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番外編・今宵満ちる月
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私のホテルに彼女が到着したのは、もう21時を過ぎていた。
私の日本での仕事は、アフリカでの再生可能エネルギー事業についての報告と会議だけだったので、飲みの誘いも誤魔化しながら断り早目にホテルの部屋に戻っていた。
彼女は遅くなるとメールをくれていたので、夕食は一緒にできないと思い、コーヒーショップで買ってきたカフェオレと、ホテルのベーカリーで買ったサンドウィッチで腹を満たした。
テレビを見ながらベッドに横になっていると部屋のチャイムが鳴った。
「遅くなってごめんなさい」
ドアを開けると、彼女はにっこり笑って私に抱きついてきた。
久しぶりの柔らかい感触と彼女の香りに、私の胸は踊っていた。
これはもう、彼女の答えなのだろうかと私は深読みする。
「昨日の話の続きをしてもいい?」
私が言うと、彼女は私からそっと離れた。
真っ直ぐに私を見る目は、喜びには満ちていない。
その瞬間分かってしまった。
ああ、そっちなんだね、と心の中で呟いた。
「私は、やっぱりあなたの元には行けない。昨日会ってから、ずっと仕事を捨ててもいいと思った。でも、今日仕事をしていて無理だって分かったの。今の仕事が好きなの。ごめんなさい」
彼女の目から涙が零れてきた。
私の顔も、きっと泣きそうだっただろう。
予感はあった。無理だろうと。
でも僅かでも希望を持っていた。
昨日会った時、今でもお互い愛していると実感したから。
ダメな事は分かったが、私は今夜、彼女を帰したくなかった。
「今夜は、朝まで一緒にいたい。駄目かな?往生際が悪いかな」
私の言葉に彼女は首を振る。
もう二度と会えないなら最後の夜に、彼女の温もりが欲しかった。
それは私の最後のわがままだった。
そしてそれを受け入れてくれた彼女。
彼女の気持ちに甘えてしまった。
でも今甘えないと後悔する。
何もないまま彼女を失った後に、異国で孤独な時間を過ごすのが怖かった。
そんな、狡くて弱い自分を曝け出しながら私は彼女を抱いた。
数年ぶりの彼女の肌は、あの頃よりまろやかな気がした。
柔らかな肌が吸い付くように、私の肌に熱を伝えてくれる。
触れ合う唇が、彼女の香りが、昔のふたりに戻しながら、現在のふたりに戻してしまう。
彼女の中で私は何も考えたくなかった。
アフリカに戻ることも、この夜が明けたら彼女と別れることも、何も考えたくなかった。
ただ蕩けるような感覚だけに痺れていたかった。
熱いキスを繰り返しながら、ただ彼女に溺れていた。
このまま離したくないと思いながら、私の腕に抱かれる彼女を愛おしく包みながら、あっという間に朝を迎えていた。
私の日本での仕事は、アフリカでの再生可能エネルギー事業についての報告と会議だけだったので、飲みの誘いも誤魔化しながら断り早目にホテルの部屋に戻っていた。
彼女は遅くなるとメールをくれていたので、夕食は一緒にできないと思い、コーヒーショップで買ってきたカフェオレと、ホテルのベーカリーで買ったサンドウィッチで腹を満たした。
テレビを見ながらベッドに横になっていると部屋のチャイムが鳴った。
「遅くなってごめんなさい」
ドアを開けると、彼女はにっこり笑って私に抱きついてきた。
久しぶりの柔らかい感触と彼女の香りに、私の胸は踊っていた。
これはもう、彼女の答えなのだろうかと私は深読みする。
「昨日の話の続きをしてもいい?」
私が言うと、彼女は私からそっと離れた。
真っ直ぐに私を見る目は、喜びには満ちていない。
その瞬間分かってしまった。
ああ、そっちなんだね、と心の中で呟いた。
「私は、やっぱりあなたの元には行けない。昨日会ってから、ずっと仕事を捨ててもいいと思った。でも、今日仕事をしていて無理だって分かったの。今の仕事が好きなの。ごめんなさい」
彼女の目から涙が零れてきた。
私の顔も、きっと泣きそうだっただろう。
予感はあった。無理だろうと。
でも僅かでも希望を持っていた。
昨日会った時、今でもお互い愛していると実感したから。
ダメな事は分かったが、私は今夜、彼女を帰したくなかった。
「今夜は、朝まで一緒にいたい。駄目かな?往生際が悪いかな」
私の言葉に彼女は首を振る。
もう二度と会えないなら最後の夜に、彼女の温もりが欲しかった。
それは私の最後のわがままだった。
そしてそれを受け入れてくれた彼女。
彼女の気持ちに甘えてしまった。
でも今甘えないと後悔する。
何もないまま彼女を失った後に、異国で孤独な時間を過ごすのが怖かった。
そんな、狡くて弱い自分を曝け出しながら私は彼女を抱いた。
数年ぶりの彼女の肌は、あの頃よりまろやかな気がした。
柔らかな肌が吸い付くように、私の肌に熱を伝えてくれる。
触れ合う唇が、彼女の香りが、昔のふたりに戻しながら、現在のふたりに戻してしまう。
彼女の中で私は何も考えたくなかった。
アフリカに戻ることも、この夜が明けたら彼女と別れることも、何も考えたくなかった。
ただ蕩けるような感覚だけに痺れていたかった。
熱いキスを繰り返しながら、ただ彼女に溺れていた。
このまま離したくないと思いながら、私の腕に抱かれる彼女を愛おしく包みながら、あっという間に朝を迎えていた。
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