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混沌
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「はあ…はあ…」
リュートは、発情の熱に苛まれていた。
夜中に隙を見てハミルが水とわずかな食糧をリュートに与えていたが、不自由な体勢と溜まった欲で衰弱していて、とうとう三日目の夜は、水も喉を通らないようだった。
「リュートさんが死んじゃうよぅ…うっ、うっ…ひっく…」
「誰?」
「リュートさん!!ハミルだよ。僕もう我慢できない!縄を解いてあげる!」
「だめ…ハミルが…殺される…。」
「そんなの構うもんか!クソッ!固くてちっともほどけないや。」
「いいよ…私はもう不要なのだから…。」
「そんなことない!!アルファにだって番は必要なんだよ!きっと奥様を娶ったのは、理由があるんだ。殿下がどれだけあなたを大切にしてるか分かって!ねえ、だから頑張ってよー!!リュートさん?リュートさんってば!!」
ハミルが慌てて息を確認してみると、苦しそうではあるが、呼吸をしていた。体力が限界を超え、気を失っているらしい。
その時、小屋の扉が開く。
「やはり、お前がこいつの世話をしていたのだね。」
リズベルの侍女マリーがそこには立っていた。
「なかなか死なないと思ったら、お前のせいか。」
マリーは邸の護衛兵を使って、あっという間にハミルも別の柱にくくりつけた。
「僕はこのままでもいい!だからリュートさんを助けてあげて!」
ハミルは護衛兵にお願いする。護衛兵は辛そうに目を逸らした。
「明日には殿下が帰ってくるようだから、今夜中に息絶えればいいのに…。」
マリーは、そう言って欠伸をしながら寝床に戻って行った。
リズベル達は、主人のいない邸で血を流すようなことは、さすがにできず、ただ衰弱していくのを待っているようだった。
*****
「殿下ぁ、もう日が暮れますし、明日王都に凱旋しましょうよー。」
アーディルの乳兄弟で側近のセフィルがぼやく。
「いや、帰る。」
「でも、今出発しても着くのは夜中ですよ。誰も出迎えてくれませんよー。」
「誰もついてこなくていい。俺だけで行く。」
「ええ!?奥方がそんなに恋しいんですか?」
アーディルは無視をして、騎馬に跨った。
「待ってください。せめて私だけでもお供します!」
そして慌てて側にいる三つの騎士団の団長にセフィルが告げる。
「皆、明朝ここを出発するように!大団長と私は先に帰るが気にするな!」
驚いた顔の騎士団長達を残して二人は王都へ馬を走らせた。
アーディルは、自身が2、3日前よりラットに似た症状に悩まされていた。そういえば、リュートがそろそろ発情期だと思い当たる。
番を持ってからというもののリュートの発情期に合わせて自身の体も熱くなっていた。
だからと言って、他の者を抱く気には全くならないのである。
この熱を発散できるのは、リュート以外いない。いつもは、遠慮がちに伏せられている瞳が発情すると潤んで、アーディルの瞳を直接捉える。
そして、全てを喰らい尽くすがごとく、アーディルを求める。それに応えてやると何とも甘美な表情になり、美しい顔がより輝くのだ。
黄金の髪は、この三ヶ月でさらに伸びただろうか。最高級の香油を渡し、手入れをするよう言ったから、輝きが増しているに違いない。明日、朝日に照らされている様を見ながら、ゆっくり朝食を摂るのもいいかもしれない。
いや、きっと朝も寝台の上か…。
月明かりだけで馬を走らせているため、普段は考えないようなことまで考えてしまう。
セフィルと別れて、無事に私邸に着くと、突然の主人の帰りに邸が騒然となる。
そんな中、筆頭侍従は、身なりは整ってないものの、落ち着いて主人を出迎えた。
「長の遠征お疲れ様でした。お部屋に湯をすぐに用意いたします。」
「いや、あいつの所に行く。」
そうアーディルが言った途端、筆頭侍従の顔色がさっと変わる。
「何かあったのか?」
「それが…」
その時、帰宅の騒ぎの音を聞いたリズベルがアーディルの元にやって来た。
「旦那様、おかえりなさいませ。」
そういえば、こんな女もいたなとアーディルは思い出す。
リュートは、発情の熱に苛まれていた。
夜中に隙を見てハミルが水とわずかな食糧をリュートに与えていたが、不自由な体勢と溜まった欲で衰弱していて、とうとう三日目の夜は、水も喉を通らないようだった。
「リュートさんが死んじゃうよぅ…うっ、うっ…ひっく…」
「誰?」
「リュートさん!!ハミルだよ。僕もう我慢できない!縄を解いてあげる!」
「だめ…ハミルが…殺される…。」
「そんなの構うもんか!クソッ!固くてちっともほどけないや。」
「いいよ…私はもう不要なのだから…。」
「そんなことない!!アルファにだって番は必要なんだよ!きっと奥様を娶ったのは、理由があるんだ。殿下がどれだけあなたを大切にしてるか分かって!ねえ、だから頑張ってよー!!リュートさん?リュートさんってば!!」
ハミルが慌てて息を確認してみると、苦しそうではあるが、呼吸をしていた。体力が限界を超え、気を失っているらしい。
その時、小屋の扉が開く。
「やはり、お前がこいつの世話をしていたのだね。」
リズベルの侍女マリーがそこには立っていた。
「なかなか死なないと思ったら、お前のせいか。」
マリーは邸の護衛兵を使って、あっという間にハミルも別の柱にくくりつけた。
「僕はこのままでもいい!だからリュートさんを助けてあげて!」
ハミルは護衛兵にお願いする。護衛兵は辛そうに目を逸らした。
「明日には殿下が帰ってくるようだから、今夜中に息絶えればいいのに…。」
マリーは、そう言って欠伸をしながら寝床に戻って行った。
リズベル達は、主人のいない邸で血を流すようなことは、さすがにできず、ただ衰弱していくのを待っているようだった。
*****
「殿下ぁ、もう日が暮れますし、明日王都に凱旋しましょうよー。」
アーディルの乳兄弟で側近のセフィルがぼやく。
「いや、帰る。」
「でも、今出発しても着くのは夜中ですよ。誰も出迎えてくれませんよー。」
「誰もついてこなくていい。俺だけで行く。」
「ええ!?奥方がそんなに恋しいんですか?」
アーディルは無視をして、騎馬に跨った。
「待ってください。せめて私だけでもお供します!」
そして慌てて側にいる三つの騎士団の団長にセフィルが告げる。
「皆、明朝ここを出発するように!大団長と私は先に帰るが気にするな!」
驚いた顔の騎士団長達を残して二人は王都へ馬を走らせた。
アーディルは、自身が2、3日前よりラットに似た症状に悩まされていた。そういえば、リュートがそろそろ発情期だと思い当たる。
番を持ってからというもののリュートの発情期に合わせて自身の体も熱くなっていた。
だからと言って、他の者を抱く気には全くならないのである。
この熱を発散できるのは、リュート以外いない。いつもは、遠慮がちに伏せられている瞳が発情すると潤んで、アーディルの瞳を直接捉える。
そして、全てを喰らい尽くすがごとく、アーディルを求める。それに応えてやると何とも甘美な表情になり、美しい顔がより輝くのだ。
黄金の髪は、この三ヶ月でさらに伸びただろうか。最高級の香油を渡し、手入れをするよう言ったから、輝きが増しているに違いない。明日、朝日に照らされている様を見ながら、ゆっくり朝食を摂るのもいいかもしれない。
いや、きっと朝も寝台の上か…。
月明かりだけで馬を走らせているため、普段は考えないようなことまで考えてしまう。
セフィルと別れて、無事に私邸に着くと、突然の主人の帰りに邸が騒然となる。
そんな中、筆頭侍従は、身なりは整ってないものの、落ち着いて主人を出迎えた。
「長の遠征お疲れ様でした。お部屋に湯をすぐに用意いたします。」
「いや、あいつの所に行く。」
そうアーディルが言った途端、筆頭侍従の顔色がさっと変わる。
「何かあったのか?」
「それが…」
その時、帰宅の騒ぎの音を聞いたリズベルがアーディルの元にやって来た。
「旦那様、おかえりなさいませ。」
そういえば、こんな女もいたなとアーディルは思い出す。
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