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濁った水
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誕生日を祝ってもらった次の日の夜、リビングで泉水と田中さんは紅茶を飲んでいた。ワタルが元気がないのを田中さんも心配していて、泉水に理由を聞いてきた。
「ワタルには言わないで欲しいのだけど、ワタルの友人が先日自殺してね。それで少し参ってる」
「そうでしたか。大切な人の死は辛いですからね。分かりました。見守ることにします」
しばらく沈黙後、田中さんはスマホを出した。
指を画面に滑らせて微笑んだ。なかなか使い慣れてきている。
「ねー、いつになったらアドレス教えてくれるの?」
むすっとして泉水は田中さんに言う。
「坊ちゃんも意外としつこいんですねー。しつこい男は嫌われますよ」
ふふふと田中さんは笑う。ピコンと音がなると田中さんはスマホを見る。そして微笑む。
「誰とメールしてるの?」
「秘密です」
泉水は余計に気になる。
「あ!あれ何?」
こんな古典的な手に引っかからないと思いつつも、泉水がやると田中さんはその方向を見る。
泉水は素早くスマホを、田中さんの手から取り上げるがロックがかかっていた。
「こらこら坊ちゃん。勝手に人の物取ったらダメですよ」
涼しい顔で田中さんは言う。
泉水はまたブスくれる。
「これは私とワタルさんを繋ぐ大事なアイテムなんです」
大事そうに田中さんはスマホを胸に当て笑顔で言う。
「じゃあ、私も田中さんにスマホ買ってあげる」
「2台もいりません」
田中さんの即答に泉水は笑った。
「全く、ワタルを取られた気分だ」
あははと泉水は笑う。
「実は、ワタルさんて私の好きだった人にそっくりなんですよ。この話、ワタルさんに秘密にしてくださいね」
田中さんはそう言うと自分のティーカップを下げて洗った。
「先にやすみますね。おやすみなさいませ」
田中さんはリビングを出て行った。
田中さんの好きだった人かー。
どんな人だったのかな。
その恋は成就したのだろうか。
想像しても答えは見つからない。
泉水はティーカップを下げると冷蔵庫からビールを出した。
窓辺に立ち窓を開けると、涼しい風が入ってきた。
ワタルは今日もまた沈んでいるかと心配になった。
しばらくは、そっとしてあげようと思ってはいる。
泉水の頭の中は、気が付けばもうワタルのことしかなかった。
ふと流星を思った。
最近流星への気持ちが冷めている自分に気がつく。
それはそれで不思議な感覚だった。
あんなに2年間も思い続けていた存在だったのに、会社でも家でも、頭に浮かぶのはワタルだけだった。
でも何故だか泉水の気持ちは落ち着いていた。
ワタルだけを愛し始めていると気づいたからだった。
泉水はソファーに横になると目を瞑る。ワタルを思い浮かべながら、リビングのソファーで泉水はうたた寝をしてしまっていた。
「……さん。泉水さん」
ハッとして泉水は目を覚ました。
「あ、ワタル。おかえり。今、何時?」
「2時。遅くなってごめんなさい」
泉水はぼーっとして身を起こす。
「部屋で寝よう。身体痛くなるよ」
半ば連れ去られるように、泉水はワタルと泉水の部屋に入った。
「シャワー浴びてくるね」
泉水がベッドに横になるとワタルはバスルームに消えて行った。
泉水は喉が渇いて、ベッドから起き上がると冷蔵庫を開けて、炭酸入りの清涼飲料水を出した。
ゴクゴクと一気に飲む。口の中もさっぱりした。
今夜も別々に寝るだろうと思うと正直寂しかった。
別にセックスをしなくてもワタルと一緒に寝たいと思ったが、身体は正直で、そんな風に考えている側から泉水の下半身は熱くなっていた。
これじゃ、ワタルだって一緒に寝たくないよね。
髪まで乾かしてきたワタルが部屋に戻ってきた。
「泉水さん。今夜も僕、自分の部屋で寝るね。一緒に寝るって決めてるのにごめんなさい」
ワタルが寂しそうに言う。
「良いよ。ワタルが落ち着くまで一人で寝たほうが良いなら」
ワタルは首を振る。
「違うの。本当は泉水さんとこの部屋に一緒にいたい。でも、僕だけ、泉水さんに甘える自分が許せない。シンがどんなに辛くて孤独だったかと思うと」
泉水はワタルを優しく抱きしめる。
「泉水さんと一緒に居たら、泉水さんに抱かれたいって思っちゃう。今だって、本当は、泉水さんのことで、頭いっぱいで」
「分かってるよ。時間が必要なことも。大丈夫。ワタルが辛くなるのが私も嫌だから」
「ごめん、なさい」
ワタルも泉水に抱きつく。
「さあ、もう寝よう。シン君の死の真相が早く解決すると良いね」
ワタルには、枕営業までしていたかも知れないネタは言っていない。だが、どうやって覚せい剤を入手したのかをワタルも知りたいだろうと思い、シンの事務所がヤクザと繋がりがある話はしてある。
「ワタル?」
ワタルがぎゅっと泉水に抱きついて離れない。
「……頭では分かっているのに、泉水さんに抱きついたら、離れられなくて。ごめんなさい。もう少し、こうしていて」
ワタルの潤んだ瞳に泉水は自分を抑えるのが正直辛かった。
「んんッ」
ワタルも興奮を抑えてるのか、頬が紅潮している。
正直、拷問だなと泉水は思った。
「ワタル。もう、寝よう。部屋まで行ける?」
「泉水、さん。僕を、嫌いにならないで。離れて行かないで」
ワタルをこんな風に不安にさせているのが、本当は自分だったと泉水は思った。
「離れないよ。ずっとそばにいるって言ったでしょ。田中さんと3人でずっと一緒だよ」
ぎゅっと抱きしめて泉水は言う。
「うん。泉水さん、大好き」
「ワタル、大好きだよ」
落ち着いたのかワタルは泉水から静かに離れた。
「おやすみなさい」
「おやすみ」
ワタルは自分の部屋に戻った。
泉水は1人になると、ワタルを思い我慢できずに、興奮を鎮めるために自分で熱くなったモノを握る。
ワタルの顔が浮かんで興奮は更に昂まる。
「んッ、あッ!」
ティッシュの中で果てると泉水は深く息を吐いた。
「あー、ヤバい。何度でもできちゃいそう」
己の欲望に泉水は苦笑いをした。
「ワタルには言わないで欲しいのだけど、ワタルの友人が先日自殺してね。それで少し参ってる」
「そうでしたか。大切な人の死は辛いですからね。分かりました。見守ることにします」
しばらく沈黙後、田中さんはスマホを出した。
指を画面に滑らせて微笑んだ。なかなか使い慣れてきている。
「ねー、いつになったらアドレス教えてくれるの?」
むすっとして泉水は田中さんに言う。
「坊ちゃんも意外としつこいんですねー。しつこい男は嫌われますよ」
ふふふと田中さんは笑う。ピコンと音がなると田中さんはスマホを見る。そして微笑む。
「誰とメールしてるの?」
「秘密です」
泉水は余計に気になる。
「あ!あれ何?」
こんな古典的な手に引っかからないと思いつつも、泉水がやると田中さんはその方向を見る。
泉水は素早くスマホを、田中さんの手から取り上げるがロックがかかっていた。
「こらこら坊ちゃん。勝手に人の物取ったらダメですよ」
涼しい顔で田中さんは言う。
泉水はまたブスくれる。
「これは私とワタルさんを繋ぐ大事なアイテムなんです」
大事そうに田中さんはスマホを胸に当て笑顔で言う。
「じゃあ、私も田中さんにスマホ買ってあげる」
「2台もいりません」
田中さんの即答に泉水は笑った。
「全く、ワタルを取られた気分だ」
あははと泉水は笑う。
「実は、ワタルさんて私の好きだった人にそっくりなんですよ。この話、ワタルさんに秘密にしてくださいね」
田中さんはそう言うと自分のティーカップを下げて洗った。
「先にやすみますね。おやすみなさいませ」
田中さんはリビングを出て行った。
田中さんの好きだった人かー。
どんな人だったのかな。
その恋は成就したのだろうか。
想像しても答えは見つからない。
泉水はティーカップを下げると冷蔵庫からビールを出した。
窓辺に立ち窓を開けると、涼しい風が入ってきた。
ワタルは今日もまた沈んでいるかと心配になった。
しばらくは、そっとしてあげようと思ってはいる。
泉水の頭の中は、気が付けばもうワタルのことしかなかった。
ふと流星を思った。
最近流星への気持ちが冷めている自分に気がつく。
それはそれで不思議な感覚だった。
あんなに2年間も思い続けていた存在だったのに、会社でも家でも、頭に浮かぶのはワタルだけだった。
でも何故だか泉水の気持ちは落ち着いていた。
ワタルだけを愛し始めていると気づいたからだった。
泉水はソファーに横になると目を瞑る。ワタルを思い浮かべながら、リビングのソファーで泉水はうたた寝をしてしまっていた。
「……さん。泉水さん」
ハッとして泉水は目を覚ました。
「あ、ワタル。おかえり。今、何時?」
「2時。遅くなってごめんなさい」
泉水はぼーっとして身を起こす。
「部屋で寝よう。身体痛くなるよ」
半ば連れ去られるように、泉水はワタルと泉水の部屋に入った。
「シャワー浴びてくるね」
泉水がベッドに横になるとワタルはバスルームに消えて行った。
泉水は喉が渇いて、ベッドから起き上がると冷蔵庫を開けて、炭酸入りの清涼飲料水を出した。
ゴクゴクと一気に飲む。口の中もさっぱりした。
今夜も別々に寝るだろうと思うと正直寂しかった。
別にセックスをしなくてもワタルと一緒に寝たいと思ったが、身体は正直で、そんな風に考えている側から泉水の下半身は熱くなっていた。
これじゃ、ワタルだって一緒に寝たくないよね。
髪まで乾かしてきたワタルが部屋に戻ってきた。
「泉水さん。今夜も僕、自分の部屋で寝るね。一緒に寝るって決めてるのにごめんなさい」
ワタルが寂しそうに言う。
「良いよ。ワタルが落ち着くまで一人で寝たほうが良いなら」
ワタルは首を振る。
「違うの。本当は泉水さんとこの部屋に一緒にいたい。でも、僕だけ、泉水さんに甘える自分が許せない。シンがどんなに辛くて孤独だったかと思うと」
泉水はワタルを優しく抱きしめる。
「泉水さんと一緒に居たら、泉水さんに抱かれたいって思っちゃう。今だって、本当は、泉水さんのことで、頭いっぱいで」
「分かってるよ。時間が必要なことも。大丈夫。ワタルが辛くなるのが私も嫌だから」
「ごめん、なさい」
ワタルも泉水に抱きつく。
「さあ、もう寝よう。シン君の死の真相が早く解決すると良いね」
ワタルには、枕営業までしていたかも知れないネタは言っていない。だが、どうやって覚せい剤を入手したのかをワタルも知りたいだろうと思い、シンの事務所がヤクザと繋がりがある話はしてある。
「ワタル?」
ワタルがぎゅっと泉水に抱きついて離れない。
「……頭では分かっているのに、泉水さんに抱きついたら、離れられなくて。ごめんなさい。もう少し、こうしていて」
ワタルの潤んだ瞳に泉水は自分を抑えるのが正直辛かった。
「んんッ」
ワタルも興奮を抑えてるのか、頬が紅潮している。
正直、拷問だなと泉水は思った。
「ワタル。もう、寝よう。部屋まで行ける?」
「泉水、さん。僕を、嫌いにならないで。離れて行かないで」
ワタルをこんな風に不安にさせているのが、本当は自分だったと泉水は思った。
「離れないよ。ずっとそばにいるって言ったでしょ。田中さんと3人でずっと一緒だよ」
ぎゅっと抱きしめて泉水は言う。
「うん。泉水さん、大好き」
「ワタル、大好きだよ」
落ち着いたのかワタルは泉水から静かに離れた。
「おやすみなさい」
「おやすみ」
ワタルは自分の部屋に戻った。
泉水は1人になると、ワタルを思い我慢できずに、興奮を鎮めるために自分で熱くなったモノを握る。
ワタルの顔が浮かんで興奮は更に昂まる。
「んッ、あッ!」
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己の欲望に泉水は苦笑いをした。
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