元殺し屋の私が異世界憑依したら溺愛ルートが待っていた~醜い辺境伯と身代わり夜伽妻~

五嶋樒榴

文字の大きさ
76 / 98

捨て子の真実

「お前が産まれる前に、マークスの故郷にある疫病が蔓延してね」

 疫病?

「疱瘡ですね」

 クロードに顔を向けたミュルゲール男爵が頷いた。

「疱瘡?」

 私はどんな病気かわからずクロードに尋ねた。

「ああ。一部の領地で、突如疱瘡が流行って、命を落とした者が多く出たんだ」

 歴史的に有名な天然痘ウイルスだろうか?
 確か、高熱を出した後に、疱瘡が体中に出てくる病気だったような。
 でもこの世界では、また違う病気かもしれない。

「お前が産まれる前にマークスも発症して、その時、始めてジュリアから助けて欲しいと手紙が来た。自分も疱瘡を患ったら、お腹の子供にまで何か影響があるのではと心配したそうだ」

 本当は頼りたくはなかったんだろう。
 でも追い詰められて、ギリギリだったんだろうな。

「私は急いで駆けつけたが、マークスはその数日前に亡くなっていた」

 間に合わなかったのね。

「お前の誕生日は、拾った日だと勝手に決めていたが、本当は5月12日なんだ」

 フィリシアの記憶から、夏に16歳になったんだと思っていたけど、本当はもうとっくに16歳になっていたのね。

「ファブルス公爵に相談して、ジュリアをすぐに病院に隔離して、お前が産まれるまで見守っていたんだが、出産した後にジュリアは高熱を出し、肺炎を起こして亡くなったんだ」

 それは、やはり疱瘡の影響だったんだろうか?

「父と母は別々に埋葬されたという事ですよね?」

「ああ。マークスは故郷の教会に、ジュリアは病院の近くの教会に別々に埋葬した」

 せめて、同じ場所で眠れたら良かったのに。

「いつか、父と母の眠る場所に行きたいです」

「ああ。その時は私が案内するよ」

 ミュルゲール男爵が、そっと私の肩に手で触れた。

「お前の生い立ちを、ずっと黙っていて悪かった」

「……正直、出来ればもう少し早く教えて欲しかったです」

 そうすれば、フィリシア自身が生きている間に、両親の眠る場所に花を手向けられただろうに。
 捨て子じゃなかったと、直接聞けただろうに。

「実はジュリアが亡くなる前、お前が産まれてすぐにジュリアと約束をしたんだ」

 約束?

「自分にも何かあったら、フィリシアを守って欲しいと。ただその存在を、絶対に母には知らせないでくれと。自分の時の様に、利用されたくないと」

 ジュリアと母親の確執は深かったんだろうな。

「私の結婚も、母は妻の持参金目当てだったので、ジュリアが心配する気持ちはよく分かっていた。だから、ジュリアが亡くなった後にお前の健康状態を診てもらってから引き取り、皆んなには、家の前に捨てられていた事にしたんだ」

 ミュルゲール男爵も、母親に無理矢理結婚させられたのね。

 色々大変だったろうけど、フィリシアはジュリアに愛されていた。
 マークスもきっと、フィリシアが産まれるのを楽しみにしていただろう。

「フィリシア。お前の名前も、ジュリアとマークスが2人で考えていたそうだ。女の子だったら、フィリシアにしようと」

 ドクン!

 まただ。
 フィリシアの鼓動を強く感じる。

 この名前は、父と母からの、フィリシアへの最初で最後のプレゼントだったのね。

「フィリシア」

 クロードが私の名を呼び、膝の上に置いていた私の手を優しく握った。

 私の意思とは別の力で、私の目から涙が溢れていた。

「母が亡くなるまでは、お前の存在を知られたくなかったせいで、お前を侍女として家に引き取る形になってすまなかった。しかも、妻やエリーズに虐げられていたとは。本当に、お前ばかり、辛い思いをさせてすまなかった!」

 ミュルゲール男爵は再び深々と頭を下げた。

 フィリシアを取り巻く事情はよく分かった。

 確かにミュルゲール男爵夫人やエリーズには憎しみしか無いだろうが、ミュルゲール男爵の事は恨んではいない。

 フィリシアの、ミュルゲール男爵に対しての思い出が良いことばかりしかなかったのは、ミュルゲール男爵の愛情を感じていたんだろう。

「お顔を上げてください。男爵様を恨んだ事は一度もありません」

 この言葉は、フィリシアが言っている?

「ここまで私を育ててくれて、ありがとうございました」

 私は自然にミュルゲール男爵にお辞儀をしていた。
 私の中のフィリシアが動いていたんだろう。

 段々と心の中が軽くなる。
 フィリシアが真実を知って、とても喜んでいるのを感じる。

「ありがとう、フィリシア!今までの分も、これからは償いをさせてくれ。フィリシアが望む生活をさせたい」

 私が望む生活。

 それは、ミュルゲール家と縁を切ってこの地に留まること。

「私は、ミュルゲール家とは縁を切りたいと思います。母の遺言通り、祖母と会うこともしません」

 私がはっきり告げると、ミュルゲール男爵は少しだけ寂しそうな顔になった。

「そうだね。不甲斐ない私の顔も見たくは無いだろう」

 私は首を振った。

「いいえ!フィリシアは……私は、ミュルゲール男爵の事が大好きです!きっと、ずっと何か縁を感じていたんだと思います!」

 それは嘘では無い。

「ただ、私がミュルゲール家の人間だと分かったら、絶対にお祖母様は干渉してきますよね?それに男爵夫人とエリーズ様とは、本当に二度と会いたく無いんです」

 私の強い意志に、ミュルゲール男爵は仕方ないと言った顔になる。

「フィリシア、大好きと言ってくれてありがと。その言葉だけで救われるよ」

「これからは、ミュルゲール家とは別に、伯父と姪としてだけ繋がりが持てればと思います」

 私の言葉に、ミュルゲール男爵は目を見開き驚いた。

「フィリシア!ありがとう!お前まで失わなくて、本当に良かった!」

 ミュルゲール男爵は跪くと、私の両手を優しく包む様に握った。
 ミュルゲール男爵の温もりが、ドクドクと私の中に流れ込んでくる。

 これで良いんだよね?フィリシア。

感想 2

あなたにおすすめの小説

ヤンデレ旦那さまに溺愛されてるけど思い出せない

斧名田マニマニ
恋愛
待って待って、どういうこと。 襲い掛かってきた超絶美形が、これから僕たち新婚初夜だよとかいうけれど、全く覚えてない……! この人本当に旦那さま? って疑ってたら、なんか病みはじめちゃった……!

【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました

斉藤めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。 白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。 その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。 それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。 やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり―― 白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。 身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。

「ご褒美ください」とわんこ系義弟が離れない

橋本彩里(Ayari)
恋愛
六歳の時に伯爵家の養子として引き取られたイーサンは、年頃になっても一つ上の義理の姉のミラが大好きだとじゃれてくる。 そんななか、投資に失敗した父の借金の代わりにとミラに見合いの話が浮上し、義姉が大好きなわんこ系義弟が「ご褒美ください」と迫ってきて……。 1~2万文字の短編予定→中編に変更します。 いつもながらの溺愛執着ものです。

身代りの花嫁は25歳年上の海軍士官に溺愛される

絵麻
恋愛
 桐島花は父が病没後、継母義妹に虐げられて、使用人同然の生活を送っていた。  父の財産も尽きかけた頃、義妹に縁談が舞い込むが継母は花を嫁がせた。  理由は多額の結納金を手に入れるため。  相手は二十五歳も歳上の、海軍の大佐だという。  放り出すように、嫁がされた花を待っていたものは。  地味で冴えないと卑下された日々、花の真の力が時東邸で活かされる。  

王宮の万能メイド、偏屈魔術師を餌付けする

葉山あおい
恋愛
王宮で働く勤続八年のメイド、エレナ・フォスター。仕事は完璧だが愛想がない彼女は、いつしか「鉄の女」と呼ばれ恐れられていた。 そんな彼女に下された辞令は、王宮の敷地内にありながら「魔窟」と呼ばれる『北の塔』の専属メイドになること。そこの主である宮廷魔術師団長・シルヴィス・クローデルは、稀代の天才ながら極度の人嫌い&生活能力ゼロの偏屈男だった! ゴミ屋敷と化した塔をピカピカに掃除し、栄養失調寸前の彼に絶品の手料理を振る舞うエレナ。黄金色のオムレツ、とろける煮込みハンバーグ、特製カツサンド……。美味しいご飯で餌付けされた魔術師様は、次第にエレナへの独占欲を露わにし始めて――? 意地悪な聖女や侯爵夫人のいびりも、完璧なスキルで華麗に返り討ち。平民出身のメイドが、身分差を乗り越えて幸せな花嫁になるまでの、美味しくて甘いシンデレラストーリー。

巨乳のメイドは庭師に夢中

さねうずる
恋愛
ピンクブロンドの派手な髪と大きすぎる胸であらぬ誤解を受けることの多いピンクマリリン。メイドとして真面目に働いているつもりなのにいつもクビになってしまう。初恋もまだだった彼女がやっとの思いで雇ってもらえたお屋敷にいたのは、大きくて無口な庭師のエバンスさん。彼のことが気になる彼女は、、、、

世間知らずな山ごもり薬師は、××な騎士団長の性癖淫愛から逃げ出せない

二位関りをん
恋愛
平民薬師・クララは国境沿いの深い山奥で暮らしながら、魔法薬の研究に没頭している。招集が下れば山を下りて麓にある病院や娼館で診察補助をしたりしているが、世間知らずなのに変わりはない。 ある日、山の中で倒れている男性を発見。彼はなんと騎士団長・レイルドで女嫌いの噂を持つ人物だった。 当然女嫌いの噂なんて知らないクララは良心に従い彼を助け、治療を施す。 だが、レイルドには隠している秘密……性癖があった。 ――君の××××、触らせてもらえないだろうか?