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生温い水
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買い物から帰ってきた工はキッチンで悩んでいた。
飯を作れと言っても、調理器具がほとんどない。
キッチンにオーブンレンジとカウンターにエスプレッソマシンしかない。
「食事を家で食べないんですか?」
「うん」
よくそれで夕飯を作れと言えたなと工は呆れる。
料理と言ってもステーキを焼いてサラダを作るぐらいしか工も考えていなかったので、肉はオーブンで焼くかと考える。
「包丁も無いんですか?まったく、どんな生活してるんですか」
ガランとしたキッチンに流石の工もお手上げだった。
「飯は外で食うもん。この部屋は寝るだけ」
ソファーに寝転がって真幸は言う。
「どうします?これじゃ作れません」
「何でよ。元自衛隊の腕が泣くだろ?」
「誤解されているようですが、自衛隊に居たからと言って、俺は料理得意では無いですよ」
「そうなの?勘違いしてたわ」
あははと真幸は笑う。
バイブが鳴ってメールに真幸は気がつくと慌ててスマホを見る。待ち焦がれていた疾風だった。
【てめぇ!何煽るような写メ送ってきやがって!もっと送れ】
メールを読んで真幸は微笑む。まるで少年のようだった。
その顔を見て、工は胸がズキッとした。
「帰ります。これ、俺が持ち帰りますから」
工はそう言うと、買い物袋を持ってキッチンを出る。
「待てよ。何とか作れよ。腹減った」
「じゃあ、ピザでも頼みましょうか?」
工の提案に真幸はブスッとする。
「今回はそれで許してやる。次は作れよ」
真幸のワガママに工はため息をついた。
「そう言やまだ聞いてなかったな。ムショ入ってた理由」
ピザを食べながら真幸は言う。
「別に聞きたく無いですよね。そんなもの興味無いですよね。言いません」
頑なに工は口を閉じる。目が死んでいる。
「バカだろ、お前。言いませんなんて言えば言わせるだけなんだよ。言えや」
真幸は面白がって言う。
「言わせるってどうやって?いざとなれば、俺の方が先に頭、殺れますよ」
冷酷な目に真幸は笑う。
「だな。バーカ、バーカ、バーカ。お前なんかうーんこ」
子供かと工は冷ややかに笑う。
「つまんねーな」
真幸はそう言ってピザを頬張る。
「ハヤテ、って誰ですか?」
ぐっと真幸は喉を詰まらせそうになる。
「な、何がよ!」
真幸は焦る。
「いえ。先日酔っ払った時、ハヤテと何度も口に出ていたので」
冷静に言う工に真幸は返す言葉が見つからない。
「……それだけか?」
「はい?」
「他に、何か言っていたか?」
疾風に挿れて欲しいと口ずさみ、ボクサーパンツ1枚で、枕を抱きしめ腰を激しく振っていた姿を思い出す。
「……それだけだったと思います」
絶対それだけじゃなかったと真幸は確信して、食欲が一気になくなった。
「分かったんだろ。俺の、こと」
工は黙ったまま、冷静な目で真幸を見つめる。
「あーあ。バレちゃったのね。まぁ、まだお前だから良いか」
真幸は開き直って笑う。
「そう言うこと。俺のケツはそいつ専用なんだよ」
真幸はそう言うと、ピザを食べる。
「個人の自由だと思います」
工の言葉が妙にしっくりきた。
「だな。誰にも言うなよ。俺とお前の秘密な」
真幸は工を見ない。工はピザに始めて手を出した。
「王様の耳はロバの耳、ですね」
「お前ッ!殺すぞ」
真幸が真っ赤になると工はピザを食べながら楽しそうに笑った。
「なんだよ。お前笑えるんじゃん。いつもしかめっ面で、獲物を探してるような目をしてるだけのくせに」
「頭が、あまりにも面白すぎて。子供というか、子供というか、子供で」
「お前ッ!何度子供連呼してんだよ!」
フッと真幸は笑う。
「だな、ガキだな。なんか知らねーけど、お前に心許してるんだろうな」
工は意外という顔で真幸を見る。
「何よ、その意外だーって顔」
「いえ。意外だったんで」
「それだけ信用してんだよ。お前は必ず俺を助けてくれるってね」
真幸はじっと工を見つめる。工も真幸を見つめる。
「そうですね、それが俺の仕事なんで」
工が目をそらして言う。耳が赤い。
「バーカ。照れんなよ」
優しい目で真幸は言う。
「照れます。頭は俺の心を乱してばかりだ。予感があったんです。初めて会った時から。いつかこんな気持ちになるって。頭をしゃぶって後悔してるのは俺です」
真幸は工をじっと見つめる。
「でもいつか、頭の盾になって死んでも後悔はないです」
あの夜、真幸の記憶にない疾風の身代わりとは言え、自分の口で喘ぎ果てた真幸を思い出す。もうそれだけで良いと思った。
「バーカ。盾になっても死ぬなよ。ヨボヨボのジジィになって、もう寿命でくたばるまで後悔しながら生きろ」
「……ヨボヨボのジジィか。きっと俺より頭の方が先にくたばりますね」
ニヤっとして工は言う。
「てめぇ。今ぶっ殺してやる!」
激怒する真幸に、工は笑う。こんな関係が、今は心地いい工だった。
飯を作れと言っても、調理器具がほとんどない。
キッチンにオーブンレンジとカウンターにエスプレッソマシンしかない。
「食事を家で食べないんですか?」
「うん」
よくそれで夕飯を作れと言えたなと工は呆れる。
料理と言ってもステーキを焼いてサラダを作るぐらいしか工も考えていなかったので、肉はオーブンで焼くかと考える。
「包丁も無いんですか?まったく、どんな生活してるんですか」
ガランとしたキッチンに流石の工もお手上げだった。
「飯は外で食うもん。この部屋は寝るだけ」
ソファーに寝転がって真幸は言う。
「どうします?これじゃ作れません」
「何でよ。元自衛隊の腕が泣くだろ?」
「誤解されているようですが、自衛隊に居たからと言って、俺は料理得意では無いですよ」
「そうなの?勘違いしてたわ」
あははと真幸は笑う。
バイブが鳴ってメールに真幸は気がつくと慌ててスマホを見る。待ち焦がれていた疾風だった。
【てめぇ!何煽るような写メ送ってきやがって!もっと送れ】
メールを読んで真幸は微笑む。まるで少年のようだった。
その顔を見て、工は胸がズキッとした。
「帰ります。これ、俺が持ち帰りますから」
工はそう言うと、買い物袋を持ってキッチンを出る。
「待てよ。何とか作れよ。腹減った」
「じゃあ、ピザでも頼みましょうか?」
工の提案に真幸はブスッとする。
「今回はそれで許してやる。次は作れよ」
真幸のワガママに工はため息をついた。
「そう言やまだ聞いてなかったな。ムショ入ってた理由」
ピザを食べながら真幸は言う。
「別に聞きたく無いですよね。そんなもの興味無いですよね。言いません」
頑なに工は口を閉じる。目が死んでいる。
「バカだろ、お前。言いませんなんて言えば言わせるだけなんだよ。言えや」
真幸は面白がって言う。
「言わせるってどうやって?いざとなれば、俺の方が先に頭、殺れますよ」
冷酷な目に真幸は笑う。
「だな。バーカ、バーカ、バーカ。お前なんかうーんこ」
子供かと工は冷ややかに笑う。
「つまんねーな」
真幸はそう言ってピザを頬張る。
「ハヤテ、って誰ですか?」
ぐっと真幸は喉を詰まらせそうになる。
「な、何がよ!」
真幸は焦る。
「いえ。先日酔っ払った時、ハヤテと何度も口に出ていたので」
冷静に言う工に真幸は返す言葉が見つからない。
「……それだけか?」
「はい?」
「他に、何か言っていたか?」
疾風に挿れて欲しいと口ずさみ、ボクサーパンツ1枚で、枕を抱きしめ腰を激しく振っていた姿を思い出す。
「……それだけだったと思います」
絶対それだけじゃなかったと真幸は確信して、食欲が一気になくなった。
「分かったんだろ。俺の、こと」
工は黙ったまま、冷静な目で真幸を見つめる。
「あーあ。バレちゃったのね。まぁ、まだお前だから良いか」
真幸は開き直って笑う。
「そう言うこと。俺のケツはそいつ専用なんだよ」
真幸はそう言うと、ピザを食べる。
「個人の自由だと思います」
工の言葉が妙にしっくりきた。
「だな。誰にも言うなよ。俺とお前の秘密な」
真幸は工を見ない。工はピザに始めて手を出した。
「王様の耳はロバの耳、ですね」
「お前ッ!殺すぞ」
真幸が真っ赤になると工はピザを食べながら楽しそうに笑った。
「なんだよ。お前笑えるんじゃん。いつもしかめっ面で、獲物を探してるような目をしてるだけのくせに」
「頭が、あまりにも面白すぎて。子供というか、子供というか、子供で」
「お前ッ!何度子供連呼してんだよ!」
フッと真幸は笑う。
「だな、ガキだな。なんか知らねーけど、お前に心許してるんだろうな」
工は意外という顔で真幸を見る。
「何よ、その意外だーって顔」
「いえ。意外だったんで」
「それだけ信用してんだよ。お前は必ず俺を助けてくれるってね」
真幸はじっと工を見つめる。工も真幸を見つめる。
「そうですね、それが俺の仕事なんで」
工が目をそらして言う。耳が赤い。
「バーカ。照れんなよ」
優しい目で真幸は言う。
「照れます。頭は俺の心を乱してばかりだ。予感があったんです。初めて会った時から。いつかこんな気持ちになるって。頭をしゃぶって後悔してるのは俺です」
真幸は工をじっと見つめる。
「でもいつか、頭の盾になって死んでも後悔はないです」
あの夜、真幸の記憶にない疾風の身代わりとは言え、自分の口で喘ぎ果てた真幸を思い出す。もうそれだけで良いと思った。
「バーカ。盾になっても死ぬなよ。ヨボヨボのジジィになって、もう寿命でくたばるまで後悔しながら生きろ」
「……ヨボヨボのジジィか。きっと俺より頭の方が先にくたばりますね」
ニヤっとして工は言う。
「てめぇ。今ぶっ殺してやる!」
激怒する真幸に、工は笑う。こんな関係が、今は心地いい工だった。
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