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第三章
第21話 眠る勇者
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「無名!無名!?ごめん!強く抱きつきすぎたかも!」
ミルコが焦って無名を抱き起こしたがピクリとも動かない。
明らかにミルコが抱きついたから、ではない。
急にミルコの顔面が白くなり狼狽える。
「ど、ど、どうしよう!無名!無名!」
「おい!大丈夫か!」
オロオロしているミルコに向かって聞き覚えのある声が飛んでくる。
声の主はガンツだ。
ガンツは半泣きのミルコに近寄るとしゃがんで無名の首元に手を当てる。
「……死んではないな。救急隊急げ!」
ガンツが手を挙げると待機していた支援部隊が担架を持って駆けつける。
その間もミルコは不安そうな目で無名を見つめていた。
「無名が邪龍の首を落としたのも驚きだが、お前が城から出てきたのも驚いたぜ」
「……だって……ウチも協力したかったもん」
「まあいい。説教はあとだ。まずは被害状況の確認に入る!」
ガンツが各部隊に指示を飛ばしている間、リヴァリアとカイトたちは亡骸と変わり果てた邪龍のそばに近づく。
「死んでる?」
「そのようです。魔力を一切感じません」
カイトとセニアは恐る恐る邪龍の頭をまじまじと眺める。
頭だけでも数メートルはある大きさだ。
首は鋭利なもので切断されたような、綺麗な切り口になっていた。
「これを無名がやったのかな。彼は一体どれだけ沢山の魔法が使えるのか」
「もしかするとオリジナル魔法かもしれません」
「最後の最後で魅せたねぇ。全員、安全を確かめたら素材の回収急いでくれ!」
カイトは仲間に声を掛け、邪龍の死体を解体させる。
龍はどの部位も高価な素材だ。
ただし、素材の所有者が誰かとなるとややこしい。
場所は獣王国の領地で戦闘に参加したのは冒険者たち。
そして討伐は王国の勇者というなかなかめんどくさいメンバーだ。
とりあえず回収だけしてあとの始末は獣王国に委ねたほうがいいだろうと、カイトは仲間たちに城へ運ぶよう伝えた。
結界を張り続けていたラドゥたち大亀族は披露困憊で静かにその場で項垂れる。
大規模結界の維持には相応の魔力を必要とする。
邪龍のブレスを受け止められるほどの結界を張っていたのだ。
ほぼ全ての大亀族が魔力欠乏の症状が出ていた。
解体されていく邪龍を黙って見つめるリヴァリア。
彼女の視線の先には心臓があった。
「おい、待て」
冒険者の一人が心臓辺りにナイフを突き立てようとして、リヴァリアが声を掛ける。
「はい?」
「龍の心臓には龍玉がある。他の龍のものであれば高価な素材なのだろうが邪龍に限っては危険だぞ」
「そうなんですか?」
「邪龍の瘴気を見ただろう。あれの発生源がそこだ」
龍玉の辺りを指差すと冒険者は飛び退いた。
「じゃあ回収はリヴァリア様にお願いしてもよろしいですか?」
「そうした方がいいだろう」
カイトがその様子を見ており、リヴァリアへと提案を持ちかける。
危険だと言われて自ら回収するほどの根性はない。
というより冒険者はみな距離を取った。
リヴァリアが邪龍の心臓に手を突っ込むと一気に引き抜く。
その手には禍々しいオーラを放つ龍玉が握られていた。
「それが龍玉……ですか。凄い魔力を帯びてますね……」
「うむ。人間がこれに触れれば正気ではいられんぞ。ほれ」
そばで恐る恐る見つめていたカイトに、リヴァリアが龍玉を近づけた。
「うわぁッ!」
触れると危険と言われてからそんな事をされれば誰だって飛び退く。
「リヴァリア様……冗談はおやめください」
「フッ。少しばかり肩に力が入っていると思ってな。邪龍を倒したのだぞ?もっと喜んだらどうだ?」
「しかし……彼が」
カイトは無名の容態が気になって仕方がなかった。
「安心せよ。妾が何とかしてやる。この龍玉を妾の力に変換する。その後魔力を生命力に変換し無名に流し込む。恐らくそれである程度改善はされるはずだ」
「そうでしたか……ありがとうございます」
「礼を言われる筋合いはない。邪龍を倒してくれた恩を返すだけだ」
リヴァリアも邪龍には手を焼かされていた。
ほぼ互角の力を有し、リヴァリアだけでは邪龍を倒すことは叶わなかった。
「邪龍をも倒す勇者か。おとぎ話みたいなものだねぇ」
「シェリーも最後の一撃見たかい?」
「もちろんさ。あれだけぶっとくて硬そうな首を一撃で落とすなんてどんな魔法を使ったのか……アタシのこれじゃ無理だね」
シェリーは背中に担いでいる二本の大剣を手でポンポンと叩く。
力に自信のある彼女でも龍の鱗を斬り裂き、首の骨を断つなどできようもない。
素材回収も一段落がつくと、カイトはセニアの下へと行く。
「セニア、無名の様子を見に行ってくれないか?」
「分かりました」
カイトはまだやることがあった。
傷ついた兵士の治療だ。
"静かなる裁き"のメンバーにも治療に特化した者もいる。
しかしそれだけでは人手が足らなかった。
カイトも初級ながら回復魔法は使える。
猫の手も借りたいだろうとカイトは地面に横たわっている兵士たちの下へと向かった。
無名の様子を見に来たセニアは治療院へと足を運んだ。
そこでは四肢欠損や重大な怪我を負った者ばかりが収容されている。
中でも一番奥まった部屋に無名が寝かされていた。
「無名さんの容体はどうでしょうか?」
「外傷はないが、魔力欠乏の症状が出ている。しかし……どれだけ魔力を流してもまるで大海原に塩をまいているかのようだ」
治療院の院長を務める獣人が唸る。
無名の魔力量は膨大だ。
それを埋めるには相当な量の魔力が必要となる。
魔法を得意としない獣人が何人いても無名の魔力を埋めるには足らないだろう。
「私も手伝います」
セニアも横になった無名へと手を翳し、魔力を流していく。
だがいくらやっても魔力が充填されているように思えなかった。
一分以上流しているにも関わらず、何の変化もない無名の様子にセニアも汗が流れる。
「冒険者がやっても無理なのか……一体どうすれば」
「ハァ……ハァ……私の魔力の殆どを流しましたが変化はありませんね」
セニアは肩で息をする。
魔力欠乏とまではいかずとも大量の魔力を消費しセニアは目に見えて疲弊していた。
「魔力の器があまりに大きすぎる。我々では彼を助けることができん」
「リヴァリア様なら……すぐに呼んできます」
膨大な量の魔力を持つ者はセニアもすぐに思い浮かんだ。
リヴァリア以外に無名と同等の魔力を有している者などいない。
セニアが治療院を出ると目の前にリヴァリアがいた。
「む?お前はセニアか。何をしている」
「いえ、リヴァリア様を呼ぼうと思ったのですが」
「ああ、無名だろう?奴に魔力を流しても変化がない。といったところか?」
リヴァリアはとっくに気づいていた。
無名が自身の魔力を上回る魔法を行使していたことに。
そして魔力が尽きると精神力や生命力まで変換し補っていたことも知っていた。
「人間や獣人では無名の魔力を補充することは難しいぞ」
「やはり……私も魔力を流したのですが吸われるように消えていきました」
「それは当然だ。無名は妾すらをも上回る魔力を使ったのだ。生命力も相応に消耗している」
リヴァリアは歩きながら無名の今の状況を説明していく。
「おおよそ無名が失った寿命は十年から十五年。あれだけ魔法を連発していればそれくらいは失っているだろう」
「それほどですか……」
「やつが放った百一の魔法も全て上級魔法だぞ。妾もあれほど派手にやる人間を久しぶりに見た」
「その口ぶり……過去にも無名さんのような方がおられたのですか?」
「初代勇者。奴は化け物だった。それこそ無名が霞むほどにな。は千の上級魔法を同時に放ってみせた」
あまりに桁違いの力にセニアは息を呑む。
「妾も何度か挑んだ。しかし一度たりとも勝てなかったやつだ。化け物だろう?」
「リヴァリア様が一度も勝てない相手……考えられませんね」
「クククッそうだろう。確かなんと呼ばれていたか……ああ、思い出したぞ。セニアも知っておるだろう?初代勇者の肩書きを」
セニアも当然ながら伝承を知っている。
初代勇者の圧倒的なまでの力は知らないが、肩書きは有名だった。
「無限の勇者。奴は今頃何をしておるのか。フッ、懐かしい名前だ」
「え?初代勇者はもう何百年も前なのでは……」
「奴の肩書きをよく考えろ。無限の勇者だぞ?まさか老衰で亡くなった、とでも思っていたか?クククッ奴は生きておる。数多あるどこかの世界で、な」
セニアは開いた口が塞がらなかった。
ミルコが焦って無名を抱き起こしたがピクリとも動かない。
明らかにミルコが抱きついたから、ではない。
急にミルコの顔面が白くなり狼狽える。
「ど、ど、どうしよう!無名!無名!」
「おい!大丈夫か!」
オロオロしているミルコに向かって聞き覚えのある声が飛んでくる。
声の主はガンツだ。
ガンツは半泣きのミルコに近寄るとしゃがんで無名の首元に手を当てる。
「……死んではないな。救急隊急げ!」
ガンツが手を挙げると待機していた支援部隊が担架を持って駆けつける。
その間もミルコは不安そうな目で無名を見つめていた。
「無名が邪龍の首を落としたのも驚きだが、お前が城から出てきたのも驚いたぜ」
「……だって……ウチも協力したかったもん」
「まあいい。説教はあとだ。まずは被害状況の確認に入る!」
ガンツが各部隊に指示を飛ばしている間、リヴァリアとカイトたちは亡骸と変わり果てた邪龍のそばに近づく。
「死んでる?」
「そのようです。魔力を一切感じません」
カイトとセニアは恐る恐る邪龍の頭をまじまじと眺める。
頭だけでも数メートルはある大きさだ。
首は鋭利なもので切断されたような、綺麗な切り口になっていた。
「これを無名がやったのかな。彼は一体どれだけ沢山の魔法が使えるのか」
「もしかするとオリジナル魔法かもしれません」
「最後の最後で魅せたねぇ。全員、安全を確かめたら素材の回収急いでくれ!」
カイトは仲間に声を掛け、邪龍の死体を解体させる。
龍はどの部位も高価な素材だ。
ただし、素材の所有者が誰かとなるとややこしい。
場所は獣王国の領地で戦闘に参加したのは冒険者たち。
そして討伐は王国の勇者というなかなかめんどくさいメンバーだ。
とりあえず回収だけしてあとの始末は獣王国に委ねたほうがいいだろうと、カイトは仲間たちに城へ運ぶよう伝えた。
結界を張り続けていたラドゥたち大亀族は披露困憊で静かにその場で項垂れる。
大規模結界の維持には相応の魔力を必要とする。
邪龍のブレスを受け止められるほどの結界を張っていたのだ。
ほぼ全ての大亀族が魔力欠乏の症状が出ていた。
解体されていく邪龍を黙って見つめるリヴァリア。
彼女の視線の先には心臓があった。
「おい、待て」
冒険者の一人が心臓辺りにナイフを突き立てようとして、リヴァリアが声を掛ける。
「はい?」
「龍の心臓には龍玉がある。他の龍のものであれば高価な素材なのだろうが邪龍に限っては危険だぞ」
「そうなんですか?」
「邪龍の瘴気を見ただろう。あれの発生源がそこだ」
龍玉の辺りを指差すと冒険者は飛び退いた。
「じゃあ回収はリヴァリア様にお願いしてもよろしいですか?」
「そうした方がいいだろう」
カイトがその様子を見ており、リヴァリアへと提案を持ちかける。
危険だと言われて自ら回収するほどの根性はない。
というより冒険者はみな距離を取った。
リヴァリアが邪龍の心臓に手を突っ込むと一気に引き抜く。
その手には禍々しいオーラを放つ龍玉が握られていた。
「それが龍玉……ですか。凄い魔力を帯びてますね……」
「うむ。人間がこれに触れれば正気ではいられんぞ。ほれ」
そばで恐る恐る見つめていたカイトに、リヴァリアが龍玉を近づけた。
「うわぁッ!」
触れると危険と言われてからそんな事をされれば誰だって飛び退く。
「リヴァリア様……冗談はおやめください」
「フッ。少しばかり肩に力が入っていると思ってな。邪龍を倒したのだぞ?もっと喜んだらどうだ?」
「しかし……彼が」
カイトは無名の容態が気になって仕方がなかった。
「安心せよ。妾が何とかしてやる。この龍玉を妾の力に変換する。その後魔力を生命力に変換し無名に流し込む。恐らくそれである程度改善はされるはずだ」
「そうでしたか……ありがとうございます」
「礼を言われる筋合いはない。邪龍を倒してくれた恩を返すだけだ」
リヴァリアも邪龍には手を焼かされていた。
ほぼ互角の力を有し、リヴァリアだけでは邪龍を倒すことは叶わなかった。
「邪龍をも倒す勇者か。おとぎ話みたいなものだねぇ」
「シェリーも最後の一撃見たかい?」
「もちろんさ。あれだけぶっとくて硬そうな首を一撃で落とすなんてどんな魔法を使ったのか……アタシのこれじゃ無理だね」
シェリーは背中に担いでいる二本の大剣を手でポンポンと叩く。
力に自信のある彼女でも龍の鱗を斬り裂き、首の骨を断つなどできようもない。
素材回収も一段落がつくと、カイトはセニアの下へと行く。
「セニア、無名の様子を見に行ってくれないか?」
「分かりました」
カイトはまだやることがあった。
傷ついた兵士の治療だ。
"静かなる裁き"のメンバーにも治療に特化した者もいる。
しかしそれだけでは人手が足らなかった。
カイトも初級ながら回復魔法は使える。
猫の手も借りたいだろうとカイトは地面に横たわっている兵士たちの下へと向かった。
無名の様子を見に来たセニアは治療院へと足を運んだ。
そこでは四肢欠損や重大な怪我を負った者ばかりが収容されている。
中でも一番奥まった部屋に無名が寝かされていた。
「無名さんの容体はどうでしょうか?」
「外傷はないが、魔力欠乏の症状が出ている。しかし……どれだけ魔力を流してもまるで大海原に塩をまいているかのようだ」
治療院の院長を務める獣人が唸る。
無名の魔力量は膨大だ。
それを埋めるには相当な量の魔力が必要となる。
魔法を得意としない獣人が何人いても無名の魔力を埋めるには足らないだろう。
「私も手伝います」
セニアも横になった無名へと手を翳し、魔力を流していく。
だがいくらやっても魔力が充填されているように思えなかった。
一分以上流しているにも関わらず、何の変化もない無名の様子にセニアも汗が流れる。
「冒険者がやっても無理なのか……一体どうすれば」
「ハァ……ハァ……私の魔力の殆どを流しましたが変化はありませんね」
セニアは肩で息をする。
魔力欠乏とまではいかずとも大量の魔力を消費しセニアは目に見えて疲弊していた。
「魔力の器があまりに大きすぎる。我々では彼を助けることができん」
「リヴァリア様なら……すぐに呼んできます」
膨大な量の魔力を持つ者はセニアもすぐに思い浮かんだ。
リヴァリア以外に無名と同等の魔力を有している者などいない。
セニアが治療院を出ると目の前にリヴァリアがいた。
「む?お前はセニアか。何をしている」
「いえ、リヴァリア様を呼ぼうと思ったのですが」
「ああ、無名だろう?奴に魔力を流しても変化がない。といったところか?」
リヴァリアはとっくに気づいていた。
無名が自身の魔力を上回る魔法を行使していたことに。
そして魔力が尽きると精神力や生命力まで変換し補っていたことも知っていた。
「人間や獣人では無名の魔力を補充することは難しいぞ」
「やはり……私も魔力を流したのですが吸われるように消えていきました」
「それは当然だ。無名は妾すらをも上回る魔力を使ったのだ。生命力も相応に消耗している」
リヴァリアは歩きながら無名の今の状況を説明していく。
「おおよそ無名が失った寿命は十年から十五年。あれだけ魔法を連発していればそれくらいは失っているだろう」
「それほどですか……」
「やつが放った百一の魔法も全て上級魔法だぞ。妾もあれほど派手にやる人間を久しぶりに見た」
「その口ぶり……過去にも無名さんのような方がおられたのですか?」
「初代勇者。奴は化け物だった。それこそ無名が霞むほどにな。は千の上級魔法を同時に放ってみせた」
あまりに桁違いの力にセニアは息を呑む。
「妾も何度か挑んだ。しかし一度たりとも勝てなかったやつだ。化け物だろう?」
「リヴァリア様が一度も勝てない相手……考えられませんね」
「クククッそうだろう。確かなんと呼ばれていたか……ああ、思い出したぞ。セニアも知っておるだろう?初代勇者の肩書きを」
セニアも当然ながら伝承を知っている。
初代勇者の圧倒的なまでの力は知らないが、肩書きは有名だった。
「無限の勇者。奴は今頃何をしておるのか。フッ、懐かしい名前だ」
「え?初代勇者はもう何百年も前なのでは……」
「奴の肩書きをよく考えろ。無限の勇者だぞ?まさか老衰で亡くなった、とでも思っていたか?クククッ奴は生きておる。数多あるどこかの世界で、な」
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