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マルダリア王国の異変。

サラマンダーの目覚め。⑥

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わたしは、水色の瞳を大きく見開いたままで数秒間の間動けなかった・・。

あの一瞬で・・。
カイルがレオを突き飛ばして氷柱を・・!?

何が起きたか解らなかった。

信じられない光景に私の唇は震えていた。

「えっ?・・嘘よっ!?カイルっ!?」

息を飲んでその光景を見ていた私は目の前でドサッと倒れ込んだカイルの名前を叫んだ。

上空から見下ろしていたミリアも夢から醒めたようなハッとした表情でゴクリと喉を
鳴らしていた。

私は息を飲んでカイルの側へと走り込んだ。

「おいっ・・!!カイル、しっかりしろ・!!」

突き飛ばされたレオも即座に身体を起こすと、青ざめた表情でカイルの手を握った。

鷹のように落ちついた誇り高い金の瞳が細く開かれ儚げに揺れていた。

レオはありったけの神力を送りながらルーカスを見た。

「ルカ・・!?手当を・・。エリアス・・!?
エヴァン様・・・。誰かっ!!」

混乱した表情のレオノールを固まったままのアルノルドやエリアスが息を飲んで見ていた。

苦しそうに眉根を寄せたルカが夜の庭園の中で呆然と立ち尽くしていた。

「レオニダス・・!!おい、しっかりしろ!!」

エヴァンは弾かれたようにカイルの側にしゃがみ込むと、自らの持つ神力を送った。

念じて氷の氷柱を溶かしたエーテルが、カイルを苦しそうに見下ろしていた。

地面に広がっていく血液は徐々に地面を黒く湿らせ、刺さった身体には大きな血の染みが滲んでいた。

苦しそうに震えるレオの瞳はレオの顔を見上げていたカイルの瞳と目が合った。

「・・やめて、無駄だよ・。いい・・んだ。
レオ・・。」


「馬鹿かっ!?お前、何故俺を庇ったんだ!?」

心の底から張り上げられた声は闇夜に吸い込まれるように響いた。

蒼い瞳は信じられない物でも見るように苦しそうに揺れていた。

「・・・ごめん。俺・・。レオに嫉妬して・・。最低な・・事っ。友達・・だったの・・に。」

「今更だろ?最初から知ってる・・!!
俺も悪かった・・。
お前の苦しみに気づいてあげられなくて・・。
シアの事だって、まだ勝負は着いてないじゃないか・・。」

「・・あはははっ。そう・・だね・・。
ああっ、負けたく・・ないなぁ・・。
でも、・・・無理か・・な。もう寒くて・・たまらない・・。」

「カイルっ・・!!しっかりして!!駄目だよ・・。お願い、頑張って!!」

エーテルに、エリザベートを頼んだ私は呼吸を忘れてカイルのもう片方の手を握った。

その手がぴくりと動くと、カイルはこちらへとゆっくりと視線を移した。

息も絶え絶えなカイルは、金色の目を力なく揺らして刻み込むように私の顔を見つめた。

「シア・・。ごめん・・。僕、全然・・。
フェアじゃ・・なかっ・・たね?でも、・・本気で・・。シアを・・好きだった・・。」

カイルを挟んで座り込んでいた私の頬へと震える手を伸ばした。

その冷たい手が私の頬に触れた瞬間、私の瞳はカイルを捉えたまま瞼がカッと熱くなった。

「ううん・・。私が、勝手に着いて来たくて着いて来たんだからいいのよ!!
それよりも、貴方の苦しみをもっと早く気づいてあげられなくてごめんね・・。
カイルはずっと側で、悩んでいたのに・・。」

その言葉に、カイルの金色の瞳から一筋の透明な涙が流れ落ちた。


顔が白みを増して青ざめる程、強く神力を送り続けるレオの肩がガクガクと震えていた。

「レオ・・。お前、神力を使いすぎだ・・。そこ、代われ。」

エリアスが、レオの肩を叩くと隣にしゃがみ込んでカイルへとエヴァンと共に神力を送り始めた。

みんなが、・・必死で神力を送り続けているのに。

カイルの唇はどんどん青ざめていく・・。

・・何で!??

どうしたらいいの!?

「頼むっ・・。カイル、こんなの嫌なんだ・・。
お前とは、ザイードを・・。
この世界を一緒に盛り立てていく同志であると思ってたんだぞ・・・。」

「・・そだ・な・。ザイードを・・頼んだ・・ぞ?・・僕の・・愛した・・祖国を・・・。」

「馬鹿ッ・・!?駄目だっ、諦めちゃ駄目だ!!
頼む、カイル・・!!」

叫んだレオの瞳から大粒の涙が零れ落ちた。




「レオニダス様・・・。何故・・。」


目の前の光景が信じられずに、震える身体でその光景を見ていたミリアの横に留まっていた神獣ファーレルが、ぴくりと体を揺らすと急に動き出した。

「ギュォォォオオオン・・・。」

ミリアの神獣であるファーレルが、何かに苦しみ出して身体を捻じり苦しそうに大きな身体を
揺らして苦しみ出した。

「ファーレル・・・!?どうしたの??」

ミリアの言葉が届かない様子のファーレルは、尻尾を激しく振り回して庭の木々を倒していく。

ガシャン・・!!ガッシャーン!!

さっきまで、カイルとエヴァンが話しをしていたガセボの屋根が粉々に砕かれた。

唸り声を上げ続けるファーレルは、悶えながらも様々な建物や木々を破壊していく。

「ちょっと??ねぇ、止まりなさいっ。ファーレル!?」

ファーレルの前へと歩み出て、大きく両手を広げて制止しようとしたミリアの声も届いていない様子で悶え苦しんでいた。

「グヤァァァギュウウアア・・・・。」

「・・ファーレル!?・・きゃああぁぁっ!!?」

聞いたことのない恐ろしい声に青ざめた瞬間、バシッとファーレルの黒く長い尻尾に叩き落とされたミリアは近くにあった木の幹に吹き飛ばされて気を失った。

黒い闇のような物が大きく飲み込んでいく・・。
完全に闇の中に包まれて、もがき苦しむファーレルは暴れながら私達の方へと突進してきた。

「何だ、あいつ!?危ねぇぞおっ!!行くぞ、エーテル。」

頷いたエーテルと共に地面を蹴り剣を持って、ファーレルへと向かっていくと神獣は唸り声を上げたまま身体を捩らせて2人は一瞬で地面へと強く叩きつけられた。

その光景に驚いた様子のアルノルドと兵達は急いでエヴァンとレオを守るように囲んで剣を構えていた。

神力を送り続けていたエヴァンと、レオは急な状況の変化に対応出来ずに大きく目を見開いた。

ゴホッとむせ込んだカイルの口から潜血が溢れ出た。

「カイル・・・っ!!くそっ・・。神力じゃ助けらない・・。無理なのか??どうしたらいいっ!?」

レオが涙目で叫んだ。

私は、目の前の悲惨な状況と冷たくなっていくカイルを見下ろした。

私の持っている神力は「見る」力・・。

だけど、カイルがこうなる未来を予知することが出来なかった。

「・・・足手まといじゃないの。神力も使えない?剣技も大した腕はない・・。
神獣も使いこなせないし。・・・いつも人に守られてばかりでいい加減、自分が嫌になる。」

ボソッと呟いた私をレオが驚いた表情で見た。

「??シア・・??」

どうして・・。

みんなが必死に戦っている時に何の役にも立たない自分が嫌だった。

いつだって、守られるのではなく共に戦える力が欲しかった。

ふらっと立ち上がった私は、青い炎の中に包まれているエリザベートを朧気に抱き上げた。



「こんなの嫌だ・・。お願い助けて・・・。力を貸して、エリザベート・・。」

エリザベートのひび割れた身体にアレクシアの大粒の涙がポツリと落ちた。

ピクピクっと炎の中からエリザベートは瞼を揺らして水色の瞳をゆっくり開けると、アレクシアを見た。
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