転生伯爵令嬢は、裏切り者からの寵愛に戸惑う。

館花陽月

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青薔薇の栄光。

マルダリア王城に咲く薔薇。③

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ユヴェールは王城にある、豪奢な衣服が沢山詰まった自室のクローゼットの中にいた。

「なぁ、クリス・・・。
いつまでここに居たらいいのかな??
夜までってだいぶアバウトじゃない??夜って何時決行なのかとかさ・・。」

鏡張りの壁と、大理石の床の上で体育座りをしながら横にいるクリスの方を見た。

「えー・・。決まった時間とかって必要です??
宵闇に乗じてやって・・ふるんれしょうけど・・熱っ。ほら、もう18時ですから・・。ほろほろ、レオ達が城の近くまでひてる頃じゃないかなぁ。」

「そうか・・。じゃあ、そろそろだね??
クリスのお陰で自分の部屋で寛げたし、睡眠もご飯も食べれたんだけどさぁ・・。
他人の部屋のクローゼットの中で・・。その熱々のハンバーグ食べるの辞めてくれない??
モクモクしてるし、鉄板の油も床に跳ねてるしさ。匂いが衣服に着いちゃうよね・・。」

緑色の瞳は異質な物でも見るように、呆れた色を浮かべていた。

「・・ほうですか???ああ、美味しいですよ??ユヴェールさんも食べません??
戦には、体力が必要ですよ!!スタミナになる肉を頼んどきましたから・・。さぁ!!召し上がれ!!」

クリスの魅了無双の戦利品のご飯が並べられていたのだが、ユヴェールは食欲がなさそうにげんなりとした表情でその食事風景を見守っていた。

隣で大理石の白い床の上に置かれた鉄板のプレートに熱々のハンバーグと、白いプレートには大盛りライスが湯気を立てて並べられていた。

クリスの銀狼もステーキをパクりとフォークに刺された物を口に運ばれて美味しそうに食べていた。

ステーキや、サンドイッチも並べられ、軽くピクニック風の光景が衣裳部屋の床の上で繰り広げられていた。

「自分の部屋にあるクローゼットの床で、美味しくご飯なんて食べれないって普通・・。
あー・・。でもローストビーフのサンドイッチだけ頂こうかな・・。」

ゆっくりと、ふかふかのパンを口に入れて蕩けるような肉汁が溢れるローストビーフサンドを頬張りながら、そこに光り輝いた神獣の麒麟が現れて驚いて吹き出しそうになった。

目の前に厳つい顔の麒麟が、不思議そうにユヴェールを首を傾げて見つめていた。


「モガッ・・。お、お帰り!!どうだった???
無事に、レオ達には伝言伝えられたか??」

「ガルッ・・・。グルルルン。ブルル・・・。」

落ち着いた表情で、微笑むと優しく麒麟の頭を撫でると嬉しそうに甘えて来た。

その反応に嬉しそうに目を細めたユヴェールは、手前にあったサンドイッチを麒麟の口へと運んで食べさせていた。

「そうか・・。
一緒に来たとなると、もう近くにいるんだな??」

「想っていたより、遅かったから心配したんだよ??でも、レオ達を連れて来たからなんだね。
ちゃんと無事に案内するなんて偉いじゃないか!!
・・・で、レオ達は何処なんだい???」

嬉しそうに微笑んだクリスは麒麟を撫でた。

ユヴェールは、ローストビーフサンドを口に詰め込んでゴクンと飲み込むと手元にあったコップに入っていた水をゴクリと飲み干した。

その時、隣にあるユヴェールの主寝室のドアがギギギギ・・・・と軋む音を立ててドアが開けられた。

誰かの足音が聞こえて、ハッとクリスとユヴェールは目を見合わせた。

コツ・・。コツ・・・。


ゴクリと留飲を下げたクリスは広げられたご馳走を瞬時にその空間から消して銀狼を衣装の奥に押し込むと、音を立てないように衣服の並べられたクローゼットの隅に身を隠した。

ユヴェールは、麒麟の身体をぎゅうっと抱きしめ衣装の並べられた棚の下にしゃがみ込んでいた。


「・・・レオ達かな??」

小声で、ユヴェールがクリスの方へと視線を投げると緊張気味の表情を浮かべていたクリスは首を横に振って答えた。

「違うよ。これは、ヒールのある靴音だよ??
女性じゃないかな・・。掃除の侍女でも入って来たのかも?」

不安そうな表情でクローゼットのドアを注視していた。

何故か、足音はこちらに向かって近づいて来てクローゼットのドアノブがゆっくりと回された。


ガチャッ・・。


クリスと、ユヴェールは息を殺して入ってくる人物を見上げた。

心拍数が上がって、背中に冷たい汗が流れていた。

「・・・・ユヴェール??」

「・・・ここに、ユヴェールはいるのですか???」

穏やかな女性の声が聞こえて、ハッとその声の主に心当たりがあったユヴェールは棚の下から身を乗り出して立ち上がった。

「あっ・・。ユ、ユヴェールさん!!
駄目だよ!??」

焦ったクリスをそのままにして、ユヴェールは眉を下げてホッとした表情で
歩き出した。

「ここに居ます!!
母上・・・。心配したのですよ。
ご無事で良かった・・!!」

ドアの前に立っていた茶色の長い髪の女性は嬉しそうに涙を浮かべて
ユヴェールと抱擁を交わしていた。

「ああ・・。貴方が帰ってきてくれて嬉しいわ。
とても心細くて、不安だったのよ・・。
王太子であるエヴァンも、国王と一緒に消えて、青薔薇の栄光ローゼングローリー
という名の組織の兵達が・・。この城を今は占拠してしまっているの。」

「そのようですね・・。
俺も、実は昨夜までは牢獄に一度捉えられていたのです。アルトハルトに留学している最中に、マルダリアの危機や父上の話を新聞で見て驚きました!!
一体、何があったのですか??」

「城のみんなは無事なのですか??
兄弟たちは??」

「皆、無事よ・・。
組織の監視下にいるから自由ではないわね。
さっき、部屋の窓から外を見ていたら・・。
その神獣がユヴェールの部屋のバルコニーから
中に入って行くのが見えて・・。
まさかと思って来てみたの。
貴方が無事でよかった!!これから、どうしたらいいのか・・。」

震える声で、涙ながらにユヴェールをきつく抱きしめる母にユヴェールは穏やかな声で話し始めた。

「神獣話はお手紙に書きましたからね。
気づいてもらえたのが、母上で一安心ですよ。
クリスと一緒にこの城に来たんです・・。
彼がいてくれたから、僕は無事にここまで辿り着けたんですよ??」


クリスがそっと衣服が並んだ場所から身を起こして立ち上がると、ユヴェールに似た茶色の長い髪を持つ、緑色の瞳の落ち着いた美しさを持つ母に恭しい礼を取った。

衣装部屋は、食べ物の匂いではなく薔薇の高貴な香りが漂っていた。

スン・・。

と鼻を動かしたクリスは赤い瞳を輝かせると、ユヴェールと抱き合う母親を見上げた。

「初めまして!!アルトハルト神聖国から、ユヴェールさんと一緒に参上しました。
クリステンと申します。
この様な場所での挨拶となり、申し訳ございません。それにしても、王妃様の香りは芳しい薔薇の香りですね!!・・・とても良い香りがします。」

「ユヴェールをここまで連れて来て下さって有難うございます。
私は、マルダリア王国王妃のアンブリッジ=ステラ=マルダリアと申します。
クリステン様は、鼻がとても良いのね?
貴方・・。もしや、アルトハルトのファーマシストの方ではないのですか??」

緑色の瞳を細めて笑うアンブリッジに、クリスは大きく頷いた。

「はい・・!!
僕は、アルトハルトの天族の出で、ファーマシストのコンダクターの任に着いています。ユヴェールさんとは、仲良くさせていただいています。」

「まぁ、やはりファーマシストの方なの。
しかも、天族のご出身・・。なのね?」

その言葉に、一瞬だけピクリと眉を揺らしたアンブリッジに銀狼はガルルルル・・・。と、形相を変えてアンブリッジを睨むように吠えた。

「どうしたんだよ??ユヴェールさんの母上に、失礼な態度を取るなよ??」

驚いたクリスは、自分の神獣を宥めるようにしゃがみ込んだ。

「ふふっ・・。とても美しい神獣ですこと。
銀狼だなんて、強そうで品があって羨ましいわ。
天族の方に、久々にお目に書かれて光栄ですわ・・。ユヴェール、今は城の見張りが手薄なの・・。こちらで色々と今後のことを相談したいのだけど・・。一緒に来てくれるかしら??」

「勿論です、母上!!・・これまでの経緯もお聞きしたかったんです。それに、この兵や城の事もそうなのですが・・。所在不明になっている
父上と兄上もお探ししないといけませんから!!」

「そうなのよ・・。エヴァンもいない今、私には貴方だけが頼みなの。さぁ、ユヴェール。私の部屋へいらっしゃい・・・。」

妖艶な笑みで、ユヴェールを手招きしたアンブリッジにユヴェールは嬉しそうにその手を
取った。

母親と並び立つ、ユヴェールの背中に違和感を感じたクリスは身を乗り出してユヴェールの肩を掴んだ。

「クリス・・。ど、どうしたの???」

振り向いたユヴェールは、驚いたようにクリスを見ていた。

不穏な何かを感じたクリスは真剣な表情でユヴェールを諭すように伝えた。

「・・あっ、あの!!ユヴェールさん!!
ちょっと、待っていた方がいいんじゃない??」

「・・すみません、暫くしたらまた王妃様の元に伺わせてもらうでも
宜しいですか??
その、、、城の状況や国王様たちの同行を調査させている最中なので・・。
あと、もう少しだけ時間を頂いても・・・。」

ユヴェールの横に並んでたアンブリッジの表情が一瞬冷めた瞳でクリスを
見上げていた。

嘲笑に似た何かを浮かべた笑みにクリスはゾッと背筋が凍えるような何かを感じ取った。


「少しってどれくらいかしら??
ユヴェールに、やっと会えたのに。
ここで、私を置いて行ってしまうの???
お願いよ・・。不安だから、一緒にいてくれないかしら??」

母が、涙を浮かべた瞳でユヴェールを見上げて頼むように縋りついている状況で
見捨てるように母が掴んだ手を振りほどけなかった。

ぐっと眉根を寄せたユヴェールは、クリスに向き直って落ち着いた表情で笑った。

「クリス・・。
これからの事もあるし、君はここに居て!!
俺は、母上を部屋に連れて行って少し落ち着くまで側にいてあげたいんだ。ずっと不安だった母上を、一人きりで部屋に返すことは出来ないよ!」

碧色の瞳を哀し気に揺らしたユヴェールは、母の腰に手を置いてゆっくりと歩き出した。

「えっ!??で、でも・・。
ユヴェールさん??ちょっと待ってよ!!
・・ここは通常ののマルダリア王城ではないんだよ??
貴方を一人にしたら危ないって・・。」

「クリスは心配症だなぁ??
送っていくだけだし、母上の部屋はここからすぐだよ??何かあったら、僕も一旦人質になって家族と一緒に大人しくしているよ。
タイミングを見て、そちらと合流するから大丈夫だよ!!クリスも、気をつけてね・・!!
また後でねっ!!」

「ユヴェールさん。・・もうすぐなんだよ??
だから、ちゃんとすぐに戻って来てね。」

ユヴェールはクリスに向かって頷くと、右手をヒラヒラさせながら合図した。

笑顔で母に優しく微笑みかけたユヴェールの姿が遠くなっていく。


呆然とした表情で立ちすくむクリスの前の扉がバタン・・。と

大きな音を立てて閉じられた。

不安そうに瞳を揺らしたクリスと、側で唸り声を上げ続けていた銀狼が呆然とした様子でユヴェールの部屋の中央に立ち尽くしていた。

気が付くと独りでに右手がカタタカタと揺れていた。

「何なんだ・・・。
この違和感と、震えの正体は・・。」

クリスの呟きが零れた。

部屋に充満した、芳醇な薔薇の残り香にクリスは絵も言われる不安を覚えていた。
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