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秘匿の水
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美緒が婚約者の比留間千穂を連れて、泉水のオフィスに結婚の報告にやってきた。
千穂は、美緒の大学時代からの同級生で、バイオリニストだった。
今まで美緒との共演もなかったので、泉水は千穂の存在を全く知らなかった。
「そうか、美緒君も結婚か。素敵な女性を見つけたね」
千穂はお世辞にも、美女と言う訳ではなかったが、笑顔がチャーミングで包容力のある様な優しい顔をしていた。
「正式に決まりましたので、泉水さんに1番に報告したくて。この後、事務所にも行って、社長にも報告します」
美緒は幸せそうに千穂と手を繋ぎ、嬉しそうに言う。
「結婚式にしても、これからの生活にしても、私にできることはなんでも言ってくれ。なんでも協力させてもらうよ」
泉水も幸せな気持ちになっていた。
「ありがとうございます。結婚式は来年の春にしようと決めているんです。大学時代の友人達が、色々プランを考えていてくれて助かってます。泉水さんにもスピーチをお願いしたいのですが」
「もちろん!私も楽しみだよ」
泉水が快諾してくれて、美緒も千穂もホッとした。
「千穂には、今以上に苦労をかけてしまいますが、困難も2人で乗り越えようと約束したので、これからは僕と千穂と、よろしくお願いいたします」
改まった挨拶に、泉水も神妙な顔になった。
「美緒君なら、きっと素晴らしい家庭を築いていくと信じている。千穂さん。困った時はなんでも相談してくれ。遠慮は無用だからね」
泉水が千穂に微笑みながら言うと千穂も笑顔で頷く。
「これからも、美緒を支えていきます。至らないところもあると思いますが、よろしくお願いいたします」
千穂は泉水に深々とお辞儀をする。
「正直、ここに至るまで簡単ではありませんでした。千穂のご両親からも実は反対されていました。僕の目が見えないことは、それだけ千穂の負担になります。綺麗事だけでは生活はできません。でも何度も話し合って、やっと千穂のご両親も許してくれました。だからこそ、僕は千穂に後悔だけはさせたくありません。これからもお互い壁にぶつかろうとも、よく話し合って解決していこうと約束しました」
美緒の決心に泉水は感服していた。
ただ感情だけではない。
ちゃんとお互いを思い遣って結論に至ったのだと思うと、2人の絆の強さを見せてもらえた気がした。
「美緒君には教えられてもらってばかりだ。これからも美緒君に色々教えてもらうことが増えていきそうだ」
本心で泉水は言った。美緒は嬉しそうに笑う。
「いえ。泉水さんはもう答えを出しています。その方と幸せになる」
美緒の言葉に泉水は赤面した。
知らないはずなのに、ワタルの存在を、もう美緒が知っていそうな気がした。
泉水の次のアポの時間が迫っていたので、美緒と千穂は泉水のオフィスを後にした。
泉水は2人をエレベーターまで見送ると、幸せな気持ちのままオフィスに戻った。
メールが来て、泉水はスマホを見る。
やっとメルアドを教えてくれた田中さんが、前に銀座で作った、泉水とワタルのスーツが家に届いたことをメールで教えてくれたのだった。
スーツが届いたら、ワタルを連れていきたい場所があった。泉水は今夜ワタルに話をするのが楽しみだった。
泉水は夜に経団連の集まりがあり家に帰るのが遅かったが、ワタルはもう家にいて部屋で寛いでいた。
「ただいま。舞子さんから聞いた?スーツが届いているんだけど」
「おかえりなさい。うん。もうクローゼットにしまっておいたよ」
「そうか。ありがとう」
泉水は笑顔で言うと、スーツを脱いでクローゼットを開けた。
「ねえ、ワタル。今度の休み、これを着て一緒に出かけて欲しいんだ。連れていきたい場所がある」
穏やかな顔で泉水はワタルに言う。
「うん!楽しみだな!」
嬉しそうにワタルが言うと泉水のそばに寄る。
「僕は直接聞いてないんだけど、社長から美緒さんが結婚するって聞いた。泉水さんの会社にも挨拶に行ったでしょ?」
美緒の結婚をワタルも祝福していた。
「ああ。とても素敵な女性だった。幸せそうだったよ」
泉水がそう言うと、ワタルは少し悲しそうな目で泉水にキスをした。
「結婚式、楽しみだね」
ワタルはそう言うと泉水から離れた。
「お風呂入ってきて。僕はもう入っているから」
泉水は優しい目でワタルを見つめるとバスルームに入って行った。その姿をワタルは見つめた。
ワタルだって分かってはいる。
どうあがいても、泉水と今以上の関係になれないことは。
それでも、祝福される美緒を羨ましく思う。
前に泉水はいつか海外で結婚式をあげようと言ってくれた。
確かに嬉しかった。
でもその約束だって、本当に叶うかも保証はない。
唯一の救いは、田中さんと桐生に認めてもらえていると言うこと。
それだけで満足しようとワタルは自分に言い聞かせるが、やはり美緒の話を聞いたら羨ましくてたまらなくなった。
悶々と考えていると泉水が風呂から上がってきた。
いつまでも暗い顔をしているわけにもいかず、ワタルは泉水にいつもの笑顔を見せた。
千穂は、美緒の大学時代からの同級生で、バイオリニストだった。
今まで美緒との共演もなかったので、泉水は千穂の存在を全く知らなかった。
「そうか、美緒君も結婚か。素敵な女性を見つけたね」
千穂はお世辞にも、美女と言う訳ではなかったが、笑顔がチャーミングで包容力のある様な優しい顔をしていた。
「正式に決まりましたので、泉水さんに1番に報告したくて。この後、事務所にも行って、社長にも報告します」
美緒は幸せそうに千穂と手を繋ぎ、嬉しそうに言う。
「結婚式にしても、これからの生活にしても、私にできることはなんでも言ってくれ。なんでも協力させてもらうよ」
泉水も幸せな気持ちになっていた。
「ありがとうございます。結婚式は来年の春にしようと決めているんです。大学時代の友人達が、色々プランを考えていてくれて助かってます。泉水さんにもスピーチをお願いしたいのですが」
「もちろん!私も楽しみだよ」
泉水が快諾してくれて、美緒も千穂もホッとした。
「千穂には、今以上に苦労をかけてしまいますが、困難も2人で乗り越えようと約束したので、これからは僕と千穂と、よろしくお願いいたします」
改まった挨拶に、泉水も神妙な顔になった。
「美緒君なら、きっと素晴らしい家庭を築いていくと信じている。千穂さん。困った時はなんでも相談してくれ。遠慮は無用だからね」
泉水が千穂に微笑みながら言うと千穂も笑顔で頷く。
「これからも、美緒を支えていきます。至らないところもあると思いますが、よろしくお願いいたします」
千穂は泉水に深々とお辞儀をする。
「正直、ここに至るまで簡単ではありませんでした。千穂のご両親からも実は反対されていました。僕の目が見えないことは、それだけ千穂の負担になります。綺麗事だけでは生活はできません。でも何度も話し合って、やっと千穂のご両親も許してくれました。だからこそ、僕は千穂に後悔だけはさせたくありません。これからもお互い壁にぶつかろうとも、よく話し合って解決していこうと約束しました」
美緒の決心に泉水は感服していた。
ただ感情だけではない。
ちゃんとお互いを思い遣って結論に至ったのだと思うと、2人の絆の強さを見せてもらえた気がした。
「美緒君には教えられてもらってばかりだ。これからも美緒君に色々教えてもらうことが増えていきそうだ」
本心で泉水は言った。美緒は嬉しそうに笑う。
「いえ。泉水さんはもう答えを出しています。その方と幸せになる」
美緒の言葉に泉水は赤面した。
知らないはずなのに、ワタルの存在を、もう美緒が知っていそうな気がした。
泉水の次のアポの時間が迫っていたので、美緒と千穂は泉水のオフィスを後にした。
泉水は2人をエレベーターまで見送ると、幸せな気持ちのままオフィスに戻った。
メールが来て、泉水はスマホを見る。
やっとメルアドを教えてくれた田中さんが、前に銀座で作った、泉水とワタルのスーツが家に届いたことをメールで教えてくれたのだった。
スーツが届いたら、ワタルを連れていきたい場所があった。泉水は今夜ワタルに話をするのが楽しみだった。
泉水は夜に経団連の集まりがあり家に帰るのが遅かったが、ワタルはもう家にいて部屋で寛いでいた。
「ただいま。舞子さんから聞いた?スーツが届いているんだけど」
「おかえりなさい。うん。もうクローゼットにしまっておいたよ」
「そうか。ありがとう」
泉水は笑顔で言うと、スーツを脱いでクローゼットを開けた。
「ねえ、ワタル。今度の休み、これを着て一緒に出かけて欲しいんだ。連れていきたい場所がある」
穏やかな顔で泉水はワタルに言う。
「うん!楽しみだな!」
嬉しそうにワタルが言うと泉水のそばに寄る。
「僕は直接聞いてないんだけど、社長から美緒さんが結婚するって聞いた。泉水さんの会社にも挨拶に行ったでしょ?」
美緒の結婚をワタルも祝福していた。
「ああ。とても素敵な女性だった。幸せそうだったよ」
泉水がそう言うと、ワタルは少し悲しそうな目で泉水にキスをした。
「結婚式、楽しみだね」
ワタルはそう言うと泉水から離れた。
「お風呂入ってきて。僕はもう入っているから」
泉水は優しい目でワタルを見つめるとバスルームに入って行った。その姿をワタルは見つめた。
ワタルだって分かってはいる。
どうあがいても、泉水と今以上の関係になれないことは。
それでも、祝福される美緒を羨ましく思う。
前に泉水はいつか海外で結婚式をあげようと言ってくれた。
確かに嬉しかった。
でもその約束だって、本当に叶うかも保証はない。
唯一の救いは、田中さんと桐生に認めてもらえていると言うこと。
それだけで満足しようとワタルは自分に言い聞かせるが、やはり美緒の話を聞いたら羨ましくてたまらなくなった。
悶々と考えていると泉水が風呂から上がってきた。
いつまでも暗い顔をしているわけにもいかず、ワタルは泉水にいつもの笑顔を見せた。
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