拙さと、儚さと、喧しさと。~『桃髪家の一族』と呼ばれる家系で、知らない間に『薄っぺらい本』の主役級キャラにされている僕~

殿馬 莢

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第10章 太陽を背に受けて

エピソード58-32

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町工場 カズマの夢――

 長い間人工琥珀に閉じ込められていた精霊族の少女を買い取ったカズマ。
 町工場でアルバイトをしているシズマを頼り、特殊な光線で人工琥珀を融解させる事に成功した。
 照明を落とし、暫く放置した後、様子を見に行くと言ったカズマが直ぐに戻ってきた。

「兄者! 大変だ!」
「どうしたカズマ?」

 慌てて戻って来たカズマが言った。

「アイツがいない! どこにもいないんだ!」
「バカな!? 灰化は免れた筈だろう?」

 灰化とは、長い年月を真空状態で過ごした物をいきなり外気に晒した場合、物凄い速さで新陳代謝が行われた挙句、灰の様になってしまう現象である。
 カズマたちは装置があるガラス張りの作業スペースに足早に向かった。 

「いない……そんな筈が……」

 作業スペースをいろんな角度で調べるシズマ。

「本当に、 消滅してしまったのでしょうか?」
「わからん……」

 カトリーヌが声を掛けると、カズマは明らかに憔悴していた。
 すると、作業スペースの変化にシズマが気付いた。

「おい! 床が光ってるぞ?」
「えっ!?」

 カズマがガラス越しに作業スペースを覗くと、シズマが言う通り下の方が淡く発光している。
 そして、発光している何かがカズマの目の前にいきなり現われた。

「うわっ!?」
「だ、 大丈夫ですの? カズマ様?」
 
 驚いたカズマが尻もちをついた。

「カ、 カズマ様……あれを!」 
「イテテ。 どうしたカトリーヌ? ん?」

 カズマは腰をさすりながら、カトリーヌが指差す方を見た。


 パタパタパタ……


 カズマたちの前に、体長20cm程の少女が空中を浮遊している。
 背中に生えた四枚の昆虫の羽根の様なものを高速ではためかせながら。 

「生きていた。 成功だ!」
「飛んでいる……何と幻想的なのでしょう」

 シズマは右手を握り締め、カトリーヌは自分の目を疑っていた。
 少女が浮かない顔をしている事に、カズマは気付いた。

「良かった……ん? おい兄者! 水だ! 水をコイツに!」
「わかった!  とびきり美味い水を直ぐ用意する!」

 シズマはミネラルウォーターの栓を抜き、ストローを差した。

「カズマ、 お前がやれ」
「わ、 わかった」

 カズマはガラスに設置してある二つの作業用の穴に、ミネラルウォーターの瓶を入れると、それを見た精霊族がゆっくりと寄ってきた。

「喉が渇いたろう? 飲め」

 ストローを不思議そうに見ていた精霊族だったが、大きく口を開けてストローを口に含み、水を飲み始めた。

 ちゅぅぅぅぅ……

「凄い勢いで飲んでいますっ!」
「数百年ぶりの水だからな……」

 ひとしきり飲んで満足したのか、精霊族はストローから口を離した。

「しかし小さいな。 ストローでは飲みにくそうだ」
「何か代わりの物があれば良いのだが……」

 カズマとシズマが辺りをキョロキョロと見回している。
 それを見ていたカトリーヌが何か思い付いた。

「そうですわっ。 私に考えがあります」

 カトリーヌは出口付近に向かって叫んだ。

「セバス!!」
「お呼びですかお嬢様」シュタッ

 するとどこからともなく執事が工場に入って来た。

「急いで屋敷に戻り、 ごにょごにょ……」
「かしこまりました。 では」シュタッ

 カトリーヌから指示を受けた執事は、一礼して工場を早足で出て行った。

「凄いな。 まるで忍者だ」
「ウチのセバスは万能執事ですの。 ほら、 もう来ましたわ♪」

 そうこうしている内に、執事が荷物を持って工場に入って来た。

「お待たせいたしました。 こちらでよろしいでしたか?」

 執事が荷物を包んでいた布をさっと取った。

「そうそうこれです。 まぁ懐かしい」

 カトリーヌが執事に持って来させたのは、人形遊びに使っていた家のミニチュアだった。
 椅子やテーブル、ベッドが設置され、テーブルにはコップや皿、フォークとナイフまである。

「取り敢えずテーブルとベッドを中に入れておけ」
「わかった」

 カズマは作業用の穴からそれらを入れた。
 すると精霊族は興味を示し、コップを手に取っている。
 その光景は、奇跡的に違和感が無かった。

「成程。 サイズはほぼピッタリだな」
「そうでしょう? この子を見てピンときたのです」

 カトリーヌはドヤ顔でそう言った。

「それからこちらは、私からのささやかな贈り物です」
「気が利くわね。 さすがセバス♪」

 執事が取り出したのは、小分けにしたクッキーと果物だった。
 カズマが人形用のテーブルにそれらを置くと、精霊族が飛び付いたのはブドウだった。
 器用に皮をむき、口いっぱいに頬張ている。

「気に入って下さったようですね。 良かった」

 元気にブドウを食べているのを見て、カトリーヌは安堵した。
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