鳴かない杜鵑-ホトトギス-(鳴かない杜鵑 episode1)

五嶋樒榴

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甘い水

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車の中には、助手席にすみれ、後部座席に泉水と流星が座っていた。
昼間に顧問弁護士と話をしたが、ノートの事は何もまだ話していなかった。

「志織さんの家にはまだマスコミも張っていると言うことだから、自宅まで迎えの車を出せなかったが大丈夫?」

「自宅から電車で渋谷に出てタクシーで来ると言っていました」

すみれが言うと泉水はホッとした。その横顔を流星はチラリと見た。
泉水から今夜の話を今朝聞いて、泉水とすみれに嫉妬した自分が恥ずかしかった。
泉水を誰にも取られたくなかった。

ホテルの地下駐車場からフロントには寄らず、直接部屋にエレベーターで向かう。
偶然にも部屋はワタルと愛し合ったジュニアスイートだった。
チャイムを押すと支配人が出てきた。泉水たちを部屋に通すと鍵を渡して支配人は出て行く。
とにかく秘密裏に進めたかった。

志織を待つ間、三人は無口だった。
本当に来るのかそれが心配だった。
チャイムが鳴り、すみれが慌ててドアに向かった。
憔悴しきった志織を支えながらすみれが部屋に戻ってきた。志織の姿を見て泉水は同情しながらもホッとした。

「私のわがままで来ていただいて申し訳なかった」

志織は泉水を見つめて首を振り、バックから大学ノートをテーブルの上に出した。

「私設秘書の山口が亡くなる一週間ぐらい前に、山口がこれを見つけて、山口から預けられました。私実は、山口と付き合っていたんです。結局山口は父の犠牲になってしまったけど」

志織の言葉に泉水達は何も声をかけられなかった。
何も知らなかったとはいえ、先日のパーティーでの自分の態度を泉水は恥じた。

「お役に立てるか分かりませんが見てください。現金でのやり取りがほとんどですけど」

「お預かりします」

「いえ。お渡しします。処分してください。恐らく父ももう必要ないでしょうから」

志織はそう言うと泉水を見て微笑んだ。

「個人名からと、御笠様の関連会社までは分かりませんが、御笠グループからは闇献金はありませんでした」

持ってくる前に調べていてくれたことに泉水は感激した。自分は志織に何もしてやれない。

「この先はどうされるんですか?」

「父が東京地検に逮捕される可能性があるので、それまではしばらくおとなしくしています。恐らく母の実家に行くことになると思います」

すみれが志織を送りながら帰ることになった。
部屋に泉水と流星が残った。

「お帰りになりますか?」

「いや、せっかくだから泊まっていく。流星は?良かったら、泊まっていくかい?」

泉水の目を流星はじっと見る。

「泊まっていけば?またワイシャツ貸すよ」

泉水の目が色っぽかった。流星は身震いしそうだった。

「……お言葉に甘えて。コンビニで下着だけ買ってきます」

「じゃあ、私の分も一緒に。流星の分もこれで払ってきてくれ」

財布から1万円札を出すと流星に渡した。
流星がいなくなると泉水はドキドキしてきた。
今夜流星と二人きりで過ごすのは、自分の首を絞めそうな気がした。
万が一何かあればワタルを裏切る事になる。

流星はコンビニで下着類を買うとゴムの前で立った。
手を出しそうになったが、それは流石に自制した。
部屋に戻ると、泉水がルームサービスのメニューを見ていた。

「腹減ったね。何食べるかい?」

泉水が流星にメニューを差し出す。

「同じもので結構です」

泉水は頷くと電話で二人分のステーキ重とサラダとワインを頼んだ。

「食事前に良ければお湯を入れてきますからお風呂に入ってください。料理が来たら受け取っておきます」

ここでも従順な流星だった。

「運転手には、先程帰るように電話をしておきました。明日の8時に迎えに来ます」

段取りも完璧だった。
お湯が入ると泉水は風呂に入って1日の疲れを癒した。
シャワーブースで全身を洗うと、悶え喘ぐワタルを思い出した。
流星が近くにいると思うと興奮が昂まる。髪に触れられた事を思い出し切なくなる。
それをなんとか抑えてバスローブを着て部屋に戻った。
ダイニングに流星が料理を置いていた。

「ちょうど今来ました」

流星が微笑んでワインをグラスに注ぐ。泉水は座るとステーキ重の蓋を開けた。

「ここのこれ、好きなんだよ」

嬉しそうに食べる泉水が可愛いと流星は思った。
その笑顔に泉水はときめく。
下半身の熱を感じながら平静を装う。


食欲は満たされても、性欲は満たされないな。
目の前の流星が食べたい。
壊してしまいたい。


泉水は不埒な自分の感情をワインとともに流し込む。
泉水と二人きりで食事を、しかも同じ部屋で寝ることに流星も興奮しないわけがなかった。
泉水のバスローブ姿に興奮していた。少しはだけた胸元から肌が見える。
ワインを飲む唇を見つめながら、キスをされたくて仕方がない。

「食欲ない?」

あまり箸が進まない流星に泉水は尋ねる。

「いえ、社長と二人きりで食事ってあまりないので、ちょっと緊張してます」

それでも残さずステーキ重を平らげた。食べ方も美しいなと泉水は見惚れた。
食事を終えて泉水がテレビを見始めたので流星も風呂に湯を入れた。泉水が使ったバスタブだと思うと、さっきから硬くなっているモノを解放したくて堪らない。

先日触った泉水の髪の感触が蘇る。
今夜チャンスがあれば、眠る泉水にキスをしたいと思ってしまう自分に期待が高まる。
流星は服を脱ぐとバスタブに身を沈めた。

何もかもが敏感になっていた。
温かい湯に全身が蕩けそうだった。泉水に抱かれたくて仕方なくて、興奮が昂まる。
痛いぐらい硬くなってるモノに触れると流星は切ない顔をする。
この甘く切ない拷問に流星は我慢の限界だった。

シャワーブースに入り、シャワーを浴びながら自分で慰め始める。
壁に寄りかかり指を舌で舐めながら泉水を思い浮かべる。


軽蔑されてもいい。
もうこんなに狂わされるなら、いっそのこと告白してしまいたい。
泉水さん、抱いてください。と言ってしまいたい。


ハァハァと息を荒くして流星は果てた。
シャワーに打たれながら息を整える。
少しだけ冷静になってきた。
頭と身体を洗い、自分が放ったものを全て流しきった。
バスローブを羽織り部屋に戻ると、泉水はまだテレビでニュースを見ていた。

「ゆっくりできたかい?」

泉水に話しかけられ流星は身体が火照る。
今自分がしてきたことが恥ずかしかった。

「快適でした」

流星はそう言うと冷蔵庫を開けた。

「何か飲まれますか?」

「うん。ビール」

流星はビールを2本出して泉水に渡す。指が触れ合いお互いにときめく。
流星の姿が、泉水はまともに見れない。
風呂上がりの頬が火照っている流星が可愛くて仕方がない。

「お疲れ」

「お疲れ様です」

ビールで乾杯すると泉水はゴクゴクと飲む。
流星は離れた椅子に座っている。
すぐ横に座らせて、抱きしめてキスをしたくて堪らない。

「寝るよ」

泉水が寝室に入る。これ以上一緒にいては本当に襲いかねないと思った。
流石にこれから一緒に住もうとしているワタルが何度も浮かんでは、泉水も流星を口説き落とし抱けなくなっていた。

「おやすみなさい」

「部屋、真っ暗じゃないと眠れないんだ。部屋に入る時気をつけてね。私は右のベッドに寝るから」

「分かりました」

泉水がドアを閉めた。
窓辺に行くと夜景を見ながらビールを飲む。


右のベッドに寝るから。


泉水の声がこだまする。
間違えたフリでベッドに入ったら、泉水にどう思われるか考える。
ビールを飲み終わると部屋の照明を暗くして、泉水が眠る部屋に入った。
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