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難関不落!?筆頭公爵に同意書への署名を頂きます!!
辺境伯は浮気者の婚約者を許さない!エメルディナの宴の夜<棚ぼたで作戦α>①
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前回の作戦Ωから二週間が過ぎていた。
年に1度の国を挙げてのお祭りであるエメルディナの宴を明日に控え、王都に住む住人達は既にお祭り感満載の様子だった。
平民だけでなく貴族達や、宮使いの者達も何処となくソワソワしている。
「「あっ・・。」」
私は執務室の前で同じ社交部のアルフレッド=クラウと鉢合わせた。
「エメリアさん、学校の社交部でも明日の祭りの見回りをするんだけど・・。明日の夜は忙しいかな??」
「特に予定はなかったと思うわ。
リリアとお昼のうちに町に出る予定になっているけど。夜は大丈夫です」
「そうか、じゃあ僕とクロエさんと一緒の班に入って町を見回ってくれる?」
「分かりました。夕方にクロエのお屋敷に寄って一緒に町に向かいますね!!」
いつもは厚底の眼鏡をかけて、髪をおさげに編み込んでいる私でも、地味な変装を解いた私にも変わらない態度を取ってくれている。
それが私にはとても嬉しかった。
男性不信である自分にも適度な距離を取って紳士的に対応してくれている。
金色の髪に、焦げ茶色の大きな瞳が素敵だと騒がれている社交部の花形であるアルフレッド=クラウ
は、爽やかに手を振ると邸宅に帰って行った。
執務室の椅子に腰をかけた私は執務机の上に溜まった計算書を手に取って眺めた。
紅茶のカップの取っ手に指をかけて、口にいい香りのする紅茶を含んだ。
「・・・明日の祭りは、アルフレッド=クラウと行くのか?」
「ブフッ・・!!何でそんな情報を知っているんですか?怖いんですけど!!」
噴出した紅茶が紙にかかっていないか確認しながら、ハンカチで拭きながらカイルを睨んでいた。
エリオスが心配そうにチラチラとこちらを見ていた。
「学校の社交部で、お祭りの見回り当番の仕事があるんですよ。毎年お祭りでは、生徒同士に限らず
トラブルが起こるので、学校としても心配なんでしょう・・。見回り活動を社交部に一任しているんです」
私に余りの勢いで怒鳴り付けられて落ち込んだ表情のカイルが少しだけ可愛そうに思い、ため息交じりに返答をした。
「そうか・・。確かに毎年エメルディナの宴では酔っ払いの暴行や、盗み・・。
婦女暴行のような物騒な事件が多く出るんだ。
・・待て。婦女暴行!?
ああっ!!それは駄目だろ。
非常に危険だ。心配が過ぎる!!」
「婚約者の義妹ではありますが・・。
どんな過保護です!?
殿下にはご公務がありますし、社交部の男子生徒も見回りに参加するんですよ?
皆さまと一緒に見回りをしますので、大丈夫ですよ!」
「は?同じ年頃の男子生徒と一緒って・・。きっと、獣ような輩ばかりだ!!
余計心配になるだろう!?エリオス、明日の夜の予定は全てキャンセルしようか??」
「殿下は、自己視点での妄想が暴走中ですね・・。エリオス様、カイル様の被害妄想を止めて下さい!
いつもの諭すように上手~く説得して下さいよ!!」
「カイル様、お言葉ですが。
明日の夜はシオン皇子をエメルディナの宴にお連れするお約束になっておりましたが・・。どういたしましょうか??」
予定表を確認して読み上げたエリオスの表情は真剣そのものだった。
その言葉に、数秒の間執務室は沈黙に包まれた。
「私は、エメリア嬢と同行しても良いぞ。
カイルは彼女に悪い虫が付かぬか心配なのだろう??お前は、よっぽど妹の方が気になるようだな。過干渉すぎやしないか?」
執務室のドアから、シオンが執務机まで背の高い美形王子が堂々と歩いて来た。
「シオン・・。お前、話を聞いていたのか??」
カイルは顔を顰めて不機嫌そうな表情を浮かべた。
「聞く気はなかったが、明日の出発時間を確認したかったから直接出向いた。
エメリア嬢とは滞在中に是非話しをしてみたかったので、賛成だ」
急に現れたシオンはエメラルド色の瞳を私に向けた。漆黒の髪をサラリと揺らして、切れ長の美しい顔で微笑んだ。
「引っかかる所はあるが・・それでいいか。でも、そういうお前も危険人物だからな!」
「お前は、姉の方と婚約を結んでいるんだろう??小舅の過保護は嫌われるぞ」
「・・成程、分かりました。
では、エメリア様達の待ち合わせ場所と、現地での集合時間をお知らせいただいても宜しいでしょうか??」
エリオスが、腰を屈めて予定表を右手に開いてペンを準備していた。
待って、どうしてこうなる・・。
学校の見回り当番に王子達が付いてくるってどんな!?
真顔なエリオスが普段は突っ込み担当なのに・・迷宮だよ!!
「えっと、ちょっと待って下さいね??全く腑に落ちない展開なんですけど!?
・・・何がどうしたらこうなる!?」
私は、頭を抱えたまま叫んだ。
明日アルフレッドにこの状況をどう説明すればいいのかと言う超難題が課せられたのだった。
執務室には、夕方には引き上げたエメリアを除いたエリオス、シオン、カイルの3人が残っていた。
エリオスが、真剣な表情で報告書に目を通しながら文面に書かれた情報をシオンとカイルに告げていた。
水色の瞳は何時もと変わらず落ち着いた色を保ち、淡々した口調で説明をしていた。
「・・・・と、言う事です。夕刻に踏み込みました。しかし、現場には何も残されておりませんでした。現在もアジトと思わしき場所を数か所、騎士団に見張らせております」
「そうか・・。明日はエメルディナの宴で、動きはありそうなのか?その為にここに残っていたのだが。何も起こらないなら、ただ祭りを楽しむだけだな・・」
「シオン、手は打ってはいるが万全ではない。
動きがあるとするならすぐに察知して、消される前に証拠を掴まねばな・・」
カイルは、書面に目を向けながら唸る様な声を出していた。
「消される前に・・か。それが出来たら今までの苦労はないだろう?コソコソと、動き回っては証拠を残さずに別な場所へ動く。・・あざとい奴らだからな」
「解っている。その為にもエイルアンと、その上にも水面下で動いてもらっているんだ。
僕の国でこれ以上好きにはさせないさ」
カイルの瞳を見つめているエリオスとシオンは口角を上げた。
「フッ、・・・お手並み拝見だな」
カイルとエリオスのグラスに、置いてあったワイン瓶から赤いワインを注いだシオンはワインを片手に持つと笑みを零した後一気に飲み干した。
その時、執務室の扉が雑に開かれた。
「・・カイルいるか??あっ、エリオスも一緒なのか!?おいっ・・。聞いてくれよ!!」
エイルアンが執務室の扉をノックもなして入ってくると、告げられた情報を耳にしたカイルは、シオンとエリオスに目配せをして不適に笑った。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「リア、あっちのプレッツェル美味しそうだね?
このチュロスって食べ物も美味しそうだよ。一緒に食べようか??」
泣き黒子が色っぽいカイルは良家の商家の子息のような出で立ちに、深く帽子を被りばっちり変装したつもりになっている・・。
祭りで賑わう王都の石畳を歩く私のすぐ傍で無邪気な笑顔を浮かべている。
しかし、変装してもその存在感は変わらず・・。
本人の自覚はなしに、街中でも一際目立っていた。
「エメリア嬢レモネードは好きか??我が国は南国なのでレモンが良く採れるのだ。
ザッハルトのレモンを使ったレモネードは美味しいぞ」
ザッハルトの皇子シオンも私の右横に並んで歩いていた。
エメラルド色の瞳と艶のある黒い髪とモデルような背の高さから、町行く人に振り向かれている。
「・・はぁ。お2人とも食欲旺盛ですね。
この状況が私には正直言って苦行ですが・・。
まるで客寄せパンダでの気分ですよ」
私は今日の見回りの為に、地味めなモノトーンのワンピースを着ていた。
折角頂いたので、カイルから貰った青い麦わら帽子を被っていた。
オーラのせいで注目されている2人に苦笑いを浮かべた。呆れた表情の私にはお構いなしに、マイペースな王子達は祭りの出店を楽しんでいた。
後ろから、持ちきれないくらいの買い物袋を護衛と、無言のエリオスが抱えて付いてくる。
(余計な)気を使ったアルフレッドによって、何故かこのメンバーで廻る事になった。
祭りは平民と貴族が一緒に楽しむことが出きる特別な場だった。
この国は、普段は平民と、貴族の間には衛兵が立つ真赤に塗られた赤碧門で隔てられている。
平民は、この門を通るには許可証がないと貴族や王族の住まう居住区には立ち入る事も出来ない。
「エメルディナの宴」と言う名の創国の女神の生誕祭のお祭りは王都で2日間に渡って行われる。
女神の生誕を祝うこの祭りの2日間だけはこの赤碧門が48時間だけ開放される。
私は、クロエの邸に寄って彼女を我が家の馬車に乗せた。屋敷で顔を合わせた時から、どうも元気がない様子のクロエは馬車の中でもため息をついていた。
「大丈夫??元気がないようだけど・・。」
「御免なさい・・。ちょっと家の事で色々あって。何とか気持ちを切り替えるわ」
そう言って、空元気の笑顔を浮かべていた。
彼女の様子が気になった私は、彼女の心配で頭が一杯になっていた。
馬車が待ち合わせ場所に到着すると、アルフレッドと社交部のメンバーが8名。
王子の2名と、護衛が3名(エリオス込み)が既に到着していた。
一応、変装しているとは言え・・。
品と格の違いを見せている2人の王子のキラキラっぷりに、私とクロエは息を飲んで固まった。
眩しい月と太陽のW王子は、その存在感を無駄に主張しているかのように強烈なオーラを醸し出していたのだった。
私達が到着した時には、既に社交部の女性数名はその場に熔けていた。
残念ながら見回りどころの様子ではない。
まるで使い物にならなくなっていた始末だった。
「エメリアさん、こちらは気にしなくていいよ!!
王子達と廻っておいでよ!!・・ほら、これじゃあ見回りにならなそうだし?」
どう考えても目立ち過ぎな王子達ご一行を連れての見回りは、見回りとしての機能を果たすと言うよりも・・、ただの悪目立ちでしかなかった。
「・・・ですよね。はぁ、こうなると思ったんですよね・・。急に連れてきてしまって申し訳ありませんでした!!」
すまなそうに何度も謝罪する私に、「気にしないで」と言って笑ってくれたアルフレッドはいい人だと思う。
社交部のみんなと離れる時、クロエの覇気がない様子が引っかかった私は、また後で彼女と合流する約束をして離れたのだった。
「カイル、エリオス・・!!
やっと見つけたぜ!!はぁー・・人が多くてしんどかったなぁ・・。
ちょっと話があるんだがいいか!?」
祭りを廻っていると、途中で部下の騎士達を連れたエイルアン=イグノスが現れた。
余り表情を出さないエイルアンが慌てた様子で、2人を連れていったのだった。
王都の中央にある、大きな公園広場で私とシオンと護衛の数名は賑やかな祭りを眺めながらカイル達の戻りを待つ事にした。
広場の中央には、可愛い動物に象られたランタンが並べられていた。
明かりが灯り、薄暗くなった宵闇を照らしていた。
小さな子供たちは、楽しそうに走り回っていた。
大人たちは音楽を奏でて、ダンスを楽しんでいる様子が見える。
「この国は平和だな・・。身分的な区別はあるが、平民達と貴族の距離はまだ近い。
この国は私の理想形だ。自由が羨ましいよ」
シオンは、広場の人々の笑顔を見つめていた。
隠せないオーラがだだ漏れになっているシオンは、貴族の平服のような衣裳を身に着けていた。
見る者を引き付けるような不思議な力を持ったエメラルド色の瞳を細めた。
「この国が自由なんですか??
あの門で隔てられた貴族と平民の間には身分差別が明確に残っています。
この国は定められた法に従って人々は生きていますが、そもそも・・。人が定めた法は、本当に平等に正しいんでしょうか?」
ザッハルトは、呪術のたぐいを操る魔術師がいて、ラグラバルトとは異なった文化圏の国家だ。
法治国家と相対する、森羅万象の女神を信仰する国だと聞いている。
異なる文化に触れて、自国と比較して自由度を感じてしまうのも無理はないかもしれない・・。
「エメリア嬢はこの国の法に疑問があるのか??
平等に正しい法など不可能に近いと思うが・・。
法治国家は我が国の憧れでもある。
その理想には、同時に弊害があると君は考えているのか??」
驚いた様子のシオンが私を見つめていた。
私は小さく頷いた。
自分の想いに嘘を吐くことはしたくなかった。
「様々な権利の保障があって始めて、人は明日に希望を持って生きる事が出来るんです。
この国は「イムディーナの誓い」の法に囚われ、結婚後に生じた弊害を補償する法がありません!!」
身分差別だけでなく、貴族階級も法の犠牲者だ。
不幸な結婚は何があっても、生涯継続しなければいけないと定められている・・。
婚外子や、立場の弱い女性に対しての支援が行き届いてない現状に私は疑問があった。
「「イムディーナの誓い」は、数百年前に、ある種族が原因で起きた王家同士の醜い争いがきっかけだった。世界の王はそれぞれの国でその対策を話し合った。その時にこの国の王がその誓約を定めたのだ。今となっては、この法が何故生まれたのかを理解している者は王族ぐらいだろうな。
君は、この誓いの弊害を問題視していると?」
真剣な表情で向けられたエメラルド色の鋭い瞳と向かい合っていた。
祖母から告げられた言葉を思い出した私は、痛みを堪えるような瞳で頷いた。
「はい。私は「イムディーナの誓い」を結んだ時に決意したんです。
法で決めた婚約を破棄し、いつかこの国を出て自由になりたいと思って生きてきました。
だけど、私と同じようにこの法を問題視し、同じ思いを持った人がいる事を知ったんです・・」
私はゆっくりと目を閉じると、イムディーナの誓いを愚法と呼んだカイルの深い蒼翠の強い眼差しが瞼に浮かんだ
年に1度の国を挙げてのお祭りであるエメルディナの宴を明日に控え、王都に住む住人達は既にお祭り感満載の様子だった。
平民だけでなく貴族達や、宮使いの者達も何処となくソワソワしている。
「「あっ・・。」」
私は執務室の前で同じ社交部のアルフレッド=クラウと鉢合わせた。
「エメリアさん、学校の社交部でも明日の祭りの見回りをするんだけど・・。明日の夜は忙しいかな??」
「特に予定はなかったと思うわ。
リリアとお昼のうちに町に出る予定になっているけど。夜は大丈夫です」
「そうか、じゃあ僕とクロエさんと一緒の班に入って町を見回ってくれる?」
「分かりました。夕方にクロエのお屋敷に寄って一緒に町に向かいますね!!」
いつもは厚底の眼鏡をかけて、髪をおさげに編み込んでいる私でも、地味な変装を解いた私にも変わらない態度を取ってくれている。
それが私にはとても嬉しかった。
男性不信である自分にも適度な距離を取って紳士的に対応してくれている。
金色の髪に、焦げ茶色の大きな瞳が素敵だと騒がれている社交部の花形であるアルフレッド=クラウ
は、爽やかに手を振ると邸宅に帰って行った。
執務室の椅子に腰をかけた私は執務机の上に溜まった計算書を手に取って眺めた。
紅茶のカップの取っ手に指をかけて、口にいい香りのする紅茶を含んだ。
「・・・明日の祭りは、アルフレッド=クラウと行くのか?」
「ブフッ・・!!何でそんな情報を知っているんですか?怖いんですけど!!」
噴出した紅茶が紙にかかっていないか確認しながら、ハンカチで拭きながらカイルを睨んでいた。
エリオスが心配そうにチラチラとこちらを見ていた。
「学校の社交部で、お祭りの見回り当番の仕事があるんですよ。毎年お祭りでは、生徒同士に限らず
トラブルが起こるので、学校としても心配なんでしょう・・。見回り活動を社交部に一任しているんです」
私に余りの勢いで怒鳴り付けられて落ち込んだ表情のカイルが少しだけ可愛そうに思い、ため息交じりに返答をした。
「そうか・・。確かに毎年エメルディナの宴では酔っ払いの暴行や、盗み・・。
婦女暴行のような物騒な事件が多く出るんだ。
・・待て。婦女暴行!?
ああっ!!それは駄目だろ。
非常に危険だ。心配が過ぎる!!」
「婚約者の義妹ではありますが・・。
どんな過保護です!?
殿下にはご公務がありますし、社交部の男子生徒も見回りに参加するんですよ?
皆さまと一緒に見回りをしますので、大丈夫ですよ!」
「は?同じ年頃の男子生徒と一緒って・・。きっと、獣ような輩ばかりだ!!
余計心配になるだろう!?エリオス、明日の夜の予定は全てキャンセルしようか??」
「殿下は、自己視点での妄想が暴走中ですね・・。エリオス様、カイル様の被害妄想を止めて下さい!
いつもの諭すように上手~く説得して下さいよ!!」
「カイル様、お言葉ですが。
明日の夜はシオン皇子をエメルディナの宴にお連れするお約束になっておりましたが・・。どういたしましょうか??」
予定表を確認して読み上げたエリオスの表情は真剣そのものだった。
その言葉に、数秒の間執務室は沈黙に包まれた。
「私は、エメリア嬢と同行しても良いぞ。
カイルは彼女に悪い虫が付かぬか心配なのだろう??お前は、よっぽど妹の方が気になるようだな。過干渉すぎやしないか?」
執務室のドアから、シオンが執務机まで背の高い美形王子が堂々と歩いて来た。
「シオン・・。お前、話を聞いていたのか??」
カイルは顔を顰めて不機嫌そうな表情を浮かべた。
「聞く気はなかったが、明日の出発時間を確認したかったから直接出向いた。
エメリア嬢とは滞在中に是非話しをしてみたかったので、賛成だ」
急に現れたシオンはエメラルド色の瞳を私に向けた。漆黒の髪をサラリと揺らして、切れ長の美しい顔で微笑んだ。
「引っかかる所はあるが・・それでいいか。でも、そういうお前も危険人物だからな!」
「お前は、姉の方と婚約を結んでいるんだろう??小舅の過保護は嫌われるぞ」
「・・成程、分かりました。
では、エメリア様達の待ち合わせ場所と、現地での集合時間をお知らせいただいても宜しいでしょうか??」
エリオスが、腰を屈めて予定表を右手に開いてペンを準備していた。
待って、どうしてこうなる・・。
学校の見回り当番に王子達が付いてくるってどんな!?
真顔なエリオスが普段は突っ込み担当なのに・・迷宮だよ!!
「えっと、ちょっと待って下さいね??全く腑に落ちない展開なんですけど!?
・・・何がどうしたらこうなる!?」
私は、頭を抱えたまま叫んだ。
明日アルフレッドにこの状況をどう説明すればいいのかと言う超難題が課せられたのだった。
執務室には、夕方には引き上げたエメリアを除いたエリオス、シオン、カイルの3人が残っていた。
エリオスが、真剣な表情で報告書に目を通しながら文面に書かれた情報をシオンとカイルに告げていた。
水色の瞳は何時もと変わらず落ち着いた色を保ち、淡々した口調で説明をしていた。
「・・・・と、言う事です。夕刻に踏み込みました。しかし、現場には何も残されておりませんでした。現在もアジトと思わしき場所を数か所、騎士団に見張らせております」
「そうか・・。明日はエメルディナの宴で、動きはありそうなのか?その為にここに残っていたのだが。何も起こらないなら、ただ祭りを楽しむだけだな・・」
「シオン、手は打ってはいるが万全ではない。
動きがあるとするならすぐに察知して、消される前に証拠を掴まねばな・・」
カイルは、書面に目を向けながら唸る様な声を出していた。
「消される前に・・か。それが出来たら今までの苦労はないだろう?コソコソと、動き回っては証拠を残さずに別な場所へ動く。・・あざとい奴らだからな」
「解っている。その為にもエイルアンと、その上にも水面下で動いてもらっているんだ。
僕の国でこれ以上好きにはさせないさ」
カイルの瞳を見つめているエリオスとシオンは口角を上げた。
「フッ、・・・お手並み拝見だな」
カイルとエリオスのグラスに、置いてあったワイン瓶から赤いワインを注いだシオンはワインを片手に持つと笑みを零した後一気に飲み干した。
その時、執務室の扉が雑に開かれた。
「・・カイルいるか??あっ、エリオスも一緒なのか!?おいっ・・。聞いてくれよ!!」
エイルアンが執務室の扉をノックもなして入ってくると、告げられた情報を耳にしたカイルは、シオンとエリオスに目配せをして不適に笑った。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「リア、あっちのプレッツェル美味しそうだね?
このチュロスって食べ物も美味しそうだよ。一緒に食べようか??」
泣き黒子が色っぽいカイルは良家の商家の子息のような出で立ちに、深く帽子を被りばっちり変装したつもりになっている・・。
祭りで賑わう王都の石畳を歩く私のすぐ傍で無邪気な笑顔を浮かべている。
しかし、変装してもその存在感は変わらず・・。
本人の自覚はなしに、街中でも一際目立っていた。
「エメリア嬢レモネードは好きか??我が国は南国なのでレモンが良く採れるのだ。
ザッハルトのレモンを使ったレモネードは美味しいぞ」
ザッハルトの皇子シオンも私の右横に並んで歩いていた。
エメラルド色の瞳と艶のある黒い髪とモデルような背の高さから、町行く人に振り向かれている。
「・・はぁ。お2人とも食欲旺盛ですね。
この状況が私には正直言って苦行ですが・・。
まるで客寄せパンダでの気分ですよ」
私は今日の見回りの為に、地味めなモノトーンのワンピースを着ていた。
折角頂いたので、カイルから貰った青い麦わら帽子を被っていた。
オーラのせいで注目されている2人に苦笑いを浮かべた。呆れた表情の私にはお構いなしに、マイペースな王子達は祭りの出店を楽しんでいた。
後ろから、持ちきれないくらいの買い物袋を護衛と、無言のエリオスが抱えて付いてくる。
(余計な)気を使ったアルフレッドによって、何故かこのメンバーで廻る事になった。
祭りは平民と貴族が一緒に楽しむことが出きる特別な場だった。
この国は、普段は平民と、貴族の間には衛兵が立つ真赤に塗られた赤碧門で隔てられている。
平民は、この門を通るには許可証がないと貴族や王族の住まう居住区には立ち入る事も出来ない。
「エメルディナの宴」と言う名の創国の女神の生誕祭のお祭りは王都で2日間に渡って行われる。
女神の生誕を祝うこの祭りの2日間だけはこの赤碧門が48時間だけ開放される。
私は、クロエの邸に寄って彼女を我が家の馬車に乗せた。屋敷で顔を合わせた時から、どうも元気がない様子のクロエは馬車の中でもため息をついていた。
「大丈夫??元気がないようだけど・・。」
「御免なさい・・。ちょっと家の事で色々あって。何とか気持ちを切り替えるわ」
そう言って、空元気の笑顔を浮かべていた。
彼女の様子が気になった私は、彼女の心配で頭が一杯になっていた。
馬車が待ち合わせ場所に到着すると、アルフレッドと社交部のメンバーが8名。
王子の2名と、護衛が3名(エリオス込み)が既に到着していた。
一応、変装しているとは言え・・。
品と格の違いを見せている2人の王子のキラキラっぷりに、私とクロエは息を飲んで固まった。
眩しい月と太陽のW王子は、その存在感を無駄に主張しているかのように強烈なオーラを醸し出していたのだった。
私達が到着した時には、既に社交部の女性数名はその場に熔けていた。
残念ながら見回りどころの様子ではない。
まるで使い物にならなくなっていた始末だった。
「エメリアさん、こちらは気にしなくていいよ!!
王子達と廻っておいでよ!!・・ほら、これじゃあ見回りにならなそうだし?」
どう考えても目立ち過ぎな王子達ご一行を連れての見回りは、見回りとしての機能を果たすと言うよりも・・、ただの悪目立ちでしかなかった。
「・・・ですよね。はぁ、こうなると思ったんですよね・・。急に連れてきてしまって申し訳ありませんでした!!」
すまなそうに何度も謝罪する私に、「気にしないで」と言って笑ってくれたアルフレッドはいい人だと思う。
社交部のみんなと離れる時、クロエの覇気がない様子が引っかかった私は、また後で彼女と合流する約束をして離れたのだった。
「カイル、エリオス・・!!
やっと見つけたぜ!!はぁー・・人が多くてしんどかったなぁ・・。
ちょっと話があるんだがいいか!?」
祭りを廻っていると、途中で部下の騎士達を連れたエイルアン=イグノスが現れた。
余り表情を出さないエイルアンが慌てた様子で、2人を連れていったのだった。
王都の中央にある、大きな公園広場で私とシオンと護衛の数名は賑やかな祭りを眺めながらカイル達の戻りを待つ事にした。
広場の中央には、可愛い動物に象られたランタンが並べられていた。
明かりが灯り、薄暗くなった宵闇を照らしていた。
小さな子供たちは、楽しそうに走り回っていた。
大人たちは音楽を奏でて、ダンスを楽しんでいる様子が見える。
「この国は平和だな・・。身分的な区別はあるが、平民達と貴族の距離はまだ近い。
この国は私の理想形だ。自由が羨ましいよ」
シオンは、広場の人々の笑顔を見つめていた。
隠せないオーラがだだ漏れになっているシオンは、貴族の平服のような衣裳を身に着けていた。
見る者を引き付けるような不思議な力を持ったエメラルド色の瞳を細めた。
「この国が自由なんですか??
あの門で隔てられた貴族と平民の間には身分差別が明確に残っています。
この国は定められた法に従って人々は生きていますが、そもそも・・。人が定めた法は、本当に平等に正しいんでしょうか?」
ザッハルトは、呪術のたぐいを操る魔術師がいて、ラグラバルトとは異なった文化圏の国家だ。
法治国家と相対する、森羅万象の女神を信仰する国だと聞いている。
異なる文化に触れて、自国と比較して自由度を感じてしまうのも無理はないかもしれない・・。
「エメリア嬢はこの国の法に疑問があるのか??
平等に正しい法など不可能に近いと思うが・・。
法治国家は我が国の憧れでもある。
その理想には、同時に弊害があると君は考えているのか??」
驚いた様子のシオンが私を見つめていた。
私は小さく頷いた。
自分の想いに嘘を吐くことはしたくなかった。
「様々な権利の保障があって始めて、人は明日に希望を持って生きる事が出来るんです。
この国は「イムディーナの誓い」の法に囚われ、結婚後に生じた弊害を補償する法がありません!!」
身分差別だけでなく、貴族階級も法の犠牲者だ。
不幸な結婚は何があっても、生涯継続しなければいけないと定められている・・。
婚外子や、立場の弱い女性に対しての支援が行き届いてない現状に私は疑問があった。
「「イムディーナの誓い」は、数百年前に、ある種族が原因で起きた王家同士の醜い争いがきっかけだった。世界の王はそれぞれの国でその対策を話し合った。その時にこの国の王がその誓約を定めたのだ。今となっては、この法が何故生まれたのかを理解している者は王族ぐらいだろうな。
君は、この誓いの弊害を問題視していると?」
真剣な表情で向けられたエメラルド色の鋭い瞳と向かい合っていた。
祖母から告げられた言葉を思い出した私は、痛みを堪えるような瞳で頷いた。
「はい。私は「イムディーナの誓い」を結んだ時に決意したんです。
法で決めた婚約を破棄し、いつかこの国を出て自由になりたいと思って生きてきました。
だけど、私と同じようにこの法を問題視し、同じ思いを持った人がいる事を知ったんです・・」
私はゆっくりと目を閉じると、イムディーナの誓いを愚法と呼んだカイルの深い蒼翠の強い眼差しが瞼に浮かんだ
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