転生伯爵令嬢は、裏切り者からの寵愛に戸惑う。

館花陽月

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マルダリア王国の異変。

アルスタイン侯爵邸の一夜。①

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ハッと強い気配を感じたエヴァンは、目にしていた書物から顔を上げると
誰もいない寝室を見渡した。

「・・・何だ??今、確かにミリアの声が聞こえた・・。」

エヴァンは落ち着かない様子で、持っていた本を茶色い机に置いた。

ガタッと椅子から立ち上がると、ゆっくりと窓辺へと歩いて
落ち着いたグリーンのカーテンを捲った。

暗闇が続く森には、確かに自分が張り巡らせた神力で守られていた・・。

マルダリア王城の方角へと、厳しい視線を向けたエヴァンは部下であるミリアを案じていた。


「私を・・・。どうかお側に置いて下さい!!貴方の為にこの命を捧げます。」

自分が助けた消えかけていた小さな命・・。

雪道で助けた少女は肌は青白く透明で金色の髪を持っていた。

幼い頃に閉じ込められていた部屋の奥に布に覆われて掛けられていた
あの絵の美しい女神、レオノーラに見えた。

触れた頬は氷のように冷たかった。

「何故だ??出来るならそれは断りたい・・。
君を僕の人生に巻き込みたくないんだ・・。
僕は、・・・これから悪魔にならなければいけないのだから。君の人生を・・。」

「私には・・!!私には、最初から・・。帰る場所などないのです!!
貴方が悪魔でもいい・・。私には貴方が神様に見えるんです!!
どうか、お側に居させてください。
私を青薔薇の栄光ローゼングローリーへ入れて下さい・・。
この命を持ってお役に立たせて下さい!!」

お願い・・。

私を一人にしないで・・!!
もう、誰にも捨てられたくない・・。

エヴァンには、悲痛な少女の声が「聞こえていた」。

帰る場所がない者の気持ちを誰よりも解るエヴァンは、肩を震わせていた
その少女の願いを拒むことは出来なかった。

「・・・解った。君がそれを望むなら。」

頭を下げた儚げな少女を見下ろしたエヴァンは、小さな拳を握りしめていた。


その孤独な瞳を見た時から、自分に被せて妹のように可愛がっていた。

組織の任務を冷静にこなし、弱音など吐かずに自分に仕えていた彼女を
いつの間にか心から信頼するようになっていた。

「結局・・。
私の自己満足で君を助けて、自由をあげることなど出来なかった・・。すまない、ミリア。」


その声は暗い部屋の中で小さく響いてそして消えた。


「全ては、あの神力のせい・・。契約した者の名を奪い、命までを摘み取るあの力が問題なのだ。」

ミリアは、自分の為に脅されていると悟った時にゾッとした・・。

大切な者の命を笠に脅されて従うしか出来ない組織の負の連鎖に愕然とした。

「仕方ないな・・。あの人に命じられたまま、やって来たことなのだか
ら。その呪いに縛られて雁字搦めになる。正しさとは何なのだろうな・・。」

身体が孤独に包まれていく気がした。

いつも自分の足元を掬いそうになる、必要とされなかった自分の影を感じた。


「・・エヴァン、どうか忘れないでね??
貴方は、レオノーラに選ばれし子よ。私は、ちゃんと「見た」のよ・・。
気高く、素晴らしい命の輝きを貴方は持っているわ・・。」

温かい太陽のような温もりをくれた
亡きレムリアの優しい声が聞こえた気がした。

一瞬だけ、感じた不安や孤独が消え去るような、眩しい笑顔が脳裏に浮かんで瞼を閉じた。

命を懸けた彼女の運命を知った時、自分の未来を選び取った。

あの夜の出来事を、決意を・・。
絶対に忘れることはないだろう。

「このままあの人の好きにはさせない・・。
青薔薇の栄光ローゼングローリーは、私の組織だ。
いずれ天子が掴むはずのグロリアの出現を願って名付けた、この世界の希望の光・・。」


顔を上げたエヴァンの瞳には、落ち着きと強い志が映っていた。

遠くに佇む、幼い頃から暮らしたマルダリア王城にいる弟たちと、ミリアを案じながらも
強い決意を胸に宿して、瞳を揺らしていた。








「・・・そうだったのか。母上は、未来を「見て」自ら・・、その毒を飲んだんだな。」


ベッドの上で、大きな枕の上に身を置いたレオは真っ白なシルクの客用パジャマに身を包んだ
まま頭に腕を組んで天蓋を見上げて呟いた。

私が「見て」来た、レオの母レムリア様の決意や、行動・・。

エリアスとシリウスの契約の話をレオに時間をかけて説明を終えた。

湯あみをして、ベッドに戻ると何故かベッドの上でくつろぐレオを見た時は硬直したけど・・。

良い機会だと思った私は、レオに自分の母親の想いを伝えたのだった。

「シリウスと、レムリア様の絆の強さにも驚かされたわ。
シリウスは、レオの為にエリアスと契約したのよ??大事な主の忘れ形見を見守りたかったんだと
思うわ・・。そんな絆が2人にはあったのね。」

「そうか・・。聞けば聞く程、幼い頃の自分がシリウスに当たり散らした言葉が
痛いな・・。情けなくなる。・・はぁ、消えたい。」

ぴょんと金色の髪が枕からはみ出ていて、耳まで真っ赤になっていた。

ボフッと恥ずかしそうに大きな枕で顔を隠したレオを見下ろして、私は少しだけふっと
噴き出して笑ってしまった。

真っ赤になって顔を隠すだなんて、レオも可愛いこともあるじゃない・・。

思わず出てしまいそうになった言葉に驚いた!!

あれっ・・!??

今の・・。
私ってば、うっかりこんな大きな図体のレオ相手に可愛いなんて思っちゃった!!

「きっ、消えることはないんじゃない??
まぁ、あの時のレオはまだ幼かったんだし??
あれよね??
レオは、ギャングエイジの真っただ中で調子に乗って、、いきってた訳だから・・。」

言いたい放題の私に、ムッとした表情でレオが起き上がった。

「・・おい。多少、冒険心や遊び心はあったが、特にいきってはいなかったぞ・・?
俺はあの頃から天帝教育を受けて落ち着いた子どもだったからな。
それに比べて、きっとシアは雑でお転婆だっただろうな・・。
周りを振り回して暴走ばかりしていたんだろう??迷惑な令嬢だな。あはははっ。」

そう言えば・・。

祖父から運動においても勉強においてもストイックにやれと育てられたから、
山を登ったり男の子に喧嘩を仕掛けたり・・。

伯爵令嬢のアレクシアとは違って、そりゃあお転婆だったわねぇ・・。

私はギョッとした表情でレオを見た。

枕からこっそり覗かせた蒼い瞳には揶揄いが見られた。
私はムッと瞳を揺らして、レオに苛立ちを覚えると枕を顔にぶつけた。

「はぁ??私のことはどうでもいいのよ!?もう、前言撤回・・!!
人がせっかくフォローしてるのに、またレオは私を貶めてっ。・・もう励ましてあげないわよ!?」


「・・・ごめん。つい心配してくれているシアを見てると、嬉しくなって揶揄いたくなる。
俺も、どうしていいのか解らないんだ。
自分の拙さが恥ずかしくて、母に最期まで向き合うことの
出来なかった自分に後悔しかなくてな。でも、今・・。ちゃんと母の気持ちを知れて良かった。」

「エリアスの気持ちも。シリウスの気持ちを理解した今・・。
ずっと自分の中で何処かで欠けていた、心の中のピースが・・。
やっと、埋まったような安心感を得たんだ。
母の愛も・・。俺はあの時から、ずっと見失ったままだったんだな。」


「・・・レオと初めて会った時に直感で思った。
貴方には「絶対」が必要なんだって。危うい心と、消えない不安があったでしょう・・??
大切な人に、自分の存在を忘れられたことで、深く傷ついた消えない痛みが貴方にはあった。
中途半端な気持ちじゃ貴方の側にいてはいけないって・・。感じたの。」


初めて口にした私の言葉に驚いた様子のレオは、息を潜めていた。

この人は、強くて、何でも出来る生徒会長だった。
だけど、アレクシアは・・。

そして私の目に映るレオは、みんなが憧れるただ眩しいだけの存在ではなかった。

「レオは、いつも口が悪くて、辛辣で・・腹立つんだけど。(私の主観)
だけど、何処か儚く、危うい脆さも抱えている人だって。
「アレクシア」が好きになったレオは、そんな貴方の光とその裏にあった影を理解していたからなのよ??」

その言葉に、驚いたレオは枕をどけてシルクのドレス姿の私を据わったまま見つめていた。


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