【完結】元王子は帝国の王弟殿下の奴隷となる

ぴの

文字の大きさ
18 / 26

混沌

しおりを挟む
「はあ…はあ…」
 リュートは、発情の熱に苛まれていた。
 夜中に隙を見てハミルが水とわずかな食糧をリュートに与えていたが、不自由な体勢と溜まった欲で衰弱していて、とうとう三日目の夜は、水も喉を通らないようだった。

「リュートさんが死んじゃうよぅ…うっ、うっ…ひっく…」
「誰?」
「リュートさん!!ハミルだよ。僕もう我慢できない!縄を解いてあげる!」
「だめ…ハミルが…殺される…。」
「そんなの構うもんか!クソッ!固くてちっともほどけないや。」
「いいよ…私はもう不要なのだから…。」
「そんなことない!!アルファにだって番は必要なんだよ!きっと奥様を娶ったのは、理由があるんだ。殿下がどれだけあなたを大切にしてるか分かって!ねえ、だから頑張ってよー!!リュートさん?リュートさんってば!!」
 ハミルが慌てて息を確認してみると、苦しそうではあるが、呼吸をしていた。体力が限界を超え、気を失っているらしい。

 その時、小屋の扉が開く。
「やはり、お前がこいつの世話をしていたのだね。」
 リズベルの侍女マリーがそこには立っていた。
「なかなか死なないと思ったら、お前のせいか。」
 マリーは邸の護衛兵を使って、あっという間にハミルも別の柱にくくりつけた。
「僕はこのままでもいい!だからリュートさんを助けてあげて!」
 ハミルは護衛兵にお願いする。護衛兵は辛そうに目を逸らした。
「明日には殿下が帰ってくるようだから、今夜中に息絶えればいいのに…。」
 マリーは、そう言って欠伸をしながら寝床に戻って行った。
 リズベル達は、主人のいない邸で血を流すようなことは、さすがにできず、ただ衰弱していくのを待っているようだった。



*****
「殿下ぁ、もう日が暮れますし、明日王都に凱旋しましょうよー。」
 アーディルの乳兄弟で側近のセフィルがぼやく。
「いや、帰る。」
「でも、今出発しても着くのは夜中ですよ。誰も出迎えてくれませんよー。」
「誰もついてこなくていい。俺だけで行く。」
「ええ!?奥方がそんなに恋しいんですか?」
アーディルは無視をして、騎馬に跨った。
「待ってください。せめて私だけでもお供します!」
そして慌てて側にいる三つの騎士団の団長にセフィルが告げる。
「皆、明朝ここを出発するように!大団長と私は先に帰るが気にするな!」

 驚いた顔の騎士団長達を残して二人は王都へ馬を走らせた。

 アーディルは、自身が2、3日前よりラットに似た症状に悩まされていた。そういえば、リュートがそろそろ発情期だと思い当たる。
 番を持ってからというもののリュートの発情期に合わせて自身の体も熱くなっていた。
 だからと言って、他の者を抱く気には全くならないのである。

 この熱を発散できるのは、リュート以外いない。いつもは、遠慮がちに伏せられている瞳が発情すると潤んで、アーディルの瞳を直接捉える。 
 そして、全てを喰らい尽くすがごとく、アーディルを求める。それに応えてやると何とも甘美な表情になり、美しい顔がより輝くのだ。

 黄金の髪は、この三ヶ月でさらに伸びただろうか。最高級の香油を渡し、手入れをするよう言ったから、輝きが増しているに違いない。明日、朝日に照らされている様を見ながら、ゆっくり朝食を摂るのもいいかもしれない。
 いや、きっと朝も寝台の上か…。

 月明かりだけで馬を走らせているため、普段は考えないようなことまで考えてしまう。

 セフィルと別れて、無事に私邸に着くと、突然の主人の帰りに邸が騒然となる。

 そんな中、筆頭侍従は、身なりは整ってないものの、落ち着いて主人を出迎えた。
ながの遠征お疲れ様でした。お部屋に湯をすぐに用意いたします。」
「いや、あいつの所に行く。」
そうアーディルが言った途端、筆頭侍従の顔色がさっと変わる。
「何かあったのか?」
「それが…」
その時、帰宅の騒ぎの音を聞いたリズベルがアーディルの元にやって来た。

「旦那様、おかえりなさいませ。」
 そういえば、こんな女もいたなとアーディルは思い出す。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした

BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。 実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。 オメガバースでオメガの立場が低い世界 こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです 強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です 主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です 倫理観もちょっと薄いです というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります ※この主人公は受けです

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。

運命じゃない人

万里
BL
旭は、7年間連れ添った相手から突然別れを告げられる。「運命の番に出会ったんだ」と語る彼の言葉は、旭の心を深く傷つけた。積み重ねた日々も未来の約束も、その一言で崩れ去り、番を解消される。残された部屋には彼の痕跡はなく、孤独と喪失感だけが残った。 理解しようと努めるも、涙は止まらず、食事も眠りもままならない。やがて「番に捨てられたΩは死ぬ」という言葉が頭を支配し、旭は絶望の中で自らの手首を切る。意識が遠のき、次に目覚めたのは病院のベッドの上だった。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

流れる星、どうかお願い

ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる) オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年 高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼 そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ ”要が幸せになりますように” オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ 王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに! 一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが お付き合いください!

〈完結〉【書籍化・取り下げ予定】「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です

ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」 「では、契約結婚といたしましょう」 そうして今の夫と結婚したシドローネ。 夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。 彼には愛するひとがいる。 それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

処理中です...