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舞い込んだ依頼

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王国には噂があった。
それは、治療困難と言われた病気を治したと言われる医師がいる…、わずか一月で一流の薬剤師と同じ腕前になった薬剤師がいる…、潰れかけた店を立て直した料理人がいる…、騎士団長ほどの実力がありながら、騎士団に所属せず、頼まれたときにのみ手を貸す傭兵がいる…、どんな依頼でも必ず成功させる凄腕の冒険者がいる…、そしてどんな情報でも必ず手に入れる情報屋がいると…。
しかし、これらの噂の人物たちはどこで産まれ育ち、どこに住んでいるのか、またどうしたら会えるのかは誰も知らないと…。
ただどうしても会いたいときにはその人物が導いてくれるという噂があった。

この日、一人の男が不思議な光に霧の深い道を導かれてある店を訪れていた。

「いらっしゃいってガルシアか。お前が直接来るなんて珍しいな。今日はどうしたの?」

扉を開けて入ってきた男に俺は顔を向けながら尋ねた。
椅子に座ると男は真剣な表情をして話始めた

「イル。今日は情報屋としてのお前に依頼があって来たんだ」
 
ガルシアの真面目な表情と“情報屋への依頼”という言葉に俺は情報屋としての顔に切り替えて話始めた。

「いつにもまして真面目な表情ですね。ガルシア宰相自らお越しということはかなりの仕事なのでしょうね。どのような依頼かお聞かせ願えますか?」

ガルシアは俺の言葉に頷きそして答えた。

「今回の依頼は二つある。まず一つ目は王立イリアス学園の情報を集めてもらいたい。最近貴族出身の生徒や教師の一部が他の生徒や教師に横暴な態度をとっているとの情報が入ったんだが、国の視察ではなかなか尻尾をださなくてな。それでお前に依頼をしたいというわけだ」
「その程度の依頼でしたらすぐにでも調査結果をお伝えできますよ。報酬は相応のものをいただくことになるでしょうがね。もう一方の依頼はどのような内容なのでしょうか?」
「もう一つの依頼は今度、イリアス学園に入学する第一王子の護衛を依頼したい」

俺はこの言葉を聞いた瞬間脳が理解することを拒否し、そのすぐ後にあきれた表情をガルシアへと向けた。

「ガルシア宰相、ここがどのような場所か理解していますか」
「ああ。もちろんわかっている」
「以前伝えたはずですよ。ここは情報屋であって便利屋ではないと。まして第一王子が関わるとなるとその意味を理解していないあなたではないでしょう?」
「わかっている。その上で頼みたい」

長年の付き合いからガルシアがこのようになっては俺が依頼を受けるまで粘るつもりだということを理解したため、半ば諦めながら話を聞くことにした。

「一先ず話を伺いましょう。依頼の詳細を詰めるのはその後で行いますので」

珍しく粘るガルシアに話を聞くために促すと、ガルシアはすぐさま表情を明るくし話し出した。

「こんな依頼を出してすまないとは思っている。だが、他に頼めるものがいなくてな」
「あんたには恩もありますので。今回の件でガルシア宰相への借りは返しましたからね」
「重々承知している。実はなイリアス学園に第一王子が入学することになったのだが、その第一王子に付く付き人の生徒が問題になっているんだ」
「第一王子の付き人といいますとたしか一人は現王国騎士団の団長の息子ですよね。剣術系のスキルや身体強化系のスキルを持っていて同年代では頭一つ抜けていたと記憶していますよ。国の情報部のトップの息子ですね。珍しい魔法と簡単な治癒魔法が使えましたね。親の伝手でお遊びでいろいろな情報を集めていましたね」
「相変わらずだな。まあそちらの予想通り、その二人がつくことになっている。本来であれば問題なかったのだが、もうすぐ勇者召喚が行われると情報が入った」

ガルシアは俺が何かしらの反応を示すだろうと様子を伺ったが特に反応をみせない俺をみてつまらなそうにして話を続けた。

「これはお前の目的とも関係しているはずだと思ったんだがな。」 
「その情報はすでに手に入れていますよ」
「本当にお前の情報網はどうなっているんだ。一応このことは国家機密なんだけれど」

ガルシアは深くため息をつきながら容易に情報が抜き取られている現状に頭を悩め内心でため息をついた。

「この国の情報程度でしたら国家機密程度であればすぐにわかりますよ。今回の件もあの過保護な王様が原因なのでしょう。一歩間違えば親馬鹿がすぎることになりますよ。そのせいで子供に嫌われてるはずですよね」
「本当になんでそんなことまで知っているんだ。公には仲が良いとなっているあるはずなんだが。まあわかっているなら話がはやい。イリアス学園は全寮制だからどうしても毎日顔を会わせることができないからと不安になっておられるのだ。勇者召喚の情報が入るまではなんとか抑えられていたのだが勇者召喚の情報をきいたとたん更に付き人を増やすときかなくてな。それには王子が孟反対なされたから表立ってはなかなかつけられなくてな」
「その結果、私にこのような依頼をすることになったわけですね」

勇者召喚が行われる度に争いがおこり、暗殺者をはじめとする裏社会のものたちの動きも活発になることから王は王子のことが心配なんだろう。
実際、勇者召喚が行われる度にどこかの王族が毎回死んでいた。
それにしても、王子が孟反対したときの姿が目に浮かび笑いそうになりながらガルシアの話をきいていた。
きっとあの王のことだから王子に、付き人を増やしたら嫌いになるとか言われてしぶしぶ引き下がったのだろう。
最近は王子もだいぶ王の扱いに慣れてきたようだったしな。
あとで俺の情報網でわかった王城の記録を確認してみるのも面白いかもしれない。

「あまり良くないことを考えていそうだな。王子に気づかれないようにしつつ、気づかれた場合にも言い訳がたちそうなやつを学園に入学させることで落ち着いた訳だ。そこでお前に白羽の矢がたったんだ。頼めないか?」

再び頼み込んでくるガルシアに俺はため息をつき情報屋ではなく俺個人としての交渉へと切り替えることを決めた。

「面倒ごとを抱えていたの俺の面倒をみてくれたガルシアの頼みだし仕方ないか。ただしこちらの条件を飲むことと、報酬次第だ」

とあるものを求め情報屋を始めた俺がトラブルに巻き込まれた際に助けてくれたのがガルシアだった。そのガルシアからの依頼ということで条件付きなら受けることにした。

「よかろう。王からもある程度の条件を飲むように言われている。まず、報酬はこちらからは一月に金貨30枚でいかがだろうか」

金貨30枚、決して安いわけではないが破格でもない。何より俺が学生生活をしている間に稼げる金額を下回る。

「それぐらい毎月稼いでいる。更に20枚は上乗せしろ」
「もう少し安くならないのか」
「無理だ」
「仕方ない。情報料も一緒にならその値段をだそう」

情報料も一緒なら月に金貨50枚。まあ今回はこれくらいで料金の方は構わないだろう。

「さて条件の方だが、まず当たり前だが姿は変えて学園には入学させてもらう」
「相変わらずだな。また、お得意のスキル『真偽の聖眼』を使うのか?」
「さて、どうだろうな。あと、不用意にスキルのことは言うな」

スキルや魔法と呼ばれているものは数多く存在しているが、中には貴重なものもあるため情報によってはかなりの価値があるものも存在する。
スキルと呼ばれているものは例えば『剣術』や『槍術』などの技術的なものが多い。
対して魔法と呼ばれているものは例えば『火魔法』や『水魔法』、『星魔法』などのものがある。
そして、確かに俺は『真偽の聖眼』という変わったスキルを持っている。
このスキルの能力の一つに『偽る』能力があり、この能力のお陰で他者にばれずに変装できるのだ。

「二つ目の条件だが、最低でも週末は学園の外で仕事ができるようにしておいてもらう」
「外出している間の王子の安全確保はどうするつもりだ」
「俺の使いに護衛させるから問題ない。無論、スキルで変装させた上でつけるからばれる心配は少ない」

予想通りの反応だったのでこちらは用意した返答をしこの事については押し通そうとした。

「実際武力行使があったらどうするつもりだ」
「だから戦闘のできる使いとついでに従魔を近くに潜ませておくから問題ないだろ。この条件に関しては異論は認められないからな」

こちらにだって他の仕事もある。
情報屋以外にも仕事をしている俺からしたら本来であれば1日中動ける日が週末のみしかないのもかなり厳しい。
だが、ガルシアには恩があるから今回はこれで仕事を受けようとしているだけである。
これ以上の妥協は流石に引き受けられない。

「わかった。それで構わない。お前のことだからまだ何かあるのだろう。残りの条件はなんだ」
「流石はガルシア。話がはやい。三つ目の条件は俺が住む寮の部屋の改造だ。部屋に調理場と鍛冶場、薬品を扱える研究室を用意してもらう。場所は地下で構わない」
「その点に関しては問題ない。それぐらいならいつでも地下に作れるように話は通してある」
「それはありがたい」

やはり付き合いが長いだけあってガルシアは俺の発言を予想していたようですでに準備は整っていた。

「最後に四つ目の条件だが、珍しいスキルや魔法を持つやつの情報をもらうぞ」
「またか。わかっている。そちらのほうもすでに手配してはいるが、なかなか見つからないから暫くは待ってもらうぞ」

この条件はガルシアが依頼するときは必ず付けている。
というのも実は俺が情報屋を始めるきっかけとなった二つのスキルが『スキル大百科アーカイブ』『魔法大百科アーカイブ』なのだが、この二つのスキルはともに条件を満たすことでそのスキルや魔法に関する情報を記録するというものだった。
今でこそスキルを使いこなせているためかなり扱い訳なったものの、最初の頃は使い方もわからなかったため記録するだけで大変だった。
しかもこのスキルがすることは記録するだけであって、記録したスキルや魔法が使えるようにするには自分で習得するしかない、めんどくさいスキルなのである。まあ、習得条件を閲覧できることがわかってからは情報屋の主力商品の一つになっているのだが。
そして俺の目的がこのスキルを使い多くの情報を記録していくことでたどり着けると予測されているため、特に新しい魔法やスキルを記録することが必要なため、事情を知っているガルシアには条件や報酬として今回のことを頼むことがある。 

「こちらからの条件は以上だ。報酬に関しては月末に渡してもらう。あと、学園への入学はどうするつもりだ」
「そのことなら普通に試験を受けてもらう。すでに受験登録はしてあるので気にすることはない。学園での費用はある程度こちらが持つ」
「わかった。他にはなにもないよな。ならこの用紙を記入してさっさと帰れ」

話が終わったのでさっさとガルシアに契約書を書かせさっさと店から出した。

ガルシアは店を出ると再び不思議な光に導かれて、人通りの多い大通りまで案内されたのだった。
後ろを振り返ってもすでに辿った道はわからず、店も見えなくなっていた。



「さて、これから忙しくなるだろうしさっさと準備しないとな。今日は時間もあるし、他の仕事も確認してくか」

イルヴィスの声は深い霧の中、店が見えなくなると同時に聴こえなくなった。







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