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第二章
第29話 動き出す闇
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魔族の襲撃により荒れた集落をエルフ総出で直していく。
家屋も大半が崩れたり、地面には凹凸ができていたりと普通に暮らすには不便になってしまっていた。
魔族との戦いは余波が大きかったが、数人の死傷者だけで済んだのはエルフの能力が基本的に高かった事が要因だろう。
これが人間だけの集落であった場合、更に大きな被害が出ていたのは間違いない。
カイルを筆頭に無名やマリアが簡単に魔族を撃退していたが、彼らのポテンシャルが高いだけで魔族はその一体一体が脅威である。
「無名、カイルの魔法を間近で見ていただろう。どういう原理だあれは」
レインがアレと揶揄して言っているのは神級魔法を消してしまった魔法の事だ。
レインに聞かれた所で無名も理解の範疇を超えてしまう魔法であった為分かるはずもなかった。
「あれはカイルさんのオリジナルだそうです。錬金術の知見も深くないと習得は難しそうですね」
「錬金術か……謎が多いものだからな。魔法を消す魔法を使えるならば魔王にも善戦できそうに思うが」
「そうでもないそうですよ。魔王はカイルさんの力をもってしても簡単ではないと言っていました」
高位魔族に手こずるようでは魔王など遥か高みだろうと思ったレインは渋い表情を見せる。
「カイルの奴がまともなら魔国に対抗できる大きな戦力となるのだがな。あまりにも歪すぎて奴を使うには相応のリスクを負いそうだ」
過去、味方の軍に背後から攻撃を仕掛けた無名は黙り込む。
ただ無名と違ってカイルは自分の為にエルフを殺している。
今回手を貸してくれたのは気まぐれかそれとも本心からか分からない。
無名がレインと話し込んでいると心配そうな表情でこちらへ走り寄って来るリンが視界に入った。
何かあったのかと無名がしゃがむとリンが不安そうな目で見つめながら口を開いた。
「ムメイ、大丈夫だった?」
「もちろんですよ。これでも一応勇者ですから」
「でもムメイは人間だよ。私達みたいに長生きできないんだから命は粗末にしちゃだめだよ!」
ごもっとも意見だが、無名とて無闇に命を投げ出そうとは考えてはいない。
どう返そうか悩んでいるとレインが口を挟む。
「リン、無名は命を粗末にしてはいない。彼がいなければ我々も危なかったんだぞ」
「うーん……でも」
「もしそれでもムメイの身を案ずるなら、リン、お前がもっと力を身に付けろ。勇者を守れるくらいにな」
「!!そうする!」
なかなか無茶な事を言う、と無名はレインを見つめた。
勇者を守るというのは世界でもトップクラスの実力を身に着ける事が必須である。
ましてや勇者の中でも特に能力が高い無名を守るというのは無理難題であった。
まあ子供に言い聞かせるだけかと無名は何も口を出さなかった。
リンが覚悟を決めた表情でその場から去っていくとレインが無名にフッと笑いかけた。
「懐かれたものだなお前も」
「そのようですね」
魔法を教えて貰えたのがよほどうれしかったのか、リンは集落にいる誰よりも無名に懐いていた。
リン以外の子供も無名には割と懐いている。
壊れた家屋の修復中でも無名と目が合うと手を振るくらいには。
「それで、お前はどうする。この集落においては当分の脅威は去った。時間をかけてより強固な結界を張りなおせばまた魔族が襲って来ても防げるだろう」
「王都に帰る、と思いますがその手段はカイルさんが知っているようですので、ここが落ち着いたらカイルさんを探します」
無名は数日後にこの集落を出るつもりであった。
今の自分なら多少は命の大切さを理解している。
他の勇者とも上手くやれるのではないかと少し希望を見出していた。
ただそれにはカイルの協力が必須である。
彼が立ち去る前に聞いておけばよかったと後悔したが、エルフの森をくまなく探せば見つかるとも思っている。
というより一人になればカイルからアクションを取ってくるかもしれない。
恐らく勇者である自分を監視しているのではないかと考えていた。
「そうか……寂しくなるな」
「またすぐ会えると思いますよ。それにまだ数日はここに滞在しますから」
「まあそうだな。じゃあせっかくだから家屋の修復を手伝ってもらおうか」
――――――
魔王城では弱りきった魔族から報告を受けた者達の笑い声が響いていた。
「カッカッカ!馬鹿なことをしたものだな!」
「本当にどうしようもない奴だ」
「勇者に手を出して返り討ちになるなど笑い草ではないか!」
話題は当然クロセルでもちきりだった。
生き残った魔族が命からがら魔王城へ転がり込んで来た時は何事かと空気がヒリついたが、クロセルの末路を聞き皆笑い転げていた。
「ではクロセルは死んだのだな?」
「お、お、恐らく……」
「ふん。何としても戦功を立てたかったのだろうが……ドジを踏んだものだ」
魔王ベリアルも無様に散ったクロセルを馬鹿にする。
生き残りの魔族はそもそも魔王に謁見できるような立ち位置ではなく、高位魔族に固められている謁見の間で震えながら報告を上げていた。
「クロセルの座が空いたが……ふむ、ちょうどいい。フラウロス、お前の所の懐刀がいただろう?」
「ハルファスですかな?」
「そうだ。奴を公爵位に上げる」
「儂から懐刀を取り上げるつもりですかの?」
「お前はもう愚鈍を演じる必要はない」
ベリアルがフラウロスを真っ直ぐ見つめそう伝えると、気怠そうに立つフラウロスは姿勢を正し、片膝を突く。
その姿に周りにいた魔族は驚き目を見開いていた。
「それでは次のフェーズに移るのですね?」
「ああ。魔神復活に全力を注げ」
「ふむ……つまり、勇者をこれ以上野放しにするのは危険と判断したのですな?」
魔王ベリアルはクロセルを返り討ちにしたカイルもだが、勇者の成長速度に脅威を感じていた。
カイルは長きを生きる人間とはとても言い難い存在であり、元々魔国最大の脅威だった。
しかし、勇者はこの世界に召喚されて一年も経っていない。
それにも関わらず魔族を軽く屠る力をつけているとなれば、ウカウカしている時間はあまりなかった。
「それでは強硬派の監視を緩めてもよいので?」
「構わん。あちらはダンタリオンに一任する」
「カッカッカ!それは結構ですな!ですが申し訳ございません。ハルファスは人間組織の管理を任せております故、公爵位に上げるのは反対させて頂きたく」
「ああ、リンネの教会とかいう組織か。ならば……仕方ない。一時的にクロセル領内の維持をバエルに任せる」
バエルならば上手く運営してくれるだろうとベリアルからの信頼値は高い。
当人は黙って頷きベリアルからの指示を受け入れた。
ベリアルは集まっている高位魔族達を見渡し、玉座から立ち上がる。
「魔国は次のフェーズに移行する。強硬派が妙な動きを見せるならダンタリオンの勢力で叩き潰せ」
「ハッ、お任せください」
「バエルは魔国内の突発的な対処に努めつつクロセルの領地の運営を頼むぞ」
「お任せください魔王陛下」
「フラウロスは魔神復活に全リソースを割いても構わん」
「お任せあれ陛下」
「人間の国からはあまり積極的なアクションはないはずだ。もしあった場合はハルファスの管理している人間組織を動かしてでも止めろ」
「伝えておきましょう」
魔王は的確に指示を出していく。
集まっている魔族全てに指示を出した所で目の前で震える魔族に視線を向けた。
クロセルの配下であった彼は震えながら黙って沙汰を待つ。
「貴様はもういらん」
ベリアルがその魔族に対して片腕を横薙ぎに振るうと、魔族の首が物理的に飛んだ。
核さえ壊れなければ永遠の死は訪れない魔族にとって物理的な死は当分復活する事ができない長い眠りにつくことを意味していた。
「万が一……カイルが魔国に入ったのならば、余が相手をしてやる」
ベリアルは過去に殺しきれなかったカイルを思い浮かべ、拳を握りしめた。
家屋も大半が崩れたり、地面には凹凸ができていたりと普通に暮らすには不便になってしまっていた。
魔族との戦いは余波が大きかったが、数人の死傷者だけで済んだのはエルフの能力が基本的に高かった事が要因だろう。
これが人間だけの集落であった場合、更に大きな被害が出ていたのは間違いない。
カイルを筆頭に無名やマリアが簡単に魔族を撃退していたが、彼らのポテンシャルが高いだけで魔族はその一体一体が脅威である。
「無名、カイルの魔法を間近で見ていただろう。どういう原理だあれは」
レインがアレと揶揄して言っているのは神級魔法を消してしまった魔法の事だ。
レインに聞かれた所で無名も理解の範疇を超えてしまう魔法であった為分かるはずもなかった。
「あれはカイルさんのオリジナルだそうです。錬金術の知見も深くないと習得は難しそうですね」
「錬金術か……謎が多いものだからな。魔法を消す魔法を使えるならば魔王にも善戦できそうに思うが」
「そうでもないそうですよ。魔王はカイルさんの力をもってしても簡単ではないと言っていました」
高位魔族に手こずるようでは魔王など遥か高みだろうと思ったレインは渋い表情を見せる。
「カイルの奴がまともなら魔国に対抗できる大きな戦力となるのだがな。あまりにも歪すぎて奴を使うには相応のリスクを負いそうだ」
過去、味方の軍に背後から攻撃を仕掛けた無名は黙り込む。
ただ無名と違ってカイルは自分の為にエルフを殺している。
今回手を貸してくれたのは気まぐれかそれとも本心からか分からない。
無名がレインと話し込んでいると心配そうな表情でこちらへ走り寄って来るリンが視界に入った。
何かあったのかと無名がしゃがむとリンが不安そうな目で見つめながら口を開いた。
「ムメイ、大丈夫だった?」
「もちろんですよ。これでも一応勇者ですから」
「でもムメイは人間だよ。私達みたいに長生きできないんだから命は粗末にしちゃだめだよ!」
ごもっとも意見だが、無名とて無闇に命を投げ出そうとは考えてはいない。
どう返そうか悩んでいるとレインが口を挟む。
「リン、無名は命を粗末にしてはいない。彼がいなければ我々も危なかったんだぞ」
「うーん……でも」
「もしそれでもムメイの身を案ずるなら、リン、お前がもっと力を身に付けろ。勇者を守れるくらいにな」
「!!そうする!」
なかなか無茶な事を言う、と無名はレインを見つめた。
勇者を守るというのは世界でもトップクラスの実力を身に着ける事が必須である。
ましてや勇者の中でも特に能力が高い無名を守るというのは無理難題であった。
まあ子供に言い聞かせるだけかと無名は何も口を出さなかった。
リンが覚悟を決めた表情でその場から去っていくとレインが無名にフッと笑いかけた。
「懐かれたものだなお前も」
「そのようですね」
魔法を教えて貰えたのがよほどうれしかったのか、リンは集落にいる誰よりも無名に懐いていた。
リン以外の子供も無名には割と懐いている。
壊れた家屋の修復中でも無名と目が合うと手を振るくらいには。
「それで、お前はどうする。この集落においては当分の脅威は去った。時間をかけてより強固な結界を張りなおせばまた魔族が襲って来ても防げるだろう」
「王都に帰る、と思いますがその手段はカイルさんが知っているようですので、ここが落ち着いたらカイルさんを探します」
無名は数日後にこの集落を出るつもりであった。
今の自分なら多少は命の大切さを理解している。
他の勇者とも上手くやれるのではないかと少し希望を見出していた。
ただそれにはカイルの協力が必須である。
彼が立ち去る前に聞いておけばよかったと後悔したが、エルフの森をくまなく探せば見つかるとも思っている。
というより一人になればカイルからアクションを取ってくるかもしれない。
恐らく勇者である自分を監視しているのではないかと考えていた。
「そうか……寂しくなるな」
「またすぐ会えると思いますよ。それにまだ数日はここに滞在しますから」
「まあそうだな。じゃあせっかくだから家屋の修復を手伝ってもらおうか」
――――――
魔王城では弱りきった魔族から報告を受けた者達の笑い声が響いていた。
「カッカッカ!馬鹿なことをしたものだな!」
「本当にどうしようもない奴だ」
「勇者に手を出して返り討ちになるなど笑い草ではないか!」
話題は当然クロセルでもちきりだった。
生き残った魔族が命からがら魔王城へ転がり込んで来た時は何事かと空気がヒリついたが、クロセルの末路を聞き皆笑い転げていた。
「ではクロセルは死んだのだな?」
「お、お、恐らく……」
「ふん。何としても戦功を立てたかったのだろうが……ドジを踏んだものだ」
魔王ベリアルも無様に散ったクロセルを馬鹿にする。
生き残りの魔族はそもそも魔王に謁見できるような立ち位置ではなく、高位魔族に固められている謁見の間で震えながら報告を上げていた。
「クロセルの座が空いたが……ふむ、ちょうどいい。フラウロス、お前の所の懐刀がいただろう?」
「ハルファスですかな?」
「そうだ。奴を公爵位に上げる」
「儂から懐刀を取り上げるつもりですかの?」
「お前はもう愚鈍を演じる必要はない」
ベリアルがフラウロスを真っ直ぐ見つめそう伝えると、気怠そうに立つフラウロスは姿勢を正し、片膝を突く。
その姿に周りにいた魔族は驚き目を見開いていた。
「それでは次のフェーズに移るのですね?」
「ああ。魔神復活に全力を注げ」
「ふむ……つまり、勇者をこれ以上野放しにするのは危険と判断したのですな?」
魔王ベリアルはクロセルを返り討ちにしたカイルもだが、勇者の成長速度に脅威を感じていた。
カイルは長きを生きる人間とはとても言い難い存在であり、元々魔国最大の脅威だった。
しかし、勇者はこの世界に召喚されて一年も経っていない。
それにも関わらず魔族を軽く屠る力をつけているとなれば、ウカウカしている時間はあまりなかった。
「それでは強硬派の監視を緩めてもよいので?」
「構わん。あちらはダンタリオンに一任する」
「カッカッカ!それは結構ですな!ですが申し訳ございません。ハルファスは人間組織の管理を任せております故、公爵位に上げるのは反対させて頂きたく」
「ああ、リンネの教会とかいう組織か。ならば……仕方ない。一時的にクロセル領内の維持をバエルに任せる」
バエルならば上手く運営してくれるだろうとベリアルからの信頼値は高い。
当人は黙って頷きベリアルからの指示を受け入れた。
ベリアルは集まっている高位魔族達を見渡し、玉座から立ち上がる。
「魔国は次のフェーズに移行する。強硬派が妙な動きを見せるならダンタリオンの勢力で叩き潰せ」
「ハッ、お任せください」
「バエルは魔国内の突発的な対処に努めつつクロセルの領地の運営を頼むぞ」
「お任せください魔王陛下」
「フラウロスは魔神復活に全リソースを割いても構わん」
「お任せあれ陛下」
「人間の国からはあまり積極的なアクションはないはずだ。もしあった場合はハルファスの管理している人間組織を動かしてでも止めろ」
「伝えておきましょう」
魔王は的確に指示を出していく。
集まっている魔族全てに指示を出した所で目の前で震える魔族に視線を向けた。
クロセルの配下であった彼は震えながら黙って沙汰を待つ。
「貴様はもういらん」
ベリアルがその魔族に対して片腕を横薙ぎに振るうと、魔族の首が物理的に飛んだ。
核さえ壊れなければ永遠の死は訪れない魔族にとって物理的な死は当分復活する事ができない長い眠りにつくことを意味していた。
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