ゲームスタート時に死亡済み王女は今日も死んだふりをする

館花陽月

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聖女ルルドの恋模様

17歳の誕生日は恋の予感!?⑤

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庭園に戻ると、姿を消した私達を心配して騒ぎになる手前になっていたと聞いた。
カリーナの先読みで私がアドルファスと見つかって心から安堵したとカリーナに泣きながら抱きつかれた。何故か便乗して抱きつこうとしたクレトスをケイドルが阻止してくれた。

「お騒がせしてごめんなさい!!」
「・・追いかけて行ったのに、話し込んでしまって心配をかけてすまなかった!」
眼鏡をかけたアドルファスと顔を見合わせて慌てて平謝りをすることになった。

庭園の奥にある小さなガーデンスペースでは、お母様の育てた自慢の花々が溢れるていた。
馨しい薔薇や菫や百合の花々の香りが溢れていた。
そこで私達はお茶を楽しんだ。
大きな大理石で出来た長方形のテーブルの上には白いカードが並べんでいた。
「嘘だろ!?何でババの位置が解るんだ!?先読みの力でも使ったのか!?」
クレトスが頭を抱えながら椅子から立ち上がって叫んだ。
迷惑そうなカリーナの表情と、クスクスと笑うカインが対照的だった。
「この力を、そんな勿体ない使い方はしませんわ!!クレトスは顔に全て出ていますわよ?先ほども眉毛が動いてましたもの!!」
「何だって!?誰か・・。セロハンをくれ!!俺の眉毛を止める!!」
「剥がす時にごっそり抜けるぞ、動かなきゃいいだけだろう」
セロハンテープを必死に探しに行こうとするクレトスにアドルファスが真剣な顔で言った。
「・・何度も瞬きする方が解りやすくないか??」
紅茶のカップに口をつけたまま顔を上げたケイドルの一言で、シーンとその場が静まり返った。


「アリア様、皆さま。
そろそろ大陸会議が終わり、17歳のお誕生を祝う祝宴を行う準備が整ったようです。
皆さまが会場にお集まりになりますので、どうぞそちらへのご移動をお願い致します」
執事が、準備を終えた様子で私達を案内すべく控えていた。
私達は顔を見合わせて目配せをすると、カードを片付けて王城の中のボールルームへと移動した。
会場には、各国の王族や筆頭貴族が集っていた。
幾重にも重なったクリスタルが揺れるシャンデリアが釣り下がる豪華な舞踏場には、ピアノやヴァイオリンなどの奏でる生演奏が流れていた。

給仕が私達にトレーを差し出した。銀色のゴブレットが6人分並んでいた。

シャンパンが入った銀色のグラスは、父が命じて特別に毒を検出できるように作った物だった。
各自恐る恐る銀色のグラスを覗き込んでいた。
9歳の誕生日での毒物混入事件があった為、探るようにお互いの表情を見合わせる。

ケイドルが、渡されたグラスをそっと自分のグラスを口元に持っていく。
目を閉じると、口元を綻ばせた。
「うん・・。さすが銀食器だ。このグラスの中身は大丈夫だよ。飲んでも害はないから」
「ほ、本当か??確かに・・。銀食器は毒が入っていたら変色するから大丈夫だとは思うけど・・」
クレトスも恐る恐るグラスを鼻に近づけて匂いを嗅いでいるが首を傾げてばかりいた。
「自信があるようだが・・。ケイドルは「強嗅覚」を保持しているのか?」
アドルファスの言葉に一同が驚きながらも、ケイドルの表情を見た。
「そうだね。僕の力はかなり昔からあったんだ。
この力を初めて自覚したのは、君たちが倒れた日だったな。アドルファスのグラスからツンとした刺激臭を感じとったんだよ。時すでに遅かったけどね」
銀色の髪を揺らして、エメラルド色の瞳を細めた。
「残る力は、あと3つ・・か。」
「残りは2つじゃないの?最強の白魔術と、心読み・・。魅了は・・。アドルファスが持っていた。で、いいんだよね。倒れてしまってから、次に会う時に君がその眼鏡をかけるようになったの魅了を危惧してだよね。」
「耳」の力で言葉を拾ったカインは、不思議そうに首を傾げてアドルファスを見た。
その言葉にアドルファスは大きな眼鏡をかけたまま、ゆっくりとその言葉に頷いた。
「9歳の誕生日に目を覚ましてから、翌年の大陸会議にお会いした際には、顔のサイズに合わない眼鏡をかけていて驚いたわ。他の参加者のご令嬢達もがっかりされていたけど・・。あのような奇麗な目に魅了も備わったら、色々ご苦労をされたのでしょうね。」
カリーナが翳りのある表情でアドルファスを見上げた。
「ああ、色々あった。私自身も最初は何が起こったのか分からなかった。世界がまるで逆転したような気がした。
このような力、欠片も望んでいなかった」
「え?・・望んで無かったの!?」
その言葉に驚いた私は、顔を上げてアドルファスを見た。

今の言葉の真意は?
女神の力は必要な人に、力を欲する人に分け与えた筈だった。その力のために危険な目にあうような事になっていたら迷惑でしかないじゃない!!

「・・そんな、アドルファスはその力を求めていなかったのに授かった・・。」
無言のまま答えないアドルファスを、私は茫然と見つめたままドレスの裾をぎゅっと握りしめた。
クレトスは心配そうにアドルファスを見ていた。
「望まなかった。皮肉なことに、この力がなかったら私は今ここにいなかったんだが」
その場にいた私達は息を飲んだ。カリーナは不安そうな表情を浮かべ、カインは何かを思案するように下を向いた。
「・・それはどういう意味なの??私が眠っていた間に何があったの?」
俯いたまま答えたアドルファスに私は戸惑いの声を上げた。
珍しくケイドルも口をつぐんでいた。
ただ黙ったまま、青くも赤い炎の混じった不思議な色で私達を静かに見ていた。

静かな沈黙が広がっていた。
耳に届く賑やかな楽隊の音楽が見つめ合う私達の後ろで軽快なリズムが流れていた。

「アリア様、国王様がお呼びです。祝宴の開始のご挨拶をお願いします。」

執事の声に頷いた私は、後ろ髪を引かれながらも踵を返して執事の後ろを歩き出した。
父のいる舞踏会場の中央にある母と並ぶ繊細な彫刻が刻まれたオークと黄金で出来た玉座へと向かった。

女神様はどうしてアドルファスに魅了の力を授けたのだろう・・。
胸に輝く虹色のペンダントをぎゅっと握りしめた。

玉座から立ち上がった父は、私を見つめて優しく微笑んだ。
私はゴブレットを右手に持ち上げると、落ち着かない心と裏腹に優雅に笑みを浮かべた。
大勢の招待客の視線が集中し、唇を引き結んで軽く息を吐き出した。

「皆さま。この度は私の17歳の誕生日の祝宴の為に遠方よりお集まり頂きまして有難うございました」

「娘が目覚めて、17歳の誕生日を無事に迎えられたことを女神セレスティカに感謝する。
今宵は存分に楽しんで行ってくれ。それでは杯を掲げてくれ。この大陸に、セレスティカの加護が
続くように祈ろう・・。乾杯!!」

グランデリアの王が乾杯を告げる声が会場に響き渡ると、楽隊の演奏が円舞曲に変わり軽やかな音楽が流れ出した

私の肩を抱くように、同じ色の瞳を優しそうに細めた母と威厳がある声を張り上げた父とで
グラスを軽く合わせた。

私は親族であり、婚約者がいなかったケイドルとファーストダンスを踊った。
王族のダンスを皮切りに、軽やかな舞踏がホール中央では繰り広げられた。

「ア、アリア様・・!!」

父母と王族関係者に挨拶をして回る移動の途中で、聞き覚えのある声が聞こえて振り返った。
アーミッシュアカデミア・パレスで学ぶ同じ特位クラスの生徒二人が華やかなドレスを身に纏って
優雅にお辞儀をした。

「17歳のお誕生日おめでとうございます。アリア様!!」

ブルネットヘアを編み込んだメアリーは、クリーム色の布地のドレスを身に纏い、イリスは水色のドレスがシルバーブロンドの髪に映えて美しかった。何とも言えない落ち着きのある佇まいを見せていた。
そんな二人は、私の前で恥ずかしそうにはにかんだ笑みを浮かべていた。

「まぁ!!メアリー!?イリスも・・。遥々隣国から宴に参加して下さったのですか!?」

馴染みのある二人の姿に私はホッとして笑顔が零れた。

「私達だけではないのです。先ほど・・。エミリー様のお姿も見ましたわ。」

イリスが、不安そうな瞳で私を見上げていた。

「先ほど、クレトス様とお話しをなさっているエミリー様を見たんです。ダンスを踊るお約束を
なさっていた様なんですが・・。」「そ、その、口論とまではいかなかったですが、クレトス様を睨んで怒鳴りつけるような声を出されていたので、私達も驚きましたわ。涙を浮かべて、何処かへ行かれたようでしたわ」

「そう、エミリー様がここに・・・。」

胸騒ぎを覚えた私は、会場内をぐるっと見まわしてエミリーの姿を探したが、会場に溢れる沢山の招待客の数に圧倒されて唇を噛んだ。
エミリーをこの大勢の招待客の中から見つけることは難しいと感じてため息を吐いた。
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