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ミュルゲール男爵
ミュルゲール男爵が辺境伯家に到着したのは、午後になってからだった。
私はクロードとミュルゲール男爵が待つ応接室に、お茶とお菓子を持って向かった。
「フィリシアです」
応接室のドアをノックすると、クロードから入りなさいと言う声が聞こえた。
私はドアを開けると、応接室の中に入った。
ミュルゲール男爵とすぐ目が合い、ミュルゲール男爵はソファーから立ち上がると私の前に進んできた。
「フィリシア!無事で良かった!本当にすまなかった!」
両手でお茶や焼き菓子の乗ったトレイを持っているので、ミュルゲール男爵が勢いよく近づいてきた時に、少しだけ構えて後退りをしてしまった。
「ミュルゲール男爵。フィリシアがびっくりしています。ソファーにお掛けになってください。フィリシアも、こちらに来なさい」
トレイの上の、お茶と焼き菓子をクロードとミュルゲール男爵の前に置き、クロードが手招いたので、間を空けてクロードの横に座った。
「フォンダート辺境伯には、エリーズの事を先ほど謝罪させてもらった。エリーズが辺境伯に対して行なっていた態度は、本当に許される事ではないが、寛容にもその件は許してもらえた」
夜伽相手として、私の事をエリーズが差し出した事を言っているのかと思ったが、その点はクロードも承諾した事だったので、クロードも問題にするつもりはなかったんだろう。
そんな事よりクロードが怒っているのは、エリーズが私に対して行った愚行だものね。
「まさか、エリーズが自分の身代わりをフィリシアにさせてたとは。何も知らなかったとはいえ、そのまま2人をこちらに送り出したのは、私の不徳の致すところだ」
ミュルゲール男爵は、テーブルに額が付いてしまうほどに深く頭を下げた。
「しかもそれだけではなく、フィリシアを娼館に売り飛ばそうとしていたとは。それを辺境伯から手紙をもらった時は、お前に早く会いたいと思いながらも、どう謝罪すれば良いのか考えが纏まらなかった」
「ミュルゲール男爵様。私は、正直エリーズ様を許すことは出来ません。いえ、ミュルゲール男爵夫人も同様です。私はミュルゲール家にいる間、2人からずっと虐げられていました」
私は全てを告白しようと決めていた。
「あの2人がフィリシアに?」
初めて知ることに、ミュルゲール男爵は目を見開いて私を見た。
「はい。辺境伯家に来る前に、私が湖で溺れた事がありましたよね?」
「ああ」
ミュルゲール男爵は、あの日の事を思い出しているようだった。
「あの日も、エリーズ様はわざとご自身でバッグを湖に投げられて、私に拾うように命じたのです」
ミュルゲール男爵の顔が段々と青ざめる。
「他に目撃者はおりませんから、私の話を信じてもらえるかは分かりませんが、私はエリーズ様に殺されかけたんです」
私は真っ直ぐミュルゲール男爵を見つめた。
ミュルゲール男爵は、首を振って項垂れた。
「……何も知らずすまなかった。私の目の届かぬところで、フィリシアにそんな事があったとは」
私の言った事を全て信じてる?
娘の事より、侍女である私を信じる?
「私の言う事を、全て信じてくれるんですか?」
「ああ、フィリシアは嘘をつかない。それは幼い頃からお前を見て育ててきた事で分かっている」
「ミュルゲール男爵様。ありがとうございます」
私は素直に感謝した。
「妻とエリーズが、フィリシアに対して無関心だったのは、わざと私の前ではその様に振る舞っていただけだったんだね。影では、お前を虐待していたとは」
自分の不甲斐なさに、ミュルゲール男爵が打ちひしがれている様に見えた。
「今回の事で、エリーズがフィリシアに対して、悪意しかなかったのもそのせいだったんだね」
それでもエリーズが血を分けた娘である事は、ミュルゲール男爵にとっても辛い事だろう。
「エリーズ嬢は今回の事、きちんと反省されているのですか?」
クロードが現在のエリーズの事を尋ねた。
「……お恥ずかしい話ですが、エリーズはフィリシアに謀られたと、自分は何もしていないと言うばかりで。しかしエリーズがした事は、本当なら司法に委ねなくてはならない程の重罪だった事を説き、修道院へ出家させました」
「「え?」」
意外にもミュルゲール男爵が厳しい判断をしたことに、私もクロードも驚いてしまった。
「随分と、エリーズ嬢に厳しい判断をされましたね。正直、驚いています」
ミュルゲール男爵は首を振った。
「いえ。当然のことです」
愛娘を修道院へ入れるとは、今回の事がどれほど重罪だったのか理解していて、ミュルゲール家が罪を償う事をクロードに示したかったんだろう。
「エリーズは反発し、妻も猛反対でしたが、私はフィリシアにした事が許せなかったんです」
エリーズがこのまま反省して、更生することはあるのか、それは神のみぞ知ると言うことか。
「フィリシア。こんな事くらいではエリーズを許せないとは思うが、二度とエリーズを近づけさせる事はない」
エリーズだけじゃなく、ミュルゲール家と縁が切れるのであれば、私はもう何も言う事はない。
「それとは別に、もう一つ私は、フィリシアに謝罪しなければならない事がある」
「え?」
他に何があると言うの?
「どういう事ですか?他に何があるんですか?」
ミュルゲール男爵は、膝に置いた拳をギュッと握っている。
「私の母が亡くなったら話そうと思っていたのだけど」
どうして急にミュルゲール男爵の母親の事が出て来た?
「フィリシア。お前は実は、私の姪なんだ」
私はクロードとミュルゲール男爵が待つ応接室に、お茶とお菓子を持って向かった。
「フィリシアです」
応接室のドアをノックすると、クロードから入りなさいと言う声が聞こえた。
私はドアを開けると、応接室の中に入った。
ミュルゲール男爵とすぐ目が合い、ミュルゲール男爵はソファーから立ち上がると私の前に進んできた。
「フィリシア!無事で良かった!本当にすまなかった!」
両手でお茶や焼き菓子の乗ったトレイを持っているので、ミュルゲール男爵が勢いよく近づいてきた時に、少しだけ構えて後退りをしてしまった。
「ミュルゲール男爵。フィリシアがびっくりしています。ソファーにお掛けになってください。フィリシアも、こちらに来なさい」
トレイの上の、お茶と焼き菓子をクロードとミュルゲール男爵の前に置き、クロードが手招いたので、間を空けてクロードの横に座った。
「フォンダート辺境伯には、エリーズの事を先ほど謝罪させてもらった。エリーズが辺境伯に対して行なっていた態度は、本当に許される事ではないが、寛容にもその件は許してもらえた」
夜伽相手として、私の事をエリーズが差し出した事を言っているのかと思ったが、その点はクロードも承諾した事だったので、クロードも問題にするつもりはなかったんだろう。
そんな事よりクロードが怒っているのは、エリーズが私に対して行った愚行だものね。
「まさか、エリーズが自分の身代わりをフィリシアにさせてたとは。何も知らなかったとはいえ、そのまま2人をこちらに送り出したのは、私の不徳の致すところだ」
ミュルゲール男爵は、テーブルに額が付いてしまうほどに深く頭を下げた。
「しかもそれだけではなく、フィリシアを娼館に売り飛ばそうとしていたとは。それを辺境伯から手紙をもらった時は、お前に早く会いたいと思いながらも、どう謝罪すれば良いのか考えが纏まらなかった」
「ミュルゲール男爵様。私は、正直エリーズ様を許すことは出来ません。いえ、ミュルゲール男爵夫人も同様です。私はミュルゲール家にいる間、2人からずっと虐げられていました」
私は全てを告白しようと決めていた。
「あの2人がフィリシアに?」
初めて知ることに、ミュルゲール男爵は目を見開いて私を見た。
「はい。辺境伯家に来る前に、私が湖で溺れた事がありましたよね?」
「ああ」
ミュルゲール男爵は、あの日の事を思い出しているようだった。
「あの日も、エリーズ様はわざとご自身でバッグを湖に投げられて、私に拾うように命じたのです」
ミュルゲール男爵の顔が段々と青ざめる。
「他に目撃者はおりませんから、私の話を信じてもらえるかは分かりませんが、私はエリーズ様に殺されかけたんです」
私は真っ直ぐミュルゲール男爵を見つめた。
ミュルゲール男爵は、首を振って項垂れた。
「……何も知らずすまなかった。私の目の届かぬところで、フィリシアにそんな事があったとは」
私の言った事を全て信じてる?
娘の事より、侍女である私を信じる?
「私の言う事を、全て信じてくれるんですか?」
「ああ、フィリシアは嘘をつかない。それは幼い頃からお前を見て育ててきた事で分かっている」
「ミュルゲール男爵様。ありがとうございます」
私は素直に感謝した。
「妻とエリーズが、フィリシアに対して無関心だったのは、わざと私の前ではその様に振る舞っていただけだったんだね。影では、お前を虐待していたとは」
自分の不甲斐なさに、ミュルゲール男爵が打ちひしがれている様に見えた。
「今回の事で、エリーズがフィリシアに対して、悪意しかなかったのもそのせいだったんだね」
それでもエリーズが血を分けた娘である事は、ミュルゲール男爵にとっても辛い事だろう。
「エリーズ嬢は今回の事、きちんと反省されているのですか?」
クロードが現在のエリーズの事を尋ねた。
「……お恥ずかしい話ですが、エリーズはフィリシアに謀られたと、自分は何もしていないと言うばかりで。しかしエリーズがした事は、本当なら司法に委ねなくてはならない程の重罪だった事を説き、修道院へ出家させました」
「「え?」」
意外にもミュルゲール男爵が厳しい判断をしたことに、私もクロードも驚いてしまった。
「随分と、エリーズ嬢に厳しい判断をされましたね。正直、驚いています」
ミュルゲール男爵は首を振った。
「いえ。当然のことです」
愛娘を修道院へ入れるとは、今回の事がどれほど重罪だったのか理解していて、ミュルゲール家が罪を償う事をクロードに示したかったんだろう。
「エリーズは反発し、妻も猛反対でしたが、私はフィリシアにした事が許せなかったんです」
エリーズがこのまま反省して、更生することはあるのか、それは神のみぞ知ると言うことか。
「フィリシア。こんな事くらいではエリーズを許せないとは思うが、二度とエリーズを近づけさせる事はない」
エリーズだけじゃなく、ミュルゲール家と縁が切れるのであれば、私はもう何も言う事はない。
「それとは別に、もう一つ私は、フィリシアに謝罪しなければならない事がある」
「え?」
他に何があると言うの?
「どういう事ですか?他に何があるんですか?」
ミュルゲール男爵は、膝に置いた拳をギュッと握っている。
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