溢れる雫

五嶋樒榴

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cocktail

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もうすぐ夏休みも始まる前の大学4年にもなると、来年から始まる病院実習などを控えて、同級生達は遊んでる時間は皆無だった。
顕人は奈利子と大学内のカフェにいた。奈利子が調べ物をしていた所に顕人が同じテーブルに着いたのだ。
「奈利子は今年も夏休みは実家に帰るの?」
奈利子は秋田が実家だった。今は女子寮で生活している。
寮といっても、門限はあるものの食事は自由なので、長期の休みになっても寮が空になる事は無かった。
奈利子は色白で、ちょっとふっくらした、マシュマロみたいに可愛い子と言うのが顕人の第一印象だった。
「今年はお盆だけ帰るつもり。後は、後期の準備もしないといけないし、遊んでる時間もないしね」
屈託のない笑顔で奈利子は言う。顕人は奈利子の笑顔で癒される。
初めて会った時から顕人と奈利子は直ぐに友達になった。
奈利子は首席入学した割に、一見ガリ勉タイプにも見えず、誰とでも普通にすぐ仲良くなれる天真爛漫さがあり、一緒にいればいるほど好きになっていく自分がいた。
奈利子も顕人を他の友人とは違うと思っていた。背が高く、そこそこイケメン眼鏡男子。女の子達にも人気があり、大きな総合病院の跡取り息子と言う割に嫌味なところもなく、金持ちをひけらかすわけでもない。確かに世間知らずなところはあるが、それも愛嬌と思っていた。
お互い友達以上の感情を持ってはいたが、でもこの関係を崩さないように、お互いそれ以上歩み寄ろうとは思わなかった。
「後2年、奨学金も欲しいし。毎年判定だから、毎回首席はめっちゃ大変なんだよ」
この大学独自の奨学金は、毎年その年の学力及び人物が特に優れている者に、授業料全額免除としていた。
奈利子はこの4年間奨学金を受けていた。とにかく凄い才女でもある。
「顕人は、夏休み遊んでそう」
笑いながら奈利子は言った。
「そんな事ないさ。俺だってやりますよ、勉強。じゃないと……」
ん?と言う顔で奈利子は顕人を見た。
「俺さ、最近進路で迷ってる。俺はどんな医者になりたいのかなって。医師免許取れて、ここの大学病院の医者になって、そのあとは?って。奈利子もここの大学病院に行くつもりでしょ?」
顕人の問いに、奈利子は首を振った。
「卒業したら、アメリカに行くつもり」
顕人はびっくりした。
「え?だって、奨学金を受けるには、卒業後は院に行くか、大学病院に籍を置くことになってるだろ」
奈利子は頷いた。
「まだ公になってないんだけど、日本でも受験できるUSMLE(米国医師免許試験)の科目に合格できれば、再来年から首席卒業者は、希望すれば留学してアメリカの医師免許を取得して、アメリカでインターンとして学べることになったの。そのままレジデントとして研修することも可能だそうよ。大学側は卒業生のその実績が欲しいのよ」
それはちょうど、顕人達が該当する年度だった。
「そんな……」
どんどん先を行こうとする奈利子に顕人は焦った。
まだ自分はなにも決められていないのに。奈利子の側にいたくて、小児科医になるなんて思っていたのに。そんなちっぽけな志だったのに。

顕人くんは、もっと考えないと彼女に振り向いてもらえませんよ。

マスターの言葉が顕人の頭の中で響いた。
「アメリカの最先端医療を学んで、小児外科医になって、世界中の子供達を一人でも多く救いたい」
希望に満ちた眼差し。未来予想図があるから、奈利子は前に進んでいけるんだと顕人は思った。
「まずはそのUSMLEに合格できないとアメリカに行くことも無理だけどね」
奈利子はそう言ったが、顕人は奈利子ならきっとアメリカに行くだろうと思った。
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