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第二章
第4話 錬金術師と勇者
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カイルの素性を知った無名はようやく納得がいった。
卓越した戦闘技術はちょっとやそっとで身に付くものではない。
カイルの動きや判断力は無名より素晴らしく世界でただ一人のレベル7と言われても信じられる実力があった。
「レベル7の貴方がなぜここに居るのかは置いておくとしてもどうやって百年以上も生きているのでしょうか」
無名が一番気になっていたのはそこだ。
エルフのような長命種であれば話は別だがカイルは正真正銘の人間なのだ。
どう見ても四十代にしか見えず、百歳以上とは考えにくい。
「ん?それは私が錬金術師だからね」
説明になっていない答えに無名も困惑した表情を浮かべる。
錬金術師だから長生きするというのも初耳情報である。
「錬金術には寿命を伸ばすものが存在するのですか……」
「そうだね。だって土から金を生み出せるんだから」
確かに言われてみれば物理法則などないようなものだ。
カイルの言葉に妙に納得してしまい無名は何も言い返せなかった。
「とにかくこれで無名君は私が壁になったということだよ。私に膝を突かせない限りここから帰れないと思ったらいいんじゃないかな?」
「……勝ち筋が一切見えませんが」
どれだけ技術を磨いてもカイルに膝を突かせるなどいつになるか分かったものではない。
それこそ何年単位の研鑽が必要となるだろう。
無名としてはそんなにも時間をかけていられなかった。
元々魔国に対抗する為召喚されたのだから、自分の仕事くらい全うしなければならない。
何年もエルフの森に籠もっていては王国に危機が迫った事すら知らずに全てが終わる。
そうなれば勇者召喚の力を持つラクティスは死に、元の世界へ帰る事も難しくなる。
普通にやっていてもカイルには勝てないだろう。
血反吐をはく思いで腕を磨かなければと無名は強く決意する。
実際王都までの帰り道も分からなければ距離も遠すぎる。
カイルに手を貸してもらわねば一人での帰還など不可能だった。
「では毎日この時間、ここでご指導頂けますか?」
「んー私が指導してもいいんだけどね、一つ条件がある」
「条件……ですか?」
やはり世界最高峰のレベル7ともなれば、タダで指導を賜る事はできないのかと無名は残念そうな顔を見せた。
「敵の数は多数で自分より格上、無名君が戦えば死ぬ可能性が高いが王国は救われる。しかし逃げれば王国が滅ぶ。そんな状況に陥った時君は何を選択する?自分の命か他者の命か。それとも……」
「他者の命です。自身の命で王国が救われる可能性が少しでもあるのならこの命、使ってみせます」
命の重みを知る為の試験だと察した無名は即答した。
自身の命を優先すれば他者の命を軽くみていると判断されてしまうと考えた結果の答えだったが、カイルは首を横に振った。
「なるほどなるほど。残念ながら私は君に指導してあげられないね。私が望む結果を持ってきたら指導してあげよう」
「なぜでしょうか?僕の選択は他者の命です。自分の命より他者を優先するのが間違っているのですか?」
「いいや、違うね。無名君のそれは究極の自己犠牲でしか過ぎないんだよ。もっと視野を広げてごらん?また明日同じ時間にここへ来るから、その時にまた同じ質問をしようか。もしもそれで間違えたら……私は君の助けにはなれないかな」
絶対に正解だと思っていた答えだったが、やり直しを要求され無名の顔には不機嫌そうな影が差す。
「何が間違っていたのか分からないのですが……」
「それを見つける事こそ、このエルフの森に連れてこられた理由だと思うよ」
カイルは去っていき湖のほとりで一人残された無名は無言で水面を見つめ考える。
他者を優先すれば究極の自己犠牲と言われ、自身を優先すれば誰が聞いても人の心がないのかと憤るだろう。
正解が分からずモヤモヤした気持ちのまま夜は更けていった。
結局一日中湖のほとりで考えていた無名はそのまま朝を迎えた。
考えは纏まらずモヤモヤした気持ちが晴れることはない。
ずっと考えを巡らせていたかったが無名も人の子であり、お腹が減ってきた。
仕方ないと立ち上がり森の中で生息する野生動物を狩ることにした。
狩りなどした事はないが、魔法があればそれも容易い事だ。
思い立ったらすぐ行動、と無名は森の中へと足を踏み入れた。
森の中に入り数分彷徨っているとウサギのような見た目の動物が視界に飛び込んでくる。
無名は片手をウサギらしき動物に向け照準を合わせた。
「雷光一閃」
一直線に放たれた雷は動物の胴を綺麗に貫き、そのまま絶命する。
無名がゆっくり近づくとウサギのように見えた動物は少し耳が長いのと爪が鋭い事以外はまったく同じ見た目をしていた。
食材を手に入れると今度は炎の魔法で火を通す。
無名に料理の知識はないが、焼く程度の事はできる。
ただ焼いたウサギ肉の完成だが、塩も醤油もなければ味気のないボサボサとした肉でしか無い。
無表情で頬張り食すと腹は満たされ、湖の水で喉を潤す。
そしてまた湖のほとりで考えにふける事数時間。
いつの間にか辺りは真っ暗で月明かりに照らされた水面がキラキラと反射して光っていた。
(ダメだ……全然分からない。カイルさんのもとめる答えを導き出すのは難しすぎる)
考えは煮詰まってしまい気づけばカイルとの約束の時間となってしまった。
「やぁ、昨日ぶりだねぇ」
カイルがニコニコ微笑みながら無名へと声を掛ける。
無名も会釈を一つして立ち上がった。
「さあ、昨日の答えを聞かせてもらおうかな?」
カイルは期待の満ちた目で無名を見つめるが、当人は若干視線を逸らした。
その態度で何となく察したのかカイルは話を続ける。
「うーん、もしかして答えは分からなかったのかな?」
「……はい。一晩考え続けましたが分かりませんでした」
「そうかぁ……なるほどなるほど。じゃあ最後にチャンスを上げよう。誰かに相談はしたかな?」
「相談……ですか?いえ、一人で考えていました」
誰かに相談するなど考えた事もなかった無名はさも当然といった表情で答えた。
「よし、じゃあこれはヒントだ。誰かに聞いてみるといいよ」
「誰かにですか……」
無名はエルフの集落で話した事がある者など二人しかいない。
マリアといきなり攻撃してきた長老だけだ。
良く考えればマリアにもいきなり攻撃されたなと思い出し苦い表情を浮かべた。
「そう、集落で誰かに聞くんだよ。また明日ここに来るからその時に答えを教えてくれたらいいさ」
「分かりました、チャンスを頂きありがとうございます」
カイルはもう一度だけとチャンスをくれた。
この機会を逃すわけにいかないと無名は彼と別れた後集落へと戻った。
既に日は落ち集落内も静かなもので、与えられた自分の家へ戻り明日に向けて作戦を練ることにした。
作戦も何も、ただ誰かしらに相談すればいいだけなのだが、無名は元の世界にいた時から誰かに頼った事がない。
それも全て両親の教えによるものだった。
無名は子供の頃から誰よりも優れていなければ叱責され、誰かに頼らず己の力のみで切り抜けてこそ本物だというわけのわからない理論で組み伏せられ、親の言葉に逆らう事はできなかった。
彼にとって誰かに頼るという事実が受け入れられず、相談するという選択肢が頭の中に浮かばないのだ。
本当なら誰かに指南を受けるのも耐え難い苦痛なのだが、この世界は元の世界と違い魔法という概念や常識があまりに差がありすぎた。
その為、独学は不可能だと判断し苦渋の決断をしたのがフランの指南を受けた事である。
悩みに悩んだ末、睡魔に襲われそのまま瞼は閉じられていった。
次の日、当然ながらカイルの課題をクリアする事はできず指南を受けるという無名の願いは叶えられる事はなかった。
無名が去った後カイルは小さく誰にも聞こえない声量で呟く。
「これは荒療治が必要かもしれないね……」
卓越した戦闘技術はちょっとやそっとで身に付くものではない。
カイルの動きや判断力は無名より素晴らしく世界でただ一人のレベル7と言われても信じられる実力があった。
「レベル7の貴方がなぜここに居るのかは置いておくとしてもどうやって百年以上も生きているのでしょうか」
無名が一番気になっていたのはそこだ。
エルフのような長命種であれば話は別だがカイルは正真正銘の人間なのだ。
どう見ても四十代にしか見えず、百歳以上とは考えにくい。
「ん?それは私が錬金術師だからね」
説明になっていない答えに無名も困惑した表情を浮かべる。
錬金術師だから長生きするというのも初耳情報である。
「錬金術には寿命を伸ばすものが存在するのですか……」
「そうだね。だって土から金を生み出せるんだから」
確かに言われてみれば物理法則などないようなものだ。
カイルの言葉に妙に納得してしまい無名は何も言い返せなかった。
「とにかくこれで無名君は私が壁になったということだよ。私に膝を突かせない限りここから帰れないと思ったらいいんじゃないかな?」
「……勝ち筋が一切見えませんが」
どれだけ技術を磨いてもカイルに膝を突かせるなどいつになるか分かったものではない。
それこそ何年単位の研鑽が必要となるだろう。
無名としてはそんなにも時間をかけていられなかった。
元々魔国に対抗する為召喚されたのだから、自分の仕事くらい全うしなければならない。
何年もエルフの森に籠もっていては王国に危機が迫った事すら知らずに全てが終わる。
そうなれば勇者召喚の力を持つラクティスは死に、元の世界へ帰る事も難しくなる。
普通にやっていてもカイルには勝てないだろう。
血反吐をはく思いで腕を磨かなければと無名は強く決意する。
実際王都までの帰り道も分からなければ距離も遠すぎる。
カイルに手を貸してもらわねば一人での帰還など不可能だった。
「では毎日この時間、ここでご指導頂けますか?」
「んー私が指導してもいいんだけどね、一つ条件がある」
「条件……ですか?」
やはり世界最高峰のレベル7ともなれば、タダで指導を賜る事はできないのかと無名は残念そうな顔を見せた。
「敵の数は多数で自分より格上、無名君が戦えば死ぬ可能性が高いが王国は救われる。しかし逃げれば王国が滅ぶ。そんな状況に陥った時君は何を選択する?自分の命か他者の命か。それとも……」
「他者の命です。自身の命で王国が救われる可能性が少しでもあるのならこの命、使ってみせます」
命の重みを知る為の試験だと察した無名は即答した。
自身の命を優先すれば他者の命を軽くみていると判断されてしまうと考えた結果の答えだったが、カイルは首を横に振った。
「なるほどなるほど。残念ながら私は君に指導してあげられないね。私が望む結果を持ってきたら指導してあげよう」
「なぜでしょうか?僕の選択は他者の命です。自分の命より他者を優先するのが間違っているのですか?」
「いいや、違うね。無名君のそれは究極の自己犠牲でしか過ぎないんだよ。もっと視野を広げてごらん?また明日同じ時間にここへ来るから、その時にまた同じ質問をしようか。もしもそれで間違えたら……私は君の助けにはなれないかな」
絶対に正解だと思っていた答えだったが、やり直しを要求され無名の顔には不機嫌そうな影が差す。
「何が間違っていたのか分からないのですが……」
「それを見つける事こそ、このエルフの森に連れてこられた理由だと思うよ」
カイルは去っていき湖のほとりで一人残された無名は無言で水面を見つめ考える。
他者を優先すれば究極の自己犠牲と言われ、自身を優先すれば誰が聞いても人の心がないのかと憤るだろう。
正解が分からずモヤモヤした気持ちのまま夜は更けていった。
結局一日中湖のほとりで考えていた無名はそのまま朝を迎えた。
考えは纏まらずモヤモヤした気持ちが晴れることはない。
ずっと考えを巡らせていたかったが無名も人の子であり、お腹が減ってきた。
仕方ないと立ち上がり森の中で生息する野生動物を狩ることにした。
狩りなどした事はないが、魔法があればそれも容易い事だ。
思い立ったらすぐ行動、と無名は森の中へと足を踏み入れた。
森の中に入り数分彷徨っているとウサギのような見た目の動物が視界に飛び込んでくる。
無名は片手をウサギらしき動物に向け照準を合わせた。
「雷光一閃」
一直線に放たれた雷は動物の胴を綺麗に貫き、そのまま絶命する。
無名がゆっくり近づくとウサギのように見えた動物は少し耳が長いのと爪が鋭い事以外はまったく同じ見た目をしていた。
食材を手に入れると今度は炎の魔法で火を通す。
無名に料理の知識はないが、焼く程度の事はできる。
ただ焼いたウサギ肉の完成だが、塩も醤油もなければ味気のないボサボサとした肉でしか無い。
無表情で頬張り食すと腹は満たされ、湖の水で喉を潤す。
そしてまた湖のほとりで考えにふける事数時間。
いつの間にか辺りは真っ暗で月明かりに照らされた水面がキラキラと反射して光っていた。
(ダメだ……全然分からない。カイルさんのもとめる答えを導き出すのは難しすぎる)
考えは煮詰まってしまい気づけばカイルとの約束の時間となってしまった。
「やぁ、昨日ぶりだねぇ」
カイルがニコニコ微笑みながら無名へと声を掛ける。
無名も会釈を一つして立ち上がった。
「さあ、昨日の答えを聞かせてもらおうかな?」
カイルは期待の満ちた目で無名を見つめるが、当人は若干視線を逸らした。
その態度で何となく察したのかカイルは話を続ける。
「うーん、もしかして答えは分からなかったのかな?」
「……はい。一晩考え続けましたが分かりませんでした」
「そうかぁ……なるほどなるほど。じゃあ最後にチャンスを上げよう。誰かに相談はしたかな?」
「相談……ですか?いえ、一人で考えていました」
誰かに相談するなど考えた事もなかった無名はさも当然といった表情で答えた。
「よし、じゃあこれはヒントだ。誰かに聞いてみるといいよ」
「誰かにですか……」
無名はエルフの集落で話した事がある者など二人しかいない。
マリアといきなり攻撃してきた長老だけだ。
良く考えればマリアにもいきなり攻撃されたなと思い出し苦い表情を浮かべた。
「そう、集落で誰かに聞くんだよ。また明日ここに来るからその時に答えを教えてくれたらいいさ」
「分かりました、チャンスを頂きありがとうございます」
カイルはもう一度だけとチャンスをくれた。
この機会を逃すわけにいかないと無名は彼と別れた後集落へと戻った。
既に日は落ち集落内も静かなもので、与えられた自分の家へ戻り明日に向けて作戦を練ることにした。
作戦も何も、ただ誰かしらに相談すればいいだけなのだが、無名は元の世界にいた時から誰かに頼った事がない。
それも全て両親の教えによるものだった。
無名は子供の頃から誰よりも優れていなければ叱責され、誰かに頼らず己の力のみで切り抜けてこそ本物だというわけのわからない理論で組み伏せられ、親の言葉に逆らう事はできなかった。
彼にとって誰かに頼るという事実が受け入れられず、相談するという選択肢が頭の中に浮かばないのだ。
本当なら誰かに指南を受けるのも耐え難い苦痛なのだが、この世界は元の世界と違い魔法という概念や常識があまりに差がありすぎた。
その為、独学は不可能だと判断し苦渋の決断をしたのがフランの指南を受けた事である。
悩みに悩んだ末、睡魔に襲われそのまま瞼は閉じられていった。
次の日、当然ながらカイルの課題をクリアする事はできず指南を受けるという無名の願いは叶えられる事はなかった。
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