8 / 83
旅立ち
6(1/2)
しおりを挟む
「まぁ座れよ。」
そう言うと男は、店主が持ってきた食事を奪うように掴むと食べ始めた。
随分と飢えていたようで、しばらくもくもくと食事をしている。
その食いっぷりに唖然としながら店主に勧められるままにエールを飲んでいると、腹がひと落ち着きしたのだろうか、男がリュートが入った皮の袋を指さした。
「お前、これはリュートだろ? 演奏するのか? ジョングルールでは、ないようだな。佩刀しているな。では、トルパドールか?」
ジョングルール。神父に聞いたことがある。演奏や歌を生業とする旅芸人の事だ。
「はい。村を出たばかりですが。トルパドールになりたいと思っています。」
「かせ。」
男は鋭い目でそう言うと顎で催促する。
もうやだ。マジで怖いこの人。
人のお金で飲み食いしてるのに、なんでこんなに威圧的なんだろう。
リュートの値踏みでもするのかな。
取られて売られたらどうしよう。
いや。それは断じてさせられない。
神父様の大事な楽器だ。
隙を見て、逃げるのがいいかもしれない。
今は取り合えず言う事を聞いて、機嫌を取りつつ酔いつぶして逃げる。
泣きたい気持ちでおずおずと袋を掴み、中からリュートを取り出す。
「ッチ。早くかせ。」
舌打ちと共に大きな手で肩を思い切り掴まれる。驚いて見上げると男の顔が甘い香りと共に近づいていた。
薄暗い店の中ではあまり見えなかったが、改めて近くで見ると切れ長の目にきれいな鼻筋に妙に色っぽい口。
それら一つ一つのパーツが美しく配置され、思わず見とれてしまう。
その間にリュートをひっつかんで奪われてしまった。
「あ。あの、それは私の大事な・・・」
それがいかに大事かを説明して取り戻そうと思っていたのだが、男はこちらの話など聞く耳を持たぬ様で、リュートをつま弾いた。
シャラリ
美しい音色が広がる。
そしてその音に合わせて歌いだす。
こうして陽気で *¹
素敵な旋律に
そぎ落とし磨きをかけた言葉を乗せる
あとは仕上げに
やすり
すると言葉は確かな真実に
それは愛の仕業またたく間に滑らかにきらびやかにする
私の歌を
歌の源はあの方
その人は神の導きによって導かれ生き続ける
その場の喧騒はいつの間にか静まり、みな歌声に耳を傾けていたようで、彼が歌うのを辞めると一斉に歓声が起きた。
それに照れながら手を挙げる彼の笑顔は眩しく、美しい。
興奮して立ち上がったり、思わず彼の上げた手を握りしめていた。
「すっごくいい曲ですね!! あなたが作ったのですか? 」
「だろ!? いい曲だろ!? オレも凄く気に入ってるんだよ。これな? 友達のダニエルの曲なんだよ。アイツはまだ途中だと言っていたんだけど、あまりに美しいから歌わせてもらってい
るんだよ。すっごくいいよなぁ?」
「韻の踏み方とか、最高ですね!」
「だろ??」
ひょんな所で意気投合した男は、リシャールと名乗った。
話してみると気のいい男で、目つきは悪いが笑顔が人懐っこく、周りにはいつの間にか人が集まる、そんな人物の様だ。
音楽の話で意外と盛り上がり、それと共に進められるがままにお酒も進みいつの間にかしたたかに酔い、ふら付く体を支えられ、宿として使われている2階に上がりベットの上に転がされた。
「今回は酔いちゅぶれ(つぶれ)なかったぞー。」
「あー。すごいすごい。お前が酒が弱いのはよく分ったよ。まったく、飲めないなら最初から言えよ。めんどくせぇな。」
「弱くありましぇん。」
「へーへー。オレはもう少し飲んでくるな。」
「ふぁーい。いってらっひゃーい。」
扉が閉まるのを確認して、薄明りの灯る部屋でおもむろに着替えを始める。
「あしぇ(汗)だらけらよー。くせぇー。」
トマの服は丈は短いが幅が大きい。
こちらの服は紐で結ぶタイプでゴムやボタンなどではないので、サイズが少々違っても着れるのだが、かなりダボついた状態で、布の面積が多く暑い。
土埃や汗まみれの服を着て寝るのはまだ慣れない。
裸で寝る者も居ると聞いたことはあるが、そんな事したら全裸の呪いのせいできっと事件が起こる。
「そんなのヤバイな。ヤラレちゃうよ。」
*1 フランシス ギース『中世ヨーロッパの騎士』より
そう言うと男は、店主が持ってきた食事を奪うように掴むと食べ始めた。
随分と飢えていたようで、しばらくもくもくと食事をしている。
その食いっぷりに唖然としながら店主に勧められるままにエールを飲んでいると、腹がひと落ち着きしたのだろうか、男がリュートが入った皮の袋を指さした。
「お前、これはリュートだろ? 演奏するのか? ジョングルールでは、ないようだな。佩刀しているな。では、トルパドールか?」
ジョングルール。神父に聞いたことがある。演奏や歌を生業とする旅芸人の事だ。
「はい。村を出たばかりですが。トルパドールになりたいと思っています。」
「かせ。」
男は鋭い目でそう言うと顎で催促する。
もうやだ。マジで怖いこの人。
人のお金で飲み食いしてるのに、なんでこんなに威圧的なんだろう。
リュートの値踏みでもするのかな。
取られて売られたらどうしよう。
いや。それは断じてさせられない。
神父様の大事な楽器だ。
隙を見て、逃げるのがいいかもしれない。
今は取り合えず言う事を聞いて、機嫌を取りつつ酔いつぶして逃げる。
泣きたい気持ちでおずおずと袋を掴み、中からリュートを取り出す。
「ッチ。早くかせ。」
舌打ちと共に大きな手で肩を思い切り掴まれる。驚いて見上げると男の顔が甘い香りと共に近づいていた。
薄暗い店の中ではあまり見えなかったが、改めて近くで見ると切れ長の目にきれいな鼻筋に妙に色っぽい口。
それら一つ一つのパーツが美しく配置され、思わず見とれてしまう。
その間にリュートをひっつかんで奪われてしまった。
「あ。あの、それは私の大事な・・・」
それがいかに大事かを説明して取り戻そうと思っていたのだが、男はこちらの話など聞く耳を持たぬ様で、リュートをつま弾いた。
シャラリ
美しい音色が広がる。
そしてその音に合わせて歌いだす。
こうして陽気で *¹
素敵な旋律に
そぎ落とし磨きをかけた言葉を乗せる
あとは仕上げに
やすり
すると言葉は確かな真実に
それは愛の仕業またたく間に滑らかにきらびやかにする
私の歌を
歌の源はあの方
その人は神の導きによって導かれ生き続ける
その場の喧騒はいつの間にか静まり、みな歌声に耳を傾けていたようで、彼が歌うのを辞めると一斉に歓声が起きた。
それに照れながら手を挙げる彼の笑顔は眩しく、美しい。
興奮して立ち上がったり、思わず彼の上げた手を握りしめていた。
「すっごくいい曲ですね!! あなたが作ったのですか? 」
「だろ!? いい曲だろ!? オレも凄く気に入ってるんだよ。これな? 友達のダニエルの曲なんだよ。アイツはまだ途中だと言っていたんだけど、あまりに美しいから歌わせてもらってい
るんだよ。すっごくいいよなぁ?」
「韻の踏み方とか、最高ですね!」
「だろ??」
ひょんな所で意気投合した男は、リシャールと名乗った。
話してみると気のいい男で、目つきは悪いが笑顔が人懐っこく、周りにはいつの間にか人が集まる、そんな人物の様だ。
音楽の話で意外と盛り上がり、それと共に進められるがままにお酒も進みいつの間にかしたたかに酔い、ふら付く体を支えられ、宿として使われている2階に上がりベットの上に転がされた。
「今回は酔いちゅぶれ(つぶれ)なかったぞー。」
「あー。すごいすごい。お前が酒が弱いのはよく分ったよ。まったく、飲めないなら最初から言えよ。めんどくせぇな。」
「弱くありましぇん。」
「へーへー。オレはもう少し飲んでくるな。」
「ふぁーい。いってらっひゃーい。」
扉が閉まるのを確認して、薄明りの灯る部屋でおもむろに着替えを始める。
「あしぇ(汗)だらけらよー。くせぇー。」
トマの服は丈は短いが幅が大きい。
こちらの服は紐で結ぶタイプでゴムやボタンなどではないので、サイズが少々違っても着れるのだが、かなりダボついた状態で、布の面積が多く暑い。
土埃や汗まみれの服を着て寝るのはまだ慣れない。
裸で寝る者も居ると聞いたことはあるが、そんな事したら全裸の呪いのせいできっと事件が起こる。
「そんなのヤバイな。ヤラレちゃうよ。」
*1 フランシス ギース『中世ヨーロッパの騎士』より
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
28
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる