転生騎士団長の歩き方

Akila

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1章 ようこそ第7騎士団へ

36 総団長と十手

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「げっ」

スバルさんの後ろにはまだ3人も居て、入り口の大きな扉には大男が寄り掛かって立っていた。

「あぁ!!! ヤバイ。みんな、ヤバイ。制服を正して!」

ハテナな騎士達はお互い顔を見合わせている。

「ヤバいんだって! 総団長が居るから!!!」

ニヤッと笑ってこっちを見ている総団長とお付きの涼しい顔した第1のおふたり。

ガサっと皆が立ち上がり、身なりを整え腕を後ろに回し直立だ。トリスもアレクも同じ様にしている。

良かった~。何とかなった。

「ラモン団長! 団長室へ行ったらこちらだと聞いてね」

「ス、スバルさん。お約束はしてなかったような…」

「いや~すまないね。総団長の時間がたまたま空いたものだから」

「総団長… がですか?」

「あぁ、今時間はいいだろうか?」

「はい」

するとスバルさんは総団長に手を振って合図を送る。総団長の御一行はパッと真っ直ぐ立ちこちらへやって来る。

「いやいやいや、スバルさん? おかしいでしょ。私が向かいます! 総団長を止めて下さい!」

「え? いや、だって。今更止まらないでしょ? もうこっちに着きますし、ラモン団長は気を使い過ぎです」

いやいやいや。

ん? いややいやいやいや。

青い顔の私は、他の者と同じように直立で総団長をお迎えした。

「そ、総団長、わざわざ足を運んで頂きありがとうございます」

「いい。それよりちょっと堅いな。団長は同列と言ったのを忘れたか?」

「そんなぁ… 総団長ですよ? 恐れ多いです。はい」

「まぁ、その内慣れるか? 崩して話していいんだぞ? スバルから聞く話によると、ドーンとは親しげに話すそうじゃないか? ん?」

「それは… 毎日一緒にいますので、自然と仲良くなったと言いますか」

「慣れか? ではこれからは毎日顔を見に来るとしよう」

ダメダメダメ。それは団のみんなの心臓が持たない。ダメだ。後ろでみんなの顔色がサ~っと引くのがわかった。

「いけません。タ、タメ口までとは行きませんが、極力崩して話します。話す、よ?」

「ぷっ、ククク。すまんすまん。ちょっと苛めすぎたか? ドーン?」

総団長は、プルプルしながら一生懸命答える私の頭を撫でてから後ろのドーンに話しかけた。

「そうですね。うちの団長で遊ばないで下さい」

「相変わらずだな。元気か?」

「見ての通り、むしろ若返りましたよ」

「そうか… それは良かった」

総団長は優しい笑みを浮かべてドーンを見ている。やっぱり親友? なんだね。心配してたんだ。

一方、ドーンは他の騎士達を気遣い、今いる場所の反対側、ベンチが並ぶ見学席へ総団長を誘導した。

「ちょっとボロい椅子ですが、どうぞ」

「あぁ、懐かしいな。これぐらい新調すればいいのに。私もココ出身なんだ。なぁ? ドーン」

総団長はあちこちにある、椅子の傷をなぞっている。

「はい、大昔ですが」

「総団長も?」

「あぁ、新人の頃に3年程か。その後すぐに第4へ異動になったからな」

第4、近衞か。

「では、リックマイヤーは覚えていますか?」

「あぁ。新人担当の指導騎士だった。ラモンも知っているのか?」

「知ってるも何も、まだ居ますよ? 今は私の側近の一人です」

総騎士団長は大きく目を見開いて驚いた。

「… そうか。そうか。約束を守ってくれたんだな」

「約束ですか?」

「青い若造時代の私が呟いた戯言だ… 何でもない。ドーンお前、リックマイヤーの事、知っていたのに隠していたな?」

ドーンは涼しい顔で答える。

「本人に口止めされましたので」

「そうか。まぁ、いいや。今日はな、ラモンが考案したアレコレを話しに来た」

ん? 給与算定法かな? スバルさん居るしね。

「では、団長室へ移動しましょう」

「いや、まずは十手だ」

十手? が何?

「私も試してみたい。今あるか?」

「ありますが… え? 総団長自らですか?」

「あぁ。設計図を見て試してみたくなった」

私はドーンに目配せし取りに行かせる。

「ほほぉ。本当にドーンを使いこなしているようだな」

「使いこなすとか、語弊があります。副団長なんですから普通でしょう?」

「ははは、あの・・ドーンだぞ? 知らないって事は恐ろしいな。ここじゃ、いやラモンの前ではあいつも一騎士で居られるのか… スバルが驚いていた理由が分かったよ」

ん? あの・・って『稲妻ブレーン』の事かな?

「いえ、ドーンは危なっかしい小娘を世話してくれているのです。流石、第一の頭脳と謳われた方。私がこうして好き勝手出来るのは、ドーンと側近達のお陰と重々承知しています。私一人だったら… 今は無いでしょうし」

「謙虚な所もドーン好みか、あはははは。天然とは最強だな」

解せん。天然とか。普通じゃん! 普通の事しかしてなくない?

「う~ん。どうでしょう」

そうこう話しているとドーンがアレクとトリスを連れて帰って来た。

「総団長、これが十手です。十手の使い勝手を見たいのならこいつらにさせますが?」

「いや、私がする。ドーン、スナッチ、相手をしろ」

総団長の後ろにいたスナッチ副団長が嫌そうな顔して前に出てきた。

「いやいや、何で? この騎士達にさせればいいでしょう?」

「あー? 十手とやら、面白そうじゃないか。まぁ、付き合えよ」

「え~、もう~」

と、気さく? な感じで、スナッチ副団長はぶつくさ言いながら開けた場所へ向かって行く。

「ドーンも。さっきの様子じゃ鈍ってなさそうだしな」 

「やれやれ。言い出したら聞かないんですから」

ドーンも自分の槍を取りに駆けて行った。

「それより、さっきの対戦、ラモンは面白い戦術を持っているな? 小柄かつ身軽な身体を応用した体術と、近距離専用の短剣。初対面の相手には負けなしだろう? どうだ?」

うっ。バレてる。

「はぁ、まぁ。しかし、一度見られてしまうと格段に勝算が下がります。まだまだです」

「いや、そうだなぁ… 速さ・・を武器にしたらひょっとしたりするんじゃないか? 戦闘センスはいいんだ。まずは体力作りだな」

「はい、精進します。ご指導ありがとうございます」

「ん」

そうこう話していると、ドーンとスナッチ副団長の用意が出来たみたいだ。

「そこの側近達。ラモンを護衛しろ。石や魔法のかけらが色々飛んでくるぞ」

「「イエッサー」」

アレクとトリスが私の席の前に立つ。総団長はワクワクしながらドーン達の方へ向かって行った。

「ねぇねぇ、トリス。あんたもちゃんと騎士・・が出来るんだね?」

「だ、団長。今は止めて下さい」

「は~い」

私の横にはスバルさんが座った。

「すみませんね。うちの団長、暇さえあれば打ち合いしたいタイプでして」

「いえいえ。十手を直接吟味頂けるなんてうれしいです」

「では、私、コナーが立ち合います。総団長対ドーン、スナッチ。始め」
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