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4. 練習の雰囲気
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2月4日(火)、10時。今日もジュピターズの春季キャンプが行われている。
(カキィン)(バシッ)
打球音とボールがグラブに収まる音が響く。金属バットの音は男子高校生にも匹敵するほどの大きさで、投球がミットに収まる音は男子プロ野球にも劣らない鋭さだ。昨年、圧倒的な実力で日本一になったジュピターズ。選手の能力は他の追随を許さないほどで、他球団とは明らかにレベルが違う。しかし祥子は何か物足りなさを感じ、拡声器で叫んで選手25人とスタッフ全員を集めた。
「全く声が出てないじゃない。あなたたちの野球に向かう姿勢がダメとは言わない。みんな向上心を持って取り組んでいると思うわ。でもね、勢いがないの。もっと声を出して、自分たちで流れを引き寄せないと。他球団はもっと声が出てるわよ。このままじゃいつか他のチームの勢いに飲み込まれて、優勝なんてできなくなる。プレー以外の部分で『流れ』を作りましょう。そうすればお客さんも楽しんでくれるに違ないわ」
昨年まで、練習中の雰囲気は非常に殺伐としており、皆が必死であった。
笑顔はほとんどないし、選手同士のコミュニケーションなどほぼゼロである。
前監督はその必死の練習のおかげで日本一を成し遂げたとインタビューで語ったが、祥子はそれこそが観客動員数が伸びない原因と考えている。
今年の練習も同じような雰囲気で進んでいるのを見て、思わず練習を止めてしまった。
「よし、声出しまくるよ!梢、ブルペン行こう」
祥子の話が終わって一番最初に声を出したのは、シングルトン明日香(しんぐるとん ・あすか)であった。
捕手のツープラトン体制を敷くジュピターズの捕手のうちの1人で、昨シーズン大躍進を遂げた期待の星。ダブル正捕手プランのため、2018年オフにジュピターズから熱烈なオファーを受けて、不動の正捕手上条美穂子(かみじょう・みほこ)のいる大阪ウラヌスから移籍。
2019年シーズンは30試合の先発出場で打率.298を残し、ジュピターズの年間女王に貢献した。盗塁阻止率はリーグトップの.444で、強肩の捕手としても他チームから恐れられている。
今シーズン全試合に出場することを目標にオフもトレーニングを続けていたようで、体が昨シーズンより一回り大きくなっている。
「明日香さん、なんか体大きくなりましたね。近くで見てないんで分からなかったですけど、マッチョですね」
梢が珍しく自分から明日香に話しかけた。相変わらず笑顔はなかったが、このような会話は今までなかったことである。
練習中は野球のプレーのこと以外は一切話さないのが梢のスタイルであったが、祥子が監督に就任してから少しずつ態度が変わっているのだろうか。
昨シーズンは明日香も梢と朗らかに話すことはなかったが、今シーズンは積極的にコミュニケーションを取ろうとしている姿がたくさん見られる。
「ナイスボール!」
明日香の大きな声がブルペンに響く。今まででは考えられなかったような光景だ。
「梢、もう半歩ストライド広くしたらどうかな?なんか体重が乗り切ってない感じする!」
「は、はい。やってみます」
コミュニケーションがしやすくなると、細かな指摘もしやすくなる。お互いの思っていることを言い合う環境というのがジュピターズには足りなかったのだ。
何年も連続してプレーオフに出場し、昨年に関しては圧倒的な成績で優勝してしまっていたため問題視されていなかったが、チーム内のコミュニケーションがかなり少なく練習の雰囲気も良いとは言えなかった。
しかし、少なくとも今日のブルペンは明日香のおかげで非常に活気があり、集まったファンもいつも以上に真剣に梢の投球に見入っていた。
「ありがとうございました!」
投球練習終了後、梢は明日香に影響されたのか、大きな声で明日香に挨拶をした。
「明日香。よかったじゃない。監督の想いを分かってくれたみたいね。キャッチャーはフィールド上の監督よ。それでこそ正捕手だわ。智子に遠慮せず、全試合出るつもりで頑張ってね」
智子=古崎智子(ふるさき・ともこ)とは、明日香が先発出場しないときにスタメンマスクをかぶる、ツープラトン体制のもう一人のキャッチャーである。彼女は2018シーズンに開幕から49試合フルイニングで出場していたが、高校を卒業して間もないころからほぼ全試合に出続けた無理な起用が祟り、膝の靱帯を損傷。その後ジュピターズは捕手登録選手がいなくなり、キャッチャーの経験がない選手をキャッチャーとして起用しながら残りの11試合とプレーオフを戦うことになってしまった。
その間チームはまさかの全敗。49試合終了時点では首位であったが11連敗のせいで3位に転落し、プレーオフもファーストステージで敗退してしまった。
その反省が生かされ、ウラヌスで出場機会に恵まれなかった明日香の獲得に至ったのである。
昨シーズンはスタメンを分け合っていたが、明日香は今シーズンは自分が正捕手になるんだという強い想いを持って練習に取り組んでいる。
「確かに去年の雰囲気の悪さはかなり気になってました。なんとかしたいと思ってたんですけど、なかなか言い出せなくて。祥子さんのおかげで、チームの雰囲気はどんどん良くなりそうです!」
明日香は満面の笑みでブルペンを後にした。
(カキィン)(バシッ)
打球音とボールがグラブに収まる音が響く。金属バットの音は男子高校生にも匹敵するほどの大きさで、投球がミットに収まる音は男子プロ野球にも劣らない鋭さだ。昨年、圧倒的な実力で日本一になったジュピターズ。選手の能力は他の追随を許さないほどで、他球団とは明らかにレベルが違う。しかし祥子は何か物足りなさを感じ、拡声器で叫んで選手25人とスタッフ全員を集めた。
「全く声が出てないじゃない。あなたたちの野球に向かう姿勢がダメとは言わない。みんな向上心を持って取り組んでいると思うわ。でもね、勢いがないの。もっと声を出して、自分たちで流れを引き寄せないと。他球団はもっと声が出てるわよ。このままじゃいつか他のチームの勢いに飲み込まれて、優勝なんてできなくなる。プレー以外の部分で『流れ』を作りましょう。そうすればお客さんも楽しんでくれるに違ないわ」
昨年まで、練習中の雰囲気は非常に殺伐としており、皆が必死であった。
笑顔はほとんどないし、選手同士のコミュニケーションなどほぼゼロである。
前監督はその必死の練習のおかげで日本一を成し遂げたとインタビューで語ったが、祥子はそれこそが観客動員数が伸びない原因と考えている。
今年の練習も同じような雰囲気で進んでいるのを見て、思わず練習を止めてしまった。
「よし、声出しまくるよ!梢、ブルペン行こう」
祥子の話が終わって一番最初に声を出したのは、シングルトン明日香(しんぐるとん ・あすか)であった。
捕手のツープラトン体制を敷くジュピターズの捕手のうちの1人で、昨シーズン大躍進を遂げた期待の星。ダブル正捕手プランのため、2018年オフにジュピターズから熱烈なオファーを受けて、不動の正捕手上条美穂子(かみじょう・みほこ)のいる大阪ウラヌスから移籍。
2019年シーズンは30試合の先発出場で打率.298を残し、ジュピターズの年間女王に貢献した。盗塁阻止率はリーグトップの.444で、強肩の捕手としても他チームから恐れられている。
今シーズン全試合に出場することを目標にオフもトレーニングを続けていたようで、体が昨シーズンより一回り大きくなっている。
「明日香さん、なんか体大きくなりましたね。近くで見てないんで分からなかったですけど、マッチョですね」
梢が珍しく自分から明日香に話しかけた。相変わらず笑顔はなかったが、このような会話は今までなかったことである。
練習中は野球のプレーのこと以外は一切話さないのが梢のスタイルであったが、祥子が監督に就任してから少しずつ態度が変わっているのだろうか。
昨シーズンは明日香も梢と朗らかに話すことはなかったが、今シーズンは積極的にコミュニケーションを取ろうとしている姿がたくさん見られる。
「ナイスボール!」
明日香の大きな声がブルペンに響く。今まででは考えられなかったような光景だ。
「梢、もう半歩ストライド広くしたらどうかな?なんか体重が乗り切ってない感じする!」
「は、はい。やってみます」
コミュニケーションがしやすくなると、細かな指摘もしやすくなる。お互いの思っていることを言い合う環境というのがジュピターズには足りなかったのだ。
何年も連続してプレーオフに出場し、昨年に関しては圧倒的な成績で優勝してしまっていたため問題視されていなかったが、チーム内のコミュニケーションがかなり少なく練習の雰囲気も良いとは言えなかった。
しかし、少なくとも今日のブルペンは明日香のおかげで非常に活気があり、集まったファンもいつも以上に真剣に梢の投球に見入っていた。
「ありがとうございました!」
投球練習終了後、梢は明日香に影響されたのか、大きな声で明日香に挨拶をした。
「明日香。よかったじゃない。監督の想いを分かってくれたみたいね。キャッチャーはフィールド上の監督よ。それでこそ正捕手だわ。智子に遠慮せず、全試合出るつもりで頑張ってね」
智子=古崎智子(ふるさき・ともこ)とは、明日香が先発出場しないときにスタメンマスクをかぶる、ツープラトン体制のもう一人のキャッチャーである。彼女は2018シーズンに開幕から49試合フルイニングで出場していたが、高校を卒業して間もないころからほぼ全試合に出続けた無理な起用が祟り、膝の靱帯を損傷。その後ジュピターズは捕手登録選手がいなくなり、キャッチャーの経験がない選手をキャッチャーとして起用しながら残りの11試合とプレーオフを戦うことになってしまった。
その間チームはまさかの全敗。49試合終了時点では首位であったが11連敗のせいで3位に転落し、プレーオフもファーストステージで敗退してしまった。
その反省が生かされ、ウラヌスで出場機会に恵まれなかった明日香の獲得に至ったのである。
昨シーズンはスタメンを分け合っていたが、明日香は今シーズンは自分が正捕手になるんだという強い想いを持って練習に取り組んでいる。
「確かに去年の雰囲気の悪さはかなり気になってました。なんとかしたいと思ってたんですけど、なかなか言い出せなくて。祥子さんのおかげで、チームの雰囲気はどんどん良くなりそうです!」
明日香は満面の笑みでブルペンを後にした。
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