転生伯爵令嬢は、裏切り者からの寵愛に戸惑う。

館花陽月

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マルダリア王国の異変。

消えたマルダリア国王。②

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向き合った私達の間には暫しの静寂が訪れていた。

エヴァンは、嬉しそうに目を細めたまま私を見つめている。
私は水色の瞳で強く睨むような視線で彼を見ていた。

「ドスンッ・・!!」

急にソファの椅子が馬鹿力によってひっくり返されると兄のアルノルドが
震えながらその場に立ち上がっていた。

「バっ、馬鹿か??
シアっ!!・・・何を意味不明な事を言ってるんだ?
エヴァン様に失礼だろう!!こっちへ来なさいっ!!」

「えっ!?ええっ・・。何よ、ちょっと待って!?お兄様ぁぁあっ!?」

兄のアルノルドが先ほど着替えたばかりのクリーム色の可愛いシフォンドレスの襟元を
むんずと掴むと部屋の絨毯の上を引きづるように大股で歩き出した。


ドアの前で一旦停止した兄は、主であるエヴァンに向き直ると姿勢を正して
行儀のよい一礼を取った。

「・・・エヴァン様、暫しお待ちを。・・・失礼!!」

むうっと頬を膨らませた私は兄を睨みながら大声を上げた。

「お兄様ってば!?・・待ってよ!??ちょっと、待ってって言っ・・・・。」

<バタン・・!!>

唖然とした4人の前で、ブランシュ伯爵兄弟が嵐のように部屋を出て行った。



「どういう事だ???
エヴァン様にあんな口の利き方と睨みつけるなんて最悪な暴挙を・・・。
不敬罪で罪に問われてしまうのだぞ??」

「・・・いや、お兄様。落ち着いて下さい!!
不敬って言うか、事実だし。あっちもバレたぜって感じでしたし??・・多分??」

「そんな訳あるかぁ・・!!
ああっ、もしも可愛いシアが斬首刑になったら・・。
ハッ、ギロチンぶっ壊してその刃を持って町中破壊してやる!!
ああっ、でもシアと生き別れになるような島流しの刑にでもなってしまったら・・。
・・なぁに、それでも大丈夫だ!!
お兄ちゃんが流される前に、船に細工をして何度でも何度でも海中に沈めてやるぞ・・!!
これで、シアが流される必要性がなくなるな・・よしっ、よーしっ。それで行こうか!!」

ゼーハー身体を揺らしながら力強いプレゼンをした兄を私は酷く冷たい視線で見つめていた。

「お兄様・・・。
お気持ちは嬉しいのですが、エリザベートよりも人災感半端ないんですけど??
何なんですかその奇抜な妄想力??
お兄様は護衛騎士なんかより妄想小説家の方が向いてますわね!?
それに、私は・・。エヴァン様から直々に呼ばれたので来ただけですわ?」


「は??何故、エヴァン様がお前を???それにダラスって何だ??」

「・・うん!よく解ったわ!?
お兄様が組織と何ら関わりなく、ただ職務に忠実に取り組まれていたのね?
たまたまこの場に居合わせた、例えるなら通行人的な存在だと言うことは解ったんで
落ち着いてね?私も落ち着くからっ・・!!
エヴァン様の護衛として、任務の為にこちらに滞在していただけなのよね??」

「うん??そうだな・・。エヴァン様の護衛の仕事をしているん筈なんだが・・。
シアが呼ばれたなんて全然聞いてないし、ダラスって誰だか知らないんだが・・??」

「はいはい・・。だから、ダラスはエヴァン様でね。エヴァン様もダラスな訳よ・・・。」

意味が全く解ってなさそうな兄は、ブツブツ何かを言っては頭を抱えていた。

お兄様は美形で剣の腕もキレっキレなのに、本当に理解力が残念レベルね・・・。

頼むから、こっちの邪魔をしないで欲しいのに・・!!

「コホン・・。アルノルド、もう痴話喧嘩は落ち着いたのか??
落ち着いたのなら、アレクシア嬢と2人で話がしたいのだが・・。良いかな??」

全く理解出来てなさそうなアルノルドの後ろで、廊下の壁に寄り掛かった姿勢のエヴァンが
面白そうな笑みを浮かべてこちらを見ていた。

焦った表情の兄の肩に手を置くと諭すように話した。

「私がお呼び立てしたのだからな。
勿論・・。アレクシア嬢を不敬罪には問わない。安心しろ、アルノルド・・。」


その言葉を聞いた私は、爽やかな笑みを浮かべるエヴァンをただ黙って見つめていた。



アルスタイン侯爵家の庭園は白い薔薇が咲き誇っていた。

青薔薇が咲き誇る天上宮殿を思い出して、私は少しだけ寂しくなった。

ピンと張った背とすらりと長く伸びた肢体。
金色の輝く髪と整った眉目に蒼い瞳でほほ笑んだレオの姿が思い出された・・。

あのメッセージに気づいてくれたのかしら・・。

レオは今、何処で何をしているのだろう??

・・レオに、会いたい。


水色の瞳が少しだけ影を帯びて、咲き誇る白い薔薇の花びらに触れた。

私はハッとして目を見開くと、今の思考を全否定した!!

「違うし・・。違う違うってば!!会いたくないわよ?今のナシっ!!」

ぶんぶんと首を縦横に振りながら混乱を始めた私の後ろから笑い声が聞こえた。

「・・・はははっ・・。何だ、それは・・。」

ミルクティ色の髪とレオに少し似たアーモンド型の左右対称さを感じる整った顔の
エヴァンが、質素な白いシャツと黒いズボンを身に着けて笑っていた。

「ああ・・。久々に笑った。
しかし、素直じゃないな・・。アレクシア嬢は・・。」


芳醇な薔薇の香りがあふれ出していた。

ざあっと舞い上がる花吹雪の中で、王太子エヴァンと私は向き合った。

「・・・はいはい。素直じゃなくて結構です!!
エリアスじゃないんだから、いちいち心を読まないで下さいよ?
エヴァン様、お腹も空いて来てますし。・・そろそろ本題をお願いします!!」


この人・・。
レオと同じくらいの背丈と筋肉の付き具合。

不思議な既視感に私は、思わず眉を顰めた。

「君は私が「聞く」神力の持ち主だと解るのか??変な娘だな・・。1を言えば10は理解している。
・・レオノールが魅かれるのも解る気がするな。」

笑顔でほほ笑むと、柔軟剤系の爽やかさが・・。

うわぁ・・。

この人、絶対人たらしの部類だわ!!

「アレクシア嬢・・・。君に頼みがあるんだ。父を・・。マルダリア国王の命を
助けてはくれないか??あの毒を使った複雑な調合の薬を飲まされていたんだ・・。」

国王様が、毒を盛られていた???

・・・王太子が組織の人間だとしたら、マルダリア王国自体がアルトハルト神聖国をつぶす為に
作り上げた組織じゃなかったの???

私は自分の目論んだ考えと、事実が大きく違っている事に驚いて留飲を飲んだ。

「そうか・・。そう思うのは当然だな。
父は、青薔薇の栄光ローゼングローリーとは何ら関係ないのだ。
むしろ、ずっと狙われていたようだ・・。」


「狙われていたって・・??だって、貴方が組織の最高幹部なのでしょう??
あなたの指示なくして、組織が狙いようがないじゃない・・。」

意味が解らない言葉の羅列に、私の頭が大きく混乱していた。

「違う・・。幹部なんて言っても、あの組織はそんな単純な組織ではないんだ。
君は混沌の青薔薇エンヴィアスローゼンという名の組織があったのを知っているか??」

確か・・。

昔、天帝であるリオルグ様とレオの亡くなったお母様のレムリア様が戦っていた組織だっけ??


「そうだ・・・。前身の組織であった混沌の青薔薇エンヴィアスローゼン
元アルトハルト神聖国の変わり種達が組織したんだ・・。
地位のある天族たちが手を出して身ごもらせ・・。
捨てた挙句、虐げられて育った神力を持つ子ども達が属していた。
ザイードの王妃となったカイルの母も属していた反アルトハルト神聖国組織だった・・。」

「カイルのお母様も・・・。だから、カイルを脅していたの??
何故、それならザイードの民に毒を??
青薔薇の栄光ローゼングローリーは、どうしてカイルを脅すような真似をしたのよ??」


「カイルの力が必要だったからだろうな・・。記憶を改変する力は、喉から手が出る程欲しい神力だろう??
カイルの母譲りの特殊な神力を組織は欲したんだ。再び、アルトハルトに反旗を翻す為に・・。」

エヴァンの言葉は、冷たくまるで他人事のようだった。

淡々とした表情で私を静かに見つめていた。

「酷い・・・。力が欲しいが為に、命を盾にして脅すなんて汚いわよ!!
それなのに・・。貴方は、自分の父親が死にそうだから救って欲しいなんて・・。
よくそんな都合の良い事が言えるわね・・!?」

「私には、やらねばならぬ事がある・・。都合が良い事は理解している。
このマルダリア王国が真に刃を手に取ってアルトハルト神聖国や、他の国を良いようにしてはいけないんだ!!
だから、頼む・・。父を救ってはくれないか???」


支離滅裂なエヴァンの想いを私は不思議に思いながら聞いていた。

自らが戦争の火だねになろうと組織したはずの最高幹部が、
何故その争いの刃を下ろそうとしているのか・・。

私には、全くその意味が解らなかった・・・。

「そうですね・・。
私に出来るかは解りませんが、材料さえあれば最善を尽くして協力は致します。
その代わりと言ってはなんですが・・。1つ、私から条件をつけてもいいかしら??」

私の心を読んだのか・・。
その条件を即座に知ったエヴァンは、大きく目を丸く見開いて顔を上げた。

「は??本気か・・??
貴方は・・、どれだけお人好しなんだ??はははっ・・。
確かに、君みたいな子は珍しいよ・・。
アレクシア嬢を見ていると、とても懐かしい気持ちになるよ・・。」

まるで珍獣でも見るように見上げると、何かを思い出すようにそっと微笑んだ。

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