彼に勇者は似合わない!

プリン伯爵

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第二章

第37話 公爵級魔族

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「なんだ、騒々しい」
門番をしていた魔族を二人倒したところで、屋敷の中から悠々と一人の魔族が出てきた。
顔は爬虫類で身長は二メートルほど。
ただ、マントをつけていて服も質がよさそうな物を着ていた。

「お前がアガレスだな?」
ドレイクが殺気を向け言葉を投げ掛けると、魔族は鼻で笑う。

「フンッ!人間如きに呼び捨てされるとは……そうとも!我はアガレス!強硬派筆頭アガレス公爵だ!」
マントをひらつかせ、仁王立ちするその様は無名達に威圧感を与えた。
オーラだけでなく、実際に力を持つ者特有の雰囲気を纏っている。
こんな相手に勝てるのかと無名は不安になっていた。

あのクロセルよりも強いのではないか、そう思えるほど悠々とした佇まい。

「我が屋敷の前で騒ぐ無礼者を見に来てみれば……我が軍勢の前に恐れをなしたおいぼれとその他大勢とは。それに勇者を一人伴ってきたか」
「王国を取り返させて貰うぞ」
「取り返す?無駄なことよ。既に軍の半数が死滅したこの国はもう立ち上がれん。魔神の復活を待たずともやはり早々に人間共を駆逐できる事が証明できた。この国は我がもらうぞ」
アガレスの言う通り、ここで敵を討てたとして王国が以前のように繁栄できるかと言われれば難しいだろう。
国力は下がり、小国へと成り下がるのがオチだ。

「それでも儂にとっては故郷なのでな……貴様には死んでもらう!」
「私にとっても故郷よ!仲間の仇を討たせてもらう!」
ドレイクとレイラは既に臨戦態勢だ。
無名は魔法の準備を、ミルコは大剣に手を掛けて口角を上げる。

「たったの四人……それで我を討つ?クククッ笑わせるのも大概にせよ!やれ!」
アガレスが片手を上げるとどこに隠れていたのか複数の魔族が姿を現した。
中には爵位級の魔族もおり、四人は警戒を強めた。

「無名殿、周りは任せよ。正直一番荷が重いのはアレの相手だが」
「問題ありません。皆さんも危なくなれば引いてください」
四人で目を合わせると、各々動き出した。

「爵位級は儂がやる!剛撃裂波ギガブレイク!」
ドレイクは真っ先に爵位を持つ魔族に攻撃を放つ。
自分が狙われたと察したその魔族もドレイクへと目をつけた。

「私の仲間を殺した報いを受けろ!炎上する斬撃スラッシュブレイズ!」
レイラは他の魔族に向かって魔法を放つ。
爵位を持たない魔族であれば、レベル5の彼女でも相手ができる。

「ウチもやるー!大車輪ー!」
ミルコは空高く跳び上がると大剣を頭上に掲げ、勢いをつけながら回転し魔族へと向かって行った。


その場に残された無名はアガレスをじっくり観察する。
アガレスはただ突っ立っているだけなのに、勝てないと思わせるような魔力を感じられた。
初撃は火力重視の魔法でいくしかないと、魔力を掌に集めていく。


「万能の勇者……五人の中で最強と名高い貴様と相まみえる事ができるとはな。クロセルをも破ったその実力、とくと味あわせて貰おうではないか」
「クロセルは僕の手柄ではありませんよ。あれはカイルさんです」
「ほう?それでも奴の周りには爵位級の魔族が複数居たはず。少なくともそやつらを屠れるくらいには力を持ち合わせているのだろう?」
こんな会話を繰り広げている間もアガレスは微動だにしなかった。
余裕の表れなのか、それとも自分の実力を探っているのか。
無名はどちらなのか分からず、なかなか攻撃に踏み込めなかった。

「まだこんのか?来ないなら我から――」
「いえ、いきます。破滅の雷光ライトニングルイン!」
初動は得意とする雷魔法だ。
攻撃速度も威力も他属性を凌駕する。

最初の魔法でどれだけダメージを与えられるか。
それ次第で無名は次の攻撃手段を考えるつもりだった。

全てを滅する稲妻がアガレスに直撃すると、耳を劈く轟音が響き渡り、周囲で戦闘を繰り広げていた魔族やドレイク達は驚いて動きを止めていた。

「ほお?勇者というだけはある。しかし、これでは我の障壁を破れんぞ?」
「やはり一筋縄ではいきませんか……だったら!破滅の雷光ライトニングルイン業火の葬送ヘルファイアブラスト

今度は両手とも別の魔法を展開し、アガレスへと同時に撃ち込んだ。
どちらも上級魔法であり、威力は無名の魔力を注ぎすぎたせいで普通の威力を遥かに上回っていた。


「むぅ!?」
アガレスは流石に無防備で突っ立っているのは危険と判断し、片手で結界を展開する。

想定通り障壁は砕け散り咄嗟に張った結界で辛うじて防ぐことができていた。

「上級魔法の二重詠唱か。魔族でもあまりやらんがな……だが!相手にとって不足はない!簡単に死んでくれるなよ勇者!悪魔の波動デビルレーザー!」
極太の光線が無名へと飛来し、事前に展開していた結界を全て貫通する。

止めきれないと無名は横へと跳び回避するが、アガレスはその回避先にも片手を向けていた。

「遅いぞ!悪魔の波動デビルレーザー!」
当たればほぼ致死性の魔法。
絶対に当たるわけにいかないと無名は右に左にと回避行動を優先する。

「フハハハ!踊れ踊れ!悪魔の波動デビルレーザー!」
アガレスは何発も放ち無名はそれを紙一重で回避していく。
見ているだけでもヒヤヒヤする戦いだったが、無名はまだ余裕の表情を浮かべていた。

公爵級魔族との戦いは一つのミスが死に繋がる。
無名は魔力量や体力、アガレスの行動パターンなどを計算しながら回避していた。

「どうした!攻撃せんと我は倒せんぞ!」
ひっきりなしに襲い掛かる死の光線は無名の身体を掠めていく。

数十もの魔法を放ち、アガレスは高笑いする。

「ガハハハ!逃げてばかりで何もしてこんではないか!最初の攻撃が精一杯か?」
「いいえ、そんな事はありませんよ」
無名は逃げ回りながらも魔法を展開していた。

フランから学んだ設置型魔法。

各所に詠唱済みの魔法陣を置いておき、好きなタイミングで発動する。
そうすれば擬似的にであろうと数百数千の同時発動が可能となるからだ。

「何を言って――」
アガレスの言葉に被せるように無名は指を鳴らす。
すると無名が逃げ回っていた地点の各所で魔法陣が浮かび上がり、あらゆる方向からアガレスへと向かって魔法が放たれた。

全て中級上級魔法。
流石にアガレスといえども無防備に受けられる魔法の数ではなく、咄嗟に自分を覆うほどの結界を展開した。

「なんだこれは!?」
「設置型魔法。僕の得意とする戦法です。これならば最小限の時間で最大限効果を発揮する……師匠の受け売りですが」
様々な魔法が雨あられと降り注げばアガレスも驚きを隠せなかった。
それも一つ一つの魔法がかなりの威力を持っており、結界がなければ危なかったくらいに。

「貴様……やるではないか!それでこそ勇者よ!だが如何せん威力が物足りんぞ!」
「これでも足りませんか……」
アガレスは結界に守られていたせいで無傷だった。
奥の手を使おうと無名が魔力を練り始めると、それに気付いたのかアガレスは口角を上げる。

「ほう?力比べといこうではないか」
アガレスもまた、魔力を練り始めるとお互いに無言で見つめ合う。

やがて、二人の準備が整うと同時に両手を前に突き出した。

海神より放たれし霹靂千牙ライトニングポセイドン!」
飽くなき死への探究心デストロイシーク!」
お互いの神級魔法が放たれると、暴風を発生させ周囲にいた魔族やドレイク達は即座に距離を取った。

神級魔法のぶつかり合いともなれば、周囲への被害は相当なものになる。

力は拮抗しており、雷と闇魔法は激しい音を立てながら中央でせめぎ合う。

「ぬぅ!なかなか……やるではないか!」
アガレスが流し込む魔力を増やすと無名も同じように更なる魔力を流し込む。

強烈な光がその場を包みアガレスと無名の姿が見えなくなると、ドレイクは目の前の敵を無視して無名の元へと駆け寄った。

「無名殿!」
勇者が倒れればこの戦い、敗北であるのだ。
支援するべきだと判断したドレイクは、駆け出した足を止める。


ドレイクの視界には、剣をアガレスの心臓へと突き立てる無名の姿があった。
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