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旧校舎の怪奇

第3話

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「はぁー。本当にお金まで支払ってあんな怪しい人を頼っても大丈夫なのかなぁ・・・」

ミステリー同好会の部室を後にした葵は大学の中庭に設置されている木製ベンチに座りそう言葉をこぼしていた。
木製ベンチに座っている葵を冬の冷たい風が襲い葵は身体を震わせていた。
そんな葵の耳には木製ベンチの周囲を行き交う学生たちの楽しそうな話し声が聞こえてきていた。
葵は冬の冷たい風に身体を震わせながら本当に噂だけの海道零時という男を簡単に信じて三千円もの大金を支払うことを了承して良かったのかと顔を俯き若干の後悔の念を抱きながら思っていた。
若干の後悔の念を抱いていた葵が背負っているリックサックの中からスマホの着信音が突如鳴り響いた。葵は若干慌てながら背負っているリックサックを降ろしリックサックの中から自分のスマホを取り出し画面に表示されている着信相手の名前を確認した。
着信相手は葵の母親である大原桜からだった。
葵は着信相手が自分の母親であることを確認すると何回かのコール音の後自分の母親である大原桜からの電話に出た。

「も・・・もしもし、どうしたのお母さん?」

「どうしたのって・・・。アンタが朝大学から帰るのはお昼過ぎになるかもって言ってたのに、一向に帰って来ないから何かあったんじゃないかと思って心配になって電話をかけたのよ!!」

「えっ・・・、あっ・・・、ごめんなさいお母さん。ちょっと、講義が終わった時にタイミングよく教授に呼び出されちゃって・・・。取り敢えず、今から電車に乗って帰るから待ってて」

「・・・分かったわ。でも、これから遅れる時があったら前もって電話かLISOで伝えてよね!!分かった!?」

「わ・・・分かったよ。お母さん」

「じゃ、アンタが大好きな大原家特製大盛りチャーハンを作って待ってるから、どこにも寄り道せずに帰って来なさいよ!!」

「分かったよ・・・」

母親である桜からの電話の内容はいつになったら大学から帰って来るのかというものだった。
葵は桜の話を聞き朝自分が伝えた大学からの帰宅時間のことを思い出していた。
葵は電話越しからの桜の短くとも長くとも無い説教を聞き若干鬱陶しく感じながら電話を切った。
電話を切った葵は今まで座っていた木製ベンチから立ち上がり横に置いておいたリックサックを再び背負い帰りの帰路に着いた。





葵が零時に旧校舎の調査依頼を頼んでから数日が経った。
今日葵は午後の大学の講義を終え再びミステリー同好会の部室に訪れていた。
葵がミステリー同好会の部室のドアを数回ノックしドアを開けて中に入ると零時は正面に置かれているソファの上で横になり静かに目を瞑り静かに寝息を立てながら眠っていた。

「・・・・・・海道さん。貴方一体何をしているんですか?」

「・・・・・・・・・」

「海道零時さん!!!」

寝息を立てながら眠っている零時を見た葵はドアの前で零時の名前を呼んだ。
しかし零時の耳には聞こえていなかったのか零時は寝息を立てたまま眠っていた。
未だに眠っている零時を見て葵は頭にきたのか零時の近くにより大声で再び零時の名前を読んだ。
耳元で名前を呼ばれた零時は「うん~」と言う唸り声を上げながら目を覚ましソファから起き上がった。

「・・・・・・君は、葵さんか。一体何のご用件で・・・?」

「な・・・何のご用件って・・・。貴方が調査の中間結果を知らせたいって言う電話をくれたからここに来たんですよ!!なのに、貴方はこうしてソファの上で寝ているし、ちゃんと旧校舎のことを調べているんですか!?」

「ちゃんと、調べていますよ」

零時は眠たい目を擦りながら葵にそう聞いた。
葵は零時の言動を見て遂に堪忍袋の緒が切れてしまったのか一切息継ぎをせずに零時に向かって怒号を飛ばした。
零時は葵からの怒号を浴びながらも一切臆すること無くゆらゆらと腕を上げドアの裏に置かれているホワイトボードを指差した。

「こ・・・この、ホワイトボードは?」

「貴方に依頼された旧校舎のことをまとめたものですよ。一応こちらも後払いとはいえお金を支払うことを了承している身なのでいちおの仕事はしていますよ」

「あっ・・・そ・・・そうですか」

葵は零時が指差した方向に置かれているホワイトボードを見て零時にこのホワイトボードは一体なんなのかと聞いた。
それに対して零時はホワイトボードに書かれている内容は旧校舎について調べた内容だと葵に答えた。

「そ・・・それで、旧校舎を調べた結果何か分かりましたか?」

「・・・・・・旧校舎だけのことしか調べていないので、詳しいことは分かりませんでしたが・・・、いくつか奇妙なことは分かりましたよ」

「・・・・・・何が分かったんですか?」

「はい。まず一つ目は十代から二十代ぐらいの女性の幽霊が出ること、二つ目はその女性の幽霊が発する言葉は「逃げて」「ここに来ないで」「ここは危険」など他者に注意を促す言葉のみを発しているということ、三つ目は旧校舎の奥にある教室のある部屋を覗いた人たちはそこで何かを目撃して和也君や美来さんのように不登校になってしまっていること、そして最後の四つ目はその旧校舎を一人で訪れた女性が数人突如行方不明になっていること・・・」

「そ・・・それが、調べて分かったことですか?」

「はい。これがこの五日間調べて分かったことの全てです。もし、この調査結果に不満があるようなら後日お互いの予定が合う日に旧校舎について一緒に調べてみましょう」

葵は零時に旧校舎を調べた結果分かったことはなんなのかと聞いた。
零時はそれに対して淡々と独自で旧校舎を調査した結果分かった奇妙な四つのことを葵に話した。
零時の話を聞いた葵は何処か零時を怪しんでいるのか疑いの目を零時に無意識に向けていた。
その葵の疑いの目に気が付いたのか零時は葵に一緒に旧校舎について調べてみるかと提案した。

「い・・・一緒にって、私と海道さんの二人きりでですか?」

「・・・まぁ、依頼主は貴方だけですしね。私と二人きりになるのが嫌でしたら貴方の友だちを誘ってみるか、今まで同様俺一人で調べますけどどうしますか?」

「・・・・・・分かりました。海道さん、貴方と一緒に旧校舎について調べてみます」

一緒に旧校舎について調べてみることを零時に提案された葵は若干の嫌悪感を表に出してしまった。
その表に出してしまった嫌悪感を雰囲気で察したのか零時は葵に再びある二つの提案を口にした。
零時の二つの提案を聞いた葵は二人きりで旧校舎について調べることを了承した。
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