満員の球場が見たいの

ぎらす屋ぎらす

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12. 自主性

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2月12日(水)。

少し早い春の暖かい風が吹く中、選手たちは今日も練習に励んでいる。

「はーい、もう1本いくよーーー!」

「ナイスボール!」

「いやあああ!監督ぅ、未央奈には優しいなあ!!」

麗が大きな声を出した。監督に対してこんな冗談を言う選手がいたのは、球団の歴史を辿っても初めてだろう。昨年までは「真面目」以外にチームカラーを表す言葉がないくらいチームには笑顔がなかったのだが、前回の練習試合を終えてからチームの雰囲気は昨年と比べて格段に明るくなった。祥子の目指すチーム像が、少しずつ選手に浸透している。

(ここまで来たらあとは自分たちの力で雰囲気を作れそうね。あとは…)

祥子は現在のチームの課題を探すようにチームの練習を見つめた。昨年も圧倒的な成績で優勝したチームを受け継ぐことになり、今年も優勝しなければならないというプレッシャーに押しつぶされそうになっている祥子。少しでもほころびを感じたら、その部分を修正して昨年並みの成績を残さなければファンは納得してくれない。

「はあ、はあ…」

ランニングを終え、汗だくでレフトの天然芝に倒れこむ選手がいた。内外野どこでも守れるユーティリティプレイヤー、4年目の梅田三鈴(うめだ・みすず)だ。昨シーズンは24試合の出場に終わり、さらに代走や守備固めがメインだったため打席数はわずか16だった。ここ3年でヒットはわずかに4本。大卒4年目ということもあり、今シーズン活躍できなければ引退の文字もちらつく年齢に差し掛かっている。

「もう一本行ってきます!」

三鈴は休憩もそこそこに、再び立ち上がって球場の外にある急勾配の上り坂へ向かった。

「三鈴、今日気合入ってるねえ。自分からあんなに走るって言い出したの?」

美紀が感心しながら雫に尋ねた。

「いや、和さんにノルマを課されてその本数を走ってるみたいですよ。あの人、自分でメニュー考えたりできないじゃないですか…。」

三鈴は今季結果を出さずにクビになることを恐れ、大学の先輩である鴨川和(かもがわ・いずみ)をキャンプの特別コーチに迎え、2人3脚でキャンプを行うことにした。和も自分の大学の面子を潰すまいと、細かいメニューを組んで指示を飛ばしている。

「和さん、他の選手にもアドバイスしてくれるからいいんだけど三鈴の自主性が心配だね…。今までは松村監督だったから通用してたし、それで勝てちゃってたからいいけど、祥子さんが監督になってから自主性がかなり求められるようになってきたからね。まあ本来それが当たり前だよね」

美紀が釈然としない様子で語った。三鈴は全体練習はただ言われたことをこなし、個人練習でも特にテーマを持って練習をしているわけでもない。傍から見れば、彼女は野球を「やらされている」ようにすら映ってしまうほど、自主性に欠けるのだ。

しばらくして、また三鈴が帰ってきた。

「うえええ疲れた…。和さん、次のメニュー何ですか」

「トスバッティングいこうかー」

「うわあ、超ハードだ…やりましょうか!行きましょう」

三鈴と和は室内練習場に向かった。





室内練習場。内野手数名がノックを受ける中、三鈴は和と共に隅っこでトスバッティングを行っていた。3年間でわずか4本に終わったヒット数を今季は何としても伸ばそうと、必死になっている…はずなのだが、本気になっているのはむしろ和の方だった。三鈴は特にフォームを確認するでもなく、和に質問するでもなく、ただ淡々と数をこなしていた。

「和さん、あと何本やればいいですか?」

「三鈴!」

三鈴が和に質問したとき、練習を見ていた祥子が突然大声をあげた。

「あんたね、回数こなすだけで上手くなるとでも思ってるの?さっきから見てたけど和さんが言ったことをただやってるだけじゃない。どこを修正しようとか、今日はこれができるようになろうとか、そういうことは思わないわけ?そんなんじゃ今年もほとんど試合出られないわよ」

あまりの自主性のなさに、祥子の堪忍袋の緒が切れたようだ。考えて練習ができない選手は上達しない。数をこなすだけならだれでもできる。全く思考が伴わない練習に、怒りをあらわにしたのだ。

「『あと何本やればいいですか』じゃないのよ。自分で課題を決めて、納得できるまでやるの。それが練習ってもんよ」

祥子は大きな声で怒鳴った後、室内練習場を去ってしまった。彼女が次に見出した課題は、選手の自主性だった。
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