鳴かない杜鵑-ホトトギス-(鳴かない杜鵑 episode1)

五嶋樒榴

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秘匿の水

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泉水、聖、真幸の3人は人間ドックが終わった飯塚組長を家に送り届けながら家の庭で話をしていた。
ガーデンチェアに座って、来年始動の構想であり、もう飯塚組長にもバレていた有人宇宙ロケットの話で盛り上がる。

「親父達にもうバレていたのは悔しい。全く、あの人らの御庭番はどこにいるのか分かりゃしない」

泉水がそう言うと聖と真幸は笑った。

「でも、反対してないと言うことは、私達の考えを潰すつもりはないわけだ。やりたいようにやりましょうよ」

楽しそうに、このプロジェクトの第一声を上げた聖が言う。

「しかし、あんた達のプロジェクトにヤクザの俺は邪魔だろ?足を引っ張りかねないぜ」

泉水と聖は笑う。

「分かってるくせに。ご自分の役割を」

聖が言うと真幸はフフフと笑う。

「まあ、ジィさんほどの仕事ができるかは分からんけどな」

真幸の意味深な言葉に泉水と聖は笑う。
日本の政財界は、新たな若い獅子達をも敵に回すことになったようだった。

「しかし、なぜ日本で有人宇宙ロケットを?JAXAだって色々な問題からなかなか先に進んでない話だろう?」

真幸が聖に尋ねる。

「確かに問題は山積みですが、黒崎と御笠で資金問題はまずクリアできる。それと、私がまだアメリカにいた時に知ったことですが、7、8年程前から、人工知能のエネルギー資源と宇宙ロケットを研究している日本人の科学者がいるんですよ。タイガ・ナツイ。その彼をこのプロジェクトに招聘して、出来ることなら是非ヘッドハンティングしたいと思っているのですが、現実に口説き落とすのは正直難しいです。でも彼が提唱するエネルギー資源を確保出来れば、もっと安価に安全に有人ロケットを飛ばすことも可能です。私はその未来に賭けたい」

聖が熱く語るので、真幸と泉水は顔を見合す。ちんぷんかんぷんで聖の言っていることが全く分からない。
ただ、タイガ・ナツイと聞いて、昔、そんな名前の男が、伊丹の近くにいた気がした。しかし、そんな偉い科学者の訳はないと思い、記憶違いだなと真幸は思った。

「どうやら我々も、もっと勉強しないと無理な様だね」

泉水が照れながら言う。

「だな」

真幸も同意すると、3人はあははと笑った。

「しかし、真幸さんはずるいな。もうとっくに私のことを知っていて、自分は知らん顔だものね。よくも黙ってくれていましたね」

恨めしそうに泉水は言う。真幸はフッと笑う。
地面師事件の時に、泉水の正体を実は知っていたと言われて泉水は面白く無かった。

「できればバラしたく無かった。あのバーでたまに会う顔見知り程度で良かった。結局俺はヤクザだ。あんたと深いつながりになる事はないと思っていた」

真幸の言葉に泉水は笑う。

「取り越し苦労でしたけどね。まあ、結果論だけど」 

泉水と真幸は笑うが、聖は話についていけなかった。

「ちょっと、お二人はもう顔見知りだったんですか?私を除け者にしないでくださいよ!」

最年少の聖がいじけるので泉水と真幸は笑う。

「でもそう思うと、不思議な縁ですよね。私は真幸さんの正体を知らぬまま田嶋さんとも出会った。真幸さんの人脈は、私と共通する部分が多かった。出会うべくして、出会ったんでしょうね、きっと」

泉水の言葉に、真幸は満足気に微笑む。
この2人は知らないが、その中に、流星と疾風も関わっていた事は、この先もずっと知る事はない。絡んだ運命の赤い糸は、知らぬ間に解れていたのだ。

「そして私もいることをお忘れなく」

聖が食い込んでくる。こう言う自己主張が激しいところは、やはりボンボンだなと真幸は笑う。だが結局憎めないのである。

「確かに私達を繋いだのは、聖君の曽祖父さんだものね。曽祖父さんのお陰でこれだけ強力な力を私達は受け継いできたわけだ」

泉水も真幸も、父や祖父を超えたいと思っていると聖は分かっている。
聖もいつか昴を超える実業家になりたいと言う野望がある。

「いつかきっと、私達で天下を取りましょうね!」

若いな、単純だなと、泉水と真幸は聖を見て笑った。

「もぉ!何笑ってるんですか!気になるじゃないですか!」

結局聖は、いじられキャラというポジションを得たのだった。

「でもね、権力は時に魔物だ」

しみじみと泉水は口を開いた。

「私は、当麻議員の秘書が殺害された後に、当麻議員の娘から譲り受けた秘密のノート燃やしたんだ。それは金と権力にまみれた代物だった。ノートを見たその時は、世の中の数多の悪を知ってしまったと思い、パンドラの箱を開けてしまったと後悔した」

真幸になら、あのノートの存在をもう話しても大丈夫だと思った。
その話を聞いた真幸は朧気な記憶の中に、その当時、政龍組の幹部が当麻の身辺を探っていたことを思い出した。
まさかその狙っていたものを、泉水が灰にしていたとは思いもよらなかった。

「燃やして良かったと思うよ。もう全て終わったことだ。過去を葬らないと未来には進めない」

真幸の言葉に泉水は微笑んだ。
見えない糸に導きられながら、結果若き3人に引き継がれた物は、パンドラの箱に残っていた希望だったのかもしれない。





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