《番外編集》テンプレ転移した世界で全裸からロマンスに目指す騎士ライフ 

ぽむぽむ

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《幕間》

番外編5 ST Valentine's Day

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ーーーまえがきーーー
第一幕から1年ほどたったあたりの テンプレ騎士《幕間》と位置づけしたバレンタインの物語です。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

石畳の側面にはまだ雪が残る街道。
空気が冷たく体に吹き付ける。
身を固く縮こまるせながら見上げる街路樹の、凍える枝の先にわずかに膨らみを見つけ、春の訪れを願う。

そんな季節のボルドーの街並は、冬の寒さに閑散としてはいるものの、各家々から身を寄せ合い暖を取りながら話す声や、子どもの笑い声が漏れ、どこかほのぼのとした空気を感じる。

ジャンは外套の襟をしっかりと首元でおさえつけ、凍える手を温めるように「ほうっ」と息を吹きかけながら、街の自警をしている。

ボルドーでの冬も3度目を迎える。

21世紀の東京での交通事故により、中世十字軍遠征時代真っ只中のヨーロッパに男として転移してきたジャンは、心優しい村人と神父に拾われ、幸いなことに騎士、トルバドールとしての生きることを許され、ボルドーまでやって来たのだ。
そこで出会ったリシャールと恋に落ち、恋人兼随従として彼に仕えてはや3年。
度重なる遠征でボルドーを離れることはあるが、この街での顔なじみも随分増えた。
世間話をしながら見回りをするせいで時間がかかるが、その分情報も仕入れやすく、些細なことでも耳に届くため警備はしやすくなった。

その些細なことの中でも今、一番気になることが、もうすぐ訪れる2月14日の「恋人の日」というものだ。
詳しく聞くところによると、セント・ウァレンティヌスという人物が、結婚を禁止されていた兵士達に恋人が出来た折、秘密裏に婚姻の儀式を施していたが、宗教の相違により皇帝に改宗を求められ拒み殉職した、その日が2月14日なのだという話だった。
発音と、日にちを鑑みるとジャンの中では一つの結論が出ている。

「それって、つまり、バレンタイン・デーってことなのでは?」

しかしこの時代、甘いものなど存在しないし、話を聞いていると、彼が知っているバレンタインデーとは違い、男女関係なく愛する人にプレゼントを渡し愛を確認する日なのだという。
ならば、という事で、ジャンは親しくしている宿屋のおかみさんのところに足を運んだ。

「おかみさん。セント・バレンタイン・デーって、知ってる? 」

ちょうどエールの仕込み中のだった宿屋のおかみは、嬉しそうにジャンを迎えた。
自分の娘と同じ頃合いのこの青年の事を彼女は息子の様に可愛がっており、またジャンも母親の様に慕っている。
作業の手を安め、暖かい飲み物をジャンに用意すると、自分も一息つくために同じ長椅子に腰掛けた。

「今流行りのアレかい。知ってるに決まってるじゃないか。リシャールにプレゼント送りたいのかい? 」
「まぁ、そうだけど。・・・今流行りってことは最近出来た風習なの? 」
「あたしが聞いた話では、流行りはポアチエから来たって事だから、仕掛け人はエレノア様か、マリー様だろうよ。」
「エレノア様・・・。流石だね! セント・バレンタイン・デー作っちゃったのか! 」
「何が流石なのかわからねぇけどな。あっはっはっは。」

女将は快活に笑うと、オーブリ(焼き菓子)を箱から取り出すとジャンに進める。
ジャンはオーブリをつまむと、以前もこの様にエレノアから差し出された事を思い出す。

エレノアは、ジャンの恋人であり随従として仕えている主であるリシャールの母親だ。
聡明で美しくけれども、どこか可愛らしさもある女性で、彼女の虜にならない人間は居ないのではないかと思うほどの魅力ある人物だ。
彼女によって作られる宮廷が流行りとなり、音楽、文学、はたまた風習と裾野を広げ未来へと繋がっているという事実を知ってしまうジャンとしては、興奮してしまう状況なのだが、そんな事は宿屋のおかみには露程も伝わらないのだろう。

「そういやぁ、あたしの婆さんから聞いた話じゃ、この時期は、昔のローマン名残のひどい風習があったらしいよ。なんでもくじ引きでカップルにされた女が、無事出産出来るらしいとかってミルク浸したムチで打たれる風習があったんだとよ。教会が禁止にしたらしいけど、禁止した所で風習が無くなる訳ないじゃないかねぇ。頭の硬い奴らは何でも禁止にすりゃ良いと思ってる所があるからねぇ。」
「・・・え。なにそれ、ひどいね。」

この時代は、未だローマ統治時代の名残が色濃く残っている。
それに加え、元々の原住民の風習というものもやはりまだある。
キリスト教が浸透してすでに何世紀もの時が経っているが、土着の慣習や、風習というものはなかなか消えるものではない。
ましてや男女の婚姻に関わるような行事などともなれば、変えることは容易ではない。

「それに変わって我らがエレノア様の賢いことよ。禁止するだけじゃなくて、代わりに風習を作っちまえば、あたし達女がひどい目に合うような風習は無くなるってもんだ。」
「なるほど! そうか。本当にエレノア様、すごいよね! 」
「ジャンはエレノア様にお会いしたんだよねぇ。全く。羨ましいねぇ。ボルドーにまた戻ってきてくれないかねぇ。」
「はぁー。それだよねぇ。」

今のエレノアは囚われの身である。
それを開放すべく、リシャールは尽力しているのだ。

「で、ジャンはリシャールに何を贈るんだい? オーブリでも贈るかい?」

おかみが屈託ない顔でオーブリを頬張りながら提案する。
彼女はなかなかの商売上手だ。
いくら親しくしているとはいえ、こういう状況となるときっちりと自分の手製のオーブリの営業をしてくるのだ。
多分今食べているオーブリはタダのはずではあろうが、少し自信が無くなるジャンだった。

「食べ物もいいとは思うけどね。でも、なんだか良いね。プレゼント考えるのって。」
「そうかい? まぁそうだねぇ。相手の事考えて、喜びそうなもの贈るっていうのが、なんだか幸せかもねぇ。」
「おかみさんもすればいいじゃん。」
「冗談はよしとくれよ。恋人って歳でもない。」

そう言うおかみの顔はまんざらでもなさそうだ。
ジャンは宿屋の主人にもこの事を伝えて、この夫婦に幸せなバレンタインを過ごしてもらう算段を思い付き、実行に移すことにした。

「ふーん。そう言えばおやさっんは?」
「ああ。裏で皮をのしてるよ。」
「皮か。・・・手袋とかどうかな。」
「ああ。いいんじゃないかい? 昔は良く人に投げつけてたからねぇ。あの子は。いくら合っても足りないんじゃないかと思ってたけどねぇ。あっはっは。」 
「いや、手袋投げつけるって、決闘の申し込みじゃん。何やってんだよ、リシャール。」
「ジャンのお陰で落ち着いたってもんだよ。ありがとうよ。」

そう言われてジャンはなんだか嬉しくなる。
リシャールの人生に自分が加わる事でお礼を言われるなんて、思っても見ない事だ。
それは母親のエレノアにも言われた事だった。
色々な人たちと関わりで、自分の生きる道が変わっていく。
ジャンはこの世界に転移してきて、その思いが強くなっていた。

彼の人生に寄り添って行きたい。
同じ様に自分の人生を彼と共に生きていきたい。
これを愛と言うのだと、リシャールに教えてもらった。
そして、それを形に表現する方法を、エレノアによって設けて貰う。
ジャンは思うのだった。
生まれて良かったと。

心の奥の方から込み上げてくる笑いに、身を任せクスクスと笑う。

「なんだい、嬉しそうだねぇ。」

そういうおかみさんの顔も、微笑んでいる。
きっと幸せの連鎖だ。

「へへへ。おやっさんに手袋作ってもらってこようかな。」
「ああ。そうしといで。」

ついでにおかみさんにプレゼント用意するように言わなきゃな。

そう思いながら、ジャンは店の裏のへと向かっていった。





END

ーーーーーーーーーあとがきーーーーーーーーー

完璧なる妄想の話です。
エレノアのあたりは捏造です。
ですが、セント・バレンタイン・デーという風習は、本当に中世あたりからあったそうで、プレゼントを渡したりしたそうです。
バレンタイン前の風習*¹とやらは、史実を参考にしました。

*¹ ルペルカルとしても知られるルペルカリアは、都市を浄化し、健康と生殖能力を促進するために毎年 2 月 13 日から 15 日まで行われる古代ローマの牧歌的な祭りです。 

wikipedea: https://en.m.wikipedia.org/wiki/Lupercalia より
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