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マルダリア王国の異変。

アレクシアの宿すもの。①

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満天の星空の下。

数か所の救護テントはまだ稼働率を保つ物もあったが、そのほとんどが静寂に包まれていた。

夜も更けた深夜のテントの中では、数個のランタンがつけられたまま暗がりを
薄っすら明かりが照らし、もくもくと湧き出る湯気と熱い湯だけがそこにはあった。


チャプン・・。

熱く立ち昇る湯気が私の目の前にはあった。
自分の真聖獣が掘った穴のお陰で湧き出た温泉に浸かっていた。

クリスが「エリザベート温泉。最高!!」と言っていたが・・。

お湯は白濁のつるつるになるような効能がありそうな
ぬるっとしたお湯の物だった。

「はぁ・・・。しかし、流されてるのか、同意なのか・・。
レオの蛍光灯の威力半端ないのよ・・。
好きだの、愛してるだのってさらっと言ってくれるなよぉぉおぉ!!??」


誰もいないテントの中で、今日の長い一日を考える。
先ほどのレオの激しい口づけや、抱き着こうとした愛玩犬のような懐っこい金色の瞳。
ユヴェールの熱の籠った視線を思い出して更にのぼせそうだった。


何なのよ、このハイスペックハーレムは・・。

私はただの薬学部生だったはずなのに。


「先ほどから何をブツブツと仰っているんですの・・?」

「ア、アイーネ姫!?・・・どうしたんですか??」


岩場になったテントの暗闇の中をアイーネ姫がタオルで前を隠さずに
堂々とした足取りで現れた。

温泉の中で、金色の髪をお団子に括ったまま唖然と見上げる姿に
口角を少し上げたアイーネ姫は長い黒髪をそのままに、ザバッと温泉の中に浸かった。


「温泉が湧いたと意味の解らない情報があったのですが・・。
貴方がこちらにいらっしゃるのだと聞いて私もご一緒しようと思いましたの。宜しいかしら?」

何故っ!?
私目当てって恐怖・・。

宜しいって言ってる前にすでに勝手に入って来ちゃってるじゃないですか!!

・・・何て言えないわ。

「・・え、ええ。・・勿論です。」

さっきまでのだらーんと気を抜いてリラックスしていた時間よ、カムバック!!

なんて思ってしまった私の固まった私の表情を見ると、プッとアイーネは笑った。

「ライバルである貴方に助けてもらうなんて屈辱でしたわ・・。だけど、・・・アレクシア様。
私を助けてくださって有難うございました。」

まさかの急な謝罪に私は顎が外れそうなほどのショックを受けて更に固まった。

「いっ、いいえ!!だって、私の侍女の間違いでアイーネ姫を危険に晒してしまったのですもの・・。
それがファーマシストの務めですから・・。感謝など滅相もない、私は当然のことをしたまでです!!」


謝るとは1ミクロンも考えていなかった私は慌てふためいていた。

「・・・アレクシア様。わたくし、貴方にずっとお聞きしたいことがあったんです。
貴方はレオノール様のこと、どうお考えなのですか??」


「どう・・。って・・・。ええと!?
それは好きとか愛してるとか、あれなやつですか!?」

「他に何があって・・??アレクシア様のことを・・。どうも、うちの兄が好いているようなのです。急にアルトハルトへ行くなどと言い出したのも
貴方が理由のようでした。
もし、貴方がレオノール様のことを中途半端に好きならうちの兄の事も考えてみては?
上の者に対する舐めた態度は気になりますが、その美貌といいそれに調薬の技術は認めて差し上げますわ。・・うちの兄、かなりお薦めですわよ??」

なるほど・・。

邪魔者も排除出来て一石二鳥と?

毒のせいで改心したのかと思ってビックリしたわ。

「あのー・・、一応レオと婚約してる身なので・・。戦争になるってレオに圧かけられてるのでその提案は無理です!!
それに、私アイーネ様のように女豹・・。あ、違った。恥ずかしながら、アイーネ様ように・・。
スタイル抜群のダイナマイトバディでもありませんので。全く自信がありません!!・・はい。すみませんでした!!」

妙なお断りを入れた私の側へアイーネ姫がゆっくりと近づいてきた。

「そうかしら・・。
貴方の胸は私の褐色の身体とは違って白くて綺麗な肌よ??
胸の大きさも・・・。殿方なら目を輝かせて喜ぶほどの大きさはあるんじゃない??」


「触るわよ?あら、弾力もあるわね・・。
この大きなお椀型の胸に大きくもなく、丁度いいサイズの乳頭ね?
カイルもその薄い綺麗なピンク色の突起を見たら、大興奮間違いないわよ!!」


「アイーネ姫!?
物凄く近いんですけど、距離がっ。
ああっ、胸も・・。掴まないでくださいな!!
恥ずかしいですから、人の胸の形を言語で細かく解説しないでくださいっ!!」

キッと目尻がつりあがった迫力のある瞳で私の胸をんだアイーネに事細かく解説された私は、驚いて真っ赤になった。



「・・・・シアの胸とか、やばいから。」

濡れた茶色の髪が湯に浸かっていた。

ユヴェールが困ったような、嬉しそうな表情を浮かべていた。


アイーネとの会話を隣のエリザベート温泉で聞いていたユヴェールとカイルは頬を染めて悶えていた。


「・・・声がでかいんだよ。アイーネ姫は・・・。
ユヴェール、お前もカイルも・・。俺のシアを脳内で汚すなよ?」

ため息交じりのレオが、2人の様子に呆れたような視線を投げていた。


「あのさぁ。シアは、別にまだレオの物じゃないんだからね??それに・・。そんなの無理だし。
・・俺だって男だし、聞いちゃったら想像ぐらい・・しちゃうだろ!!」


ユヴェールは、真っ赤な顔でブクブクとお湯の中に沈んだ。

「白くて・・。大きい・・・??
そこにピンクの・・・あ、ああっ。・・うわっ、ちょっと僕先に上がるね!!」


カイルは、艶のある黒髪を濡らしたまま温泉の中から飛び出すと凄まじい勢いでテントから走り去って行った。


「はぁ、各国の王子を・・重罪だな。
決めた、今夜はお仕置き決定だな。」

引き締まった身体で立ち上がったレオは嬉々とした表情を浮かべていた。



隣のエリザベート温泉①には、レオノールと、カイル、ユヴェールが
湯に浸かっていたことを2人は全く知らなかった。

この温泉の効能は絶大だった。


その夜、温泉で完全に疲労回復したレオに意味の解らない理由で組み敷かれること
になったアレクシアが一番の被害者だった・・。

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