仮想現実の歩き方

白雪富夕

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第1章第6話 スクールスリラーナイトin仮想現実

*1*

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あの後、本物のファントムクリスタルはロイドさんにちゃんと返したし、私達はやるだけの事はやった。
ロイドさんはお礼に結構な額のお金をくれた。
怪盗Qに逃げられたのは残念だけど1番悔しがっていたのは、まんまと眠らされ自分に変装されたダンテさんだった。
怪盗Q騒動はとりあえず終わり、船から降りた私達は夜の街を歩く。

春一
「夜はまだまだこれからっつー事で、おじさんと遊びに行ってきまーす!」

私の肩に手を回し、クロードとルイスさんに言う春一。

詩乃
「えー、私疲れたからもう寝たいよ~!」

春一
「分かってねぇなぁ~その疲れをネーちゃん達に癒してもらうんでしょうよ!」

春一がそれで癒されたとしても、私は癒されないと思うんだけど!

春一
「ではでは、お2人はごゆっくり~!」

ルイス
「あんまり連れ回さないであげてよね!?
ちゃんとランタさんの家に帰って来るのよ!?」

背中にそう言うと、春一はヒラヒラと手を振った。

クロード
「酒もそうだが、未成年はああいう店も禁止だよな……?」

ルイス
「……あ」

気付いた時にはもう遅く、2人はすっかり夜の街に消えていた。

クロード
「……我々もどうするか」

ルイス
「……どうしようかしらね?
でもホントランタさんが家に泊まらせてくれて、助かったわね~!
宿泊代が浮いたわね!」

2人は気付かぬフリをする事にした。

クロード
「確かに助かったな、あんな居心地の良い家を提供してくれて」

そう言いながら歩き出すクロード。

ルイス
「……あ、あのね、クロードさん……」

立ち止まっていたルイスは後ろから引き止めた。
呼び止められて、クロードは振り返る。

クロード
「ん?どうした?」

ルイス
「どこに、向かうの……?」

クロード
「どこって、家に戻るつもりだが?
今日はルイス殿も疲れたろう?早く休むと良い」

ルイスは少し俯いた。

ルイス
「……まだ帰りたくない、なんて……ベタな事言っちゃ……
ダメ、かな?」

頬を紅潮させたルイスが少し首を傾げた。
潤んだ上目遣いの目はクロードを見た後、サッと逸らしてしまった。
クロードがゆっくりルイスに近寄る。

クロード
「……ダメ……では無い……」

斜め上から声が聞こえ、ルイスは見上げた。
クロードの顔も真っ赤に染っていた。



この街に詳しくない2人は、適当にバーに入る。
オシャレなカクテルにもさほど詳しくないので、適当にオススメを頼む。
カウンターに座る2人。
終始無言が続く。
こんなに2人きりが照れ臭いものだったなんて……。
ルイスは指で氷を回した。
2人にはなりたかったけど、何を話したら良いのか分からない。
一緒に居たいけど一緒に居たくないというアンビバレントな感情で揺れ動いていた。
一方クロードはもう既に何杯頼んだか忘れてしまった。
さっさと家に帰ってさっさと寝て、明日には変身を解いてもらって……。
そんな事しか考えてなかった為、急に誘われて動揺する。
いやいや、私は何を動揺する必要がある?
仲間に誘われただけ、しかも男。
今は確かに女性ではあるが、中身は男。
動揺する理由が無いだろう。
……話したい事でもあるのか?
だとすれば何の話だ?
わざわざ引き止めて……そんなの家でも出来るだろうに。
私が身構える程の話でも無いのか?
ただネオタウンを満喫したかっただけ?
ああ、それならもっとちゃんと調べてきちんとした観光名所へ行くべきだった。
……この店もなかなか良い雰囲気ではあるが……。

ルイス
「……良いお店よね」

クロード
「えっ!?……ああ、そ、そうだな、実に良い店だ……と、私も思っていた……」

心を読まれたかと思って一瞬焦った。

ルイス
「……ねぇ、クロードさん……」

出た!このパターン!
何だ?今度は何の申し出だ……?
味が分からなくなってしまった酒をグッと飲んだ。

ルイス
「……今の私、どう思う?」

照れ臭そうに聞くルイス。
変身した直後にまともな感想を言えなかったから、それでルイス殿は引っかかっているんだな……!
私は何と言った?
『良いのではないだろうか』
そうだ、そう言ったんだ。
だが待て、それ以上にルイス殿は何を求めている?
きちんと褒めたではないか、否、足りぬのか?
良い、だけでは満足出来ぬと……?

クロード
「……ルイス殿が満足しているなら、良かったと思う……」

ルイス
「……そういう事じゃなくて、クロードさんがどう思ってるかが知りたいの」

難しい!!
私が率直に思った事を言えば良いのか?
見た目についてとやかく言うのは、あまり良くないと聞くが……。
まあでもルイス殿が望んでいるなら、率直に感じた事を言うべきなのだろう。

クロード
「……綺麗、だと思った……」

嘘じゃない。
幕から現れた時、とても綺麗で驚いたのを今でも覚えている。
だからものすごく照れ臭くて、上手い事感想が言えなかった……。
クロードの言葉にルイスは決心した。
変身してからずっと悩んでいたが、今踏ん切りがついた。

ルイス
「アタシ……元には戻らないでおこっかな!」

クロードは驚いてルイスを見た。

ルイス
「24時間経ったら元には戻れなくなるんでしょ?
だったら、アタシはそれで良いかな」

アタシが女になれば、クロードさんが好きになってくれる確率が少しでも上がる。
周りから変な目で見られる事も無い。
綺麗って言ってくれた。
アタシが男のままなら決して言われるはずの無い言葉。
このまま24時間経てば、綺麗って言ってくれた姿のままでずっと居られる。
……完璧だった。
なのに……どうして……。

ルイス
「……どうして、そんなに悲しい顔するのよ……」

笑ってくれると思った。
良いと思うって言ってくれると思った。
そう言って笑ってくれると思ってたのに……。
そんな悲しい顔されたら、アタシ……。

クロード
「……ルイス殿は、その姿の方が良いのか?」

ルイスは頷く。
そんなの、女の方が良いに決まってる……。

クロード
「私がどう思ってるのかが知りたいのだろう?ならば教えよう……」

聞きたいようで聞きたくない。
怖い……本音を知るのが、怖い……。

クロード
「私は……元のルイス殿が良い。あの姿だからこそのルイス殿だと思う。
確かに見た目が変わってもルイス殿である事は間違いないが、貴方の良さは見た目がどうだろうと、私は知っているから……」

酔いが回ってきたのかクロードの瞼はどんどん重くなっていき、頭も少し揺れている。

クロード
「貴方は貴方のままで良い……そのままが、良い……」

そこまで言ってクロードは机に突っ伏した。
そりゃ、あれだけ飲んだら潰れるわよね……。
ルイスはクロードの空っぽのグラスを遠ざけた。
……良かった、アタシはあのままの姿で良いんだ……。
心のどこかでは本当は受け入れてほしかった。
アタシの姿を……。
スカートが似合わないとしても、女扱いされなかったとしても。
アタシの良さをアナタがちゃんと知ってくれてるってだけで、良い。
今はそれだけで充分。
綺麗だなんて言葉より、もっとずっと嬉しい物を貰えたから。
ルイスは自身の氷の溶けたカクテルを飲んだ。



私は飲んだくれを連れてランタさんの家に戻る。
大通りに近いのに室内は静かで、時計の秒針の音がやけに大きく聞こえる。
もう2度とキャバクラなんて行かない!
いや、キャバクラが悪い訳じゃない。
春一と行くのはもう勘弁だ!
1人でお酒を煽って、1人で盛り上がって、女の子達の迷惑そうな顔が見えてないのかセクハラ言動連発するし、挙句の果てに吐くし路上で寝るし……。
静かにリビングに入り、ソファーに寝かす。
ベッドよりここがお似合いだよ、べ~っだ!

春一
「……ん、ここ、どこ……?」

寝ぼけた春一がぼんやり聞く。

詩乃
「家」

春一
「……あれ?女の子達は?」

詩乃
「家なんだから居る訳無いよね!?」

あーもう嫌!酔っ払いの相手はもう沢山!
私は用意してくれた部屋に行こうとする。

春一
「……おい」

ああもう何!?
イライラしながら振り返る。

春一
「……俺も連れてけ」

両腕を前に伸ばす春一。
……だぁぁぁあああ!!腹立つっっっ!!!
私は春一に近付いて、ソファーの傍に座る。
そして耳元で大きめの声を出す。

詩乃
「いーい!?アンタはゲロまみれの砂まみれなの!
そんな格好の奴、ベッドで寝かせられる訳無いでしょ!?」

春一
「……うん」

……もっと駄々こねられるかと思ったけど、案外素直に折れた。
よし、私も寝るかな。
立ち上がろうとした時、春一に手を握られた。

春一
「……詩乃」

いやいやいや、おっさんがおっさんの手を握ってる絵面、キツくないかな?

春一
「お前さ……この世界に来て、怖いって思った事、ある?」

そりゃあ高い所から落ちたり、散々蛮族に襲われたり、怖い事だらけだけど。

春一
「……だってさ、お前、しょくぎょー無いじゃん……?」

いや、そういう事かい!
え?何?喧嘩売ってる?

春一
「クロードから聞いた……水、消した事……。
お前、何なんだろうな?
空は飛ぶし、水消すし、コピーもするし……まほーつかいなの?」

詩乃
「……そんなの、私にだって分からないよ……」

私はもう一度その場に座った。

春一
「……自分が誰だか分かんねぇーのって、怖くね?」

春一の手が強く私の手を握る。
私は少し考えた。

詩乃
「……怖いよ。
怖いけどさ、何者でも無いって、何者にでもなれるって事なんだと思う。
少なくとも私は東雲詩乃だよ。
それだけ分かってれば、あとはどうにかなるかなって」

春一
「……違ぇんだよな、俺が知りたいのってそーゆーんじゃなくて……」

何か頓珍漢な事言ったかな?

春一
「自分が誰だか分かんないのって怖いよね?っつー話だからさぁ……」

詩乃
「?……分かんないって……春一は春一だよ?」

首を傾げる私に春一は、ふはっ!っと笑った。

春一
「だぁかぁらぁ!そーゆーんじゃ!
……でもまあ良いや、俺はぁ俺だよ……阿久津、春一だよ……
それだけ、ちゃんと、覚えて、る……」

そう言って春一は寝た。
一体何の話なんだか。
酔っ払いの話はまともに聞くもんじゃないな。
手を離そうとするが離れない。
え、強っ!固っ!
何でこんな握り締めてるの!?
ちょっ!離してくれよっ!!


結局離してくれなくて、私も疲れてたからそのまま寝ちゃって、翌朝ルイスさんとクロードに変な目で見られた。
春一はルイスさんにスーツを汚した事をめちゃくちゃ怒られて、半べそと愚痴垂らしながら洗ってた。
その後、ランタさんがロイドさんからギターと歌の上手さを褒められ、また一緒にやろうとの連絡が入ったそう。
昔のバンド熱が再び再熱したらしい。
そして、あの音楽が流れる不思議な板は何なんだとも。
ランタさん、ギターは弾けないし歌は上手じゃないし、もちろん不思議な板は持ってない。
ランタさんは春一に説明を求めようとしたけど、逃げ足の早い春一はさっさと家を出てしまった。
一体何がどうしてこうなったんですか!?とランタさんは激怒。

ルイス
「本当に申し訳ございません!お金は結構ですから……!」

春一のせいでお金は貰えず、ただ単に船上パーティーで怪盗Qに翻弄されただけだった。
タダで泊めてくれたってだけでも感謝しよう。
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