ!」

釣竿を水に投げ捨て、再度探す。
春一を舟に乗せたルイスも釣竿を探し出す。
そうしている間にも水位はますます上昇していく。
3人の中で1番背の低い詩乃はもう限界だった。
顎まで水位が上がっていた。

クロード
「詩乃は舟に戻れっ!」

詩乃
「わ、分かった!」

詩乃は泳いで春一の乗った舟に向かい、よじ登った。
2人は水に潜って捜索を続けたが、なかなか見つからない。

詩乃
「2人共!もう無理だよ!舟に乗って!」

ルイスは泳いで舟に戻る。
乗り込み振り返ると、クロードはまだ潜水して探し続けている。

ルイス
「クロードさん!戻りましょ!」

クロード
「まだ、もう少し!」

詩乃
「クロード!もう良いよ、諦めよ!
1本でも見つかったんだからさ!」

クロード
「しかしっ!……あぁ、クソッ!!」

クロードは水面を叩き付け、ルイスの乗る舟へ泳いだ。
差し出された手を掴みよじ登る。
水はあっという間に元の水位に戻り、詩乃達はオールを握り、引き返した。
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