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しおりを挟む保刈ミラが受講を終え、大学の門から一歩踏み出したとき、その急報はもたらされた。見た目はウサギに似ているが、体毛が水色で、宙にぷかぷかと浮かぶ珍妙な動物の口から。
「ミラ、事件だぴょん! 変身して現場に急行するぴょん!!」
ミラは慌てて水色のウサギを掴むと、脇目も振らずに走りだし、人気のない路地裏に飛び込んだ。それでも辺りを警戒して、水色ウサギに顔を近づけから小声で凄んだ。
「ヨミくん、人のいるところで出てこないでって、ずっとお願いしてるでしょう?」
「そんなこと言われても困るぴょん、緊急事態だぴょん! はやくメダリオンに変身するぴょん!!」
手の中で、水色のウサギ・ツクヨミが激しく身を捩って暴れる。ミラは観念してツクヨミを離すと、どこからか青いメダルを取り出した。
「アクアマリンメダル、インストール!」
控えめに叫びながらメダルを胸に押し当てると、青い閃光がミラを包み込んだ。その光が明けたとき、そこに大学生・保刈ミラの姿はどこにもなかった。
煌びやかなビジューが散りばめられたパンプス。肘まで覆うレースの手袋。ワンピースはパーティドレスのように豪奢だが、どこかアニメチックな印象を受ける。青を基調とした風変わりな衣装だが、薄い金髪とベビーブルーの瞳を持つ美少女のミラにはよく似合っていた。
しかしミラ本人は気に入っていないようで、恥ずかし気に顔を伏せている。
「いつまで経っても慣れないなぁ、この格好……」
「ぶちぶち言ってないで、さっさとついてくるぴょん!」
ツクヨミが空に向かってどんどん上昇していくので、ミラはビルの壁を三角飛びで上って後を追った。
※
保刈ミラは、いわゆる正義の味方であった。
怪人や異星人といった、地球を侵略しようと目論む輩と戦ってきた正義の味方、アクアマリンメダリオン。それが保刈ミラの、もうひとつの姿だ。
ミラはビルからビル、屋根から屋根へと飛び移りながら、妖精・ツクヨミの話に耳を傾けていた。
「近頃、連続婦女子失踪事件が発生してたぴょん? 彼女らを誘拐した犯人が、異星人だという情報を手に入れたぴょん!」
「……誘拐された人たちは、無事なの?」
「わからないぴょん! とにかく、誘拐された人たちを一か所に集めて、何かしようと企んでいるらしいぴょん! その計画を阻止するのが、今回の任務ぴょん!」
詳細は不明だが、今は誘拐された女性たちの安否が危ぶまれる。ミラは、女性たちが集められているという場所へ急行した。
ツクヨミの案内で辿り着いた場所は、すでに閉業して数年経過している巨大なゲームセンターだった。高層ビルにも匹敵する高さで、この中から女性たちを捜し出すのは、骨が折れるであろうことが予想される。
ミラの懸念を嘲笑うかのように、ゲームセンターの中はかなり広かった。入り口にあった案内図によれば、かの巨大スラム街、九龍城を模して造られているとのことで、入り組んだ内部は暗さも手伝って退廃的な空気で満ちている。
「これは……私ひとりじゃとても調べきれないね……ヨミくん、ルビーさんを捜してきてもらえる?」
雰囲気に呑まれて不安に駆られたミラが、ツクヨミにとある人物をここに呼ぶよう頼んだ。
「ルビーと連絡が取れないぴょん?」
「うん……さっきから応援要請信号を出してるんだけど、応答がない。ルビーさんのことだから、この現場に向かってきてくれてるとは思うけど……なにかあってからじゃ遅いから、お願い」
「わかったぴょん、アクアも気をつけるぴょん!」
ツクヨミが、青い軌跡を描きながらゲームセンターから出ていく。
ルビーとは、ミラと同じくメダリオンのひとりである。長年、ミラと共にメダリオンとして地球を守ってきた歴戦の戦士、ルビーメダリオン。今日の地球の平和は、彼女なくしては有り得なかったと言われるほどの猛者だ。いまこの現場にルビーがいないことは、大きな不安要素でしかない。ミラは、はやくルビーがきてくれることを願いながら、慎重にゲームセンター内部を探索して回った。
一階は調べつくしたが、誘拐された女性たちはおろか、誘拐犯の姿すら見当たらない。二階の探索も不発に終わろうかという時分、奥の方からかすかな物音が聞こえ、ミラは誘拐犯に勘付かれるかもしれないという警戒を強めながら駆けていった。
行き当たりのところに、鉄格子があった。内装の一部のようだが、造りは頑丈な上、鎖と錠で扉はがっちりと閉ざされている。
その鉄格子の隙間から、手足を縄で縛られている幾人もの女性たちが見えた。誘拐されたという女性たちに違いないと確信を得たミラは、息を潜めて近づき、鉄格子を掴む。
「皆さん、ご無事ですか? 安心してください、いま助けます」
ミラが錠に手をかけた、そのときだった。
「うっ……?」
頸椎の辺りに強い衝撃が走り、視界が上下に大きく揺れる。瞬く間に立つ力が身体から抜け落ちて、ミラは鉄格子の前に呆気なく倒れてしまった。
気が遠くなっていく。狭まっていく視界で最後に捉えたものは、自分を見下ろす忍者のような格好をした黒い人影だった。
※
「う……ん……?」
ミラが意識を取り戻すと、すぐに身動きが取れないことに気が付いた。縄で両腕を後ろ手に縛られているばかりか、身体そのものが柱のようなものに縛り付けられている。周りには卓球台やらビリヤード台やらがいくつも設置されており、横を見ればダーツゲームの筐体が一列に並んでいた。どうやらミラは、そのダーツゲーム筐体のひとつに括りつけられているらしい。
「ようやくお目覚めか、退屈だったぞ」
目の前のビリヤード台に、黒装束を身に纏う、忍者然とした男が腰かけていた。ミラが目を覚ましたときにはいなかったはずなのに、忍者の佇まいはずっと前からそこに座っていたかのように悠然としている。
そういえば先ほど襲われたときも、忍者が背後から迫ってきていたことにまったく気づけなかった。この忍者は気配の絶ち方を知っているらしい。今まで相手にしてきた輩の中でも、相当に強い部類に入るだろうと、ミラは息を呑む。
しかし異星人だと聞いていたが、外見は地球人と変わらないように見える。もしかしたら、黒頭巾の下は目がひとつだったり、口が耳まで裂けていたりするかもしれないが、少なくとも現時点では成人男性が忍者のコスプレをしている、といった印象だ。
今までの敵といえば、西洋風ファンタジーゲームに見られるモンスターや、B級ホラー映画に出てきそうなクリーチャーばかり。人と会話をするだけの知能を持っていないならまだしも、本能のままに掠奪、破壊、殺戮する生物もざらだった。
そんな怪物たちと比べれば、交渉で事を穏便に解決できるのではないだろうかと、ミラは忍者と対話を試みることにした。
だが、そんな甘い考えは、すぐに打ち砕かれることになる。
「あなたが誘拐犯ね。いったい何が目的?」
「……なかなか滑稽な奴だ。自分の置かれている状況がわかっていないのか?」
忍者が苦無を使って、片手でお手玉している──、と認識した瞬間、ミラの頬を何かが掠め、耳元でドスッ、という鈍い音がした。
「主導権は俺にある。痛い目に合いたくなければ、俺の質問に答えろ」
ミラの頬を掠め、後ろにあるダーツボードに突き刺さったものが、苦無であったことはわかる。だが、それだけだ。
(な……なにも見えなかった。苦無をどこから出したのかも、いつ投げつけてきたのかも)
首筋が冷えていく。忍者の容赦のなさ、実力差をまざまざと見せつけられて、ミラは早々に交渉を切り上げた。いまは、冷静に忍者の言動を見極めて、この状況を打破する方法を探すしかない。
「お前がメダリオンだとかいう、イカれた連中の一員なのは調べがついている。お前にはメダリオンの情報を洗いざらい吐いてもらうぞ。お前らメダリオンは、俺たちの宿願成就に邪魔な存在だからな」
(……俺ら、ということは、彼も複数人で動いているのか。その宿願っていうやつに、女性がたくさん必要ってこと? いまいち目的が見えてこないな……)
目的がわかれば、それだけで交渉材料になる。しかし、この忍者は相当の手練れ。ミラが目論んだとおり、簡単に情報をもたらしてくれるかどうか。
「ルビーメダリオンというのは、お前のことか?」
忍者に問われ、ミラは細心の注意を払って言葉を選ぶ。
「いいえ」
「お前は何者だ?」
「……私は、アクアマリンメダリオン」
黒頭巾の奥で、忍者がくくっと喉を鳴らした。
「ああ、お前がメダリオン最弱と言われているアクアマリンか」
ミラは密かに眉を顰める。確かにミラは、メダリオンの中では最弱と言わざるを得ない。こと戦闘に関しては、その傾向が特に顕著で、敵にダメージを与える技をほとんど持っていないという弱点も持つ。
だがその分、仲間の誰よりも冷静であるよう努め、敵の能力を分析して戦闘を優位に進められるようサポートに徹している。
今回はこうして捕まるという失態を演じてしまったが、決して最弱であるからと笑われる謂れはない。
そんなミラの心中を忍者が知る由もなく、詰問は続く。
「ルビーってのは、どんな奴なんだ? 馬鹿に強いって話じゃないか。弱点は? どんな技を使う?」
ミラは口を真一文字に結んだ。いくら身の危険を間近にしていたとしても、そう簡単に仲間の情報を売り渡すわけにはいかない。
そんなミラの頑なな態度に苛ついたのか、忍者が苦無を投げつけてきた。やはり準備動作など全く見えず、気づいたときには苦無がダーツボードに突き刺さっていた。
「次は目を抉る。それでも喋らなければ、耳を削ぎ落とす。それもだめなら、爪を一枚一枚剥ぐ。五体満足でいたければ、さっさと情報を吐け」
「……やりたかったらやってもいいけど、私、癒しの術だけは得意なの。首と胴体さえ繋がっていれば、どんな傷だって治せるから、あんまり効果的じゃないと思う」
とは言え、痛いのは御免被りたいところだが。
そう思って、肉体を痛めつけるような拷問は無意味だと伝えたのがいけなかった。
「んんっ」
なんの前触れもなく、胸を持ち上げられるような感覚に見舞われて、ミラはかすかに甘い声を漏らす。何事かと確認してみると、二本の真っ黒い手がミラの下乳を包み、もにゅっもにゅっと揉んで弄んでいた。
「ん、やぁっ……な、なに……?」
真っ黒い手は、胸をたゆんたゆんと揺らしてみたり、両端から押しつぶして深い谷間を作ってみたりと、執拗にイタズラを繰り返している。極々弱い愛撫に戸惑いながら、ミラは目の前の忍者を凝視した。忍者はビリヤード台に座ったままで、微動だにしていない。それどころかミラを見つめたままで、腕組みすらしている。
ミラの胸を鷲掴み揉みしだく真っ黒い手の出処を辿っていくと、それは忍者の影から伸びてきていることがわかった。影は伸縮自在のようで、忍者はその場からまったく動くことなく、黒い腕を駆使してミラを攻め立てている。
「痛めつけるだけが能だと思うなよ。お前の身体に聞く方法など、いくらでもある」
どうやら忍者は、ミラが情報を喋るまで、性的屈辱を与えてやろうという算段らしい。
「あ……あいにくだけど、こういうのにも……あっ……慣れて、る……あんっ」
自慢ではないが──実際、なんの自慢にもならないのだが、こういったことは、これまでの戦いで何度となく経験してきている。
半分透けたピンク色のスライムに、戦闘服をどろどろに溶かされて、あられもない姿をさらしたり。肉感たっぷり、粘液まみれの触手に束縛されて、胸や太ももを撫で回されたり。女を蹂躙することしか考えていない、性欲が剥き出しになったオークの陰茎に貫かれそうになったり──。
仲間のルビーメダリオン曰く、『エロ同人誌の定番ネタをひとりで網羅してるね!』とのことだ。ミラにはその意味がよくわからないのだが、とにかく性的拷問の場数は多く踏んでいる。忍者にどれだけ攻められたところで、情報を吐くことなど決してありえない。
(とにかく、いまは耐えて、この場をやり過ごす……)
そうしていれば、きっとルビーが助けに来てくれる。今までも、ピンチに陥ればいつもルビーが助けてくれた。ミラが忍者に捕まってから、それなりに時間が経過しているはず。妖精のツクヨミがすでにルビーの元に辿り着いていると信じて、いまは耐え忍ぶしかない。
しかし、ミラは場数を踏んでいるとはいえ、性的拷問に強い、というわけではなかった。
むしろその逆である。
「あぁんっ」
黒い手が胸の先端を掠めた瞬間、ミラの声が一際高くなった。そのあからさまな変化を忍者が見逃すはずもなく、黒い手は指先で乳首をぴんっぴんっと弾き始めた。その度に、ミラの細い肩がふるふると震える。
「布ごしなのに、乳首をおっ勃てているのが丸わかりだ。正義の味方が聞いて呆れる」
忍者に指摘された通り、ミラの乳首は薄い戦闘服の布地を押し上げていて、その位置をありありと示している。
指先で咎めるように表面をコリコリと擦られて、ミラは顔を伏せた。もう全身に甘い疼きが広がり始めていて、本当はどうにかして逃れたいのに、身を捩ることしかできないでいる。
「くっ、うぅっ……ふッ、はぁ……やあっ、あんっっ」
ミラはだんだんと声を抑えられなくなってきた。敵の前で痴態を晒すなどとんでもない、と首を横に振るのだが、それを嘲笑うかのように胸への愛撫は止まらない。それどころか──。
「ふぁっ……」
下半身にも、手の這う感覚が襲ってきた。大きな掌が、むっちりとした太ももを上下に擦り、マシュマロのような臀部を揉みこんでいる。そうかと思えば、スカートの裾から手が忍び込み、脚の付け根に近づいてきた。にもかかわらず、胸への刺激も未だに続いていた。
明らかに、手の数が増えている。絶えず与えられる性感に抗って顔を上げてみれば、目の前に忍者が立っているではないか。
忍者は黒い手にミラの胸を遊ばせておきながら、自らの手で尻の双丘を弄り、脚を割り開いた。
節くれだった一本の指がクロッチをずらし、ミラの秘部に差し込まれていく。
「んんっっ!」
「胸をいじったぐらいで、すごい濡れようだな。俺の指をすんなり呑み込んで」
忍者が耳元で囁く。熱を帯び、声が僅かに掠れていて、ミラは耳まで犯されている感覚に陥った。心では感じたくないと強く念じているのに、身体は更なる快感を欲してか、膣の襞が勝手に動いてしまう。
「しかも、俺に詰られて悦んでいる。お前のような淫乱に守られている地球の民は、憐れだな」
忍者は嗤いながら、ゆっくりと指を抜き差しする。時折、長い指で襞の一粒一粒をほぐすように擦って、ミラの弱いところを探るように。指は次第に動きも早く、複雑なものに変わっていく。いつの間にか指は一本から二本に増え、秘部の入り口を飾る陰核は親指の腹で掘り返されていた。
(ああっ、だめっ……きちゃうっ、イッちゃうっ……)
全身の性感帯を余すことなく嬲られて、下腹部がじんじんと疼く。目の奥で火花がパチパチと弾け、ミラは果てが間近に迫っていることを悟った。
「あっ、ひあぁっ……だめっ……!」
ミラが絶頂を迎えようとした瞬間、身体中をまさぐっていた手という手の動きが止まった。しっとりと汗ばんだ肌に張り付いたままだが、壊れたおもちゃのように動かない。
「え……?」
覚悟していた感覚が遠のいた弾みで、ミラは思わず忍者を見上げていた。
「……なにを物欲しそうな顔をしている」
黒頭巾の奥で、忍者がまた笑った。ミラは、自分が果てることを期待していたのだと、まざまざと自覚させられてしまった。
恥ずかしさと煽られた情欲が相成り、顔の中心に血が一気に溜まっていく。
「あっ、そんな……やっ、あんっ、あんっっ……もっ、やめて……」
ミラが羞恥に震えていると、黒い手と忍者の手が、再び身体を愛し始めた。
背後から乳房を掬い上げて揉み、その頂を指で転がし遊ぶ黒い手。真正面から秘裂を割って、育ちつつある肉芽と蠢く肉襞の浅いところを慰める忍者の手。
治まりつつあったミラの淫欲が、再びぐずぐずに溶けて全身に回りだした。決して激しくはない忍者の性戯に、ミラは気が狂いそうになりながら、じわじわと絶頂に向かって昇り詰めていく。
だが、またもや気をやろうという直前になって、忍者がすべての手を止めてしまった。
「あっ……ま、また……」
「果てを与えて欲しければ、メダリオンの情報を吐けばいい。簡単なことだろう」
忍者は膣に納めたままの指で、中をゆるゆるとゆすった。
そんな些細な刺激にすら、熱情が燻られて腹の奥が疼くのに、あとひとつ決定打が足りない。
それでもミラは、首を横に振る。今この場に、自分を絶頂に導いてくれるのが、目の前の敵しかいないとわかっていても、仲間を危険に晒す真似だけはしたくないと、歯を食いしばった。
「強情な奴だ、気が触れても知らんぞ」
言いながら、忍者は何度もミラの身体を弄んだ。
フロアに、ミラの甘やかな嬌声だけが響くようになってから、どれぐらいの時間が経過しただろうか。
ミラが昇華しきれない切なさを涙や熱い吐息に変えて吐き出しても、忍者の絶妙な指使いによって、性欲は際限なく溢れ出てくる。
不意に、脳みそを掻き混ぜられるような生殺しに堪えていたミラの身体から、すべての手が引いた。
(あ……あきらめてくれた……?)
ついに忍者が根負けしてくれたか、とミラは薄靄のかかるぼんやりとした頭をもたげた。忍者の顔は、相変わらず黒頭巾で覆い隠されていて一切の表情が伺えないのだが、ミラの発情しきった顔をじっと見つめていることだけはわかる。
「……そうか、失念していた。お前も女だったな、メダリオン」
さんざん、女の性器という性器に触れておきながら、この忍者はいったい何を言っているのだろう。未だ思考が鮮明にならないミラは、問いを口にすることはできず、ただただ忍者の動向をぼーっと眺めていた。
忍者は懐から小瓶を取り出し、口当てを取り払った。あらわになった顔の下半分を見ながら、『ああ、裂けてはいないんだな』、とミラが思ったのも束の間、忍者はその口で、小瓶の中に入った液体を煽った。
そしてその液体を口に含んだまま──。
「……ッ!? んっ、ふっ……」
忍者は、ミラの唇を奪った。顎を掴んで無理やり口を割り開き、その隙間から唾液とは異なる液体を流し込んでくる。逃げ場のないミラが喉を鳴らし、その謎の液体を飲み込んだのを確認して、忍者はようやく唇を解放した。
「な……何を飲ませたの……」
尋ねた瞬間、ミラは触れられてもいないのに、身体が熱を発し始めたことに気が付いた。心臓がどくんどくんと大きく脈打って、熱く滾った血を全身に送り込んでいる。
そこに、忍者の手が伸びてきた。
窮屈な谷間に、先ほどまでミラの陰肉をほぐしていた指が差し込まれた。指はゆっくりと下に向かって引かれ、じりじりとミラの戦闘衣を剥いていく。
ぷるん、という音が聞こえてきそうな勢いで、ミラの白い乳房が転び出てきた。ミラの息遣いに合わせて揺れる胸は、張りがあって柔らかで。食べごろを主張する、ピンク色に色づいた頂点の果実は、あっという間に忍者に食いつかれた。
「────!? あんっっ!!」
ちょっと吸い付かれただけなのに。ミラは縛り付けられながらも、限界まで背を仰け反らせて、果てた。直接いじめられたわけでもないのに、膣全体がきゅんきゅんと反応し、収縮を繰り返しているのがわかる。おあずけされていたオーガズムをいきなり与えられて、ミラは頭が真っ白になった。
絶頂の余韻に震えるミラの身体が、突然ずるりと膝から落ちた。いつの間にか、縄が外されていたらしい。
忍者は自由となったミラを軽々と抱き上げると、ビリヤード台の上に仰向けに転がした。そして、ミラの胸に手を沈め、張り詰めた頂を指で何度も弾いた。
「あっ、あっ、やらっ、おっぱいいじめないで……! あんっ、あんっっ……」
明らかに感度が上がっている。忍者が前戯を施してくる度に、もっと気持ちよくなりたいと腰が揺れ動いてしまう。そんなミラの痴態に気をよくしたのか、忍者は口元に弧を描いていた。
「薬の効き目は上々だな」
忍者は股間の前を寛げ、ぶるんっと飛び出した陰茎を掴んでミラの割れ目に当てがった。
恐ろしく凶悪な男根だった。苛立ちを隠せないのか、いくつもの血管が浮き出て激しく脈打っている。反り返って上向く竿はひくひくと忙しなく上下し、大きく張り出したエラの先端からは、俗にいうガマン汁がだらりと垂れてきていた。
ミラがこれまで見てきた、オークやケンタウロスといった巨体の怪物たちと比べても遜色のない──いや、それ以上の巨根かもしれない。そんな暴力の塊で割れ目をねっとりと擦り上げられて、ミラは更に高く鳴いた。
(ああっ……もう入れて、おねがい……)
ミラは、今しがた自分の脳裏に浮かんだ言葉に驚愕し、戦慄く。自分はなんてはしたないことを願ってしまったのだ、と。
こういったシチュエーションに陥ったことは、一度や二度ではないが、決して自ら凌辱されたいと望んだことはない。どんな快楽的な責め苦にあっても、最後にはそれを打ち破って勝利してきた。よもや、というシーンはいくらでもあったが、ミラは未だに純潔を守ってもいる。
だが、今は気持ちよくなりたいという欲求が頭の中を占めつつある。あからさまな異常事態だ。ミラはトロトロに蕩けて役に立ちそうにない頭をどうにかフル回転させて、現状の分析を試みた。
この不自然な性欲な高まりは、さきほど含まされた薬のせいに違いない。
「く……くすりって……? あんっ、やぁん……」
「……媚薬と、妊娠促進剤といったところか」
妊娠?
媚薬なのは間違いないと思っていたが、妊娠促進とはどういうことか。その字面の不穏さに、ミラは目を白黒させた。
「……俺たちの星で、女が死滅してな。端的に言って、種存続の危機を迎えている。研究やら実験やらを重ねて状況を打破しようと試みたが、どれも無駄だった。ならば異星人との間に子を成すしかないと、宇宙中を飛び回って交配可能な種族を捜していた」
忍者は腰を前後させてミラを弄びながら、淡々と説明を続ける。
「その交配可能な種族というのが、お前たち地球人というわけだ。幸いなことに、身体の形状も似ているしな。これほどうってつけな種族は、他におるまい」
この忍者が、なぜ女性たちを誘拐していたのか合点がいった。
すべては、種存続のため。
「俺の子を産んでもらうぞ、メダリオン」
忍者に低い声で囁かれて、ミラの子宮がきゅんっと蠢いた。それはまるで、目の前の雄の種を注がれるのを心待ちにして喜んでいるかのような甘い甘い疼きだった。
そんな、まさか、と、ミラは身体の反応を否定して首を横に振る。敵の子を、ましてや異星人の子を孕むなんてとんでもない。それ以前に、好き合ってもいない男とまぐわうなどというふしだらな真似ができようか。
理性を必死に働かせても、薬によって強制的に発情させられた身体はいうことを聞いてくれない。
陰茎の先端が、秘密の入り口にずぶ……と沈められる感触に、ミラは身体で悦びつつ拒絶した。
「まっ……待って、あなたたちの事情は、そのっ……気の毒だとは思うけど……こんな、強姦みたいなやり方……あんっ」
なんとか別の方法で解決できないか。そう持ち掛けたかったのだが、大きく張り出した雁首に狭い亀裂から侵入されて、ミラの言葉は呆気なく遮られた。
それでも人としての、女としての尊厳を守りたいと、生まれたての小鹿のように震える腕を伸ばして、忍者の胸を突っぱねる。
「お、おねがい……やめて、んっ……わ、私、初めてなの……」
「……何を言う。慣れていると息巻いていただろうが」
取り付く島もなく、忍者が腰に力を入れた──と認識した瞬間、ミラは「いやっ!!」と泣き叫びながら、自分が持つ数少ない攻撃手段を放っていた。
氷の塊を対象にぶつける攻撃魔法なのだが、威力のほどはたかが知れている。しかも、追い詰められて放ったせいか、氷塊は忍者のこめかみを掠めるに留まった。
黒頭巾が、はらりと床に落ちた。ここまで隠されていた忍者の素顔が、明るみになる。
年の頃は、ミラとそう変わらぬ二十歳前後といったところだろうか。
浅黒い肌に眩いばかりの銀髪、銀の瞳を携えていた。精悍な顔つきに、目鼻立ちもはっきりとしており実にいい男ぶりである。
目はちゃんとふたつあるし、口も裂けていない。普通の人間然とした、モデル顔負けの美丈夫だ。
わずかに時が止まっていた。忍者は、切れ長の冷たい双眸でミラを見下ろしている。ミラはミラで今のうちに逃げ出せばいいものの、忍者の美顔に見惚れて身動きが取れないでいた。
その美しい顔が、舌を打った。
「じゃじゃ馬が」
苛ついた怒張が、ミラの陰部を貫いた。周囲の肉襞を削るように擦って、処女膜を残さず破り、一番奥の子宮口まで、一気に。
「────!!」
ミラは声にならない声を上げ、弾けた。背骨を弓なりに曲げて、乙女の聖域に無理やり押し入ってきた熱い欲望を受け止めた。
胸の突起を舐められて達したときとは比べるまでもない、脳の細胞が焼かれるような、ひどいトび方だった。
確かに達してしまったというのに、ミラの膣の襞は、まだまだ快楽が足りないといわんばかりに、肉棒をぎゅっぎゅと締め付けてしまう。
(こんな……好きな人でもないのに……無理矢理されてるのに……どうしてこんなに気持ちいいの……)
ミラは忍者のなすがままに凌辱されているという情けなさと、自分の貞操観念の低さから涙を流した。
それでも身体の方はすでに仕上がっていて、忍者に精を注いでもらうまで鎮まりそうにない。
いや、もしかしたら、それでも治まらず、一生このままかも──。
心はそんな恐怖に支配されているのだが、肉襞は変わらず熱い肉棒にびっちりと絡みついていて、はやく動いてくれと勝手に激しくうねって催促している。
「……っ、処女というのは本当だったようだが……その割にはひどい乱れっぷりだ。なんだ、俺の精液を搾り取るようなこの動きは」
忍者は形のよい眉根を強く歪ませて、ミラを咎めた。けれども頬はわずかに紅潮していて、漏れ出る息も甘く熱く、嗜虐的な笑みを浮かべている。
その口が、そっとミラの耳朶を食んで、鼓膜を揺さぶった。
「淫乱」
それは、ミラも自覚している。初めて貫かれたというのに、破瓜の痛みを一切感じずに快感だけ貪っているのだから、そういわれても致し方ない。それに、忍者の無慈悲な指摘にすら全身が悦んでいるのだから、反論のしようがなかった。
それでもそんな自分を認めきれなくて、ミラは潤んだ瞳で忍者を睨みつけた。それが男の情欲を煽るものとも知らずに。
「ひぅっ……ひどいこと言わないで……ああっ、いやぁ……あんっ、あんっ!」
抑制が効かなくなったのか、忍者は思いっきり腰を打ち付けてきた。一突きごとにパァンッパァンッという、肉と肉の激しくぶつかりあう音が響く。
容赦のない抽挿が、ミラのなけなしの理性を肉欲へと書き換えていった。思考の深さだけが唯一の取り柄なのに、その思考回路のほとんどが肉棒の熱さで蕩けていく。
忍者の雁首で膣内の肉襞を強く擦られるのが、気持ち良くてたまらない。
「あんっ、あっ、あっ……ぁあっ、ひんっ……やらぁ……、こわいっ、こわいよぉ……たすけてっ、ルビーさん、たすけてぇ……」
ミラは熱に浮かされて、泣きながらルビーに助けを求めていた。今までは、どんなに危険な目にあっても最後にはルビーが助けてくれた。そう、こんな風に、乙女の純潔を散らされる前に、必ず。
いきり立った肉塊が、いっそう力強くミラの膣を抉った。互いの脚の付け根が隙間なく合わさったところで、忍者がミラを責めるように腰をぐりぐりと押し付けてきた。まるで膣内に納まる陰茎の存在を知らしめるように、強く強く。
「く、うぅぅ……ああっ、いやぁ……ゆるしてっ、おかしくなっちゃう……あぁっ、あぁんっ……!」
その攻め立てで、ミラは三回目の絶頂を味わった。つま先をぴんと伸ばして快感から逃がれようとするのだが、忍者に腰をがっちり掴まれていて、それも叶わない。むしろ、快感を上塗りするように押さえつけられて悶えることしかできなかった。言い知れない陶酔感が、出口のない全身で彷徨い続けている。
「情事の最中に他の男の名を口にするとは、躾がなってないな」
どういうわけか、この忍者はルビーのことを男だと勘違いしているようだった。勝手に勘違いして怒りを募らせるなど、どうかしている。
いや、そもそもどうして怒っているのだろうか。忍者からしてみれば、ミラは子を成すための道具に過ぎないはず。
それなのにまるで──見知らぬ男に嫉妬しているかのような口振りだ。
「んんっ! ふ……ふあぁっ……」
突然、忍者はミラの両手首をビリヤード台に押さえつけて、覆いかぶさってきた。力強い腰使いもそのままに、唇に吸いつき、啄み、舌を絡めて口内を犯してくる。
「……セルジュ」
唇を離すと、忍者はミラの目を見つめたまま呟いた。
「お前を孕ませる男の名だ。唱えながら受精しろ」
「ああっ、だめっ……なかに出しちゃだめなのっ……! おねがいっ、やめてっ、あかちゃ、つくらないでっ、せるじゅさ、んっ……」
ミラがその名を呼びながら懇願すると、セルジュは満足げに微笑んで、腰の律動を速めた。
陰嚢から迫り上がってきた精子で、セルジュの陰茎が太さと硬さを増し、果てが間近なのがわかった。ミラ自身の子宮が、それを受け入れようと降りてきてしまっているのも。
子宮の入り口を怒張で何度となく突かれて、ついに捩じ込まれた。もう逃げられない。そう思い知った瞬間、ミラは大きな快楽の波に呑み込まれて、深いところから戻ってこられなくなった。
「ぐっ……孕め、孕めッ……!」
混濁した意識の中で、ミラはセルジュの色っぽい呻き声と、膣の中でビューッビューッと派手に爆ぜる射精の音を聞き取っていた。
(ああっ……なかにたくさん出てる……)
取り返しのつかないことをされたという絶望感よりも、女の一番気持ち良いところを嬲り尽くされた高揚感でミラは満たされていた。
ことが終わったのなら逃げださなければ、とか、ルビーの応援はどうなっているのか、とか、そもそもツクヨミは今どうしているのか、など様々なことに考えを巡らせるのだが、いずれも身体が火照っていて思考がまとまらない。
「あんっ……ああっ!」
身体が反転した、と思った時にはすでに、ミラは背後からセルジュの怒張に再び貫かれていた。
衝撃で尻肉が波打つ。何度も達してしまった秘膣に、滾った肉杭の侵入を防げるわけもない。またも一突きで奥深いところまで潜り込まれてしまったミラの花襞は、肉杭を歓迎するかのように蠢いている。
「あ、あんっ……セルジュさんっ、もう、やめて……? んんっ……」
「薬を使ったとはいえ、子を成す可能性はそこまで高くないんでな」
一度射精したにも関わらず、セルジュの陰茎は硬い。ミラを快楽の渦中に引きずり戻すには、十分なほどに。
「やんっ! あぁっ……ああ、あぁんっ! やらぁっ、もう出さないでっ、おねがい……あんっ、セルジュさん、いやぁっ……!」
しばらくの間、フロアはミラの蕩けた嬌声と、肉のぶつかり合う音に支配された。
※
遊戯場フロアで繰り広げられる美男美女の艶めかしい情交を、柱の裏に隠れながら一心不乱に凝視する、ひとつの人影があった。
煌びやかな赤い衣装を身に纏う、若い女性だ。その衣装はミラと──アクアマリンメダリオンが着る戦闘衣とよく似ていた。
ダークブラウンの髪は奇抜なボブカットで、同じ色の瞳は栗鼠のようにくりくりしている。愛らしい顔立ちではあるが、ボーイッシュな印象もあり、中性的な魅力の持ち主だった。
誰あろう、ミラが応援を待ち望んでいたルビーメダリオンその人である。
「げへへへへへ、たまりませんなぁ……」
ルビーは、ミラとセルジュの濃厚な交わりを見ながら、恍惚とした表情を浮かべている。口の端からはだらしなく涎を垂れ流しており、その姿はとても正義の味方には見えない。
実のところ、ルビーはミラがセルジュに捕まる瞬間から今の今まで、一部始終を目撃していたのである。
「ル、ルビー……そろそろアクアを助けてやって欲しいぴょん……」
青ウサギのツクヨミは、ルビーの背後から控えめに声をかけた。するとルビーは、興奮冷めやらぬといった具合に勢いよく振り返って、ツクヨミを思いきり掴み握りしめた。
「ひいぃぃっ、いっ、痛いぴょんっ」
「今イイところなんだよぉ……誘拐された女の人たちの救出は済んでるんだから、邪魔すんなよぉ……」
その声は、華奢な少女から発せられたとはとても思えないほど低い。しかも目は血走っていて、今にもツクヨミを握り潰してしまいそうだった。
「私の可愛い可愛いアクアちゃんのあられもない姿を、脳裏に焼き付けてるところなんだからなァ……もう少し黙ってなァ……」
「で、でも……このままじゃ、アクアが異星人の子供を身籠ってしまうぴょん」
「うーん、確かにィ? まーでも、お相手の彼、すっげーイケメンだしなァ。アクアちゃんとの子供だったら、とんでもない美形が生まれるぞォー?」
論点はそこではないのだが、ツクヨミは横やりを入れないことにした。ルビーの機嫌を下手に損ねては、命がいくつあっても足りないからだ。
「うへへへへへへぇ……美形同士のえっちってなんでこんなにエモいんだぁ……しかも片方は私の推しときてる、あまりにも尊すぎて、助けるタイミング見失っちゃったよぉ……うへへへへへぇ……」
とても妙齢の女性とは思えぬ下卑た笑いを発し、ルビーは今にも昇天してしまいそうなほど顔面を崩壊させている。
これまで、ルビーはずっとアクアマリンメダリオンこと保刈ミラを守ってきた。
ミラがピンチに陥ったときも、ちゃんと救い出してきた。ピンクスライムに衣服をドロドロに溶かされたり、触手に性感帯をいじられて喘ぐミラの姿を見て楽しんでから、だが。オークに襲われた時も、ミラの処女が散らされてしまう前にちゃんと殺して処理してやった。
そう、いつだってその気になれば、ミラがピンチを迎える前に助け出せた。それをあろうことか、ルビーはミラの淫らな姿を見たいがために、あえて放置してきたのである。なんなら、わざと敵に襲われるよう、それとなく誘導することさえあった。そして、ミラの痴態を思う存分堪能してから敵を倒すというのが常習化していた。
もちろん、ミラ自身はこの事実を知らない。ミラは未だに、自分はエロチックな敵に遭遇して窮地に立たされることが多いな、ぐらいにしか思っていないのだ。
その絶妙に抜けているところも、ルビーがミラを好む要因のひとつだ。
「推しの感じてる姿ってのは最高のオカズだよねぇ……まぁでも? さすがにオークにヤられる絵面はノーサンキューだねっ。推しが汚いブタにヤられてる姿なんか萌えないよー。やっぱりイケメンに襲われてナンボだよー、うへ、うへへへへへへへ」
「……お前は地球史上、最低最悪な正義の味方だぴょん……ぐええええ」
ツクヨミがぼやいたのを、ルビーは聞き逃さなかったらしい。ツクヨミを握る手にぐっと力が籠められ、逆の手からは煌々たる炎が発せられていた。
「皮剥いで丸焼きにすんぞ」
「やややや、やめるぴょん! 僕はただのウサギじゃないんだぴょん! 由緒正しき妖精なんだぴょん!! あちちちちちちっ」
ルビーの炎が、ツクヨミの耳の毛をちりちりと焦がし始めたとき。
ビリヤード台の方で、動きがあった。
「メダリオン、気に入った。お前は俺が抱き潰してやる」
セルジュはいつの間にか、黒頭巾も装着してすっかり衣服を整え終えていた。反面、ミラは戦闘衣がぐちゃぐちゃに乱れたままで、ぐったりとしている。どうやらセルジュは、ここからミラを連れて移動するつもりらしい。大方、悪のアジトというものがあって、そこへ行くのだろう。
さすがに仲間を連れていかれるのはまずいと、ルビーは炎を手にしたまま飛び出した。
「待てーい! アクアちゃんから離れなさーい!」
「……なんだ、お前は」
不機嫌そうなセルジュのことは気にせず、ルビーは特撮ヒーローよろしく、決めポーズを取って高らかに口上を述べる。
「炎のごとく燦然と煌く、真紅の情熱! ルビーメダリオン、ここに参上!」
「……白々しいんだぴょん」
ツクヨミの言葉は捨て置いて、ルビーは炎の拳をセルジュに突きつけた。
「悪者はこのルビーちゃんが許さない! アクアちゃんを返してもらうんだかんね、覚悟しなさい!」
美男美女の濃密な営みを披露してくれたセルジュには申し訳ないような気もするが、それはそれだ。大事なミラを連れ去られては元も子もない。
「ほう? お前が最強と名高いルビーメダリオンか。ちょうどいい、ここで叩き潰してくれる」
「私は、絶対に負けない!」
そう、ルビーメダリオンが負けることはない。自分が倒れれば地球を守る者がいなくなってしまうし、なにより大切なミラと会えなくなってしまうからだ。
炎の拳が唸る。
ルビーは今日も、ミラの身に降りかかるエロスな展開を拝むため、適度に地球を守るのだった。
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