彼に勇者は似合わない!

プリン伯爵

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第二章

第23話 新たな集落

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無名とレインが集落へと到着したのはマリア達が到着した数時間後だった。
二人は集落の惨状を見て何が起きたのか分からず動揺していたが、マリアから説明を聞き悲痛な面持ちとなった。

「そうか……同胞がそんなにも死んだのか」
「本当にカイルさんがそんな事を……?」
レインは同胞の死を悲しみ、無名は信じがたいカイルの話を聞き言葉を無くしていた。

もしもマリアの言葉が本当であればカイルは正真正銘の化け物だ。
それほどまでに人体錬成への執着を見せるカイルの心の中を覗きたいとまで思えてきた。
無名は一度カイルと会って話がしたいとまで思うようになってきていたが、そもそもカイルの所在が分からなくなっており打つ手がなかった。


「無名、この集落にはいつまでいる?」
「え?……正直何も考えていませんね。王都に戻らないとと思いながらも手段がありませんし……」
「転移魔法さえあれば、というわけか」
無名は頷く。
マリアからしてみれば帰る手段が見つからない間は集落の安全が確保されるということ。
彼には申し訳ないが当分は居てもらわねばならなかった。

何より数を減らしたエルフの集落は、戦力が大幅に低下している。
マリア、レイン、エリーゼと強者は幾人かいるがそれでもキメラのような化け物が複数体襲ってこればひとたまりもないのだ。

「私の方でも転移魔法については調べておこう。それまではこの集落で好きに過ごすといい」
「はい、ありがとうございます」
今ではエルフ達に受け入れられている無名は集落で居心地の悪さを感じる事がない。
無名も仲間を失った彼らに寄り添ってあげたほうがいいだろうと考えていた。

「子供達は今どこに?」
「ミンフの所だ。キメラがよほど恐ろしかったのだろう。未だ俯いて口も開かない子もいるそうだ」
大人ですら恐ろしいと感じたキメラを遠目とは言え目にしてしまった子供が、脳裏に焼き付いて離れないのも無理はない。

「お前に懐いていたのだろう?行ってやれ。少しは子供達も安心する」
「分かりました」
マリアに言われた通り無名は、ミンフの治療所へと足を向ける。
木のドアをゆっくり開けると数人のエルフがベッドへ横になっているのが視界に入ってくる。
足や腕、顔に傷を負った彼らはここで治療を受けていた。

「あの、すみません。子供達は今どこに?」
近くにいた治療を行っているエルフに話し掛けると、彼女は少し驚きを見せて奥の部屋を指差した。

「貴方が顔を見せれば少しは安心すると思います。よろしくお願いします」
無名に子供達が懐いているのはここにいるエルフの常識だった。
それに無名が勇者である事も既知。
強くそれでいて懐いている無名が顔を出せば子供達の気が晴れるだろうというのはエルフ達の総意だった。

無名が奥の部屋へと入室すると中にいた子供達は一斉に扉の方へと向く。
中でも無名が一番最初に言葉を交わした女の子、リンが駆け寄ってきて無名の腰ヘとダイブする。

「むめいー!怖かったよー!」
あまりの勢いで無名の身体は若干後ずさったが、平静を装い口を開く。

「もう大丈夫ですよ」
「ほんとに?」
「はい。何度も見たでしょう?僕の魔法を。もしまた化け物が現れても僕が倒しましょう」
リンにとって一番頼もしい台詞だった。
無名の魔法技術は他の大人達と比べても明らかに高位の水準である。
それは子供心でも分かるほどであり、無名が倒してあげるという言葉はとても信頼性の高い言葉だった。

「むめいはずっと守ってくれるの?」
「ずっと……」
いつまでもこの集落にいるつもりはない無名は返答に言葉が詰まる。
リンは純粋な気持ちで聞いたのだろうが、無名は反応に困ってしまった。
子供にとって無名のように種族の違う者はいつか何処かへと行ってしまう認識だった。
元より寿命が違いすぎるのだ。
リンはまだ無名よりも若いが三百年は生きられる。
対して無名はよくて後七十年と言ったところだ。
半分の年月も一緒にいられない、それは無名にも理解できていた。
だからか無名は言葉を選ぶ。

「リン、申し訳ないけど僕はずっと一緒にいられないんです」
「どうして……?」
「いつかは王都に戻らなければなりません。それに僕の使命は魔国と戦う事です」
「私も一緒に戦うよ?」
それは無茶だ。
そう言いかけて無名は口を噤む。
いずれはリンも魔法の使い手になるかもしれない。
しかしそれがいつなのか。
魔国は今にも攻めて来るかも知れない。
悠長に待っている時間はなかった。

「リンはもう少し力をつけなければなりませんよ」
「例えば?」
「マリアさんくらい、でしょうか」
「えー!マリアと同じくらいなんて無理だよぉ~」
リンはしょんぼりと肩を落とし、悲しそうな表情を浮かべる。
マリアの存在はリンからしても別格だった。

「マリアさんくらいの力がないと……キツイ言い方ですが足手まといになってしまいます。自分のせいで誰かが傷つくのは嫌でしょう?」
「……うん」
「では今リンにできる事はなんですか?人間もエルフもすぐには強くなれません」
無名はリンの主体性を見ることにした。
ただ懐いた人についていきたいだけの発言が出てくるのであれば、成長は見込めないだろう。
リンは少し黙り込むと満を持して口を開く。

「ここにいる人の傷を治す」
「回復魔法が使えるんですか?」
「うん。お母さんにそれだけは習っていたの」
「なるほど……ミンフさんの教育が行き届いていたんですか。ではリン、ここの治療所を手伝いましょう」
「分かった!」
リンが回復魔法を使えるのは驚いたが、今やらねばならない事は理解しているようであった。
それならと無名はここに滞在している間、リンにできる限りの魔法を教える事にした。



治療所を出ると、遠くに墓が建てられているのが見え無名はそこは足を向けた。

墓地にはいくつもの武器や身に着けていた物が地面に突き立てられていた。
その一つ一つがついさっきまで生きていたエルフだと想像すると、自分にもっと力があればと思わざるを得なかった。

「無名、手を合わせてくれているのか」
「ああ、レインですか。はい、僕がもっと早く合流出来ていたらと思うと」
「仕方のない事だ。我々に非はない。あるとすればあんな化け物をけしかけたと思われるカイルだけだ」
沢山の命が失われた。
カイルが本当に元凶なのだとしたら罪は相当重い。
それも数が少ないエルフの殺害。
繁殖力で人間に劣るエルフは数が少なく、各地に散らばっているエルフとここにいるエルフ全てを合わせても千人程しかいないと聞く。

貴重な種を減らしてまで自分の願いを叶えたいのだろうかとカイルの考えが分からなくなってきた無名は少しばかり人の心らしさを手にしていた。

前までの無名であれば、自分さえ良ければそれでいい、という考え方だったが身近な人物が次々死んでいくのを見て考えは変わってきていた。

「レイン、この集落の結界を張るのに僕も手伝ってもよろしいですか?」
「もちろんそれは構わないが、膨大な魔力を使う事になるぞ」
「問題ありません。その日は動けなくなるでしょうが次の日にはまた復活していますから」
「そうか……魔力欠乏を経験した事があるのだな?」
「ええ。師匠に師事していた時に」
魔力欠乏になれば頭痛吐き気倦怠感と一気に襲い掛かりとても辛いものだ。
無名は既に経験しており、辛さは知っている。

「あれはキツイのだがな……無名が言いというのならお願いしたい。エルフの数も減ったからな、少しでも手を借りたかった所だ」
「受けた恩は返さなければなりませんから。この集落に置いてもらった恩を」

エルフの集落に来て学んだ事は多い。
無名は少しでも返そうとレインと共に長老の元へと向かった。
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