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凍った水
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「全く、くだらねーことしやがって」
疾風は血痕らしき物が飛沫していると、通報を受けた事件現場の高架下の河川敷に猫の死骸を見つけた。体を切り刻まれていて、今追っている事件は猟奇犯罪の匂いがした。
「主任!今回もサバイバルナイフが!」
先に駆けつけていた鑑識が見つけていた、証拠品を入れる袋にサバイバルナイフが入っていた。
「また同一の事件か。とにかく被害者が見つからない以上、犯行場所の血痕からどれだけ証拠が出るかだな」
この不可思議な事件のせいで、捜一は毎日多忙を極めていた。
被害者は何者かに傷つけられ、恐らく拉致監禁されているか、最悪死に至っているのではと推測された。
毎回発見されるのは、サバイバルナイフと身元が分からないDNA。
DNAに関しては科捜研の鑑定で、その後、捜索願が出されている家族のDNAと判明し身元が明らかになるが、サバイバルナイフは量産品で指紋も残っていないので、恐らく犯人がわざと挑発的に残していっている物だった。まるで警察の捜査を嘲笑うようだった。
犯行現場も一定ではなく、もうこの事件は4件目の発見であった。
今回も犯人に襲われ切りつけられ拉致されたと見られていた。
「とにかく付近の聞き込みと、各所轄との合同作業を綿密に詰めてくれ」
疾風の部下達は返事をすると、事件解決の為に奔走する。
つい先日真幸から、疾風用のゴムを大量購入したとメールが来たばかりだが、しばらくそれもお預けだなと疾風は苦笑した。
そしてその真幸は、暇さえあればスマホを見つめていた。
「頭、そろそろ時間です」
舎弟が今夜の宴席に出かける為に知らせにきた。
「ああ。全く、おっさんばかりと飲むと思うと気が滅入るぜ」
スマホをいじりながら真幸は言う。外に向かうと工は真幸にぴったりとくっつく。
「おいおい、外に出るたび、あんまりくっつくなよ、鬱陶しい」
文句を言うが、工の反応はつまらない。
「車に乗るまで我慢してください」
運転手兼ボディーガードが、ドアを開けると真幸が先に車に乗る。その間、ドアの入り口を工がガードする。そして工も真幸の隣に座るとドアを閉めた。
「なんかさー、わざと臭く無い?逆に狙ってくれって言っているようじゃん」
不満顔で真幸は言う。
「威嚇です。ここまで厳重だと知らしめれば、アホな鉄砲玉しか襲ってきませんよ」
「そのアホな鉄砲玉に撃たれたら?」
「撃たれるのは俺です。そして俺は撃った奴を仕留めます」
「……それで死んだら、そのあと、誰が俺を守るの?」
真幸が言うと、珍しく工がフッと笑う。
「俺は死にません。ちゃんと一生貴方をお守りします」
工は真幸を見ないが、自信たっぷりに言う。
「なになに?急に俺に懐いちゃって」
楽しそうに真幸は言う。工が冷たい瞳で真幸を見る。
あ、こいつのこの目。
疾風よりやべぇ。
本気で人を殺せる目だ。
「懐いてはいません。お守りするだけです」
その口調が冷たい。
冷たい目で見つめられて、冷たい口調で言い捨てられ、普通の人間なら萎縮するだろう。
「ああ、守ってくれよ。俺はまだ死ねねーからさ」
真幸が楽しそうに言う。
「大量に買ったコンドーム、無駄に出来ないんでね」
真幸の言葉に工はフッと笑う。
「面白い方だ。自分の置かれてる立場をわかってますか?」
「……最近、よく笑うようになったな。やっぱ俺に懐いてんじゃん」
楽しそうに真幸は言う。
工のネクタイを掴むと引っ張り、耳元に唇を寄せた。
「俺のしゃぶったの忘れられなくなったか?俺をそう言う目で見てる?」
真幸の美しい顔がそばにあり、工は真幸が見れない。鼓動が早くなる。
「なーんちゃって」
パッと真幸が離れた。からかわれたと分かり工はまた冷静な顔になる。
「お前、最近男抱いてるのか?」
真幸の質問に運転手兼ボディカードがギョッとする。
工は顔色を変えずに窓の外を眺める。窓に映る工は寂しそうな目をしている。
物悲しそうな哀愁がイケメン度を上げており、母性本能が強い女だったら一発で堕ちるなと真幸は思った。
「もう何年も抱いて無いですね」
「最後に抱いたのは?」
真幸の言葉に、自分に抱かれ喘ぐ元恋人の姿が思い浮かんだ。
「……忘れました」
「忘れちまったか。疼かねー?身体」
真幸と工の会話に、運転手兼ボディガードは耳が大きくなっている。
「さあ。どうでしょうか」
あくまでも冷静にはぐらかす。真幸はフッと笑う。
「男欲しくなったら見繕ってやるぜ」
「お断りします」
「なんだよ、つまんねーなー」
「何をさせたいんですか?面白がってるだけですよね。五島組長がおっしゃっていた通りの人だ」
工は窓に映る真幸を見つめながら言った。
「なんて言ってたか想像つく」
笑って真幸は言う。
「多分ほぼ想像通りです」
工はまだ窓に映る真幸を見つめる。
「でも、そのおかげで貴方の命を守る覚悟ができました」
真幸はじっと工を見る。
「なにそれ、意味深」
「秘密です」
それを聞き出そうとしたが、車は幹部たちが待つ料亭に到着した。
真幸は渋々車から降りた。
料亭に入るまで、真幸の後ろに工がぴったりとくっつく。
「俺、そんなに酒強くねーんだ。幹部たちに飲まされまくるから、酔ったら介抱よろしくー」
そう言って真幸は座敷に消えていった。
疾風は血痕らしき物が飛沫していると、通報を受けた事件現場の高架下の河川敷に猫の死骸を見つけた。体を切り刻まれていて、今追っている事件は猟奇犯罪の匂いがした。
「主任!今回もサバイバルナイフが!」
先に駆けつけていた鑑識が見つけていた、証拠品を入れる袋にサバイバルナイフが入っていた。
「また同一の事件か。とにかく被害者が見つからない以上、犯行場所の血痕からどれだけ証拠が出るかだな」
この不可思議な事件のせいで、捜一は毎日多忙を極めていた。
被害者は何者かに傷つけられ、恐らく拉致監禁されているか、最悪死に至っているのではと推測された。
毎回発見されるのは、サバイバルナイフと身元が分からないDNA。
DNAに関しては科捜研の鑑定で、その後、捜索願が出されている家族のDNAと判明し身元が明らかになるが、サバイバルナイフは量産品で指紋も残っていないので、恐らく犯人がわざと挑発的に残していっている物だった。まるで警察の捜査を嘲笑うようだった。
犯行現場も一定ではなく、もうこの事件は4件目の発見であった。
今回も犯人に襲われ切りつけられ拉致されたと見られていた。
「とにかく付近の聞き込みと、各所轄との合同作業を綿密に詰めてくれ」
疾風の部下達は返事をすると、事件解決の為に奔走する。
つい先日真幸から、疾風用のゴムを大量購入したとメールが来たばかりだが、しばらくそれもお預けだなと疾風は苦笑した。
そしてその真幸は、暇さえあればスマホを見つめていた。
「頭、そろそろ時間です」
舎弟が今夜の宴席に出かける為に知らせにきた。
「ああ。全く、おっさんばかりと飲むと思うと気が滅入るぜ」
スマホをいじりながら真幸は言う。外に向かうと工は真幸にぴったりとくっつく。
「おいおい、外に出るたび、あんまりくっつくなよ、鬱陶しい」
文句を言うが、工の反応はつまらない。
「車に乗るまで我慢してください」
運転手兼ボディーガードが、ドアを開けると真幸が先に車に乗る。その間、ドアの入り口を工がガードする。そして工も真幸の隣に座るとドアを閉めた。
「なんかさー、わざと臭く無い?逆に狙ってくれって言っているようじゃん」
不満顔で真幸は言う。
「威嚇です。ここまで厳重だと知らしめれば、アホな鉄砲玉しか襲ってきませんよ」
「そのアホな鉄砲玉に撃たれたら?」
「撃たれるのは俺です。そして俺は撃った奴を仕留めます」
「……それで死んだら、そのあと、誰が俺を守るの?」
真幸が言うと、珍しく工がフッと笑う。
「俺は死にません。ちゃんと一生貴方をお守りします」
工は真幸を見ないが、自信たっぷりに言う。
「なになに?急に俺に懐いちゃって」
楽しそうに真幸は言う。工が冷たい瞳で真幸を見る。
あ、こいつのこの目。
疾風よりやべぇ。
本気で人を殺せる目だ。
「懐いてはいません。お守りするだけです」
その口調が冷たい。
冷たい目で見つめられて、冷たい口調で言い捨てられ、普通の人間なら萎縮するだろう。
「ああ、守ってくれよ。俺はまだ死ねねーからさ」
真幸が楽しそうに言う。
「大量に買ったコンドーム、無駄に出来ないんでね」
真幸の言葉に工はフッと笑う。
「面白い方だ。自分の置かれてる立場をわかってますか?」
「……最近、よく笑うようになったな。やっぱ俺に懐いてんじゃん」
楽しそうに真幸は言う。
工のネクタイを掴むと引っ張り、耳元に唇を寄せた。
「俺のしゃぶったの忘れられなくなったか?俺をそう言う目で見てる?」
真幸の美しい顔がそばにあり、工は真幸が見れない。鼓動が早くなる。
「なーんちゃって」
パッと真幸が離れた。からかわれたと分かり工はまた冷静な顔になる。
「お前、最近男抱いてるのか?」
真幸の質問に運転手兼ボディカードがギョッとする。
工は顔色を変えずに窓の外を眺める。窓に映る工は寂しそうな目をしている。
物悲しそうな哀愁がイケメン度を上げており、母性本能が強い女だったら一発で堕ちるなと真幸は思った。
「もう何年も抱いて無いですね」
「最後に抱いたのは?」
真幸の言葉に、自分に抱かれ喘ぐ元恋人の姿が思い浮かんだ。
「……忘れました」
「忘れちまったか。疼かねー?身体」
真幸と工の会話に、運転手兼ボディガードは耳が大きくなっている。
「さあ。どうでしょうか」
あくまでも冷静にはぐらかす。真幸はフッと笑う。
「男欲しくなったら見繕ってやるぜ」
「お断りします」
「なんだよ、つまんねーなー」
「何をさせたいんですか?面白がってるだけですよね。五島組長がおっしゃっていた通りの人だ」
工は窓に映る真幸を見つめながら言った。
「なんて言ってたか想像つく」
笑って真幸は言う。
「多分ほぼ想像通りです」
工はまだ窓に映る真幸を見つめる。
「でも、そのおかげで貴方の命を守る覚悟ができました」
真幸はじっと工を見る。
「なにそれ、意味深」
「秘密です」
それを聞き出そうとしたが、車は幹部たちが待つ料亭に到着した。
真幸は渋々車から降りた。
料亭に入るまで、真幸の後ろに工がぴったりとくっつく。
「俺、そんなに酒強くねーんだ。幹部たちに飲まされまくるから、酔ったら介抱よろしくー」
そう言って真幸は座敷に消えていった。
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