仮想現実の歩き方

白雪富夕

文字の大きさ
45 / 47
第1章第6話 スクールスリラーナイトin仮想現実

*6*

しおりを挟む
クロードの許可を得たミゲルは重い口を開けた。

ミゲル
「……説明が難しいんだけど、あの箱に閉じ込められているのは……ある人にとっては天国だし、ある人にとっては地獄だ」

春一
「は?詳しく」

ミゲル
「あの箱には、開けた人物の理想の世界にこの世をまるっと変えてしまう魔物が入ってる。
だから開けた人によってこの世界は大きく変わる」

春一
「確かにそりゃパンドラの箱だわな」

クロードを見ると、こくっと頷いた。

ルイス
「どうしてそんな物を桜舞ヶ丘村の人が奪おうとしているの?」

ミゲル
「元々桜舞ヶ丘村の人間が生み出した物だから、奪い返すが正しいね」

ルイス
「ああ、箱の紋章が桜舞ヶ丘村の物だったものね。
でも、どうしてそんな物作ったのよ……!」

クロード
「……その昔、蛮族とは別に最も凶暴で知能が高く邪悪な魔族、魘魍族えんもうぞくが居たという」

黙っていたクロードが口を開く。

クロード
「我々が生まれるずっと昔、魘魍族との戦争があった。
全滅したと思われていたが今でもどこかで子孫が暮らしている」

ルイス
「魘魍族が私達の先祖達を襲って、それを返り討ちにしたって歴史ね。
まさか生き残りが居たなんて、学校じゃ習わなかったわ……」

春一
「生き残りと桜舞ヶ丘村に何の関係が?」

ミゲル
「あの村は桜の木が常に咲いていてね、とっても綺麗な場所でさ。
だから桜舞ヶ丘と呼ばれているんだ。
だけどそれは表向き、桜舞ヶ丘は実は“逢魔ヶ丘”と書く。
魔と逢う場所なんだ、あそこは。
だから魘魍族が隠れていてもおかしくないって聖騎士団は踏んでいる、でしょ?」

ミゲルに言われ、クロードは頷いた。

春一
「じゃああの女は魘魍族の末裔で、復讐の為にあの箱を開けて世界を変えようとしているのか?
自分達魘魍族が生きやすい世界に」

ミゲル
「良いかい?春一君。
さっき言ったように正義の反対は悪じゃない。
彼らには彼らの信念があるんだよ、復讐なんて一言で片付けるのは良くない」

クロード
「復讐だ、奴らはそれだけだ。
お前の言うように正義と悪では無く2つの正義だと言うのなら、その2つは相容れない。
どちらかが滅び、どちらかが自由を得る。
それしか無いのだ」

ミゲル
「血で得た物はいずれ血で塗り返される。
争いからは何も生まれない、生まれるとしたら新たなる憎しみだ。
きっとお互い納得出来る妥協点があるはずだよ。
それが無い寂しい世界なら、そんな物滅んでしまえば良い」

春一
「温厚な奴だと思いきや、なかなかの過激派だなぁ」

ミゲル
「俺はあくまで平和主義者だよ」

ニコリとミゲルは微笑む。

クロード
「偽善者の間違いだろう?
全ての生き物が幸せになる世界などありえない。
私は自分の周りを守るのに精一杯で、蛮族やら魔族やらの幸せに構っていられない」

ミゲル
「聖騎士団はみんなの味方なんじゃないの?」

クロード
「聖騎士団は民を守るのが仕事。それ以外を守るのは業務外だ」

ミゲルはじっとクロードを見つめた。
クロードは睨む。
暫し沈黙が続く。
先に視線を逸らしたのはミゲルだった。

ミゲル
「……俺も行こうかな、桜舞ヶ丘村」

ニヤリと笑って、ビーカーに口を付けるミゲル。
クロードは何を考えているか読めない目の前の男が不気味だった。

クロード
「は?何故?」

ミゲル
「クロード君の仕事がそういう事なら、俺の仕事は平和的解決に導く事だからね」

クロード
「貴様の仕事は蛮族の研究だろう!?」

ミゲル
「それが嫌だから逃げてきたんでしょ?
だけどこんな所に引きこもって理想を語っても状況は変わらない。
クロード君の言う通り偽善者だよね。
だから俺も旅に連れて行ってよ」

クロード
「断る」

端的に拒否したクロードを、ミゲルはサラリと受け流す。

ミゲル
「2人はどう?俺を仲間に入れてくれる?」

春一
「俺は問題無い、お前とは気が合いそうだ!」

ルイス
「ア、アタシは……クロードさん次第、かな……」

ルイスは隣に座るクロードをチラッと見る。

クロード
「2対1で却下だ」

ミゲル
「2対2でドローだよ、後は詩乃ちゃん次第だ」

ルイス
「そ、そうだわ!詩乃ちゃん探しに行かなきゃ!」

春一
「きっとどこかでベソかいてるだろうな」

ミゲル
「よし!先に詩乃ちゃんを見つけた方の意見に従うっていうのはどう?」

クロード
「そんなの貴様が有利に決まっているだろう!?
大体、こんな迷路のような学校で見つけられる訳が無い!」

ミゲル
「分かったよ、じゃあ元に戻すからゲームしよ!」

ミゲルは立ち上がり、コーヒーを飲み干す。

ミゲル
「……あーあ、すっかり冷めきっちゃったよ」

ミゲル
「ほら、君らも早く飲んで!」

ミゲルに急かされ、3人も飲み干す。

ミゲル
「ハンデとして君達3人で探しな?
俺が指を鳴らしたら元の廃校に戻る。
そしたらスタートだよ」

言うや否や、ミゲルは顔の横で指を鳴らして素早く教室を飛び出た。

クロード
「なっ!唐突過ぎるだろう!?」

クロードも後に続いて教室を出る。

廊下には既にミゲルの姿は無かった。

春一
「ミゲル、パーティー入り確定か?」

クロード
「早く探すぞ!」

焦るクロードは2人を引き連れて、探し始めた。



いくつ目かの引き戸を開けた時、布団でスヤスヤと眠る詩乃が居た。

ミゲル
「……みーつけた」

ミゲルは眠る詩乃に近付き、片膝を付いて詩乃の肩を軽く揺すった。
顔が歪み、まだ寝ぼけている詩乃とミゲルは目が合った。

ミゲル
「おはよう、よく眠れた?」

最初何の事だか分からなかったが、徐々に頭が働きだして急いで飛び起きる。

詩乃
「あ、あなた誰!?」

布団を胸の前で握り、警戒する詩乃。

ミゲル
「ごめん、また驚かせちゃったね。俺はミゲル・アダムス。
君は東雲詩乃ちゃんだね?」

詩乃
「何で私の名前を?……え、また?またって?」

ミゲル
「君のお仲間とさっきまで話してて名前教えてもらったんだ。
その前に君とも会ったよ、肩を叩いたら逃げられちゃったけど」

詩乃
「あ!あの時あなただったの!?てっきりお化けかと……!
ごめんなさい!」

ミゲル
「大丈夫だよ謝らなくて、あんな状況じゃ怖いもんね」

優しく微笑むミゲルに少し警戒を解く詩乃。

詩乃
「……あ、あれ?メアリーは?」

周りをキョロキョロと見る。

ミゲル
「メアリー?仲間はあの3人以外にも居るんだ?」

詩乃
「いや、ここに住んでいる女の子で、一緒に寝ようって言われてさっきまでここで一緒に寝てたんですけど」

ミゲル
「女の子?ここに住んでるのは俺だけなんだけど……」

首を傾げるミゲルの言葉に背筋が凍る詩乃。
掴んでいた布団に目をやると、綺麗な白い布団がいつの間にか茶色く変色し、所々破けている古びた布団に変わり果てていた。



廊下に叫び声が響き、3人は振り返る。

クロード
「詩乃っ!!」

3人は慌てて声がした方へ走る。
教室から、ミゲルが詩乃をお姫様抱っこで抱きかかえながら出てくる所だった。

クロード
「遅かったか……」

春一
「ゲームにも負けたけど、人の運び方も負けてるからな?」

ミゲル
「お化けに会っちゃったみたいで、気失っちゃった」

ルイス
「え、お化け?え、居るの?」

ミゲル
「居るみたいだね~。
たまに笑い声聞こえてたけど、あれお化けだったのか~。
幽霊と同居してたんだね、俺」

悠長に笑うミゲルに3人は苦笑いをした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

スライム退治専門のさえないおっさんの冒険

守 秀斗
ファンタジー
俺と相棒二人だけの冴えない冒険者パーティー。普段はスライム退治が専門だ。その冴えない日常を語る。

さようならの定型文~身勝手なあなたへ

宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」 ――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。 額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。 涙すら出なかった。 なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。 ……よりによって、元・男の人生を。 夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。 「さようなら」 だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。 慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。 別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。 だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい? 「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」 はい、あります。盛りだくさんで。 元・男、今・女。 “白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。 -----『白い結婚の行方』シリーズ ----- 『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。

神木さんちのお兄ちゃん!

雪桜
キャラ文芸
✨ キャラ文芸ランキング週間・月間1位&累計250万pt突破、ありがとうございます! 神木家の双子の妹弟・華と蓮には"絶世の美男子"と言われるほどの金髪碧眼な『兄』がいる。 美人でカッコよくて、その上優しいお兄ちゃんは、常にみんなの人気者! だけど、そんな兄には、何故か彼女がいなかった。 幼い頃に母を亡くし、いつも母親代わりだったお兄ちゃん。もしかして、お兄ちゃんが彼女が作らないのは自分達のせい?! そう思った華と蓮は、兄のためにも自立することを決意する。 だけど、このお兄ちゃん。実は、家族しか愛せない超拗らせた兄だった! これは、モテまくってるくせに家族しか愛せない美人すぎるお兄ちゃんと、兄離れしたいけど、なかなか出来ない双子の妹弟が繰り広げる、甘くて優しくて、ちょっぴり切ない愛と絆のハートフルラブ(家族愛)コメディ。 果たして、家族しか愛せないお兄ちゃんに、恋人ができる日はくるのか? これは、美人すぎるお兄ちゃんがいる神木一家の、波乱万丈な日々を綴った物語である。 *** イラストは、全て自作です。 カクヨムにて、先行連載中。

公爵家の秘密の愛娘 

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。 過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。 そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。 「パパ……私はあなたの娘です」 名乗り出るアンジェラ。 ◇ アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。 この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。 初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。 母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞  🔶設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞 🔶稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇‍♀️

異世界転生旅日記〜生活魔法は無限大!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
 農家の四男に転生したルイ。   そんなルイは、五歳の高熱を出した闘病中に、前世の記憶を思い出し、ステータスを見れることに気付き、自分の能力を自覚した。  農家の四男には未来はないと、家族に隠れて金策を開始する。  十歳の時に行われたスキル鑑定の儀で、スキル【生活魔法 Lv.∞】と【鑑定 Lv.3】を授かったが、親父に「家の役には立たない」と、家を追い出される。   家を追い出されるきっかけとなった【生活魔法】だが、転生あるある?の思わぬ展開を迎えることになる。   ルイの安寧の地を求めた旅が、今始まる! 見切り発車。不定期更新。 カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

処理中です...