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翼の折れた灰路
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およそ三時間たった頃だろうか。
アルマーの耳に、がさごそと、耳障りな音が入った。
もちろん、無視してそのまま眠り続けたいアルマーだが、この荒廃した世界において、その甘えは死を招く。
飛び起きたアルマーは荷物の中に隠しておいた、刃渡り三十センチのククリのようなナイフを取り出して右手に握らせ、素早く構えた。
パイプ散弾銃も取り出せるように鞄の口をしっかりと開けてある。
がさごそとした音は確かに近くにある。
七メートル先にある、横幅四メートルの茂みの中か、焚き火のすぐそばにある高さ百五センチメートルの岩の裏か。
アルマーは警戒し、思考を張り巡らせていた。
途端。
茂みの中から何か黒い塊が高速で飛んできた。
「飛び出してきた」とアルマーが思った時には既に爪のように尖ったものがアルマーの顔すれすれに近づいていた。
ギリギリの反射速度で避けることはできたが体勢を崩してしまいそこに黒い何かの追撃が迫っていた。
右手に握ったナイフでその攻撃を弾き返しその反動を体勢を立て直すために働かせた。
吹き飛ばされた何かは空中で体勢を立て直しアルマーの十メートル先に着地した。
そこで始めて、アルマーは何かを視認することができた。
何かは、犬であった。
しかしただの犬ではない。
灰の瘴気に侵され、骨格、体格を変化させられ、正気も奪われたいわゆる「魔物」である。
この犬も、皮膚は所々裂けそこから尖った骨が見える。
何より大きい。
高さが百七センチメートルもある。
爪も長さが二十センチほどあり、あれで身体を切られたら、恐らく生きてはいられない。
お互いに睨み付けて相手の隙を待っている。
アルマーは確かに屈強な男だ。
しかし、それが戦闘に直結するわけでもない。
それはアルマー自身も判っている。
先刻爪の一閃を避けることができたのは、正直のところ運が良かったと思っていた。
今すぐにでも散弾銃を取りに行きたいところだが、その銃の入った鞄も汚染された犬の二メートル左にある。
これも、爪を避けたときにそのまま場所を取られたからだ。
銃を取りに行こうとすれば、犬に隙を疲れ殺られる。
そういくつも思考を張り巡らせていた矢先、犬がアルマーの正面に突っ込んできた。
殺気を伴って、牙を光らせ突進してきた。
そう、犬に隙が出来たのだ。
これこそ好機と悟ったアルマーは、ナイフを右手に持ったまま右足を軸に左回りに避け、その時にナイフで犬の脇腹を撫でた。
深めに入った刃が犬に苦痛を与えて悶えさせる。
そしてアルマーは後ろに気を付けながら鞄のもとへと走り、すれ違い様に銃を抜いた。
ポンプアクション式のそれは、弾がいつでも飛び出すようにアルマーが準備をしてある。
かろうじて苦痛に耐え、次は飛躍して爪を尖らせる犬に銃口を向け、ほぼゼロ距離になったところで、左手に持ったパイプ散弾銃を放った。
轟音と同時に肉が弾け吹き飛び、犬は三メートルほど吹き飛ばさた。
やがて、何か声を発したのち、絶命した。
アルマーの心臓は、ひどく、高鳴りしていた。
狩りの経験は、ある。
もちろん、野犬も狩って食ってきた。
しかし、この犬は何かが違かった。
灰に侵されていたからだ。
身体を蝕まれ、理性も効かず、ただ暴れまわることしか出来ない生命を、この手で粉々に砕いた。
それがアルマーを無駄に動揺させた。
今殺した犬が今までにも狩ってきたものと種は同様だとしても、どうしても拭いきれない不安な感情が、灰のようにアルマーを蝕んだ。
そこからの夜、アルマーは眠らず、旅支度を始めた。
おおよそ深夜三時頃に、また歩き始めた。
次の街まで急ぐため。
だが、ここから今すぐにでも離れたい気持ちもあった。
アルマーは、屈強な男である。
アルマーの耳に、がさごそと、耳障りな音が入った。
もちろん、無視してそのまま眠り続けたいアルマーだが、この荒廃した世界において、その甘えは死を招く。
飛び起きたアルマーは荷物の中に隠しておいた、刃渡り三十センチのククリのようなナイフを取り出して右手に握らせ、素早く構えた。
パイプ散弾銃も取り出せるように鞄の口をしっかりと開けてある。
がさごそとした音は確かに近くにある。
七メートル先にある、横幅四メートルの茂みの中か、焚き火のすぐそばにある高さ百五センチメートルの岩の裏か。
アルマーは警戒し、思考を張り巡らせていた。
途端。
茂みの中から何か黒い塊が高速で飛んできた。
「飛び出してきた」とアルマーが思った時には既に爪のように尖ったものがアルマーの顔すれすれに近づいていた。
ギリギリの反射速度で避けることはできたが体勢を崩してしまいそこに黒い何かの追撃が迫っていた。
右手に握ったナイフでその攻撃を弾き返しその反動を体勢を立て直すために働かせた。
吹き飛ばされた何かは空中で体勢を立て直しアルマーの十メートル先に着地した。
そこで始めて、アルマーは何かを視認することができた。
何かは、犬であった。
しかしただの犬ではない。
灰の瘴気に侵され、骨格、体格を変化させられ、正気も奪われたいわゆる「魔物」である。
この犬も、皮膚は所々裂けそこから尖った骨が見える。
何より大きい。
高さが百七センチメートルもある。
爪も長さが二十センチほどあり、あれで身体を切られたら、恐らく生きてはいられない。
お互いに睨み付けて相手の隙を待っている。
アルマーは確かに屈強な男だ。
しかし、それが戦闘に直結するわけでもない。
それはアルマー自身も判っている。
先刻爪の一閃を避けることができたのは、正直のところ運が良かったと思っていた。
今すぐにでも散弾銃を取りに行きたいところだが、その銃の入った鞄も汚染された犬の二メートル左にある。
これも、爪を避けたときにそのまま場所を取られたからだ。
銃を取りに行こうとすれば、犬に隙を疲れ殺られる。
そういくつも思考を張り巡らせていた矢先、犬がアルマーの正面に突っ込んできた。
殺気を伴って、牙を光らせ突進してきた。
そう、犬に隙が出来たのだ。
これこそ好機と悟ったアルマーは、ナイフを右手に持ったまま右足を軸に左回りに避け、その時にナイフで犬の脇腹を撫でた。
深めに入った刃が犬に苦痛を与えて悶えさせる。
そしてアルマーは後ろに気を付けながら鞄のもとへと走り、すれ違い様に銃を抜いた。
ポンプアクション式のそれは、弾がいつでも飛び出すようにアルマーが準備をしてある。
かろうじて苦痛に耐え、次は飛躍して爪を尖らせる犬に銃口を向け、ほぼゼロ距離になったところで、左手に持ったパイプ散弾銃を放った。
轟音と同時に肉が弾け吹き飛び、犬は三メートルほど吹き飛ばさた。
やがて、何か声を発したのち、絶命した。
アルマーの心臓は、ひどく、高鳴りしていた。
狩りの経験は、ある。
もちろん、野犬も狩って食ってきた。
しかし、この犬は何かが違かった。
灰に侵されていたからだ。
身体を蝕まれ、理性も効かず、ただ暴れまわることしか出来ない生命を、この手で粉々に砕いた。
それがアルマーを無駄に動揺させた。
今殺した犬が今までにも狩ってきたものと種は同様だとしても、どうしても拭いきれない不安な感情が、灰のようにアルマーを蝕んだ。
そこからの夜、アルマーは眠らず、旅支度を始めた。
おおよそ深夜三時頃に、また歩き始めた。
次の街まで急ぐため。
だが、ここから今すぐにでも離れたい気持ちもあった。
アルマーは、屈強な男である。
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返信ありがとうございます。
フロムソフトウェアさんってアーマードコア作ってるところなんですね。あとダークソウルも。
渋くハードなゲームが多いですね。
こんにちは。
これから楽しみな感じです。
ここまで会話が無いのですがこれからも会話は少なめなんですかね?
頑張ってください。
わたしも今年から小説を書き始めたので良かったら寄って下さい。
読んでいただき、ありがとうございます。このお話の世界観もあって、コメディな場面は今のところ少なくなりそうです。ゲーム制作会社フロムソフトウェアさんのゲームをリスペクトしているので、多くを語らない物語を意識している点もあります。
そんなダークファンタジーですが、これからも愛読いただけましたら幸いです。ホワイト・アウトをよろしくお願い致します。