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オアシスの街
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「あれ、なんか静かですね」
西の砂漠の入口にあるオアシスの街、キクケに入ったところでリックが首をかしげた。
「前に、随分賑やかな街だって聞いたことがあったんだけど」
土で造られた背の低い箱形の家が通りの左右に連なっているが、人通りはなく、閑散としていた。
「宿を探しましょう」
リックの横で手綱を取るボルが、ゆっくりと馬車を進めた。左手をなくしたリックに代わり、ボルが馬車を御していた。初めはなかなか馬が言うことを聞かなかったが、すぐに慣れたようだった。ボルは案外器用だった。
「ちょっと聞いてきますね」
宿屋であることを示す印と「砂の海」と書かれた看板が下げられた建物の前で馬車を停め、ボルが建物に入っていった。その建物は周りより少し大きかった。
「リックさん、ちょっと」
ボルが困った様子で出てきた。皆、馬車から下りてきた。
「誰もいなくて、何度呼んでも、返事もないんです」
リックは宿屋に入り奥に声をかけたが、やはり返事はなかった。
「あっ、勇者様」
一緒に来ていた勇者が、勝手に奥に入っていった。
「うわっ、なんだこれ」
リックは奥の部屋の様子を一目見て、思わず声を出した。奥の部屋では床や壁に大きな穴が開き、二階に続く階段も半分は落ちていた。人がいる気配は全くなかった。全ての部屋を見て回ったが、やはり誰もいなかった。
「誰もいませんでした」
外で皆に説明した。
「周りの家も同じです。床や壁に穴が開き、誰もいませんでしたよ」
ウィラーが言った。リック達が宿屋の中を見ている間に、ウィラー達も他の家を見て回っていたようだった。
「一体、どうしたんでしょう」
クミンが不安そうに呟いた。
「どうします。これだと食料が買えませんが」
ボルがリックに相談した。ここで砂漠の神殿に行くまでの食料を仕入れるつもりだった。
「あ、あそこに人が」
クミンが通りの先を指差した。こちらに向かってくる集団がいた。
「やあ、皆さん、今日は」
集団の先頭の男が声をかけてきた。男は勇者と同じぐらいの年頃で、背は低く丸々と太っていた。男は勇者に声をかけてきた。
「やはり誰もいないでしょう」
「やはり、・・・というと」
「少し前から、ここに魔物が現れ、人を襲うようになったそうです。それで、皆、よそに避難したと聞きました」
「そうですか、・・・ところで貴方は」
「ああ、私はムラノです。色々なところで色々な物を仕入れ、売りながら旅をしています。貴方は」
「私は冒険家でロンと言います。砂漠にある神殿に行こうと思って来たんですが、・・・ここがこれでは」
勇者は商人ではなく、冒険家と名乗りを変えた。
「ところで、ムラノさんは、ここに魔物が現れ皆が避難をしたと言っていましたが、それが分かっていながら、どうしてここへ」
「ははは、そうですね。いや、実は我々はポーリンに行こうと思っているんです。なんでも滅多に手に入らないものが売りに出ていると聞きまして。それで一刻も早く行きたくて、このキクケを通るのが一番の近道なものですから。昼のうちに街を抜ければ大丈夫かと、・・・ほら、魔物は夜に現れると言うじゃないですか」
ムラノは豪快に笑った。急ぐとはいえ、魔物が出るという街を通る大胆さに、リックは驚いた。
「貴方は冒険家ということですが、何か必要なものがありますか。少しお困りのようですが」
ムラノの顔が抜け目のない商人のものになっていた。
「それじゃあ、食料はありますか。野菜や肉、豆なんかがあれば助かります」
横からボルが口を挟んだ。
「おお、ありますとも。こちらにどうぞ。他にも色々、ありますので、どうぞご覧下さい」
ムラノが手で示したところには、すでに商品が並べられていた。どうやら初めからこちらを相手に商売をするつもりだったようだ。リックはその商魂に舌を巻くと共に、勇者が何故、冒険家と名乗ったのかが分かった。本当の商人にはすぐに偽物だとばれてしまうからだった。
「・・・これは」
ウィラーが並べられた商品の端に積まれたガラクタにしか見えない物の中から一枚のプレートを取り出した。それは薄い金属でできており、複雑な紋様が彫られたものだった。
「これは」
横からフレイラがプレートを取り、ウィラーと視線を交わした。
「どうしたんですか、・・・綺麗なプレートですね」
リックが横から覗き込んだ。リックが近づくと、プレートの紋様が輝き出したように見えた。
「・・・リック、・・・お前」
フレイラが驚いた顔でリックを見つめた。その様子を勇者は、離れたところから見ていた。
「どうしました。そのプレートが気に入りましたかな」
ムラノが三人に聞いた。
「お気に召されたのであれば、特別に差し上げましょう。食料を沢山、お買い上げ頂けましたのでね」
勇者はあるだけの食料を言い値で買ったようで、機嫌をよくしたムラノがプレートをただで譲ってくれた。
「おい、このプレートは何処で手に入れたんだ」
フレイラが詰問するような口調で聞いた。ムラノは少し驚いた顔をしたが、すぐに笑顔に戻った。
「そのプレートがどうかされましたか。そうですね、どこだったかな・・・、あっ、思い出しました。・・・はい」
そう言うと右手の手のひらを上に向け、差し出した。
「なんだ、その手は」
フレイラは訳がわからず聞き返した。
「いやあ、プレートはただで差し上げましたが、情報はそうはいきません。私も商人です。情報であっても、私が扱えば、それは全て商品です。できるだけ高値で買って頂きませんと、・・・ひっ」
ムラノが得意気に言った次の瞬間、フレイラがムラノの首を片手で締め上げた。ムラノの部下達が一斉に剣に手をかけた。
「嫌なら言わなくていい。もう二度と話せなくなるだけだ」
フレイラは本気のようだった。
「止めろ、フレイラ」
勇者がフレイラの腕を掴み、フレイラと睨み合った。暫くすると、フレイラが手を離した。
「大変、申し訳なかった。どうだろう、これで教えてくれないか」
勇者が金貨が入った袋を出し、袋ごとムラノに渡した。ムラノは袋の中を確認し、一瞬驚いた顔をしたが、すぐに袋を懐にしまった。平静を装ってはいるが、口元がにやけ、締まりのない顔になっていた。
「実はあのプレートは・・・、ん、なんだ」
ムラノがプレートの話をしていると、いきなり地響きがした。ムラノの足元の地面が盛り上がったと思った次の瞬間、大きな音とともに地面から何かが飛び出した。
「わっ」
リックの目の前に茶色いぶよぶよした柱のようなものが現れた。それはくねくねと動き、てっぺんには大きな口がついていた。リックはその口の端からムラノの手が出ているのを見たが、その手はすぐに見えなくなった。
「魔物だ」
勇者が、その刀身の周りに風を纏った剣を構えた。
「うわあ」
あちこちで地面から、同じ魔物が現れた。魔物に囲まれ、ムラノの部下が逃げ惑う中、何処からか声が聞こえた。
「花嫁を渡せ。・・・魔王の花嫁を」
その声はリュウキス島に向かう船で聞いた金属を擦り付けたような魔物の声だった。クミンは声を聞いた途端、恐怖で動けなくなった。その顔は真っ青だった。
「クミンさん」
リックは魔物を避けながら、クミンのそばに寄った。
「大丈夫、僕が守るから」
「ギィヤアアアアアアア」
「グワアアアアアアアア」
魔物が一斉に叫び、皆に襲いかかった。リックとウィラーは水のリングを放ち、フレイラは火の槍を飛ばし、勇者は風の剣を振るった。魔物は全て切り裂かれた。
「ふう、クミンさん、もう大丈夫」
リックが恐怖で踞るクミンを優しく立ち上がらせた時、さっきよりも大きく地面が揺れた。
「きゃあ」
「これは」
「はははははは、それで倒したつもりか。全員、潰れてしまえ」
地面が割れ、そこからさっきよりも多くの魔物が現れたと思うと、その魔物の下の地面が大きく盛り上がった。リックはクミンを右腕で確りと抱きしめ、守りながら地面を転がった。
「うっ、なんだ、これ、・・・でかい」
上半身を起こしたリックの目の前に、何本もの脚を持った、山のように大きな魔物がいた。さっき切り裂いたのは、大きな魔物の背中に生えた一部に過ぎなかった。リックはその大きさに驚き、咄嗟にどうすればいいか分からなかった。
「リック、これを使え」
フレイラがさっきのプレートを投げて寄越した。リックがそのプレートに触れると、その紋様が輝きだし、リックは何故か自分の中の魔道をはっきりと感じることができた。今なら最大の力で、完全に火と水の魔法を一つにできると思った。
「ラ・アリュウガス」
リックは自分で作った呪文を唱えた。ウィラーと戦った時とは違い、短時間で完璧に魔法を編むことができた。リックから放たれた魔法は魔物の腹に当たった。
「グィギャギャアアアアア」
リックの魔法が魔物を全て包み込み、魔物の背中で蠢くものが一斉に叫び声を上げた。魔物は魔法の光の中で切り裂かれ、焼き尽くされた。
「やった」
リックは安堵の息を吐いた。今回はどこも前のように熱く、そして痛くならなかった。
「ふははははは、これで終わりではないぞ、必ず魔王の花嫁をいただくからな。それまで、いつ襲われるとも分からぬ恐怖に怯えるがいい。はははははは」
また魔物の声が聞こえた。クミンは体が震え、涙が止まらなくなった。サリナスはその様子を遠くから眺め、満足そうに笑うと、建物の影の中に消えた。
西の砂漠の入口にあるオアシスの街、キクケに入ったところでリックが首をかしげた。
「前に、随分賑やかな街だって聞いたことがあったんだけど」
土で造られた背の低い箱形の家が通りの左右に連なっているが、人通りはなく、閑散としていた。
「宿を探しましょう」
リックの横で手綱を取るボルが、ゆっくりと馬車を進めた。左手をなくしたリックに代わり、ボルが馬車を御していた。初めはなかなか馬が言うことを聞かなかったが、すぐに慣れたようだった。ボルは案外器用だった。
「ちょっと聞いてきますね」
宿屋であることを示す印と「砂の海」と書かれた看板が下げられた建物の前で馬車を停め、ボルが建物に入っていった。その建物は周りより少し大きかった。
「リックさん、ちょっと」
ボルが困った様子で出てきた。皆、馬車から下りてきた。
「誰もいなくて、何度呼んでも、返事もないんです」
リックは宿屋に入り奥に声をかけたが、やはり返事はなかった。
「あっ、勇者様」
一緒に来ていた勇者が、勝手に奥に入っていった。
「うわっ、なんだこれ」
リックは奥の部屋の様子を一目見て、思わず声を出した。奥の部屋では床や壁に大きな穴が開き、二階に続く階段も半分は落ちていた。人がいる気配は全くなかった。全ての部屋を見て回ったが、やはり誰もいなかった。
「誰もいませんでした」
外で皆に説明した。
「周りの家も同じです。床や壁に穴が開き、誰もいませんでしたよ」
ウィラーが言った。リック達が宿屋の中を見ている間に、ウィラー達も他の家を見て回っていたようだった。
「一体、どうしたんでしょう」
クミンが不安そうに呟いた。
「どうします。これだと食料が買えませんが」
ボルがリックに相談した。ここで砂漠の神殿に行くまでの食料を仕入れるつもりだった。
「あ、あそこに人が」
クミンが通りの先を指差した。こちらに向かってくる集団がいた。
「やあ、皆さん、今日は」
集団の先頭の男が声をかけてきた。男は勇者と同じぐらいの年頃で、背は低く丸々と太っていた。男は勇者に声をかけてきた。
「やはり誰もいないでしょう」
「やはり、・・・というと」
「少し前から、ここに魔物が現れ、人を襲うようになったそうです。それで、皆、よそに避難したと聞きました」
「そうですか、・・・ところで貴方は」
「ああ、私はムラノです。色々なところで色々な物を仕入れ、売りながら旅をしています。貴方は」
「私は冒険家でロンと言います。砂漠にある神殿に行こうと思って来たんですが、・・・ここがこれでは」
勇者は商人ではなく、冒険家と名乗りを変えた。
「ところで、ムラノさんは、ここに魔物が現れ皆が避難をしたと言っていましたが、それが分かっていながら、どうしてここへ」
「ははは、そうですね。いや、実は我々はポーリンに行こうと思っているんです。なんでも滅多に手に入らないものが売りに出ていると聞きまして。それで一刻も早く行きたくて、このキクケを通るのが一番の近道なものですから。昼のうちに街を抜ければ大丈夫かと、・・・ほら、魔物は夜に現れると言うじゃないですか」
ムラノは豪快に笑った。急ぐとはいえ、魔物が出るという街を通る大胆さに、リックは驚いた。
「貴方は冒険家ということですが、何か必要なものがありますか。少しお困りのようですが」
ムラノの顔が抜け目のない商人のものになっていた。
「それじゃあ、食料はありますか。野菜や肉、豆なんかがあれば助かります」
横からボルが口を挟んだ。
「おお、ありますとも。こちらにどうぞ。他にも色々、ありますので、どうぞご覧下さい」
ムラノが手で示したところには、すでに商品が並べられていた。どうやら初めからこちらを相手に商売をするつもりだったようだ。リックはその商魂に舌を巻くと共に、勇者が何故、冒険家と名乗ったのかが分かった。本当の商人にはすぐに偽物だとばれてしまうからだった。
「・・・これは」
ウィラーが並べられた商品の端に積まれたガラクタにしか見えない物の中から一枚のプレートを取り出した。それは薄い金属でできており、複雑な紋様が彫られたものだった。
「これは」
横からフレイラがプレートを取り、ウィラーと視線を交わした。
「どうしたんですか、・・・綺麗なプレートですね」
リックが横から覗き込んだ。リックが近づくと、プレートの紋様が輝き出したように見えた。
「・・・リック、・・・お前」
フレイラが驚いた顔でリックを見つめた。その様子を勇者は、離れたところから見ていた。
「どうしました。そのプレートが気に入りましたかな」
ムラノが三人に聞いた。
「お気に召されたのであれば、特別に差し上げましょう。食料を沢山、お買い上げ頂けましたのでね」
勇者はあるだけの食料を言い値で買ったようで、機嫌をよくしたムラノがプレートをただで譲ってくれた。
「おい、このプレートは何処で手に入れたんだ」
フレイラが詰問するような口調で聞いた。ムラノは少し驚いた顔をしたが、すぐに笑顔に戻った。
「そのプレートがどうかされましたか。そうですね、どこだったかな・・・、あっ、思い出しました。・・・はい」
そう言うと右手の手のひらを上に向け、差し出した。
「なんだ、その手は」
フレイラは訳がわからず聞き返した。
「いやあ、プレートはただで差し上げましたが、情報はそうはいきません。私も商人です。情報であっても、私が扱えば、それは全て商品です。できるだけ高値で買って頂きませんと、・・・ひっ」
ムラノが得意気に言った次の瞬間、フレイラがムラノの首を片手で締め上げた。ムラノの部下達が一斉に剣に手をかけた。
「嫌なら言わなくていい。もう二度と話せなくなるだけだ」
フレイラは本気のようだった。
「止めろ、フレイラ」
勇者がフレイラの腕を掴み、フレイラと睨み合った。暫くすると、フレイラが手を離した。
「大変、申し訳なかった。どうだろう、これで教えてくれないか」
勇者が金貨が入った袋を出し、袋ごとムラノに渡した。ムラノは袋の中を確認し、一瞬驚いた顔をしたが、すぐに袋を懐にしまった。平静を装ってはいるが、口元がにやけ、締まりのない顔になっていた。
「実はあのプレートは・・・、ん、なんだ」
ムラノがプレートの話をしていると、いきなり地響きがした。ムラノの足元の地面が盛り上がったと思った次の瞬間、大きな音とともに地面から何かが飛び出した。
「わっ」
リックの目の前に茶色いぶよぶよした柱のようなものが現れた。それはくねくねと動き、てっぺんには大きな口がついていた。リックはその口の端からムラノの手が出ているのを見たが、その手はすぐに見えなくなった。
「魔物だ」
勇者が、その刀身の周りに風を纏った剣を構えた。
「うわあ」
あちこちで地面から、同じ魔物が現れた。魔物に囲まれ、ムラノの部下が逃げ惑う中、何処からか声が聞こえた。
「花嫁を渡せ。・・・魔王の花嫁を」
その声はリュウキス島に向かう船で聞いた金属を擦り付けたような魔物の声だった。クミンは声を聞いた途端、恐怖で動けなくなった。その顔は真っ青だった。
「クミンさん」
リックは魔物を避けながら、クミンのそばに寄った。
「大丈夫、僕が守るから」
「ギィヤアアアアアアア」
「グワアアアアアアアア」
魔物が一斉に叫び、皆に襲いかかった。リックとウィラーは水のリングを放ち、フレイラは火の槍を飛ばし、勇者は風の剣を振るった。魔物は全て切り裂かれた。
「ふう、クミンさん、もう大丈夫」
リックが恐怖で踞るクミンを優しく立ち上がらせた時、さっきよりも大きく地面が揺れた。
「きゃあ」
「これは」
「はははははは、それで倒したつもりか。全員、潰れてしまえ」
地面が割れ、そこからさっきよりも多くの魔物が現れたと思うと、その魔物の下の地面が大きく盛り上がった。リックはクミンを右腕で確りと抱きしめ、守りながら地面を転がった。
「うっ、なんだ、これ、・・・でかい」
上半身を起こしたリックの目の前に、何本もの脚を持った、山のように大きな魔物がいた。さっき切り裂いたのは、大きな魔物の背中に生えた一部に過ぎなかった。リックはその大きさに驚き、咄嗟にどうすればいいか分からなかった。
「リック、これを使え」
フレイラがさっきのプレートを投げて寄越した。リックがそのプレートに触れると、その紋様が輝きだし、リックは何故か自分の中の魔道をはっきりと感じることができた。今なら最大の力で、完全に火と水の魔法を一つにできると思った。
「ラ・アリュウガス」
リックは自分で作った呪文を唱えた。ウィラーと戦った時とは違い、短時間で完璧に魔法を編むことができた。リックから放たれた魔法は魔物の腹に当たった。
「グィギャギャアアアアア」
リックの魔法が魔物を全て包み込み、魔物の背中で蠢くものが一斉に叫び声を上げた。魔物は魔法の光の中で切り裂かれ、焼き尽くされた。
「やった」
リックは安堵の息を吐いた。今回はどこも前のように熱く、そして痛くならなかった。
「ふははははは、これで終わりではないぞ、必ず魔王の花嫁をいただくからな。それまで、いつ襲われるとも分からぬ恐怖に怯えるがいい。はははははは」
また魔物の声が聞こえた。クミンは体が震え、涙が止まらなくなった。サリナスはその様子を遠くから眺め、満足そうに笑うと、建物の影の中に消えた。
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