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騎士団との旅立ち。

レオノールの傷。⑧

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瓦礫だらけだったロージアナは一夜にして温泉天国と化してしまった。

救護テントや、その近辺には豊富なお湯が沸き出ていた。

その恩恵をくれた神聖獣の名を取って「サラマンダー桃源郷①②③」
や、「エリザート温泉①②③」の名が合計6か所の温泉に付けられたのだった。


「シア、お疲れ様!!じゃあ、一足先にエリザベート温泉②に入ってくるね!!」

爽やかな笑顔のクリスは、一仕事を終えたようなスッキリした表情で
エリザベートの開けた穴・・もとい露天風呂に入りに行った。

「はい。行ってらっしゃい。・・・・しっかし、すごい名前よねぇ。
もうちょっと捻りとか・・。センスとかないのかしら!?」

漸く、エリザベートを確保した私はレオの隣でため息を吐いた。

服は泥だらけ、髪はボサボサで。
今すぐにでも温泉に入りたい気分だった。


「シアが名付け親なのだろう?俺はローズがいいと思ったんだが・・。」

「そうかしら?キングオブバシリスクとか・・。メデューサとかが似合ってるわ。
その破壊神ぷりが・・。」

「・・・キュウギュブ・・・。キュブァ・・。」

寝言を言いながら腕の中で眠るピンク色のエリザベートの頭をそっと撫でた。


私は、エリザベートをクッションの上にそっと乗せるとテントの外へと出た。

綺麗な星空がテントの上に広がっていた。

「わぁ、星が綺麗ね。しかし、今日は長い一日だったなぁ・・。」

早朝から馬車移動で、港町へ寄り、近隣の村の手当をし、ロージアナで救護活動・・。

極めつけには、エリザベートの破壊活動を
阻止しなければならなくなった私は疲労困憊だった。

レオがやって来て私の隣に並んだ。

「ああ、本当に・・。濃い一日だったな。」

疲れた様子のレオを見上げて笑うと、少し緊張気味の声でレオは私に問いかけた。

「なあ、シア・・。
さっきの女の子の母親は助かったのか??」

「勿論、助かったわよ!!
薬が効いたのか・・。記憶もすぐに取り戻せたのよ!?あのお母さんには、カオンとレイの両方の解毒が必要だったのよね。
すぐにレイを飲ませて本当に良かったわ。」


その言葉に、レオは心から安心した表情で空を仰いだ。

「・・・そうか。それは良かった。」

ふっと笑ったレオの顔を覗き込むと、蒼い瞳が嬉しそうに凪いでいた。

その眩しさに一瞬、自分の心臓の音が跳ねたような気がした。

「・・あ、あの!!ゴホンッ。
・・・レオや、ファーマシスト達のお陰よね。
ロージアナでの騒動でも・・。あの王立学院での騒ぎの中でも・・。あの解毒薬があったから、みんなが命を落とすような事がなく事なきを得たのよね。
あの薬はいつ出来たの・??」

「そうだな、10年以上前には出来ていた。
母上があの薬で亡くなった後すぐに完成したんだ。」

その言葉に私は驚いて顔を上げた。

「えっ!?レオのお母様が亡くなったのは・・。
あの薬のせいだったの!??」


「ああ・・。母上は、父上があの薬を飲み干す前に嗅覚で異変を察知して、ご自分が毒が入ったグラスを手に取って飲み干してしまわれたようだ。
そして、先ほどの母親のように・・。
俺や父上の記憶を失ったまま、亡くなられた。」


あまりの事に頭がさっぱりついて行かない私は呆然とレオを見上げた。

私は全く知らなかった・・・。

まさか、レオのお母様があの薬を飲んで亡くなっていただなんて。

あまりの事に言葉が出てこない。

「シア・・。俺は母が亡くなった時泣けなかった。
あまりの悲しみに頭も心も追い付いてこなくて・・!!
あんなに愛して名前をいつも呼んでいてくれていた母が、俺のことを・・。母が名付けてくれた、俺の名前さえも忘れたなんて信じられなかったし、・・信じたくもなかった!!」

見たことのない感情を露わにしたレオの声に私は驚いていた。

ユヴェールの誕生会の夜・・・。

噴水の前で出会った美しい少年の姿が過った。

その儚げな美しさで女神レオノーラと見間違えてしまったレオの不安に揺れた顔。

「そんな・・。
あんなに小さかったレオにそんな事があったなんて・・。私っ。」

美しく、常に穏やかで冷静なレオが取り乱している現状に私はどうしようもない痛みが胸を苦しく締め付けていた。

私の水色の瞳は大きく見開かれたままでレオの濃い海の色のような蒼瞳に映っていた。

どうしようもない戸惑いと痛みの表情がその瞳に映されていたのだった。

次の瞬間、私の腰を掴んだレオは強く私の身体を抱きしめた。


「・・・レ、レオ!?どうしたの??」

その瞬間、見たこともないような美しい金色の髪の女性が、エターナルアプローズに囲まれたベッドで目を閉じたま横たわる光景が浮かんだ。

・・何!?
今のビジョン?!

大きな腕の中で抱きしめられたまま、私は驚きを覚えていた。


「だけど・・。俺は君に出会えた。
そして、初めて泣けたんだ。
天子としての矜持なんて持たない、ただの子どもとして。初めて会ったばかりの君の前で、ただの母を亡くして、悲しんでいる一人の子どもになれた。」


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